28話 魔法はルールを守って
こんにちこんばんは。
なんだかんだで魔法を忘れていた仁科紫です。
それでは、良き暇つぶしを。
あの後、神様に確かめるとナルさんは神様の同僚という話だった。何故か謝られたが、いい人だと思うと言うと微妙な顔をされた。恐らく、あのチェシャ猫のような顔で何時もからかわれているのだろう。
根はいい人だと思うんですけどねぇ。神様との相性は……あー。悪そうですね。ハイ。何せ、私との相性は良さそう…というより、似ている雰囲気を感じたので。
ナルさんと別れ、ココナッツアイスを堪能しすると一度ログアウトを挟んでお昼休憩をする流れになった。
尚、ココナッツアイスはサッパリとした甘みがあって美味しかったが、アイスにするには少しサッパリしすぎているというものだった。他にはない味と言えば確かに、名物になるのかもしれないが。……私は一度食べれば十分ですけどね。
「さて。それでは行きますか。」
「うん。そうだね。……でも、何時まで肩に乗るつもりなのかな?」
「うーん。……今日一日ですかね?」
「……そっか。」
何やら遠い目をして呟いた神様に首を傾げつつ、前を見る。それでも前に進む神様はやはり押しに弱いのだろう。
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「さて、と。着いたよ。プティ。ここが最果ての街だ。」
神様の言葉に辺りを見渡す。そこはいかにも荒野の街といった様相を呈していた。乾燥してひび割れのある大地に木で出来た建物。時折吹く風に回転草がコロコロと転がっていく。何処か西部劇で見るような印象を受けた。
砂漠から抜けてすぐだと言うのにオアシスで見たテントはどこにも見当たらない。更に、活気のある通りには屋台が多く並び、何処か殺伐とした雰囲気を漂わせた人々が次々と買い物をしているようだった。
「最果ての街……ですか?」
「うん。そう。大きな街としてはここが一番西側にあるんだよ。この先は小さな村もないからね。物資の補給はできなくなるから、向こうに進みたいプレイヤー達が必ず通る場所になっているんだ。」
なるほど、と頷き、神様を見る。
「では、私達もここで買い物をしてから先に進むんですか?」
「いや、アイテムは充分あるから先に進もう。何時でも帰れるしね。
前に君のステータスを見たけど、魔力だけなら3回進化した子達とそう変わらないんだ。後はレベルさえ上げれば、プティならこの辺りで勝てない敵は居なくなるはずだよ。」
私を信頼しているかのような神様の言葉に照れる。
えっと、今は2回進化していますからね。1回多く進化している人達と同じぐらいに魔力が多いというのは私のメリットなんでしょう。……うーん。もう魔力に関してはなかなか減らなくなっていますし、もう少し魔力を使った攻撃手段が欲しいところです。何かないか神様に聞いてみましょうか?
思い立ったが吉日と口を開く。
「神様。魔力の何かいい使い道ってあります?攻撃手段が欲しいんですが。」
「攻撃手段?…そういえば、糸だけだったっけ。」
「はいです。魔力が有り余っているようなので、有効利用をするべきかと思いまして。」
私の言葉に神様はなるほどと頷き、少し考えた後、口を開いた。
「魔法でも覚えてみる?」
「魔法ですか?」
「そう。魔法。」
魔法と言われて思いつくのは、神様が火祭鳥に使った雨を降らす魔法だ。ああいうのを使えるなら、確かに便利そうだと頷く。
「いいですね。どんなものが使えるんでしょう?」
「そうだね。プティは光と闇の属性だから、その2つの属性の魔法を使えるよ。
本来なら属性の獲得と共に魔法も手に入る筈なんだけど…プティの場合、糸に進化の報酬が反映されたみたいだ。」
「えっ。進化に報酬とかあったんですか?私、聞いていませんが。」
聞き覚えのない話に神様をジーッと見る。
神様はあれ?という顔をした後、何かに気づいたのかふいっとそっぽを向いた。
「かーみっさま?」
「あ、あはは……。…忘れてました。ごめんなさい。」
案の定な返事にため息をつく。
神様ですからねぇ。分かりきっていたこととはいえ、もう少し早く話して欲しかったとは思うんですよ。……まあ、無理でしょうけど。きっと、他に色々とあって忘れていたんでしょうね。仕方がありません。やはり私が折れるしかないんでしょう。
「忘れてしまうのは仕方がありませんので、許して差し上げます。ええ。」
「上から目線……そうなるよね…。
えっと、話を戻すと、プティの場合は糸に変換されているものを変換せずに放出すると魔法になるはずだよ。」
神様の言葉を吟味する。普段は糸として放出している魔力を他の何かに形を変えろ……という意味では無いですよね。流石に。…まあ、神様の反応が気になりますし、やってみますか。
手からいつもは変換する魔力を繊維を解すようにイメージすると、モヤのようなものがフワフワと掌に漂い始めた。
「ちょっ。プティ!ここ、人居るからね!?」
神様の慌てた様子にハッとし、周りに意識を向けると複数の視線を感じた。マナー的に公共の場で魔力を使うのは宜しくないと悟り、すぐさま魔力を拡散させる。
こちらを見ている人達にもペコりと頭を下げておき、神様にも謝る。
「すみません。考えたことはすぐに行動に移したくなって……。」
「うん。場所は考えようね?」
「はい……。えっと、では、何処か違うところにでも行きましょうか?」
「了解。それじゃあ、先に進もう。少し行った所に丁度いい所があるからさ。」
