40話 報酬確認は驚きと共に
こんにちこんばんは。
頭の中がこんがらがっている仁科紫です。
それでは、良き暇つぶしを。
あの後、並列存在の輪っかちゃんは時間切れによって消えてしまった。呆然としている間にそれは起こったため、急に動かなくなったお人形に驚き、ますます呆然としてしまったのは流石に間抜けすぎたと反省している。
「それにしても、プティには驚かされてばかりだね。」
「いえ、今回に関しては私も驚きの連続なんですが!?」
まるで私のせいだと言わんばかりの神様であるが、今回は別に私が原因では無いはずだ。寧ろ、私は神様を疑っていたくらいである。……まあ、この様子なら違うようですけどね。
何が原因だったのかと頭を巡らすが、ちっとも思いつかない。仕方が無いと諦めた頃、神様が話しかけてきた。
「そういえば、ファミリアの決闘についての説明がまだだったよね。」
「あ。はい。そういえば、唐突に始まりましたが、あれは結局なんだったんでしょう?」
ちゃんとした説明もなく、行けば分かるからと言ったあの時の神様を少しばかり恨む。
まあ、いつもの事だろうと妥協した私も私ですが。
思考を切りかえ、説明する神様の声に耳を傾けた。
「決闘…いや、抗争とはそれぞれのファミリアが存続をかけて戦う時に用いられるファミリア間の勝負のことだよ。
挑まれた側がルールを決め、上位のファミリアとの抗争になればなるほどより騒ぎが大きくなるんだ。」
「騒ぎが大きく……?お祭り騒ぎにでもなるんですか?」
まるで今回の抗争より派手なものがあるのだと言いたげな神様に首を傾げる。たかだかファミリアの対決程度でそのような事になるとは到底思えなかったが、どうやらこれは本当のことらしい。
「ファミリアの勝敗というのは、本当にこの世界に対する影響力に大きく関わるんだ。順位が変わるだけでかなりの信者の数が動く。信者の数が変わるということは、この世界の住民が信じるべきものもそれだけ変わるんだから、当然見世物になるという訳さ。」
「えっと。信者の数が変わるのは分かります。でも、どうして見世物になるんですか?今回はそうでもなかったですよね?」
思い返してもまず間違いなく観客は居なかったはずだと考えるが、神様は首を横に振った。
「いや。僅かではあったけど、観客はいたよ。
最後に胴上げされただろう?」
「ああ。はい。確かに、胴上げされ……まさか。」
「そのまさかさ。彼らは摩利支天ファミリアの信者だった人達だよ。」
聞きたくなかった現実にへーそーなんですねーと気のない返事をする。頭の中の整理がつきそうになかった。
つまり、あの気のいい方々が私たちカオスファミリアの信者になると……うーん。実感が湧かないですね。でも、どうやって見ていたんでしょう?完全に外からは見えなかったはずなんですが。
「因みに、抗争の様子は映像として全世界に放送されているよ。」
「え゛。」
聞いてないと神様を見ると、言っていなかったからねと肩を竦めて飄々と言った。
「そーいう説明は!もっと早くに言ってくださいっ!」
「ごめんね。言ったら嫌がるかなって。」
「いえ。それは別に良いのですが。」
「あ。良いんだ。」
「ええ。もう少し神様の良い所を全世界に放送するチャンスだったなと思いまして。」
「うん。あの時の僕を心から賞賛しておくよ……。
僕の良い所なんて放送しなくていいからね!?プティ!」
釣れないことを言う神様にえーとブーイングだけしておく。まあ、神様が嫌だと言うならそれまでですしね。それに、1位まで行けば名前を知らしめる程度は簡単ですし。うんうん。なんら問題ありませんね!
