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35話 欲しかったのは気持ち

こんにちこんばんは。

やっぱりまだファミリア結成まで辿り着かなかった仁科紫です。


それでは、良き暇つぶしを。

 暫くポカンと女性の去った後を見ていると、妖華さんが一つ溜息をついた。



「あーア。結局無駄足だったネ。分かってたケド魔王は現れずじまいカ。

 ノー……じゃナク、名前なんだっケ?」


「……テオズ。」



 腕を組み、首を傾げる妖華さんに神様が渋々答える。

 しかし、それはファーストネームでは無かった。どうやら、神様からすると妖華さんは仲良くしたくない相手らしい。

 ところが、妖華さんはその答えに納得することなく首を傾げる。不思議そうではあったが、何処か楽しげな雰囲気に何を考えているのか推測で察する。



「ン?そんな名前だったカ?」


「……本当は知っていて聞いているだろ。」


「アハハッ。知らナイネ。知ってはいるケド他者から聞いた名前なんテ知らないも同然サ。」



 だから教えろと言わんばかりの妖華さんに神様は呆れた目を向ける。しかし、先程よりも棘の少なくなった神様の視線に少しは妖華さんの事を見直したのだと理解した。

 でも、納得の出来る話ではありますね。ちゃんと自己紹介する事は大切です。例え、互いに名前を知っていようと必要不可欠なものでしょう。


 そう考えた私はニコリと笑みを浮かべ、提案する。



「神様。私たち、自己紹介もしていませんよ?妖華さんは自己紹介をしてくれたんです。しないのは礼に欠けるのでは無いでしょうか?」


「プティまで!?」



 まるでブルータスお前もかと言いたげな目をジーッと見つめる。

 神様にはこれが効きますからね。ニコニコと笑みを浮かべれば更に効果抜群でしょう。


 そのやり取りが続き、やがて神様が溜息をついた。勝利っ!と笑みを浮かべる口元をより吊りあげれば、妖華さんはケラケラと笑った。



「いいネ!君たち!実に楽しそうダ!」


「僕は楽しくないけどね。

 僕はアルベルト・テオズ。何故かこの子に崇められているだけで普通のプレイヤーだ。」


「えー。神様が普通な訳ないじゃないですか。

 分不相応かと思いますが、遅ればせながら勝手に自己紹介させて頂きます。神様に忠実な崇拝者(になる予定の)、エンプティです。よろしくお願いしますね。」


「忠実な……?」



 胡乱げな視線を送ってくるガ様に微笑む。

 ちょっと省略しただけですからね。ええ。なんら問題ないのです。



「間違っていませんよ?近い将来そうなる予定なので!」


「言葉の省略が酷い!?」



 そうしてわーぎゃー騒いでいると、妖華さんがもう耐えられないとばかりにお腹を抱えて大笑いし出す。流石に失礼ではないかとムッとした顔で妖華さんを見ると、神様も不満そうな顔で妖華さんを見ていた。



「アハハッ!本当に!ほんっとーにイイネ!こちらこそよろしく頼むヨ!アルベルト、エンプティ!

 いやァ。てっきりエンプティは何も出来ないお姫様なのカと思いきや、存外頭の回転が早いじゃナイカ!

 分不相応?イヤイヤ、とんでもナイ!それこそ、ワタシが失礼をしたネ。二人に聞くべきだったヨ。うンうン。」



 妖華さんの言葉にこの人がどういう人であるかを察する。

 恐らく、妖華という人物は神様の言った通り本当に戦闘狂なのだ。自身が認めた相手だけを見てそれ以外はどうでもいい。そういうタイプの人間だ。

 そして、この手のひら返しは私が将来的に期待できると思ったからなのだろう。背中を走った寒気に何がかは考えないようにする。正直、あまり相手にしたくないんですよねぇ……。



「いいのです。どうせ神様の様子から判断したのでしょうから。神様は過保護ですからねぇ。

 ふふふ。そこも素敵ですけど。」



 何のことだと言いたげな神様にニコリと笑う。勿論、笑うだけでそれ以上は言わない。これは説明する気がないから聞くなという威圧なのだ。

 その様子に気を良くしたのは妖華さんだ。



「アハッ、アハハハッ!いいネ!ワタシはエンプティ。キミに会えたことが今日最大の幸運だとココに宣言するヨ!アハハハッ……!」



 長々と笑い続ける妖華さんにいい加減にしたらどうかとジト目を向ける。

 流石にそろそろもういいと思うんですよ。十分笑ったと思いますし。まあ、理由は理解できるんですけどね?どうせ、あのノーフェイスが……!って奴なんでしょうけど、それでも笑いすぎですよ。全く。


 どうやってとめようかと見ていると、神様が妖華さんに話しかけた。



「妖華。そろそろ用件も終わったよな?」


「エ。あ。うン。……あァ。そうダ。あと、戦ってくれるって言ってたダロ?」


「そう言えば、そんな話もありましたね。何時するんですか?」


「モチロン。今からサ。」


「ふむ。……分かっったよ。呼び出されるのも嫌だからね。そういうことなら、プティ。ちょっと待っていて。噴水広場で合おう。」


「え?あ、はい。……え!?神様!?置いていくんですか!?」



 すぐ戻るから!と言って神様と妖華さんの姿が消える。周りには未だに解けない妖華さんのスキルによって拘束された人々が転がっていた。

 ……こんなところに置いていくって酷くないですかね!?


