31話 壁は沢山あるもの
こんにちこんばんは。
決着まで行くと長くなったのでキリのいいところで切った仁科紫です。
行くと思った方、申し訳ありませんm(_ _)m
それでは、良き暇つぶしを。
「〈二極混合:影縫い〉からの〈串刺し〉ですっ!」
小型の二本足で走る恐竜のような敵、砂蜥蜴がピシリと止まる。突然止まった体に砂蜥蜴は驚いているようだが、影が縫い止められては体勢を変えることも出来ない。避けることなど到底出来ず、影から伸びた棘によって体を深々と突き刺され、砂蜥蜴は青い粒子を出しながら倒れた。
「ギャァ……。」
「よし。これで2体目なのです。」
あれから数日が経ち、まだ私は荒れ地にいた。というのも、神様がもう一つの世界へ向かう条件として出したのが『最果ての街から1人で扉に30分かけずに辿り着く事』だったからだ。ただし、遭遇した敵は全て倒した上で、である。
神様と2人で進んだ時でも1時間程度かかっていた道程をその半分で辿り着かなければならない。それも1人で。なかなかに厳しい条件だが、それだけ厳しくないと向こう側ではやっていけないということなのだろう。
そう考えると向こう側に行くのが少し怖くも感じたが、私の目的の為にも向こう側には必ず行かねばならないのだ。
クリアしてみせると意気込んだ私は、今はここの敵に遭遇してもすぐさま倒せるように特訓の真っ最中という訳である。
「2分14秒。随分と早く倒せるようになったね?」
後ろから見ていた神様に声をかけられ、首を振る。
今倒した砂蜥蜴はこの辺りでは弱い方に当たり、まだまだ実力が足りていないことは分かっていた。
「確かに早くなりましたが、まだまだです。
大物をこれくらいで倒せるなら満足も出来ますが、運任せにはしたくありません。」
「真面目だね。プティは。」
からかうようにかけられた言葉にムスッとする。本気でやらねば達成できないような目標を設定したのは神様だというのに、あたかも他人事かのように言う神様に腹が立った。
「当然ですよ。神様。これは神様の足を引っ張らないための努力なのです。」
「えっ。」
そんなこと気にしなくてもいいのにと言いたげな神様に腰に手を当てていいですかと口を開いた。
「私はお荷物になるために向こうに行くのではありません。神様のお名前を知らしめたいと思っているのは私なのです。私が強くなくてどうしますか。」
言い聞かせるように神様に言うと、神様は口を開けてポカンっと私を見ていた。どうやら、神様からすると驚きの言葉だったらしい。
だてに自分勝手をしている訳ではありませんからね。私とてちゃんと考えているのですよ!
その様子に気を良くした私はニヤリと笑った。
「ふふーん。どうです?見直しました?」
「いや、ちゃんと自覚があったんだなぁって。」
「それ、どういう意味です!?」
まさかの返答に声を荒らげるも、クスクスと笑って答えてくれない。
グヌヌ…!説明求む!ですっ!
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「さて。それじゃあ、そろそろいいかい?」
「はいです!何時でもどうぞ!」
あれから一週間が経ち、レベル上げはもちろんの事、荒野で戦う相手の弱点の把握も十分出来ていた。
神様の声掛けに私が頷いたのを確認した神様は空へと掌を向ける。
「よぉい、ドンッ!」
掛け声と共に上がる花火の音を聞き、すぐさま神様の肩を離れて飛び出す。今回のルートには4つの関門があった。
まず、第1の関門。見晴らしのいい荒野。
見晴らしがいい故に敵に見つかりやすく、戦闘による時間ロスがもっとも大きいのがここだ。一体を相手しているともう一体、もう二体と増えていくのだ。そこが厄介だった。
ここは色々と試しましたが、全速力で駆け抜けるのが一番手っ取り早いですよね。
過ぎ去っていく岩蜥蜴や猛毒蠍がこちらに気づくことなく歩いているが、全て無視だ。何せ、私に気づいた相手だけを倒せばいいのだから。
そうして過ぎ去り、見えてきたのが第2の関門。地獄の坂道だ。かなり急な坂道であり、ここを走りきれる人物はよっぽど坂道を走りなれているような体力と筋力を持ち合わせた人物くらいだろう。
まあ、急な坂道だとしても飛んでいる私には関係の無い話なんですが。
坂道よりも厄介な敵がここにはいた。
「ピーフュルォッ!」
背中に感じる風圧に見つかったと悟る。見つかったからには戦わ無ければならないと後ろを振り向き、そこに居る相手を見た。
真っ黄色の派手な鳥が滑空するように円を描きながら飛んでいる。しかし、その見た目通りに雷を落とす能力を持つこの敵はなかなかに強敵だ。神様が言うには飛雷鳥と呼ぶらしい。
その飛雷鳥から厄介な雷が撃たれる前に、すぐさま魔力糸を飛雷鳥に放つ。急な攻撃に驚き、避けられない飛雷鳥は糸を動かすだけで、簡単に雁字搦めになった。
「フュオッ!?」
「〈魔力変換:闇〉!からの、〈闇の刃〉っ!」
魔力糸を闇属性へと変化させることで魔法の媒介にし、三日月状の刃を作り出す。刃は飛べない飛雷鳥を切り刻み、まともに当たった飛雷鳥は青い粒子へと変化した。
「フュォ……。」
よし。次に見つからないうちに坂道を超えるのです!
