39話 謎は謎を呼ぶもの
こんにちこんばんは。
なんだか書いていて書き方がわからなくなる仁科紫です。←変な書き方してるから(自業自得)
それでは、良き暇つぶしを。
何故か白黒の旗をあげる黒子黒さんに首を傾げたが、ホッと息を着く。その宣言を受けて雪乃さんは呆然としていた。
「……え?だ、誰も居ないように思いますが!?」
「あの下に居ますよ。」
「えっ。」
慌てる雪乃さんに黒子黒さんが旗の下に居る輪っかを指さす。それを目で追った雪乃さんは訝しげだった。
しかし、ポンっと飛び出してきた小さな輪っかを目で追い、ようやく納得がいったらしい。いつの間にと呟く雪乃さんに少し申し訳なくなった。私の手の中に納まった輪っかをお疲れ様と労るように撫でると、輪っかはフルフルと小刻みに揺れる。
「お疲れ様です。」
『是。後で褒美求む。』
唐突な要求にどうしようかと考えたが、あげられるものならと頷き、目の前にいる雪乃さんに目を向けた。
「そ、その輪っか……あの時ですか!?」
「不誠実だとは思いましたが、仕掛けさせて頂きました。まともな戦闘が出来ず、申し訳ないです。」
「いえ、気づかなかった私の負けです。
旗取りこそが本当の勝負なのですから、正真正銘貴方の勝ちですよ。貴方は立派に勝利を収めました。その事実を誇って下さい。」
「そう言って下さると有難いです。貴方という素敵な女性に勝てたことを誇りにさせて頂きますね!」
満面の笑みを浮かべ、雪乃さんを見た。雪乃さんも満足そうに頷いており、黒子黒さんはそんな雪乃さんをどこか微笑ましそうに見ている。
何故かは分からないが神様が恋しくなり、キョロキョロと辺りを見渡す。神様は思いの外近くにいたようで、私が気づく前に近くから声がかけられた。
「お疲れ様。プティ。」
「神様もお疲れ様です。」
話しかけられた方を見ると、神様が与一さんに肩を貸しているところだった。
それを見た雪乃さんが与一さんに駆け寄り、神様に代わって肩を貸す。
「負けたんだな。」
「うん。やっぱり、空を飛ぶ人は手強いです。勉強になります。」
「そうか。」
穏やかに話している横でジワジワと喜びが込み上げてくる。負かした相手の隣でどうかとは思ったが、先程の雪乃さんとのやり取りを思い出し、微笑ましげに私を見る神様に抱きついた。
「かーみーさーまーっ!」
「わっ!?ちょっ、だから張り付くのは……!」
いつもの如くうっかり顔に飛び込み、怒られる前にと腕の中に移る。
正直、フィット感などの都合上、胸は物足りないんですけどねぇ。
「あ。間違えました。こっちですね。」
「本っ当にその間違えはいい加減になおしてくれないかな!?」
言い訳のように呟くと神様からツッコミが入ったがそんなことは気にしない。
神様もいい加減慣れてくれたら良いんですが。
内心ではボヤきながらも神様を見あげる。そこには呆れた顔をした神様が私をしょうがないなと言いたげに見ていた。
「折角の初勝利だし、胴上げでもされておく?」
「え!良いんですか!?」
キラキラとした目で神様を見ると、神様は苦笑しながらも頷いた。わーいと喜んで神様の手へとすっぽり収まる。そこから宙へと放り投げられるのを何度か繰り返し、最後はおめでとう。プティと笑いかけられて胴上げは終わった。
……一人の人から胴上げされるって人形のこのサイズ感だからこそ出来ることですよね。後、凄くシュールです。
というか、途中で思ったんですが、これってどちらかと言うとバレーボールでいうオーバーハンドトスを何度もされているようなものでは……えっ。私、ボールの代わり……き、気づかなかったことにしましょう。ええ。傍から見ればそうとも見えるだけなのです。別に神様にそんな意図があった訳ありませんしね!?
