41話 妹は唐突に生まれるもの
こんにちこんばんは。
書くのがちょっと楽しくなってきた代わりに色々と苦しい仁科紫です。
それでは、良き暇つぶしを。
名前:エンプティ
分類:人形族 種族:クロスリング Lv1
属性:光・闇
HP 30
MP 97000
STR 0
VIT 1
INT 10325
MND 10325
DEX 5288
AGI 2643
LUK 675
AP 700
種族スキル
〈透明化〉〈魔力回復(大)〉〈浮遊〉
〈魔力視〉〈毒類無効化(大)〉〈立体視〉
〈光の糸〉〈闇の糸〉〈属性極化〉〈分裂〉
〈人形憑依:対象【大空の姫君】〉
スキル
〈魔力糸〉〈魔力操作(中)〉〈暗視〉
〈魔力結界(糸)〉〈魔味蕾〉〈魔力変換〉
〈手芸〉〈魔力放出〉〈二極合成〉
固有スキル
〈並列存在〉
称号
【ソウゾウを超える者】【神様(?)を崇める者】
【水霊の友達】【糸の操者】【兎の天敵】
【兎の宿敵】【狼の天敵】【大蜥蜴の天敵】
【可能性の欠片】【魔法初心者】【空島への鍵】
【ファミリアのマスター】【下克上】
ファミリア
〔カオスファミリア〕
役職:マスター
シンボル:太極図 人形
シンボルカラー:白黒
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詳細
〈属性極化〉
効果:属性を光と闇のどちらかに偏らせることで使用する魔法の威力を2倍上げる。ただし、もう一方の属性による魔法の威力が三分の一になる。
〈分裂〉
効果:完全に輪が2つに分かれる。一つに戻ることも出来るが、このスキルに効果時間は存在しない。
ただし、その間のステータスは半減する。
また、片方の存在が消失した場合、存在は統合され、30分間、HP、MPの減少は引き継ぎ、ステータスは半減状態を継続する。
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さて。進化後のステータスがこうなった訳であるが、見た瞬間に頭を抱えることとなったのは言うまでもないだろう。
「随分とステータスが高いなぁとは思ったよ?思ったけどね……!?」
「い、色々と酷いですね……。」
まず目につくのは遂におかしいとしか思えなくなったINTとMNDだろう。要は、魔法攻撃の値と魔法耐性がおかしい程上がっているのである。これは無い。流石に有り得ないと私は思った。
次は〈分裂〉だ。並列存在に加えての分裂とか意味があるのかと思うのだが、並列存在に比べると破格の効果である事は間違いない。何せ、時間切れが存在しないのだから。
「あれ。でも、これってつまり、並列存在の輪っかちゃんを出しっぱなしに出来るって事ですよね?」
いいことを思いついたとばかりにそう言うと、神様は頭痛を抑えるように額に手を当てながら答えた。
「……うん。そういう事だね。
元々、分裂っていうスキルは本当にただ肉体が分裂するだけで思考が2つに分かれる訳では無いから、宝の持ち腐れと言われがちなスキルだったんだ。」
「なるほど。2つのコントローラーを1人で操作する様なものだったんですね。確かに、それは難しいですね……って、あー。神様が頭を抱えている理由ってそれですか?」
「うん。そうなんだよね。はははー……プティ。ちょっとは自制しようか?」
「私、進化先を選んだだけなんですが!?」
解せないと言うと、今度はプティの存在がそもそも規格外だと言われる。それこそ不服だとそっぽを向いたが、神様は苦笑いしただけだった。
もー!少しはフォローしてくれたっていいじゃないですか!
ぷりぷりと怒ったが、次第にこうして居ても意味は無いと冷静になり始めた。まあ、ここはいつも私が折れる場面ですし?ええ。未だに不満ではありますが、仕方がありません。ここはお姉さんたる私が妥協してあげるのです。
「この際ですし、輪っかちゃんを呼んであげましょうか?私としては神様と2人っきりでも問題はありませんが、あの子が1人きりなのは私が嫌なので。」
「そうだね。呼んであげて。」
「では、〈並列存在〉〈分裂〉!」
スキル名を唱えると、一方の輪っかがキンッととれたような音が鳴る。取れたのは黒紫の輪っかの方だったようだ。フワフワと漂い、体を探しているように見えたため、すぐさま人形【赤華の皇子】を取り出し、台の上に置く。
すると、すぐさま輪っかは接続が完了したようだ。パチリと開く瞳に少しだけホッとした。
「おはよう。」
「おはようございます!」
「是。良い朝?……個体に合わせ調整……完了。
おはよう。いい朝だね。」
何かを考え込んだ後、ニコリとそう言った輪っかちゃんに少し違和感……いや、既視感のようなものを覚えたが、次の神様の言葉で現実に引き戻された。気の所為ということにして話に参加する。
「そろそろ君の名前も必要だね。」
「一緒に居ることになりますしね!何がいいでしょう?」
2人であれがいいこれがいいと話していると、ポツリと声が聞こえた。
「名前……空がいい。」
思わずポカンとした後、神様と顔を見合わせてバッと机の上にある人形を振り向く。
そこには恥ずかしそうに俯く人形が居た。
「空、ですか?」
「是……じゃなく、うん。姉さんがエンプティならボクは空かなって。」
「なるほどね。」
神様は納得とばかりに頷いていたが、私は別のところで顔を俯かせていた。
だって、だってですよ……?