前方に見える飛雷鳥には見つからないように高度を下げて注意深く進むと、見えてきたのは第3の関門、巨大な壁だ。これを通常は攀じ登っていかなければならないが、ここも私にとってはおちゃのこさいさい。スイーっと高度を上げて進める。しかし、ここでも障害が立ち塞がる。
「キキッ!」
「キィーッキッ!」
上で待ち受けるニヤニヤと顔を歪めたニホンザルぐらいの大きさの猿が石や木の実、果ては剣などを投げてくるのだ。
初めて見た時は、流石に剣は殺傷能力が高過ぎないかとも思ったものです。でも、今では余裕に躱せますし、そこまでの脅威では無いんですよね。
スイスイと避けながら進む。一番上まで到着すると、猿たちは隅の方へと逃げていった。
不思議な生態だが、なんでもあの猿たち自身はそこまで強くないらしい。そんな猿たちが何故色々なものを投げて妨害するのかと言えば、自分よりも強いものが妨害によって落ちる姿が面白いからというなんとも性根のねじ曲がった理由だった。
名付けて、陰湿猿。一応、闇魔法と水魔法が使えるらしい。時々魔法も落としてくるため、本当に性悪な猿なのだ。
まあ、と言っても魔力自体は少ないらしいので、そんなに乱発も出来ないという中途半端さですけどね。
そうして辿り着いた第4の関門、山の中間地点から先は階段となっている。ここを上り切ればあとは神様が待つ扉の前へと辿り着く。
ここまでで15分と言った所でしょうか。制限時間である30分まであと半分ほど残っていますが、油断はできませんね。何せ、ここから先が本番と言っても過言では無いのですから。
そう考えている間にも目の前に立ち塞がるのは壁だ。比喩ではなく、本当に動く壁なのである。周りと同じ色の石壁にゆるキャラのような目と口がついた、ゆるキャラ好きなら可愛いと言いそうな見た目をしている。
いわゆる、妖怪のぬりかべみたいなものですね。上から行こうとしても縦に伸びますし、横を通ろうとすると素早く先回りする。なんとも厄介な敵なのです。
しかし、この相手とて対策はたててある。動く壁こといわかべには足があり、僅かな隙間がある。この隙間を通ろうとしても妨害しようとはしてくるが、上や横よりも動きが遅いのだ。
故に、そのまま突撃してしまえばいいという寸法を普段なら取れるわけですが、今回は別です。出会った相手とは必ず戦わねばなりませんから。ですが、する事は変わりません。
前を見ていわかべがこちらを見ているのを確認した後、すぐさま下に滑り込む。そして、押し潰そうと近づいてくる壁に向かって魔法を発動させた。
「〈ダークボール〉ッ!」
「かっべ……!?」
ボムッ!とぶつかる魔法に砕け散るいわかべ。すぐに青い粒子へと変化する様を確認し、前へと進む。
因みに、倒した瞬間のいわかべは元々目があったところに岩がなくても目が宙に浮かんでおり、涙を流すという仕様である。正直、要らないというのが、神様の談だ。
ある意味ホラーですよね。……罪悪感は少ない気がしますが。目が欠けるよりはマシ…ですよね?
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そうして順調に歩を進め、頂上に辿り着いた頃には既に20体と交戦していた。
おかしいですね。あの階段自体は150段しかないはずなのですが。8段に一度は必ず出会っている計算とか本当にふざけてますよね。因みに、もっとも腹が立ったのは一体倒したと思ったら、何故か目の前にまた一体いた事です。倒したはずなのに……おかしいですね?
辿り着いた私に既に到着していた神様が近づいて来た。
「27分40秒。お疲れ様。プティ。これなら向こうに行っても安心できるよ。」
「良かったです。最後の階段に手間取ったので冷や冷やしました。」
やれやれと汗を拭う仕草をしてクリア出来て良かったと考える。次第に、じわじわと喜びが心の底から溢れてきた。
「やったんですね。私、出来たんですね。ちゃんと。
……やりましたよ!神様!」
「おめでとう。それじゃあ、最後の関門に挑むとしようか。」
その言葉に頷こうとしてピタッと止まる。……最後の関門……?はて?と聞き覚えのない言葉に首を傾げる。
おかしいですね?そんな話、一言も話していなかったように思うのですが。
「神様。最後の関門って何ですか?」
冷えきった声にビクリとした神様を気の所為ということにし、ジーッと見つめる。
まさか、この程度で神様が怖がるわけがありませんよね?ふふふ。
「ぷ、プティさん…?」
「ジーッ。」
「えっとですね。やっぱり、幾ら条件を出させるようにサポーターに言っていても、それを守らない人もいる訳でして。」
「だから、門番でも居ると?」
「ハイ……。」
ふむふむと、吟味するように頷き、自身を納得させる。
神様からしたら当たり前の事だったのでしょう。それならば忘れても致し方ありませんよね。ええ。これはゲームなのですから、その場その場にボスとの戦闘は必須。避けることは不可能でしょう。増してや、守るべき物があるのなら、尚更そういうものですよね。
ここは私の至らぬ考えが悪かったのだと思うことにした私はニコリと神様に笑いかけた。
「分かりました。では、この列に並んで敵を倒すとしましょう。」
「う、ウン。ソウダネ。」
何故か棒読みの神様を気にすることなく列に並んだ。その後ろで額を拭っていた気がするが、きっと気の所為だろう。
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そうして30分ほど待つと私たちの番が来た。
神様の説明によると、この先にいる相手は人型であるらしい。ただし、黒い甲冑に炎の剣を携えたなんとも物々しい姿であるとか。
「もう一度言うけど、相手は6m程の巨人だよ。剣を振り下ろした時に放たれる炎には注意して。」
「はいです!」
「いい返事だね。じゃあ、行くよ。」
そうして、最後の関門への扉が開いた。
次回、扉の向こう側での試練
それでは、これ以降も良き暇つぶしをお送りください。




