38話 勝利は誰の手に
こんにちこんばんは。
長くなったので色々な疑問は次で解消する気の仁科紫です。
それでは、良き暇つぶしを。
その後、通った廊下は嫌がらせかというほどビショ濡れかつツルツルと滑り、中部屋の一部屋目は透明な迷路、二部屋目は20人ほどの和服や戦国武将のような鎧を身にまとった人達が斬りかかってくるというものだった。
尤も、相手はHPを0にした時のデメリットを気にしないのか容赦なく斬りかかってくるため、避けるのは大変だったと記しておく。
神様からしたら余裕みたいでしたけどね。私に余裕が無いのが面白くないですが、まだまだこれからという事で自分を納得させておくのです。
そうしてようやく階段があるという小部屋にたどり着いた。そこは掛け軸や飾り棚、押し入れなどがあり、何処を探しても階段がありそうだった。
「こういう時は私の出番ですね!」
「うん。頼むよ。」
「はいです!〈魔力結界(糸)〉!」
神様に頼られることを嬉しく思いながら部屋のあちこちへと魔力糸を張り巡らせ、浸透させる。すると、向こう側に壁があるものはそのまま浸透するが、壁が無いものはそこで弾かれた。
むむ。この反応は、掛け軸の後ろには空間なし。飾り棚にも仕掛けはないですね。更に、押し入れには何も無いですが、その横の空きスペースの天上はスライド出来そうです。
「神様!こっちの……」
「危ないっ!」
神様が私の指さした方向へと瞬時に進み出る。その瞬間にギーンッ!と鳴り響く衝突音に目を見開いた。
見ると、神様の向かいには忍者のような格好をした全身桜色の人がいた。恐らく壁の向こう側からやって来たのだろう。
ここはからくり屋敷か何かですかね?というか、なんでそんな見つかりやすい格好をしているんでしょう?いくらファミリアのシンボルカラーだとしても流石にそれは派手すぎると思うんですが。
首を傾げつつも神様が相手取っているうちにと取っ手のある天井の板をスライドさせる。そこには縄ばしごが収納されており、一気に降りてきた。
……嫌がらせですか!?私!お人形さん!当たったら、痛いどころか地面に激突して二重苦だったんですけど!?
何はともあれと神様の方を見ると、既に決着は着いていた。
ズルりと倒れ込む忍者さんに合掌しつつも神様に声をかけた。
「神様!縄ばしごありました!」
「え。縄ばしご?階段じゃなくて?」
「あー。……確かにそうですね?」
不思議だと首を傾げ、この人が出てきた場所を探る。そこには上へと続くような段があることが分かった。
「神様!ここにあるみたいですよ!」
「お手柄だね!プティ!」
さあ行こうとくるりと回る壁に張り付き、階段のある奥へと進む。狭いながらもそんなに急ではない階段を上へと登った。
たどり着いた屋根裏は置物程度には使えそうだが、そこまで天井が高いわけではなかった。神様が完全に立ち上がると頭を打ちそうなくらいだ。
ここから上へと続く道を探さねばならないと考えると、そこまで苦労はしないだろうが広すぎる。
「どうします?」
「そうだね。見たところ、階段は窓の外にあるんじゃないかな。」
神様が指さす方向を見る。そこには確かに外に通じる窓があるようだ。
何処に階段があるのかは分からないが、一先ず一番近くにある窓に近づいていく。……が、辿り着く前にダンッという何かが刺さる音が聞こえた。
何だろうかとライトボールを作り出し、音がした方を照らす。そこには一本の矢が刺さっていた。
まさかと考えている間にも次々と上や下から矢が飛んでくる。暗視で見えていても視界が悪いのは間違いない。ランダムに飛んでくる矢は私たちの動きを妨害するのに十分だと言えた。
「どうしますか!?これ!」
「プティ!奥の方にライトボールを設置してくれるか?恐らく矢を撃つ装置があるはずだ!」
「はいです!」
薄暗い天井裏全体を照らせるように四隅に向けてライトボールをそれぞれ投げる。フワリと浮かび、固定されたライトボールは天井裏全体を照らした。
そこに見えたものはかなり大掛かりな仕掛けだった。
一気に何十と放てる矢の発射装置とも言うべきそれは、どういう仕掛けか放った瞬間にまた矢が補充され、次々とこちらへ矢が放たれる。