「姉さんって……!私、お姉さんでいいんですかね!?神様!」
「あ。俯いていると思ったらそれでか。」
「当然じゃないですか!空!いいんですね?良いんですよね!?」
「うん。ボクは姉さんの後に生まれたから。……あ。でも、母さんの方が良かった?」
「いえ!姉さんでお願いします!」
首を傾げて尋ねる空に反射的に言葉を返す。
内心でその可愛い仕草にグハッと吐血し、わーいと脳内で3回くらいバンザイを繰り返した。
ああ。妹ってこんなに愛おしいものだったんですね……!海が欲しがっていたのも分かります!
「なんていうか、プティが喜ぶツボをよく知ってるね?」
「付き合いは長いから。貴方に負ける気はありませんよ?か・み・さ・ま?」
「う、うん。なんだかよく分からないけど、君が僕のことを気に入らないのは分かったよ。」
戸惑う神様にクスクスと笑う空。その様子に、私は気づくことなく悶え続けていた。
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それから数日がたった頃。1人の来客があった。
「と、いうことで今すぐダンジョンに行ってきてください。」
言うことは以上だとばかりに頭をガンっと机にぶつけ、すやぁと寝息を立て始める少女。言うまでもなく冒険者ギルドの受付嬢だ。
尚、名前はコッペさんというらしい。今回訪ねてきてようやく知ったが、本人も自己紹介を忘れていたとの事だ。
いや、自己紹介を忘れるなという話ですが。
「ちょっと待って。受付嬢さん。
ということでって言われても何も説明してないよ?」
「……ふぁあ。」
「いや、首を傾げて誤魔化さないで欲しいんですが!?」
空に止められて眠りの園から戻ってきたコッペさんは眠たそうに目を擦った後、あれ?と首を傾げた。
それを見て思わずツッコミを入れたが、未だに不思議そうにしている。
「……はぁ。遊ばないでそろそろ真面目に話してくれ。コッペさん。」
「ふぁーい。……では、真面目にお話致します。」
今まで真面目に話していなかったのかとツッコミたくなったが、これ以上話が進まないのも困るため我慢する。
その後、コッペさんが言うには最近、どうもダンジョンの様子がおかしい為、様子を見てきて欲しいという事だった。
「様子がおかしいって具体的にはどんなものがあるんですか?」
「それを説明するために念の為、大前提をお話しておきます。既にこの天空の街のダンジョンは最下層まで踏破されているダンジョンです。勿論、隅々まで調査され、詳しいマップまで出来ているほどに。そのため、比較的安全なダンジョンとして採取依頼が多いようなダンジョンです。
しかし、ここ最近、ダンジョンでは地鳴りが多くなっているとの報告が増えています。」
「……つまり、ダンジョンで異変が起きているから調べて来いってことかな?」
話をまとめて神様が問うと、その通りだと頷くコッペさん。空はこの話にたいして興味が無いのか、口を出すつもりは無いようだ。聞き手にまわり、なるほどと頷いている。
私も空同様に頷いていたが、一つ気になったことがあった。
「でも、それって私たちではなくても良い気がするんですが。」
そう。わざわざ神様のお店に来てまで話されるようなことでは無いと思うのだ。私たちに話すぐらいなら、別のファミリアや日常的に冒険者ギルドを使うようなプレイヤーでも良いはず。その方がコッペさんも楽だったと思うのだ。
だから、何か意味があると思うんですよねぇ。
そうして首を傾げてコッペさんを見る。コッペさんは眠たそうな顔で私を見ていた。
「うん。それもそう。でも、今回は貴方たちである必要がある。貴方たちでなければこの件は解決しない。」
淡々としているが、半分しか開いていないその目は真剣そのものだった。唐突に敬語ではなくなった事にも驚いたが、それよりも戸惑いの方が勝った。
正直、意味が分からない。神様や空の意見が聞きたくて2人の様子を確認するが、2人は特に戸惑った様子はない。寧ろ、いつも通りのようにも見える。
「どうします?2人はこの件、受けた方が良いと思いますか?」
「それはプティが決めることだよ。プティがマスターだからね。」
正論ではあるものの、私の一存では決め難いと思ったから尋ねたのだ。ある種の思考の停止だともとれる意見は求めていない。
どうしたものかと悩んでいると、空がにこやかに話しかけてきた。
「ボクはこの件、受けた方がいいと思うな。」
「どうしてですか?」
「ここ数日、特にする事なくのんびりしてたでしょ?
だから、そろそろ何かファミリアの活動らしい事をしてもいいと思うんだ。」
空の言葉にそれも一理あると頷く。空が生まれた日からは、最近色々していて忙しかったからと本当にのんびりしていたのだ。ウンディーネさんを呼んで空を紹介したり、お茶会をしたり。お店を久しぶりに開店したりといった調子だったのだ。確かにそろそろ何か冒険のような事をした方がいいかもしれない。
少し思うところもありますが、面倒事もゲームのスパイスですよね。
「分かりました。受けますよ。その依頼。」
「良かったです。それでは……」
「その前に。」
そうそうに帰ろうとするコッペさんを引き止め、ニコリと笑う。
「詳しい説明、して頂けますよね?」
「ハイ……。」
こうして調べて欲しい詳細な場所と今までの調査で分かっている事など、必要な情報を入手し、ダンジョンへと向かった。さあ、頑張りますよー!
次回、初ダンジョンへ
それでは、これ以降も良き暇つぶしをお送りください。




