37話 決闘の始まりは歴史の始まり
こんにちこんばんは。
眠いと頭も働かないなと実感した仁科紫です。
それでは、良き暇つぶしを。
挑戦状に書かれていた日付になり、今私たちは摩利支天ファミリア本部であるという桜色の旗が掲げられているお屋敷の前に来ていた。
場所としては西の大通りを北側に一本路地に入った場所にそこはあった。辺りには同じように大きなお屋敷立ち並び、住宅街といった雰囲気である。
感心するようにしげしげと大きな門の前で辺りを見渡し、如何にも日本家屋といった目の前のお屋敷と周りにある洋風の家とを見比べる。間違いなくそこは周囲から浮いていた。
「この辺りで日本家屋って珍しいんですかね?」
「まあ、日本の神様をファミリアの名前にしている所なら別だけど、それ以外は洋風の建物なんじゃないかな。ホームを買うのもかなりのお金がかかるし。」
それもそうかと納得する。恐らく、材料の観点からしても日本家屋にするより普通の家を建てる方が安上がりなのだろう。
「という事は、800位と言っても侮るなかれと言うことでしょうか?」
「まあ、そうだね。これだけの財産を築いているなら、かなり長い間ランキングに入っているんじゃないかな。
そうでなくても何千ってあるファミリアの内の800位だからね。油断は禁物だよ。」
神様の言葉に頷き、前を向く。時間になった瞬間に開く扉に驚くも、それよりも奥の光景に目が釘付けになった。その先にはズラリと2列に並んだ人々が待ち構えており、正面には2人の人物が睨むような鋭い目で私たちを見ている。
方や長い白髪をポニーテールにした桜色の着物を可憐に着こなす黒い目の小柄な少女。
方や赤に桜色の模様が綺麗な日本の戦国武将のような甲冑を身に纏う厳つい男性。
この2人がマスターとサブマスターなのだろう。じーっと見つめ、油断なく構える。……が、次の瞬間、毒気を抜かれる。少女がまるでこれからの争いごとなどないかのようにほんわかと話し始めたからだ。
「我が摩利支天ファミリアへようこそいらっしゃいました!私はマスターの加藤雪乃と申します。
道中不便などはありませんでしたか?我らは汝、カオスファミリアとの決闘、楽しみにしておりました。今日はよろしくお願い致します。」
「うむ。よく来た。我は楠木与一。どのような技を見せてくれるか楽しみにしている。」
ニヤリと獰猛に笑う男に戦慄が走るが、それよりも今回の挑戦状の方が気になる。そもそも、どうして名前を知り得たのかも不思議だ。
一先ず自己紹介をすべく、スカートを摘んで軽く頭を下げる。
「ご招待ありがとうございます。
カオスファミリアのマスター。エンプティです。挑戦状という事でしたが、具体的には何を行うのですか?」
「あら。ファミリアの決闘と言えば相場が決まっていますでしょう?勿論、城攻めです!」
突然城攻めと言われてもルールが分からない。神様は知っているのか、なるほどと頷いていたが説明聞くことにする。詳細は以下の通りだった。
・城攻めとは片方のファミリアのホームを使い、頂上にある旗を守り切ればホームを持つファミリア側の勝ち。旗を取り、1分間奪い返されないか、最後まで旗を持っていれば攻める側のファミリアの勝ちである。
・参加人数は特に決まりはなし。制限時間は1時間。
・通るルートは決められており、そこを必ず通らなければならない。妨害側は決められたルートに罠を設置しても構わない。
・相手のHPを0にしても復活は可能だが、両者ともにペナルティを受ける。
要は、妨害を受けつつ旗を手に入れられたら私たちの勝ち。旗を私達が一時間以内に手に入れられなければあちらの勝ちという事ですね。
「尚、試合進行は私、黒子の黒子黒が行わさせて頂きます。」
後ろからひょっこりと顔を出したのは全身が黒い装束で覆われ、顔も黒い頭巾のようなもので隠した長身の人物だった。声からして男性だろう。ぺこりと頭を下げたその人は手に持つ小さめの旗を揺らしてみせる。
一方は赤、もう一方は黄色をしていた。
「赤があがると失格。黄色があがると注意勧告を表しております。故に、赤い旗をあげられたものは即刻退場してください。もし、従わないようなら強制的に退場していただくことになります。」
黒い布で覆われているため、どんな表情をしているのかは分からなかったが、うっすらと寒気を感じた。
これは従わないと怖いですね。まあ、従わない理由もないんですが。
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「それでは両者とも、準備はいいですか?」
決闘内容の決定とルールの共有が終わり、相手の準備も終わった頃。黒子黒さんから尋ねられた言葉に頷く。隣にいた神様も同様に頷いていた。
それを見た黒子黒さんが抱える程大きな法螺貝を構える。
「では、よーいドンッ!」
ブフォオオオンという音が辺りに鳴り響くと同時にスタートラインから飛び出した。今回のルール上、神様から離れるのは下策と判断し、出来るだけ付かず離れずで飛ぶ。神様はこちらを見ながらスピードを調節してくれているようで、大きく離れることは無かった。
申し訳ありませんが、私の方がまだまだ遅いですからね……。
ぐぬぬと心の中で悔しがりながらも、ルートを思い返す。
事前に聞いたルートは以下の通りだった。