 しばらく呆然とした私はノロノロとその場を去ったのだった。



 □■□■□■□■




「そろそろ機嫌直してくれないかな?」



 カランっと目の前のチョコパフェを食べ終え、プイッとそっぽを向いて神様を見ないようにする。これは抗議なのだ。そんなことを言われても断じて見る気はない。



「ほら、こっちのいちごパフェもあげるから。」



 神様が差し出してくるガラスの器に入ったいちごパフェを素直に受け取るが、それでも神様を見ない。黙々と口に運んでいちごパフェに集中する。この時ばかりは表情を操ることが出来ることに感謝しかない。

 表情があったら間違いなく頬が緩んでましたからね。と、心中で笑みを浮かべながら苺とアイスクリームを一緒にパクリと頬張る。口の中に広がるアイスクリームの濃厚でクリーミーな甘さと苺の甘酸っぱさが程よくマッチしてもう何回でも口に運べるくらいだ。

 何より、苺一つ一つをとっても同じ味のものは無い。少し酸っぱかったり、甘かったりする。それは現実でならおかしくないが、この仮想世界では珍しいことだと判断した。

 何処かで聞いたんですよね。一つ一つのデータを入力するのは大変だから、苺なら苺と一つのデータを入れる方が楽なのだと。なので、苺は全て同じ味だというゲームも珍しくないのだとか。

 その点を取れば、確かに食に力を入れているというのは本当のことなのだと思う。



「ね?ほら、説明しただろう?訓練所には彼女と僕しか今回は入れなかったんだって。確かに説明せずに置いていくみたいになってしまったのは悪かったと思ってるし、謝ったじゃないか。何がまだ気に食わないのか教えてくれないか?僕も教えてくれないと分からないんだよ……。」



 まるで彼女に捨てられそうになっている彼氏のようなセリフを言う神様を眺めつつ、回想する。

 あの後、結局30分程して帰ってきた神様だったが、説明も謝罪もあったものの、待たせたお詫びは何も無かったのだ。それに腹を立たせた私は路地を一本進んだところにあった落ち着いた雰囲気のカフェに入ることを要望して今に至る。

 それにしたって神様が必死になっているなんてなんだか面白いですね。


 一人で延々と話し続ける神様の様子に思わず口元が緩んだ。



「フフ……」



 漏れてしまった声に慌てて口を閉じ、チラリと神様を見る。すると、驚いた顔をした神様が私を凝視していた。

 パッと目を逸らし、アイスクリームの層が無くなったパフェにスプーンを突き刺す。次はシリアルの層だ。溶けたアイスクリームがいい感じに混ざっており、甘いシリアルにミルクの風味が合わさって美味しい。



「あ!今、笑ったね!?もう機嫌なおってるでしょ!プティ!」



 そんな声が聞こえたが、断じて機嫌などなおってはいない。

 意思表示の為にメニュー表を取り出し、指を指す。



「えっと?なになに……フォンダンショコラにスフレチーズケーキ?……まだ食べる気なんだね。いいよ。それで機嫌がなおってくれるなら。」



 心の中でガッツポーズをしつつ、お店の人に注文する神様を見ながらパフェの最後の層である苺ジャムと白い寒天ゼリーをリングの口に運ぶ。仄かに甘みのある寒天ゼリーに甘みの強いジャムはよく合った。

 ふふふ。そうですねぇ。その2つを食べ終えたら許してあげてもいいかもしれませんね。


 カランっとスプーンを置き、空っぽになったパフェの入れ物を横に置いた。そこには今置いたものも含め、空の皿が5つ並べられていた。



 ・

 ・

 ・



「ふぅ。ご馳走様でした。

 美味しかったですよ?神様。これで許して差し上げます。」



 上から目線で許すという私に苦笑いしながらもホッとした顔を神様はした。

 なんとなくイラッとしつつも紅茶の入ったカップを傾け、ニコリと笑いかける。



「さて。神様。私が今回許したのは早くファミリアを作りたいからです。

 故に、本来はまだ許すつもりなんて無かったんですからね?そこだけはご理解くださいな。」


「え。それならこの時間もいらn」


「それはそれ。これはこれ、です。私の怒りをその程度で鎮められたんですから喜んでくださいよ。

 いわゆる禊みたいなものですよ?それ無くして許す気はありません。」



 フンっとそっぽを向けば、なるほどと頷きながらも頭を抱えた様子の神様が視界の端にうつった。ついつい救いの手を伸ばしたくなるが、ここは我慢しなければと耐える。

 なにせ、甘い態度は私への態度にも返ってくるのですから。軽い女だと思われるのは心外ですからね。……まあ、今回のはやり過ぎたかもしれませんが。

 いえ、決して、食い意地が張ってるとか、食べたことがなかったからとかではありませんよ?ええ。……フォンダンショコラは食べたことがありましたし。



「そんな事より、早くファミリアを作りに行きましょう。これ以上は待ちたくありませんからね?私。」


「りょーかい。それじゃあ、行こうか。」


「はいですっ!」



 こうしてようやくファミリアの結成へと向かうことが出来たのであった。

 …あっ。うっかりファミリアの名前を考えていないのですが……まあ、良いですね。最悪、神様のお名前を使えば良いので。何せ、神様は私の神様なのですから!

次回、ファミリア結成


それでは、これ以降も良き暇つぶしをお送りください。

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― 新着の感想 ―
[良い点] おおー。漸く神様も自己紹介出来ました。エライですね~♪ プティちゃんも優しいね~。甘いモノだけで機嫌を直すんだから(笑) [気になる点] 最終的にどんだけ食べたの?もしかして、全メニュー…
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