33話 不審者は波乱の前触れ
こんにちこんばんは。
いいね機能をようやく適用した仁科紫です。
自分で設定しないといけないことに気づいていなかったんですよねぇ……。
それでは、良き暇つぶしを。
この世界で目覚めてから1ヶ月程。ようやく辿り着いたもう1つの世界に感慨深く思いながらも、神様に案内されて街を歩き回る。
街自体は最初に居た街をより発展させたような賑やかな街だった。タイルを敷き詰められた道路に、整えられた街路樹。噴水のある広場から東西南北にそれぞれ伸びる主要な道は様々な人でごった返している。
動物の耳や尻尾をもつ人に耳の先が尖っている人。背が低くずんぐりむっくりとした人やごく普通の人も居る。その一方で、下で見かけたようなお人形やスケルトン、妖精といった種族は少ないように思えた。
「やはり、少ないんですね。下から来る人って。」
「まあね。それでもここ最近は増えてきてはいるんだ。その分、問題も起きてはいるんだけどね…。」
憂鬱げな神様の様子からこれ以上は聞かないことにする。それよりもどうして噴水の前に出たのかが気になり、尋ねることにした。
お仕事の話なんて楽しくありませんからね。やめておきましょう。
「どうして噴水の前に出たんですか?確かに便利ですけど、前は気が付けば神様のお店にいましたし。」
「ああ。その事か。」
なんでも、中心にある噴水はこのゲームに存在するどの街にもあり、ホームを持たないプレイヤーはログインするとここに現れるのだとか。
因みに、この説明はここで初めてされた。今までは必要がなかったから言わなかったらしい。
でも、ですよ?常識くらい教えてくれたってよくありません?私、どの街にも噴水があったことにすら気づいていなかったんですが。荒野の街なんて絶対にありましたよね?どうなっていたのかとっても気になるんですけど!?
ムカムカとしつつも今まで来たことのある街と比べてみる。もちろん、街が違うのだから違いなんてものはたくさんあるのだが、気になったのは家よりもお店の方が多いことだろうか。お洒落な看板や派手な看板におどろおどろしい看板。どれも人の目を引くような物ばかりであり、ついつい目をとめてしまう。
何より、そこかしこから美味しそうな匂いが漂ってくるんですよね。ついつい足が止まっても仕方がないでしょう。
「……そんな目で見ないでください。」
「ふふふ。なんだか微笑ましくてね。」
「ぐぬぬ……!」
はぁと一つ溜息をつき、気を取り直して辺りを見回す。人通りはやはり多く、ゆっくりと歩く人は少ない。寧ろ、皆何かに急かされているように各々の目的地に向かって走っていくのだ。
下では見なかった光景に気になった私は隣を歩く神様に話しかけた。
「神様。皆さん、急いでどちらに行かれるんでしょう?」
「ああ。リアルの都合もあるからね。出来るだけの事をここでしようと急いでいるんだろう。」
なるほどと頷く私を見て神様は首を傾げた。
「それにしても、翼のないプティは違和感があるね。」
「それを言ったら神様もですよ。」
そう言って神様の髪を指さす。キラキラとしたプラチナブロンドが今は黒に近い紺色になっていた。さらに、髪型もハーフアップへと変わっている。しげしげと見るが、物珍しさはあっても違和感はなかった。
寧ろ、紺髪に琥珀色の瞳が合わさると、まるで夜に浮かぶ月のようにも思え、よく似合っていた。
そう考えると、以前の神様の瞳は日中に浮かぶ太陽……。なんだか、同じ琥珀色の瞳のはずなのに、こうも印象が変わるものなのですね。
因みに私はというと、神さまの言うとおり、翼を出さずに飛んでいる。広場を出た時、何故か周りから視線が集まったのだが、その時にアキトに言われたことを思い出し、慌てて翼を消したのだ。
既に翼がなくとも飛べたのだが、そこは気分の問題で出していたことが仇になった。しかし、面倒事が待ち受けていると知った今となってはそこまで固執する程のものでもない。
アイデンティティが1個減りますけどね。
「なんだか空が近い気がしますね。」
ぼんやりと空に目を止め、ふと思ったことが口から出た。慌てて口を押さえ、黙る。
空が近いっておかしなことを言ってしまいましたね。でも、なんとなくいつもより空が青い気がしたんですよ。知らないところに来て感情的になるタイプの人間でもありませんし、どうしてそう思ったのかは自分でも分かりませんが。
「ああ。それなら、ここが空に浮かぶ島だからだよ。」
「……はい?」
返ってきた言葉に思わず聞き返す。てっきり返ってこないものだと思っていたものが返ってきたのだ。驚くしかないだろう。
……って、今の聞かれてました!?