黙って頷く私に嫌な予感がしたのか、頬を引き攣らせた神様は話を逸らすように口を開いた。
「とにかく、見世物になる訳だけど、当然、見世物になるからにはその報酬も払われるんだ。
リアルで言うタレントみたいなものだからね。」
「へぇ。報酬ですか。どういうものなんですか?」
あまり期待せずに尋ねる。所詮は800位ですからね。底辺と言えば底辺なのです。大した報酬では無いでしょう。
そう思って居ると、神様は実にいい笑顔で次のように述べた。
「こちらの世界で家1つ分のお金もしくは、リアルのお金で1万円だよ。
後、ファミリアに勝利した報酬として経験値、負けたファミリア側が持つアイテムを3つまで手に入れられるんだ。」
「……はい?え?ん?いち……はぃいいいっ!?」
たかがゲームの抗争と高を括っていたが、想像以上の報酬に愕然とする。え。1時間程度で1万円……?価値観おかしくないですか?ねぇ。おかしいですよね!?最低賃金の10倍ですよ?え。本っ当に大丈夫ですか?それ。運営とかゲーム依存者とかその他諸々の事情含めて大丈夫なんですか!?
混乱のあまり、ボーッと突っ立っていると、神様が私の顔の前で手を振った。それを見て、わぁ。綺麗な手ですねぇと現実逃避する。
「おーい?大丈夫?」
「ハハハ…きれーなおててですねー。」
「何処を見てるんだい!?」
パッと手を隠した神様に少し残念に思いながらも現実を見ることにする。嫌ですけど。とんでもなーく嫌ですけど!
もはや目が座っている気もするが、ジトっとした目で神様を見据える。
「だいじょばないです。神様。それって色々と大丈夫なんですか?」
「色々って?」
私が言葉を省略しすぎたらしく、不思議そうな神様に思ったことを一つ一つあげていくことにした。
「まず、1万円なんて現金を貰えるって知っていたら普通、ファミリア同士の抗争が何度も起きてしまうと思うんですが。」
「ああ。もう起きた後だよ。」
「そうで……え。」
やはりかと頷こうとして動きを止める。起きた後とはどういう事だろうか?
いや、言葉の意味は分かるのだ。ただ、何故抗争が収まったのかが不思議だった。
「ファミリア間の抗争は既に不毛なものとして終息してしまった後なんだ。」
「何故不毛なんですか?」
「ファミリアの抗争が放送されることによって現金の報酬が得られるのは間違いないよ。ただし、それは上限があるし、下克上が成功した側にしか配給されないものなんだ。」
「下克上が成功した側だけ……という事は、ランキングで上のファミリアに挑まないと意味が無いということですよね?それでも、もしかしたらがあるのでは?」
撃退した側にメリットが無いのは分かったが、それよりも挑む側が減らないのではないかと尋ねてみる。
しかし、想定内の問いかけだったのか、すぐさま答えは返ってきた。
「そう簡単じゃないから減ったんだよ。
そもそも、ランキングはイベントでの順位や個人のランキングが加味されてるんだ。ファミリアを作って数日ならまだしも、2ヶ月も経てばまず間違いなく妥当なランキングに収まっているよ。」
神様の言葉に納得し、なるほどと頷いた。つまり、神様ランキングというのはイベント毎にランキングが整理されるのだろう。故に、自分から下克上をしても失敗する可能性が高いという事だ。
「ということは、下克上が成立しやすいのは次のイベントまでという事ですか?」
「うん。そうとも言えるね。次のイベントは……ちょっと早いけど、運動会イベントかな。」
「もう5月ですからねぇ。楽しみです。」
「あー……う、うん。色んな意味で楽しいと思うよ。楽しみにしておいて。」
「はいです!」
運動会という言葉に初めてウキウキとしつつ、思いを馳せる。
玉転がしとかあるでしょうか?危ないからと海が参加した運動会では無かったんですよね。でも、沢山の人が参加するでしょうし、やはり大人数で出来るような競技ばかりなんでしょうか?玉入れに綱引き……ぐらいしか思いつかないですねぇ。
うーん。他に何かあるでしょうか?リレーはもの凄く時間がかかりそうですしね。……はっ。もしや、乱戦みたいなのもあるんでしょうか?騎馬戦みたいなのが!それはそれで楽しそうです!
