44話 戦いは可憐に
こんにちこんばんは。
もしかしたら2日ほどお休みしてしまうかもしれない仁科紫です。
申し訳ありませんが、余裕があれば投稿します……。
それでは、良き暇つぶしを。
巨大なダチョウのような鳥が私たちを見上げて一声上げた。甲高い声に耳を塞ぎたくなったが、それよりも風圧の方が酷い。バサバサと羽ばたくその巨体に似合わない小さな翼は鳥の体を浮かせることは無いものの、私たちに対する威圧行為だとするのならば十分にその役割を果たしていた。
反射的に後ろを振り返り、同様に鳥を観察していた神様に話しかける。
「神様!あれ、どうするんですか!?」
「そうだね。じゃあ、僕が足止めでプティは援護。空君が主体で攻めるっていうのでどうかな?」
神様の提案に頷く空を見て私も頷く。
恐らく、神様としては空の能力を把握しておきたいのだろう。私に関してはステータスが少し変わっただけで戦い方に関しては変わっていないため、その判断は妥当だと思えた。
私たちが頷いたのを見て、神様が鳥の頭へと近づく。注意を引く為だろう。降りてきた神様を見て口をパクパクさせる鳥の姿は何処か池にいる鯉を連想させた。
しかし、ちっとも可愛くない。何故なら、口の端から垂れる涎が地面に落ちる度、ジュゥ……という溶けるような音が聞こえるからだ。この鳥の体液はかなりの強酸なのかもしれない。警戒するように私は攻撃出来る範囲で距離をとる。
一方の空は私より低い位置に居た。どうやら相手が隙を見せるのを待っているらしい。
そして、神様が剣で鋭い嘴に切りかかった。
「クワァッ!」
負けじと嘴に白っぽい光が宿り、神様に何度も打ちつけようとするが全て剣でいなされ、カンカンッという音が響く。
そこへ空が空中から蹴りを放つ。
「ハァッ!立てば芍薬!」
「クェッ!?」
一直線に振り下ろされた足が頭に直撃し、ふわりと赤い花が飛び散るような幻覚が見える。花は一定時間が過ぎると消えてしまったが、空の言葉からして芍薬の花だろう。……って、え。あれって幻覚ですよね……?
首を傾げながらもサポートをする。空の邪魔にならないように足元を魔力糸で絡め取り、動けないようにした。
その後も空の戦いを見続ける。神様も私と同じように邪魔をしないようにと少し離れたところから戦いを見守っていた。
正直、もうこれ以上のサポートは要らないっぽいんですよねぇ。我が妹ながら凄いです。
脳が揺らされたのか舌をだらしなく出しながら頭をふらりと動かす鳥に、空は更に追撃を加える。
「座れば牡丹!」
「グギャンッ!?」
回し蹴りを鳥の横顔へと的確にいれる。再びふわりと赤い花が咲いて散った。今度は丸い花弁の多い花、牡丹のようだ。……というか、芍薬と牡丹って似ているんですね。初めて知りましたよ。
横顔へとはいった蹴りはかなりの強打だったらしい。鳥は吹き飛ばされ、壁へと衝突する。ガラガラと崩れる音からしてかなりのダメージを受けたようだ。
「クェー……。」
あまりの出来事に放心している鳥に空は距離を詰める。トドメとばかりに宙で回転し、蹴りを何度も入れ始めた。
「歩く姿は百合の花!」
「クェーッ!?」
ゲシゲシと何度も蹴られ、涙目になっているように見える鳥。
蹴られる度に何故か赤い百合の花が飛び散る。もしかしたら、赤色なのは人形のせいなのかもしれないと考えつつ見守っていると、最後に空が鳥の顎を蹴りあげた。
「〈美人三華〉!これにて終演っ!」
「グァッ……。」
蹴りあげられ、芍薬、牡丹、百合の花が咲き乱れる。僅かに浮いた体は地面へと落ち、カクリと力なく倒れ込んだ。消えていく鳥に終わったのだと実感する。
「す、凄いですね!空!」
思わず全速力で近づき、空に抱きついてニコリと笑うと、空は満更でも無さそうに頬を弛めた。
「そう?」
「はいです!とってもカッコよかったですよ!」
ニコニコと話し合っていると、神様もこちらへと近づいてきた。
「それじゃあ、回廊ボスも倒したし、次に行こうか。」
「はいです!」
神様に元気よく返事してからふと思った。
あれ?そういえば、空は不安だと言っていましたが、ちゃんと空を飛べていましたね?