「は、恥ずかしいので聞かなかったことにしてください!」
「うん?今の何処にそういう要素があったの?」
神様に聞き返されて口篭る。確かにそれもそうなのだ。ここが空に浮かんでいる島だという事実を知っている神様からしたら何もおかしな事では無いのだろう。
しかし、である。それでも、私は知らなかったんですから、恥ずかしいに決まってますよね!?というか、本当に空が近かったんですね!?空に浮かぶ島とか初めから教えて欲しかったんですけど!私が恥ずかしがった時間返せっ!ですっ!
ウガーッと心の中で叫び、もうこれは神様に八つ当たりするしかないと、そっぽを向く。
「知りません!女心の分からない神様なんて知らないのですっ!」
「僕何かした!?」
唐突な私の拒絶に慌てて尋ねてくる神様だが、説明できる理由がないため、サラリと誤魔化すことにする。自ら掘り返す必要は皆無だろう。
「え?八つ当たりですが?」
「そっかー。八つ当たりk……八つ当たりで女心が分からないって言われたの!?僕!?」
「神様が女心を分かっていないのは事実ですけどね。」
「酷い……!」
などとくだらないやり取りをしていると、突然後ろから声がかかった。
「やァやァ。そこのお二人さン。」
何処と無く胡散臭い声にこれは振り向かなくていいなと判断して、キョロキョロと辺りを見渡してから神様に笑いかけ、前へと進む。
その行動で私がどうしたいのか分かったらしい神様は何も言わず、あっちは…と街の案内を再開した。
「ちょッ……そこの銀髪のお人形さンと黒髪のオニーサンのことダヨ!」
尚も引き留めようとする声に、あ。じゃあ違うなと無視する。
私たち、青みがかった銀髪のお人形と黒に近い紺色のお兄さんですからね。ええ。銀髪ではありませんし、黒髪なんて以ての外ですから。
神様は気になったのか、チラッと目線を後ろに向けたが、私を確認するとスタスタと歩き出す。
それを見た私はニコニコと笑いながらそう言えばと思い出した事があった。
「あの、ファミリアって何処で作れるんですか?」
「ああ。それなら……」
「ストーップっ!いい加減、ワタシの話!聞いテ欲しいカナッ!」
突然割って入ってきた水色の中国の導師のような服を来た女性が、手を隠してもなお長い袖を振って自己主張する。
その女性は前髪が目の下まで真っ直ぐに下ろされ、右半分が黒、左半分が白というなんとも奇抜な色の髪をそれぞれ左右の下の方でお団子にし、余った長い髪を三つ編みにしていた。身長は平均よりも小さめで、威圧感は感じない。ヘラヘラとした口元から何処か陽気な雰囲気を感じないことも無いのだ。
しかし、目が隠されているからか、どう見ても不審者にしか見えない。何より、その独特な喋り方がより怪しい雰囲気を助長させる。
つまり、総合的に見て関わらないでおこうと思えるような人物だった。
「何故話を聞かなければならないんだ?」
そんなふうに相手を分析していると、神様のぶっきらぼうな声が聞こえた。
むむむ?むー。なるほど。神様がこういう反応をしている時は、大抵関わりたくない時なのです。
私がどうしようかなーと様子を眺めていると、先に怪しい人が自己紹介を始めた。
「ヤヤッ!もしや、これは疑われてるカナッ!?
