32話 物語は次のステージへ
こんにちこんばんは。
伏線を張る瞬間のために小説を書いてる気がした仁科紫です。
それでは、良き暇つぶしを。
神様の掛け声と共に開く扉。その向こう側は真っ暗で何も見えないが、躊躇わずに入る。
そこには火山地帯が広がっていた。と言っても、円形の広場でしかなく、周りはそれ以上進めないように真っ赤な溶岩で埋め尽くされている小さな島のような場所だ。
辺りを見渡しつつも、いやでも目に入る巨体に目を止める。真っ黒な地面の中央には神様の言う通り、黒い鎧を身につけた巨人が炎の剣を持って佇んでいた。鎧は全身を隙間なく包んでおり、あれを魔力糸で切るのは大変そうだ。
やがて、後ろの門が宙に消えると兜の隙間から見える目が赤く輝く。
「ガァアアアアアアアアアアッ!」
凄まじい咆哮に一瞬怯むも、隙を見せることなく相手を観察する。
巨人は咆哮を終えると、剣を構えて私たちのいる方向へと一直線に振り下ろす。距離はあったが、神様の言っていた攻撃を警戒して右側へと移動する。神様は巨人の背中側へと走り出した。
地面に振り下ろされた剣はズガーンッ!と大きな音を立て、剣の延長線上には次々と炎の柱が伸びた。
なるほど。神様が言っていたのはこの事ですか。確かに、危なそうです。
分析しつつ、こちらも攻撃をと相手の影を探すが、何故かどこにもない。あまりの不思議さに一瞬思考が止まるが、そう言えばこの世界には幽霊も普通に居るのだったと思い直す。
失念していた事実に頭を振り、一先ず私ができることをと、場に糸を張り巡らせた。
「〈魔力結界(糸)〉!」
宙に浮いているのか、糸を踏むことは無いがこれで魔力糸による不意打ちが可能だ。無いよりは有る方が有利な立場に立てるだろう。
そして、巨人の近くにある糸を分裂させ、巨人の首と鎧の間へと糸をクルリと通し、ギュッといつのもように引っ張る。
「ガァアアアァアアアアッ!」
「糸がっ!?」
……が、巨人が大声を上げると魔力糸に炎が纏わりつき、溶けるように消えてしまった。
どうやら、魔力糸は魔法の炎によって消すことが出来たようですね。もっと色々と試しておくんでした。恐らく、他の方法でもこの糸は切れてしまうんでしょう。魔力の糸ですから、魔力を使えばどうにかなるのは想定できる事だと言うのに……迂闊でしたね。
反省しつつも、他の攻撃を試そうとダークボールを繰り出す。
「〈ダークボール〉!」
「あっ。プティ!門番相手にそれは……!」
こちらへと走ってこようとする巨人を刀で攻撃することで引きつけていた神様が焦ったように私に声をかける。しかし、既に構築された魔法は、中止することなど出来ずに巨人へ放たれた。
しかし、次の瞬間に起きた現象に己の目を疑うこととなる。
「ガァアアッ!」
巨人が叫んだかと思うと、ダークボールは甲冑の口の部分にあたる場所へと吸い込まれ、消え去ってしまったのだ。
あまりの出来事に驚いていると、神様がこちらを見ることなく今の現象を説明する。
「あの門番の属性は闇と炎!しかも、同じ属性は吸収してしまうから効果がないんだ!」
「そういう事はもっと早くに言ってくださいっ!」
「ごめん……!実演を見せようと思った時には攻撃していたから言えなかった!」
素直に謝る神様に少しムカつくものの、それなら仕方がないと妥協する。
なんと言いますか、ここ最近思うのです。神様にもルールがあり、教えられる範囲や条件みたいなのがあるんじゃないかと。どうにも後出し情報が多すぎますし。
……まあ、推測を外していたら神様はただのうっかり屋さんですけどね!そうでないことを祈っておきます。……一応。
そう言ったやり取りをしている間にも巨人は止まることなく攻撃を続ける。火を放ち、突進するように近づいてきては剣を振り下ろす。それらを全て神様がいなし続けるのを見て、何か出来ることはないかと考える。
単調な動き故に避けやすい。しかし、私に出来ることといえば、糸で切り裂くか魔法をぶつけることだけだ。
糸も闇魔法もダメなんですよね。糸がダメならそれに付属しているはずの闇の糸や光の糸もダメ……あれ?私に出来ることって光魔法ぐらいじゃありません?
何気に自分の役立たずさ加減が心を抉ってくるが、それはそれ。今は無かったことにして、光魔法について考える。
そう言えば、闇と光は反発すると神様から聞いた覚えがありますね。それなら、光の魔法をぶつければ少しはダメージを与えることが出来るのではないでしょうか?