疑問には思ったものの、それ以降強請られることも無かったため、本当に不安だったんだなと考えて気に止めることは無かった。
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「よいしょっと。今ですよ!空!」
「了解!〈月見草〉!」
弧を描くように振り落とされる踵は糸で捉えられている人型の魔物…ゴブリンの頭へと振り落とされた。ふわりと浮かぶ可憐な花とギャァッと叫んで倒れる相手とのギャップが酷いがそこは黙っておく。
わー。お花綺麗ですねー。
少しばかり遠い目をしていると、敵を倒し終えた空がこちらへと近づいてきていた。
「お疲れ様。姉さん。」
「お疲れ様なのです!」
互いを労い、ここまでの過程を思い出す。あれから何度か戦闘があり、この11階層では人型の魔物が出てくるのだという神様の説明通り、ここに来るまでに遭遇した相手は今回倒したのと同じゴブリンの集団ばかりだった。
他にも居るらしいが、まだ出会ってはいない。
遭遇したゴブリンは小柄で緑色のしわくちゃな肌をしており、尖った耳とギョロりとした目が特徴的な魔物だった。ちゃんとしたナイフのような武器を持っているものもいれば、棍棒や太い木の枝など、到底武器とは呼べないものを持っている者もいる。
正直、可愛いか可愛くないかで言えば微妙なラインであり、どうせならぬいぐるみみたいな相手だったら良かったのにとつい思ってしまったくらいだ。
その点、スライムは可愛かったですからね。また遭遇したいものです。
「2人ともお疲れ様。随分と連携も取れてきたんじゃないかな。」
何かを払うように一度振ってから剣を収めた神様から話しかけられる。確かにと頷いていると、空が口を開いた。
「当然。ボク達は姉妹だからね。ね?姉さん。」
突然話を振られ、戸惑ってしまったが頷き返す。まさか、そんなに自信満々に姉妹だと言ってくれるとは思っていなかっただけに嬉しくなった。
「はいです!姉妹ですもんね!」
「いや、数日でこれだけ仲良くなるって本当に……」
「何か言った?」
何処か呆れたような神様に空は話しかける。なんでもないと答えた神様は先に進むように促す。
それに従って進みながらも、この二人は相性が悪いのだろうかと漠然と考える。
でも、戦闘中とかはそうでも無いんですよねぇ。
ぼんやりと今までの戦闘を振り返る。
敵が多すぎる時は神様が大半を引き受け、残りを私と空とで片付けるという流れはいつの間にか出来ていたものだった。勿論、話し合っていたわけでもなく、ただ流れでそうなったのだ。
でも、流れだけで上手くいくってことはこの2人、考え方は似た者同士のはずなんですよ。……あ。もしや、同族嫌悪というやつでしょうか?