「あれだね。〈剣術:星屑撃〉」
神様が縦と横に一度ずつ振ると2つの三日月状の刃が4つに分裂し、更に互いどうしが衝突し……と次々に分裂。最後にはもはや数え切れないほどになった刃は、装置へと狙いを定めて飛んでいく。
ドガガガンッと大きな音がなり、後には穴だらけの発射装置が残った。
剣術とは?と問いたくなる現象に神様だからと無理やり自身を納得させ、神様に話しかける。
「か、神様。では、行きましょうか?」
「そうだね。どうやら、あの矢の装置の後ろが怪しそうだ。」
神様の言うことも一理あると壊れた装置へと近づいていく。装置を念の為警戒していたが、何も起こらなかったことにホッとして後ろに回った。
すると、後ろにあった窓に行くその手前に階段を見つけた。階段の先には板の蓋があり、屋根の上に出ることが出来そうだ。
「神様ー!ありましたよー!」
「了解。じゃあ、僕が先に出るからプティは待っててくれる?」
「分かりました!」
キリリと返事をして少し待つ。そう待つことなく壊れた装置の後ろから神様はひょっこりと顔を出した。
「よいしょ。ちょっと狭いね。」
「屋根の端っこの方ですからね。それより、早く出てしまいましょう。残り時間もあと35分程ですからね。あともう少しとはいえ、妨害が予想されますし。」
「うん。マスターとサブマスも見ていないからね。可能性は十分ある。急ごう。」
「はいです!」
こういうやり取りをする時、どう考えても神様の方がマスターっぽいのにと思いつつ階段をのぼる。神様が木の板を取ると、青い空が見えた。奇襲をかけられないようにと警戒しつつ上へ出る。
「お疲れ様です。よくここまでたどり着きました。」
すると、朗らかでいて可憐な声が斜め上の方から聞こえた。そちらを見ると旗の横に摩利支天のマスターである雪乃さんが目に入る。このような状況下であっても雪乃さんはニコニコと穏やかな笑みを浮かべていた。
雪乃さんの横に目立つ鎧の姿は無く、その事に疑問を浮かべながらも警戒を怠らず、念の為に〈魔力結界(糸)〉を設置しておく。
徐々に糸の範囲を広げて行くが、その間も雪乃さんは話し続けていた。これは好都合と話にのる。
「それにしても、予想より随分とお早い到着ですね。うーん。罠が生ぬるかったでしょうか?」
「いえ、十分だったと思うのです。ただ、私は飛べますからね。空の対策が甘かったというのは否定出来ないと思いますよ?」
「ああ。確かにそうですね。でも、貴方には来てもらいたかったのです。だから、構いません。」
ふふふと笑う雪乃さんに背筋がスっとする。どこからどう見てもその目は闘志に燃えていた。
うわぁ。戦闘狂さんですか?妖華さんもそうですけど、戦闘狂の方って色々と怖いのでご遠慮したいんですが。
「あ、あはは……神様、ふぁいとー!ですよ!」
「え。いや、多分僕は僕で彼とやらないといけないから……ごめん。頑張って。」
「え。」
どういう事かと尋ねる前に屋根の上に広がりきった結界で答えを知る。神様が向いている方向に誰かがいるのを察知したからだ。しかし、そちらを見ても誰もいない。どういう事かと首を傾げるが、恐らくスキルで透明人間にでもなる方法があるのだろう。
そして、神様の相手はその相手だという。つまり、どう頑張っても神様が相手を倒すまでは私が彼女の相手をしなければならないのだ。
むむむと眉を寄せるが、致し方がないと雪乃さんの方を見た。
「お相手、お願いします。」
「ええ!楽しみましょうね!」
渋々。本当に渋々ぺこりと頭を下げると、楽しみで仕方がないとばかりにいい笑顔で雪乃さんは笑った。
うぅ…。お手柔らかにお願いします……。
妖華さんや神様の戦いを見ているだけに少し鬱々とした気分で雪乃さんを見て掌に魔力を集める。
雪乃さんはニコリと笑うとその場でくるりと回転した。何をする気かと見ていると、次に着地した時には着物が忍者装束へとしている。
口元を覆う灰色の布に短めの動きやすそうな丈の桜色の和服。太ももから膝下まではスパッツに覆われ、どちらかというと何かのキャラクターの服装のようなイメージだ。それは可愛らしい雰囲気の雪乃さんにはよく似合っていた。
……って、似合っているかどうかなんてどうでもいいんですよね!