ワタシ、怪しくナイヨー?ワタシは妖怪の妖ニ豪華の華で妖華いうものサッ!これでも、おっきなファミリアのマスターだヨ?ネ?安心でショ?」
何処か道化じみた動きでグルリとその場で回転したり、バサバサと袖を振ったりしながら自己紹介をする妖華という女性に思わず眉が寄る。
……えっと?まず一つ疑問なんですが、本当にこの人、マスターを出来てるんですか?しかも、どうしてそれが安心に繋がるんでしょう……?
よく分からず、困惑していると神様が溜息をつき、口を開いた。
「妖華って個人ランキング4位のあの遊星だろ?さすがに知ってる。
……なにより、神様ランキング3位のアテナのマスターだって事の方が有名だと思うけど。」
「あハッ。だよネ?オニーサンは知ってるよネ?ウンウン。予想通りダ!」
実に愉快そうに笑う妖華さんに胡散臭さと驚きの混じったなんとも言えない目を向ける。
まさか、それだけの実力がある人だとは思わなかったのだ。まず、見た目からして怪しすぎる。しかも、どうして私たちに話しかけたのかが余計に分からなかったのだ。用もなければ話しかけることもないだろう。
そこで、アキト達が話していたことが頭を過る。まさか……?と、疑惑の籠った目で妖華さんを見ると当の妖華さんはニコリと穏やかな笑みを口元に浮かべていた。
「そんなに警戒しなくてモ、取って食わナイヨ。ワタシ達、アテナはゼウスとは違うのサ。」
胸を張って答える妖華さんに困惑する。
では、どうして声をかけられたんでしょう?そもそも、これってやはり知っていて話しかけられてるんですよね?なんでバレてるのかとか色々と気になるんですが!?
ぐるぐると考えていると、私と妖華さんの間に神様が割って入った。
「あまりこの子をからかわないでくれるか?人見知りなんだ。」
「オヤ。それは申し訳ナイ。可愛いからツイからかいたくなったンダ。
それで、要件だけド。」
そこで言葉を区切る妖華さんに何事だろうかと首を傾げる……が、次の瞬間、神様が剣を構える。
私も神様に合わせて何があっても対応出来るように構えるものの、何が起きるのかと心中では疑問の嵐が吹き荒れる。
そんな時、何処か遠くからではあるが、バサバサと大型の鳥がはばたいているかのような音が聞こえた。それも一つではなく、複数のものだ。
ハッとして警戒する私の一方で、やれやれと首を振る妖華さんは実に楽しそうに笑っていた。
「ザンネン。モウ来ちゃったみたいダネ。」
「全然残念じゃ無さそうだが?」
「ハッハッハ。何セ、この為に来たからネェ?フフフ。腕が高鳴るト言うものダヨ!」
「それを言うなら腕が鳴るですね!高鳴るのは胸です!」
「アヤ。間違えちゃったカ。」
「いや、その前に情報提供くらいしてくれないか?」
ニヤニヤと笑う妖華さんに嫌味っぽく話しかけた神様は遂には耐えきれなくなったのか、ツッコミを入れた。
ちゃんと我慢できていたんですけどね。うんうん。流石に神様には分が悪い相手でしたから仕方がありませんね。間違いなくからかわれていますからねぇ。……あれ。神様ってやっぱりいじられキャラ……気の所為デスネ!
私が別のことを考えている間にも翼の音は近づいてきており、周囲の人々は何かに気づいたのか慌てて何処かへと逃げるように去って行く。その状況でも妖華さんはニヤリと笑みを深めていた。
「カンタンな事サ。ココに魔王が来るっていうカラ来たんダヨ。面白ソウだったからネ。」
実に楽しそうな妖華さんがそう言った直後、コツッという音ともに女性の声が聞こえた。
「ここにディボルト様は来られませんよ。エセ導師。」
そこには無表情で妖華さんを見る女性が立っていた。
次回、女性の目的
それでは、これ以降も良き暇つぶしをお送りください。