有り得そうだと頷いていると、いつの間にか遅れていたようだ。2人から声をかけられ、慌てて飛ぶスピードを上げた。
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「また大空洞ですか。」
「そうだよ。ただ、これは25階層まで行ってしまうからもう少し先にあるのを使うからね。」
「はいです!」
かなり深いところまで落ちそうな大穴を横目に通り過ぎる。暫く歩くと確かに先程のよりも小さめな穴を見つけた。ただし、小さめと言っても20階層まで落ちる穴だ。高さとしては50メートル程はあるだろう。
「初めに通ったものより狭いですね。」
「魔物と戦う時が大変そうだ。神様、ちゃんと囮役してね?」
「勿論。それが僕の仕事だからね。」
互いの役割を再確認してから下へと降りる。
今度は周りの壁にコケやツタ、シダ植物がチラホラと見受けられ、一番底は薄暗くて見えないが神様が言うには原っぱのようになっているらしい。まだ回廊ボスの影すら見えないことを考えると、ある程度近づくと現れるようなシステムになっているのかもしれない。次はどんな敵が居るんでしょうねぇ。
次の相手について思いを馳せていたその時、何処からかブブブッという不快な羽音が聞こえた。
慌てて振り向くと、後ろには巨大な蜂が居た……って。
「む、無理ですーっ!とにかく、消し飛べ〈ダークボール〉っ!」
「ギッ!」
直視するのも無理だと放り投げたダークボールは蜂に当たる前に躱される。かすりもせず、近づいてこようとする蜂にゾッとした。
べ、別に小さい蜂なら大丈夫なんですよ!?でも、大きすぎて骨格とか丸見えでちょっと……いえ、1人の乙女として無理ですっ……!
「来るなですっ……!」
とにかくめちゃくちゃにダークボールを放ち、当たらないならと今度は闇の魔力を小さく凝縮した魔法を放ち出す。
えーっと!名前は……もう、なんでもいいですね!
「〈虫撃退弾〉ですっ!」
「いや、ちょっ。プティ!名前適当過ぎない!?」
「そっちじゃなくて魔法が無差別に飛んできてる事の方を注意しよう!?」
何やら外野が騒がしいがそんなことは知ったことではない。今は目の前の直視し難い物体たちを消し去ることに忙しいのである。
そうして散々魔力と精神力をガリガリと削り、ようやく全てを倒しきった。
「ふ、ふふふ。やりきりました。やりきりましたよ!空!神様!」
ニコニコと笑みを浮かべて神様と空を見る。何故か2人は疲れきった顔をしていた。
あれ?おかしいですね。2人は戦闘をしていませんでし……ん?もしや、魔法ってパーティを組んでいても当たったらダメージを食らうのでは……?そういえば、確かに私が魔法を触ろうとした時、神様もそんなことを言っていましたし……。
そこまで考えてサーっと頭が冷えて周りの様子を把握できた。壁はヒビが入っているだけで他に変わったところはないが、それよりも目に入ったのは先程よりもコケやツタがボロボロになっている事だ。蜂がいた方向は特に酷い。緑など元々なかったかのように欠片もなく消え去っていた。
笑顔も維持出来ない。寧ろ、2人を見ることさえも出来ず、俯く。
「え、えっと、その……。」
「いいよ。姉さん。ビックリしたよね。」
謝ろうとした時、空に言葉を遮られて驚く。それよりも更に驚いたのは、今の暴走をあっさりと許してしまうその言葉にだ。
「え。」
「気にしなくていいよ。プティ。僕は1つも当たっていないから。」
「嘘つき。何個か当たっていたのをボクは見たよ。」
「あれ?そうだったかな?この装備、魔法を弾くから気づかなかったよ。」
「装備のおかげで助かったとかダサすぎ。」
「装備を作ったのも僕だからね。僕の実力さ。」
得意げな神様の言葉にちっと舌打ちをし、ソーダネと棒読みで返事をする空。
そのやり取りを聞いているとなんだか心が軽くなり、口元が緩んでしまう。
「ふふふ……。」
漏れた笑い声に二人がパッとこちらを振り向くが、何も言わずに顔を見合わせていた。
なんだか、この2人と一緒なら何処へでも行けそうですね。
何時までもこのまま一緒にいられたらいいのに。そんな子供のような事を願ってしまっている私が居た。
それがどれ程難しい事か知っていたのに。
次回、そろそろ目的地の探索したい(願望)
それでは、これ以降も良き暇つぶしをお送りください。