一人でわぁわぁと頭の中で考えていると、唐突に神様が宙を指さした。何事かと目をそちらに向けると、小さな輪っかが浮いていた。
「……ところで、そこで宙に浮かんでいるのは何?」
尋ねられてようやく並列存在の輪の事を思い出した。
そういえば、褒美が欲しいとか何とか言っていたなと思い出した時に今度は雪乃さんから声がかけられる。
あっ。またこの輪の事を忘れそうですね……と少し遠い目をしつつ雪乃さんの方を見た。
「お話しているところごめんなさい。
こちらから話しておかなければならないことがあります。」
真剣な表情の雪乃さんの様子から、話しておかなければならないこととは出来たばかりのファミリアの名前を知っていたことと関連しているのだろうとジッと見つめる。神様も警戒するように雪乃さんに話しかけた。
「それは興味深いね。なんの事かな?」
「そうですね……。忠告と言った所でしょうか。」
「忠告、ですか?」
その曖昧な言葉に首を傾げると、雪乃さんは頷く。
「はい。実は、お二方の事を排除したいと考えている勢力がいるようです。」
「アンタらがファミリアを作ってすぐに矢文を送れたのは、そういう依頼が届いたから、だしな。」
補足するように説明する与一さんに納得と同時に不思議に思った。その依頼はリスクが高すぎるからだ。
勿論、矢文が届くのはいくらなんでも早すぎるとは思ったが、そこはそういうシステムがあるのだろうと考えればそこまで不思議でなない。しかし、その依頼を受けた理由に関しては本当に意味が分からなかった。負けると神様ランキング外となり、再参加が出来るにしても厳しいだろう。
もっとも、神様ランキングにそこまでの拘りがなく、いつ負けても良かったというのなら話は別だが。情報が少ない今、依頼でリスクの高い行動をしたとだけ教えられても納得出来るわけがなかった。
「依頼、ですか?」
「ええ。私たちは元々何でも屋のような事をしているファミリアですから。今回も引き受けたのです。」
「それだけで今の地位を捨てられるとは思えないんだけど?」
私と同じことを考えていたのか、疑惑の眼差しで雪乃さんを見る神様に雪乃さんはニコリと笑って答えた。
「そうなのですが、元々あまり固執していないもので。」
「今ウチが800位なのもたまたま依頼で相手した連中が800位のファミリアでな。相手が負けた時に自分たちは要らないからやるって言われたんだ。」
「正直、変な争いに巻き込まれても困るのですが、勝ったからには差し出されたものを受け取らねばなりません。それがファミリアの方針ですから。
とはいえ、時間が経つほどに後悔しかありませんでしたがね。今までなら好き勝手に戦えたというのに、今となっては面倒臭いしがらみのせいでで動きにくいったらありゃしません。寧ろ、これで清々したというものです。」
晴れやかな顔でそういう雪乃さんに少し唖然とする。この世界では神様ランキングに参加することを厭う人もいれば、固執する人もいる。その事を少し理解したような気がした。
「それより、そろそろ下に降りましょう?」
「そうだな。恐らく、ずっとうずうずしてる奴らがいるだろうし。」
2人の言葉にどういう事かと首を傾げたが、答える気は無いのかニコリと笑みを浮かべるだけだった。
というか、黒子黒さん、気づけばどこかに行っていたんですが。本当に黒子のような人ですね。
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「「わーっしょい!わーっしょい!」」
「ちょっ。そろそろ下ろしてくれても!いいと思うんですが!?」
「まだまだ行くぜ!わーっしょい!」
ふわりふわりとあげられる度にどうしてこうなったと考える。時は少し遡ってお屋敷の庭へと出た時の話だ。
何故か大勢の人々が集まり、出てきた私たちを見て歓声を上げたかと思うと、あっという間に囲まれて胴上げをされる事となった。神様は嬉々として下で胴上げをする側に回っており、非常に腹立たしい。
尚、輪っかちゃんは少し離れたところからこちらを見ている。私もそちら側が良いんですが!?チェンジ!チェンジを求むです!
『否。受け取る資格はマスターのみ。』
『心の声にツッコミを入れなくていいんですよ!』
うがーっと叫んでいると、何処からかカァッという声が聞こえた。遠くではなくより近くから聞こえた声。何の声だろうかと胴上げをされながらも見上げると、そこには桜色の鴉が居た。……え。派手ですね!?