まず、玄関から入ってすぐの大広場に入る。そこを右に曲がり、小部屋を3つ通った後、廊下を左に真っ直ぐ進む。突き当たりにある部屋に入り、今度は中くらいの部屋を2つ通る。次の小部屋で上へと通じる階段を見つけ、屋根裏へ。そこで更に上へと登る階段をのぼると旗のある屋上に辿り着く。
思い返し、普通に走ってもそれなりの時間がかかりそうだと改めて思う。
「神様。やはり先に行っていただいても構わないんですよ?」
「いや。こういう時は二人でいた方がいい。奇襲をかけられやすいからね。」
「うっ……分かってますよ。それくらい。」
もう何度かやり取りされた言葉にムスッとする。しかし、神様の実力があればまず間違いなくこの程度の相手に奇襲の心配なんて無いのだ。……恐らく、だが。
妖華さんとのやり取りからも分かる事なんですけどね。つまり、私は邪魔でしないという……うー。やはり、神様に先に行ってもらった方が私の気が晴れるというものなんですけど…難しいですねぇ。
そんな事を考えながらも、開かれている玄関を通り、土足のままあがる神様に良いのかと思いながらも大部屋へと繋がる襖をガッと開く。
途端にシュンッと飛んでくる矢の嵐に、やはりそうなるかと考え、すぐさま魔力の壁を作った。
弾かれていく矢に気をよくし、自身にも魔力の壁を張った後、部屋の中へと侵入する。
神様は自身に飛んでくる矢のみを綺麗に真っ二つに斬っており、もはや人間技ではないなと遠い目をしながらもさすが神様と思うことで誤魔化す。
神様は神様という枠でしか測れませんからね。ええ。私の持つ基準で考えてはいけないのです。
そんなしょうもない事を考えながらも中にいた20人ほどの人々に目を移す。
皆が皆、矢をつがえてこちらへと次々に撃ってくるが、どれもそこまでの脅威はない。時々爆発したり、魔法のような光を纏っているものもあったが、どれも大量の魔力で作りあげた魔力の壁を超えてくるほどのものではなかった。
これなら行けるとここに居る人々を無視して再び進み出す。尚も矢は迫ってくるが、背中に隙がある訳でもなく、当たる前に全て弾かれる。躊躇なく右側で激しく存在を主張している桜色の襖を開いた。
そこは紫色の煙が充満しており、先程と違うのは誰もいないことだ。
「これは……毒だね。」
「あ。そうなんですか?じゃあ、私は耐性がありますし、大丈夫ですね。」
「僕も耐性はあるから大丈夫。ただ、視界が悪いから気をつけて。」
神様の言葉が終わるか否かと言った所に短剣を持った人が襲いかかってくる。ここは薄暗いが、影がない訳では無い。すぐさま相手の影を操り、動きを止める。神様は動きを止めた相手に剣の鞘で叩いて気絶させた。どこからとも無く現れた黒子黒さんが倒れたその人を引きずってどこかへと連れていく。
その後も次々と襲いかかってくるが、同様の手順で制圧していく。最後は5人まとめて襲いかかってきたが、間に合った2人は私によって動きを止められ、残りの3人は神様によって一瞬で気絶させられていた。
呆気なく思えたが、倒れ伏せる人々が黒子黒さんによって運ばれるのを横目に通り過ぎる。
さあ、次だと扉を開く。そこは何も無い和室だった。
首を傾げつつも進み出すと、後ろでガコッという音が鳴った。
不審に思い、振り向く。そこには畳ごと床が消え去っていた。あまりの出来事に神様の姿を探すと、どういう原理か、天井に張り付く神様にを見つけた。
「えっ。神様、何をどうしたらそんな格好になるんですか?」
「いや、驚いたら体が勝手に動いてた。」
「体が勝手に……?神様の前世は忍者ですか?」
「流石に違うと思うよ…?」
そんな人によっては気が抜けそうな言葉を交わしつつ、次の部屋へと進む。ここは落とし穴の部屋だったらしく、体重に反応して穴が空くシステムだったようだ。尚、通った後は何故か床が復活しており、何度も使える罠になっていた。
神様は端から端まで穴が開く前に走りきるという荒業をやり遂げ、私はそもそも浮いているから関係なく、その部屋をクリアした。
3つ目の小部屋の襖を開く。そこにはブンッブンッと行く手を阻む障害物達が左右に揺れていた。ただの鎖や丸太から巨大な斧まで先に進めば進むほど殺傷能力の高いものへと変化していく。
「うわぁ。これ、最後までたどり着かせる気があるんでしょうか?」
「無いんじゃない?ふるい落としっていう意味合いが強いだろうし。」
それもそうかと天井付近の絶対に安全だと思われる場所を飛び抜ける。想定していなかったのか、それもまたアリということなのか、特に妨害されることは無く端までたどり着いた。
一方の神様はと言うと……。
「〈剣術:星波〉!」
神様が剣を無造作に横へ一閃すると、三日月状の衝撃波のようなものが飛んでいき、ドゴーンッ!という音ともに一斉に障害物達は砕け散る。そこを難なく神様は駆け、私の待つ次の襖の前まで来た。
「障害物って……?」
神様の前でのあまりの存在意義の無さに思わず首を傾げていると、神様はなんの事かと首を傾げた。
「壊して進むものでしょう?ほら、まだ半分以上あるんだから急ぐよ。」
「は、はいですっ!」
一瞬呆けたが、慌てて頷いて次の襖を開く。神様にとって障害物とは乗り越えるものではなく、壊すものであるらしかった。……まあ、分からなくは無いんですけど。無いんですけどね……!?
現在の残り時間、54分39秒。
次回、決着
それでは、これ以降も良き暇つぶしをお送りください。




