3話 新事実は街中で
こんにちこんばんは。
正直、展開とか考えていても勝手にキャラが動いいくために上手くいった試しがない仁科紫です。
それでは、良き暇つぶしを。
チリンチリンと神様が入って来た時と同様の音が奏でられ、扉が開く。街がよく見えるようにと私が置かれたのは神様の左肩だった。
…本当は腕で抱き抱えて欲しかったんですけどね。その方が安定するから…という訳ではなく、ほら、見た目がメルヘンでとっても面白いじゃないですか。
提案はしましたが、当然のごとく却下されました。つれないですよねぇ。
数分前のやり取りにクスリと笑いつつ、急に差し込んだ陽の光に目を細めた。徐々に光に慣れると目を開き、周囲を見渡す。
そこには人通りの少ない閑静なレンガ造りの街並みが広がっていた。
石畳の道は塵ひとつなく整頓されており、街路樹として植えられている木々は時折吹く風にあおられてさわさわと葉を揺らす。太陽は真上から街ゆく人々を照らしており、今が昼頃であることを知らせていた。ふと見上げた屋根の上には猫が丸まって気持ちよさげに日向ぼっこをしており、なんとも穏やかな午後の風景である。
ふむ。衛生状態はかなりいいみたいですね。…まあ、ゲームの中だと仮定するならば、ある意味当然なのかもしれませんが。
ここは街と言える程度には大きい集落のようですが、都市部という訳でもないのでしょう。ここが端っこの方だと言われればそれまでの話ですけどね。
ふと気になって後ろを…向こうとしたが、動けないという事実が立ち塞がる。
自力でどうにかするのを諦め、早速神様を頼ることにした。
『神様。神様。私がいた所は人形屋さんだったのですか?』
後ろを振り向けてさえいれば分かったであろう事実も、自分を運んでいる神様に頼らねばならないのはなんとも屈辱的に感じた。
ぐぬぬ。神様に頼らねばならないこのどうしようもなさは腹が立つのです。…よし。後でもう少しからかっておくのです!
その決意を知るはずもない神様はあっさりと教えてくれた。
『ああ。あれは一応、人形屋だよ。』
なんとも歯切れの悪い神様の返事に私は首を傾げることとなった。
はて。一応、とはどういう事でしょう?というか、人形屋から勝手に商品っぽそうな私を持ち出しても良かったのでしょうか。
『私、移動しても良かったんですか?』
『ん?…あー。いいのいいの。あれ、僕の店だから。』
少し不安に思って尋ねると、返ってきたのは想定外の答えだった。
……え。ん?…はい?ちょ、ちょっと待ってください。何故にそんな場所で起きたんですか!?私!!
困惑のあまり固まっていると、神様は察してくれたのか、経緯を話し始めた。
『えーっとね。ちょっと、女の子に言うのもあれかなぁっと思って言わなかったんだけど…。』
『ああ。気にしなくていいです。寧ろ、サクッと話しちゃってください。』
女の子に話しづらいとはいったいどういう話なんだろうかと疑問に思いつつ耳を傾けると、神様はやや躊躇ったあと、再び口を開いた。
『実は…その体、僕が創ったって言ったら引く?』
恐る恐ると発せられたその言葉のあまりにもな想定外さに一瞬、思考が停止する。
……は?…ふむ。落ち着け私、です。
えっと、あそこは神様の人形屋で、私の今使っている…というか、入っている体は神様が創ったと。……なるほど?
一先ず結論付け、それが意味するところを考える。それは私にとって心の奥底で何かが溢れてくるような素敵な言葉でしかなかった。
しかし、どうやら神様はその事実が私にとって嫌悪するものであると考えているようである。そういう事ならば…
『つまり、神様は神様だったんですね!我が創造主だったのですから!』
『…え。』
『とはいえ、随分とポンコツな創造主もいたものです。だって、ちっとも動いてくれやしませんもの。この体。
ならば、創った方の問題だと考えてしまうでしょう?』
そう言うと、落ち込んだはずの神様は寧ろ、真剣な表情でブツブツとなにやら呟いていた。
…ちっ。よく分かりませんが、からかい、失敗なのです。こう言えば少しは慌ててくれるかなぁと思ったのですが。面白くないので冗談だと言ってしまいましょう。
『冗談ですよ。神様。』
『…へ?冗談…?い、いや、でも、確かに動かないんだろう!?なら…』
すぐさま割って入るも、神様は呆けた顔をしたあと、困惑したように慌てているのを見て、私は若干後悔しつつも説明する事にした。
うーん。この慌て方はちょっと微妙なのです。言い方が悪かったのでしょうか…。
負の感情寄りのあわあわは却下なんですよねぇ。こう、からかってはいけない雰囲気を感じるので。
ということで、フォローをしておきましょう。
『いえいえ。むしろ大満足です。まさか、起きたらこんなにも可愛い子になってたんですよ?ビックリです。驚愕です。青天の霹靂です!