思わず見た目の奇抜さにツッコミを入れていると、その鴉は何故かグングンとこちらに近づいてくる。そして、丁度一番高いところまで達した瞬間、鴉の足がガシリと私の腕を掴んだ。
「え。」
「「あっ。」」
「わぁあああっ!?ヘルプミーです!?」
「プティ!」
空へと連れ攫われ、空を一回転、二回転してから何処かへと鴉は着地した。
「ふふふ。摩利支天様はお茶目ですね。」
「カァッ!」
目が回り、状況の把握が出来ずにいたが、声からして雪乃さんの腕に鴉はとまってるようだ。尚、鴉に腕を掴まれている私は雪乃さんの腕と鴉の足の間に挟まれてブラブラとしている。……いや、和んでないで回収してくださいな!?
何故かフッとドヤ顔で見てくる鴉を無視し、諦めて自力で脱出する。何も出来ない子じゃないですからね。スっと抜け出すぐらいは出来るのです。
縁側に着地した足で雪乃さんに疑問を尋ねることにした。
「雪乃さん。その鴉、摩利支天様という事でしたが、どういう事です?」
「カオスファミリアは出来たばかりですものね。
ある程度ファミリアが成長すると、ファミリアの神様が誕生するのです。それが私たちの場合、この摩利支天様だったのですよ。」
所謂マスコットキャラクターの様なものだという雪乃さんに納得して鴉をしげしげと見つめる。首を傾げる鴉は街中で見かける鴉とそう変わりはないように見えた。
ふふふ。どんな子が誕生するのか楽しみですね。
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その後、なんだかんだと解散し、神様のお店まで戻ってきていた。一度上に来ると、神様のお店からも行くことが出来るという謎設定があるらしく、未だにログアウトはこのお店で行っている。神様がこのお店が上でも下でもない狭間の街にあるからだと言っていたが、では何処にあるのかと聞くと、何処にもないという。ここは本当に不思議な場所であるらしかった。
「さて。輪っかさんのお願いってなんですか?」
戻ってきて直ぐに尋ねる。ようやく気になっていたことを聞けるとウキウキする。面倒なことは早めに済ませたいというのもあるが。
『体求む。』
「……?からだもとむ体もトム…ああ!体求むですか!」
「いや、それ以外無かったよね!?今のやり取り!!」
何のことだろうかと首を傾げ、神様の言葉を華麗にスルー。輪っかちゃんにプレゼントする体について考える。そう時間がかかることなく思い当たるものが一つあった。
「そういえば神様。例のお人形は完成しましたか?」
「ああ。あれ?うん。出来てるよ。」
ちょっと待ってねと言いながら取り出したお人形は以前神様と話していた黒髪のお人形だった。赤いキュロットに黒の立ち襟フリルブラウス。形のいい細い足は黒いタイツで覆われ、赤みの強いワインレッドの編み上げブーツがワンポイントになっている。黒いレースで彩られた赤い小さなミニハットが赤みがかった黒髪によく映えていた。
「おおー!神様!いいお仕事しますね!」
「そう?プティにそう言って貰えると嬉しいね。」
満更でもなさそうに笑う神様に嬉しくなる。
そのままニコニコと2人で笑っていると、コホンっと咳払いが聞こえた。見ると、お人形の上に輪っかが移動しており、魔力の接続も済んでいる。
表情は変わらないが、赤いルビーのような目が開いていることからも間違いないだろう。
「どうですか?」
「うん。満足。」
表情は変わらないものの、満足そうに頷いた目の前のお人形を見て微笑む。第一印象は大事ですからね。笑顔は欠かせません。
「それは良かったです。これからよろしくお願いしますね。」
再びこくりと頷くお人形さんに笑みを深くした。あれ?そういえばとそこでふと思い出したことをポツリと呟く。
「そういえば、上がった旗はどうして白黒だったんでしょう?」
私の言葉に神様もそういえばと呟き、考え込む。設定した覚えがないだけに不気味だ。少し考えていたが、全く検討がつかない。
しかし、答えは思わぬところから出た。
「答。カオスファミリアのシンボル、太極図だから。」
「……え!?何で!?いつの間に……!?」
「見ている間に設定完了。」
淡々と答えるお人形さんに神様と私は顔を見合わせ、呆然とするのでした。
次回、勝利報酬
それでは、これ以降も良き暇つぶしをお送りください。