「プティー。そろそろ戻っておいで。」
「ハッ!すみません。つい、運動会が楽しそうだったもので。」
「いいよ。それよりも、さっき、経験値が結構貰えると言っただろう?」
「そういえば言っていましたね。それがどうしましたか?」
少し前に神様が言っていたことを思い出す。現金も貰えるという話をしていた時に確かに言っていたはずだ。ついスルーしてしまったが。
「ああ。プティってここに来る前に進化まであと少しってところまでいっていたじゃないか。そろそろ進化もできるんじゃないかなって。」
「え。あれ以上は上がりそうもないからって諦めたんですよ?そんなに経験値が貰えるんですか?」
「うん。まあ、僕らは2人だけだし、プティのレベルが低いからって言うのもあるけどね。」
神様の言葉に納得し、ステータスを見てみる。
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名前:エンプティ
分類:人形族 種族:デュアルリング LvMAX
《※進化可》
属性:光・闇
HP 20
MP 67500
STR 0
VIT 1
INT 4230
MND 4230
DEX 2115
AGI 1058
LUK 540
AP 350
種族スキル
〈透明化〉〈魔力回復(中)〉〈浮遊〉
〈魔力視〉〈毒類無効化(中)〉〈立体視〉
〈光の糸〉〈闇の糸〉
〈人形憑依:対象【大空の姫君】〉
スキル
〈魔力糸〉〈魔力操作(中)〉〈暗視〉
〈魔力結界(糸)〉〈魔味蕾〉〈魔力変換〉
〈手芸〉〈魔力放出〉〈二極合成〉
固有スキル
〈並列存在〉
称号
【ソウゾウを超える者】【神様(?)を崇める者】
【水霊の友達】【糸の操者】【兎の天敵】
【兎の宿敵】【狼の天敵】【大蜥蜴の天敵】
【可能性の欠片】【魔法初心者】【空島への鍵】
【ファミリアのマスター】【下克上】
ファミリア
〔カオスファミリア〕
役職:マスター
シンボル:太極図 人形
シンボルカラー:白黒
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詳細
〈並列存在〉
効果:自分と同じ存在を作り出せる。
【空島への鍵】
説明:空島と地上を行き来できるようになった。
効果:他のプレイヤーを連れて行き来できる。(人外種のみ)
【ファミリアのマスター】
説明:ファミリアのマスターになった証。
効果:特になし。
【下克上】
説明:自身の所属するファミリアより上位のファミリアに勝利する。
効果:勝負強くなる。
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数値の変更以外は特に変わりはなかったものの、思わず目に入った情報に閉口する。
ジーッとおかしいなぁと見続けると、その私の様子に何かを感じたのか神様が声をかけてきた。
「どうしたの?」
「いえ。何故か、シンボルが太極図と人形になっていたので。」
「えっ。……これもあの子の仕業かな?」
「恐らく。後、進化もできるようですよ。」
次の進化先はこれですと言って見せる。そこにはこう書かれていた。
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通常進化先
トリプルリング
属性:光・水・闇
詳細:デュアルリングが新たな属性を手に入れた姿。3色に輝く輪は少しオシャレになったかもしれない。
特殊進化先
クロスリング
属性:光・闇
詳細:デュアルリングがそれぞれの属性を同じように使えるようになった姿。
輪が完全に2つに別れたところで何がある訳でもないけれど、もしかしたら何かが起きるかもしれないね?
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……だから、期待させるようなことを書くの、やめて貰えません!?誰ですかね!?これ書いたの……!!
と心の中で叫びつつ、結局特殊進化先を選んだのは言うまでもないのだった。不服ですがね……!
次回、進化で何か変わったのか?
それでは、これ以降も良き暇つぶしをお送りください。