そう言って神様に案内された先は確かに人も居らず、色々と試すにも丁度いい広さのある場所だった。大岩に囲まれた行き止まりでもあるため、人からの視線もあまり感じない。
「ここなら丁度良いだろう?」
「そうですね。」
神様の肩から離れ、手に魔力糸を集める。
まずは先程のように解いてモヤの塊にしましょう。これを……あとは、方向性を決めれば良いんでしょうね。魔力糸の場合は糸の形に魔力を変化させているので……今回は、とりあえず球でも作ってみますか。属性も何も無い球は、流石に魔法とは呼べなさそうなので光の属性を付与?……いえ、光の魔力は元々私が持っているものなんですよね。ということは、漂っている光と闇の魔力の内、光のみにしたらいいはずです。闇は私の方へと寄せて、光は球の方へと残せば……。
次第にピカーンと輝き出すバスケットボール程の大きさの魔力の球に目を細める。
「神様。これでどうですか?」
「う、うん。どうしてそういう過程になったのかはよく分からないけど、出来てるよ。ライトボール。」
「おお!これがライトボールですか!……そのままですね?」
フワフワと掌の上に浮かぶ球体を見て首を傾げる。
これ、ぶつけても威力とかないですよね?流石に。
ちょっと疑問に思っただけに行動に移すかを悩む。先程も失敗したばかりですからねぇ。ここの壁にぶつけて崩しでもしたら問題ですし、一応神様にでも確認しておきましょうか。
「神様。これをぶつけても大丈夫ですか?」
「僕に!?」
驚く神様を見て、それだけ危険なものだったのかと光の玉を自分から遠ざける。
まさか神様にぶつけようと思われるなんて流石に心外なんですが。
顔をムスッとさせながら神様を見る。
「いえ。岩に。」
「それなら良かった。
ライトボールは攻撃力がないから大丈夫だよ。暖かさを感じるぐらいかな。」
「えっ。……それなら、どうして慌てたんですか?」
「いや、どんなものか分かってないものを投げつけられるって事は嫌われているようなものだろ?」
「あー……そういう事ですか。主語が抜けてすみません。神様のことは大好きですよ。」
素直に謝ると、神様は照れながら次から気をつけてくれたら良いと言ってくれた。
チョロいなと思いながら素直に頷き、暖かいだけだというライトボールに触れてみる……が、触れても何も感じない。
あ。そう言えば、人形にはその手の感覚は無いんでした。砂漠で暑いと言ったのもその場のノリですし。だからこそ、神様から適当に返されていたんですしね。
とりあえず、もう一つの属性でもボールを作ってみましょう。
そう考え、光の玉を糸に変換しようとして上手くいかないことに気づく。どうやら、一度形を固定させるとそこからの変化は出来ないようだ。糸は出来るのにライトボールは出来ない理由が気になったが、その疑問は後にする。
魔力としての回収を諦め、適当にその辺に放り投げた。私に維持する意思がないからか、ライトボールはフワフワと空中を漂った後、次第に消えていった。
これなら沢山作って適当にその辺に放置するのも魔法の練習になりそうですね。…って、今はそういう時間じゃありませんでした。
切り替えて今度は光ではなく、闇の魔力を集める。
ライトボールのとき同様、出来上がった球体に満足感を得て観察する。
今度は黒紫色なんですね。輪の色と同じなんでしょうか。
先程と同様に手で触れようとする…が、神様に止められる。
「何触ろうとしてるの!?」
「えっ。ダメでした?」
「ダークボールはライトボールとは違って攻撃力があるから触ったら危ないよ!」
「そうなんですか?」
ブンブンと縦に振られる首に今更ながら内心、冷や汗をかく。
何はともあれ、そういう事ならと壁に投げることにした。攻撃力の確認はしておかないと危ないですからね!
手の上に浮いているボールを投げるように適当な直径2m程の岩へと向けて放つ。すると、フワフワと放物線を描きながら目標へと当たった瞬間、その場にゴッという音が響き、岩が綺麗に消えてなくなった。
「……はい?え。あれ?おかしいですね。岩、そこにありましたよね……?」
「うん。あったよ。」
「……なんであの大きさでそんな事に……?」
意味がわからないと首を傾げていると、神様は事も無げに説明をする。
「ダークボールは引力や重力といった力で触れたものを吸収し、破壊するんだ。」
「ゲッ。なんですか?そのえげつないのは!
ライトボールはそんなこと無かったじゃないですか。無害中の無害ですよ?」
「光属性は癒しや目眩しの力があって、争いごとには向いていないからだよ。寧ろ、闇属性の方が影や呪力といったものを司っているから攻撃として使われやすい。」
神様が言うには基本となる属性があと4つあり、火、水、土、風があるらしい。それぞれに特徴があるが、火は攻撃特化、水は癒しと破壊、土は守護特化、風は補助や攻撃とのことだった。
それらのいくつかを併せ持つことで独特な属性を持つ者もいると神様は言った。
「それぞれの特徴を知っていれば対処しやすいから覚えておいてね。」
「なるほど。それでは、早速私は呪いの練習でもしますかね!」
「なんでそんなに楽しそうなの!?」
ウキウキと言ってみると神様にツッコミをいれられ、首を傾げる。
えっ。古今東西、人形と言えば呪いだと思ったからこそやってみたかったのですが…おかしかったですかね……?
次回、普通のステータスってどのくらい?
それでは、これ以降も良き暇つぶしをお送りください。