すぐさまこちらへと駆けてくる雪乃さんに上空へと逃げる。
卑怯だと言われようがこれしか私にとってアドバンテージが無いのだ。決して怖いから逃げた訳では無い。……本当ですよ?本当ですからね!?
誰に言い訳しているのかもはや分からないが、こちらへと飛んでくるクナイの数々にすぐさまスイスイと躱す。しかし、躱しても追尾してくるクナイにギョッとする。
「追尾型ですか!?」
「空を飛ぶ方への対策ぐらいはしています!」
ちっと舌打ちをし、私の全速力でようやく何とか当たらないという速さで迫ってくるクナイに内心焦りながらも、高度だけは下げない。
下ではこちらを追ってきている雪乃さんが居るからだ。しかも、クナイを追加とばかりに投げてくる上に、爆弾も投げてくる。目の前に爆弾が弾けた時はヒヤリとしたが、慌てて魔力の壁を張ることでやり過ごした。
しかし、僅かにスピードを緩めたことで後ろのクナイとの距離が縮まってしまった。もうスピードを緩められないという現実に焦りながらもどうするか頭を悩ます。
えーっと、えっとです。このまま逃げ続けても意味は無いんですよね。彼女を倒すために魔法を操るにも、このスピードを維持するためにかなりの魔力をつぎ込んでいるのです。まだまだ持ちそうではありますが、この速度で魔法を当てられる自信はありません。
……そもそも、私の勝利条件は彼女に勝つことではないんですよね。
ただ、やはり旗に近付こうとすると彼女からの攻撃が激しくなるため、近付けない。どうしようかと考えていると、ふと思いついた事があった。
魔力の壁を全身に張り巡らせ、雪乃さん目掛けてダークボールをぶん投げる。それと同時に魔力の糸を旗の根元へと繋げた。
「ハッ!」
サッと避ける雪乃さんに今だと、この世界に来た時に開放されたスキルを使う。それもこっそりと。これがバレてはもう打つ手が私にはなくなるからだ。
戦いを楽しんでいる雪乃さんには申し訳ありませんが、ここは戦わずに勝たせて頂きます!〈並列存在〉!
旗の根元に繋げた糸の先で小さな輪っかが誕生する。
『何を求む?』
『旗を持っていて欲しいのです!』
『了承。』
そのやり取りの後、魔力糸に気づいた雪乃さんが慌てて短刀で斬る。
「ふぅ……。危ないですね。そう簡単に終わらせませんから!」
「それは残念なのです。もう少し隙を見定めるとしましょう。」
「やれるものならやってみて下さい……!」
クナイを再び投げてくる雪乃さんにまたかと逃げ出す。同じようなやり取りの後、今度は雪乃さん直々に飛びかかってくるが、私に刃が届く前に黒子黒さんが現れた。
「そこまで!勝者、カオスファミリア!」
あがる白黒の旗に私たちの勝利が宣言された。
次回、白黒の理由と並列存在ちゃん。
それでは、これ以降も良き暇つぶしをお送りください。