そこに多少の不自由さがあろうとも関係ありませんよ。だって、お人形ですよ?そこに居るのがお仕事じゃないですか!』
そうなんです。先程、窓に反射して写った自分を見ますと、そこに居たのはなんとなんと!青みがかった綺麗な銀髪に、サファイアのようなキラキラとした綺麗な青色の瞳のそれはそれは可愛らしい女の子だったのですよ!
以前の自分がどんな姿だったかは分かりませんが、可愛らしいというのはそれだけで一種のアドバンテージですからね。それはもう、見た瞬間に興奮しすぎて魅入ってしまう程でしたよ。
目以外、動かないことを思わず感謝してしまったほどですね。そうでなければ、確実に神様にバレていたでしょうからねぇ。不審者扱いはノーセンキューなのです。
その時の興奮を思い出しつつ、饒舌に語ると神様は目を丸くしつつも思わずと言った様子で呟くようにツッコミを入れると、改めて私を問いただした。
『なんか、3つくらい同じ意味の言葉があったんだけど…。
というか、本当に何も思わないの?気持ち悪くない?男が創った体だよ?隅から隅まで知ってるんだよ?
しかも、動かないんだよ?とんだ不良品じゃないか。』
神様はそう言って目線を下げた。まるで、否定される言葉を投げかけられるのが当然かのように。
おや。気にしているのはそんな事でしたか。言い方はどうかと思いますが……そうですねぇ。
『動かないことに関しては不便ですが、お気になさらず。私、これでも図太い方でして。これはこれで楽しんでいるくらいですから。
寧ろ、作り方の方に興味があるくらいですよ?』
そうなのです。作り方を知れば、私が動けない理由も知れるかという安直な考えではありますが、純粋な好奇心はあるので、嘘ではないのですよ。…本心でもないですけどね。からかいたかっただけなんて言えませんから。シーっなのです。
私の言葉に何やらポカンとした表情でぼんやりと私を見る神様。その姿になんだか楽しくなる。
かなり意外な言葉だったんでしょうかねぇ。ちょっと面白いです。ふふふ。
『気持ち悪くない?』
『はい。気持ち悪くないです。』
『男が人形を作っていても?』
『職人さんに性別なんて関係ないですよ。』
『色んなところ触ったよ?君が見れないところも全部知ってる。』
『だから、なんでそこを気にするんですかねぇ。関係ありませんよ。私、神様ならどこを見られていてもいいと思えますよ?
なんと言っても、我が創造主であることには変わりありませんからね。』
まあ、初対面の男の方にこう言うのもなんですが、何故かこの人になら全てをさらけ出してもいいと思えるんですよね。我ながら不思議ですし警戒心がなさすぎて引くんですが。
……はっ!これが一目惚れ!?…とまあ、そんな冗談はさておき。
何時までも惚けた様子の神様は、徐々に近づいている目の前の壁に気づいているのだろうか?答えは否、だろう。激突した結果、自身に降りかかるであろう災難を阻止するため、神様に声をかける。
『神様。前。前見てください。』
『へ?前…って。あっぶなっ!?』
ぶつかる直前に止まった神様は鼻先スレスレにある壁に冷や汗をかいていた。すぐさま体勢を建て直し、壁に寄りかかる。
ふふふ。これはこれは。自分からからかいのネタを提供してくれるとは、嬉しい限りです。
『おっちょこちょいですね?神様。』
『い、いや、ほら、な?俺はおっちょこちょいなんじゃなくて、考え込むと周りが見えなくなるタイプっていうか…。』
慌てすぎて自分が何を言っているかも理解していない様子の神様は一人称が僕から俺へと変わって居ることにも気づいていない様子だった。
もしや、素は俺、なんでしょうか?…ふふふ。神様の素を引き出すことに成功です!なんだか嬉しくなっちゃいますねぇ。
神様の知らない一面を知れたことに頬が緩み、ニヤニヤとしてしまう。
もちろん、内心での話だが、自由に動いていたのならばまず間違いなく神様に引かれていたことだろう。表情が動かないというのも役に立つことがあるものだなと頭の片隅で思った。
そんなときだった。後ろから声をかけられたのは。
「あれ?アルベルトさんじゃないか。こんなところでどうしたんだ?」
次回、遭遇(前半シリアス寄りになります。)
それでは、これ以降も良き暇つぶしをお送りください。
〜2021/11/09 08:05 不を負に訂正する誤字報告を適用しました〜
〜2021/11/20 12:30 題名の話数を漢数字から変更しました〜
何度も見直したのに誤字があるとか作者はアホですね…。