思いついた自分に出来る事を即実行する。
「〈ライトボール〉っ!」
先程のダークボール同様に巨人へと飛んでいき、巨人の甲冑にあたって破裂した。
「ガァッ!?」
自信はなかったが、ダメージを受けたのか動きを止める巨人に息をつく。
自分にも出来ることがあったとホッとしつつも、巨人の注目を引きつける神様を見る。
この空間に入ってからずっと神様は巨人に浅い傷を負わせながら私の方へ来ないように立ち回っているのは分かっていた。しかし、決定的な攻撃だけはする気がないらしく、イベントの時に見せたような技は使わない。
つまり、私がとどめを刺せなければ恐らく失格になるという事でしょう。神様が気を引いてくれているというのもかなりの高待遇といって間違いではないんじゃないでしょうか。……本当に、私のわがままが原因にも関わらず、ここまでしてくれるなんて得難い人ですね。
その神様のためにもとすぐさま気持ちを切りかえ、光魔法が効くなら何が出来るかを考える。
光と言えば、やはり光線でしょうか?太陽光を虫眼鏡で一点に集めると紙を焦がすことが出来るのは小学生でも知っていることです。光を集めればかなりのエネルギーとなって攻撃力を見込むことが出来るのではないでしょうか。
うーん。とはいえ、相手は炎を操るのです。いちいち熱に変換するよりもただ光の刃とかの方がまだマシそうですね。
うんうんと頷き、次の行動の方向性を決めた。
「〈光刃〉!」
頭上に作り出した白い三日月の刃が巨人のがら空きの背中へと向かって飛んでいく。狙った通りに首元へと飛んでいくが、甲冑に阻まれて思ったようには切れない。
ちっ。鎧に線が入っただけですか。
「ガァアアアッ!?」
しかし、思いの外効果があったのか叫び声をあげる巨人に首を傾げる。よくよく観察すると、当たった甲冑は傷がついたのではなく、色が変わって傷に見えていたことが分かった。
ふむ。たったそれだけの事ですが、あれだけ叫ぶのです。なにか意味はあるのでしょう。何故光魔法が当たると黒から灰色へと色が変わるのかは分からないですが、今はこれしかないありません。一先ず、この方向いきましょう。
そう考え、何が効果的かを考える。
行き着いた答えは、相手に当たった後もその場に付着する光のシートだ。無駄なく全身に付着させれば、より魔力消費も少なくてすむ。
「〈光付紙〉!」
そのままの名前だが、一度名付けておくとその後も同じ名前を呼べば同じ魔法を使えるという魔法の仕様を利用し、次々にベタベタと張り付かせていく。
別に私は中二病じゃないですし?ええ。もう高一ですからね。そうポンポンとカッコイイ名前なんて思いつかないのです。
ネーミングセンス無いよねと神様に言われたことを思い出してムカつきつつも作業は続ける。
巨人はドンドン付着していく光のシートから逃げようとするが、神様に妨害されては避けようにも避けきれない。更に、一度付着したものは自分で剥がせないのか、何も出来ずにどんどん鎧が白くなっていく。
恐らく、本当に触れるだけでダメージを受けるのだろう。いくら剥がす為とはいえ、それでも触れなければならないのだ。触れて力を削がれるくらいなら避けるしかないと言ったところだろうか。
そうして30ほど繰り返した頃。鎧は真っ黒から真っ白へと変化していた。
巨人は動きが鈍くなり、最早出来るのはその場で剣をゆっくり振り下ろすことだけだ。まるで鎧が本体であるかのような変化の大きさに少し考える。
これ、中身だけ倒してももしかして、意味がなかったりするのでしょうか?
それならばと魔力糸を用意し、鎧に巻き付ける。ぐるぐる巻きになったのを確認し、ギュッと糸を引っ張ると、鎧はヒビ割れ、巨人にまで糸が達した。
「ガァァ……。」
ドーンッ!と地面に沈み込み、青い粒子へと変わっていく巨人にようやくトドメをさせたのだと実感した。
長かったですね。特に、最後のシート貼り。6mもあるせいで無駄に貼る面積が広すぎるんですよ。
ふぅ……と息を吐き出し、神様の元へと飛んでいく。そして、こちらを見てにこやかに微笑んだ神様の頭へガシッと張り付いた。
「やりましたよっ!神様!」
「ちょっ、プティ!」
「やりました!やり遂げましたよ!私!正直、主力にしていた闇魔法が使えない時は焦りましたけど、それでもやり遂げました!」
キラキラと喜びを顕にしながら神様にしがみついて離れない私に、諦めたのかため息を一つついた神様はそれでもどこか嬉しそうに微笑んだ。
「おめでとう。プティ。よく頑張ったね。」
「はいっ!」
きっと、これから先何があったとしても忘れることは無い。そう思える瞬間だった。
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あの後、現れた空へと続く虹の道を進んでいくと空に浮かぶ白い扉が見えてきた。
「あの扉の向こう側が目的地ですか?」
「うん。そうだよ。通ってから目が開くまでに時間差があると思うけど、サーバーを変更するのに時間が掛かっているだけだから安心してね。」
その言葉にこくりと頷くと、目前にまで迫った扉が開かれた。
途端に溢れ出る光に思わず目をつぶる。
そして、神様の言っていた通り暗闇が訪れた。収まった光に目を開けても何も見えない。
目を閉じているのか開いているのかも分からない。そんな空間で何処からか声が聞こえた。
『やっと、ここまで辿り着いたね。』
「…!?貴方は───」
その声に誰何する前に視界が変わる。
目を閉じていても感じる光に目を開いた。いつの間に目を閉じていたのかさえ分からないが、そこは噴水のある広場だった。気づけばベンチの上に座っている。客観的に見ると、小さな子に忘れ去られた人形みたいだなと思った。
待ち合わせ場所になっているのか、誰かを待つ人やキョロキョロと人を探している人物もいる。そうして辺りを見回しても神様らしき人影はなかった。もしかしたら、こちらに来るのに手間取っているのかもしれない。
……それにしても、先程の声は……
「…私の、声……。」
「どうかしたの?」
急に話しかけられ、驚いて後ろを見る。そこには神様が居た。慌てて頭を振り、笑みを作る。
「いいえ。なんでもありませんよ?」
「そう?」
「はい。それよりも、遅かったですね?」
「ああ。こちらに来るのは久しぶりだからね。アカウントの調整もあって手間取ったんだ。」
じゃあ、行こうかと神様に声をかけられてその場を後にする。後方の物陰から誰かに見られていたことにも気づかずに。
次回、不審者にはご注意を。
それでは、これ以降も良き暇つぶしをお送りください。




