27話 デジャブは新しい出会いの始まり
こんにちこんばんは。
やっぱり引っ掻き回してくれる子って楽しくていいなと思う仁科紫です。
それでは、良き暇つぶしを。
「まさか、これがお願いだとは思わなかったなぁ。」
そうボヤく神様を見上げ、目に入った白金の糸をクイクイっと引っ張る。どうしたのかと尋ねてきた神様になんでもないと笑った。
ふふふ。やはり、この距離感は良いですね!斜め上を見上げれば神様のお顔!前を向けば遮りなく見える景色!右を見ると神様のキラキラとした髪が目に入るという絶好のロケーションなのですよ!
ムフフと笑う私を見て神様は不思議そうに首を傾げた。
あの時、お願いと言って頼んだのは神様の肩に乗せてもらう事だった。頭でもいいのだが、それだと神様のお顔が見にくくて仕方が無い。そこで普段は乗らないことにしている肩に乗せてもらうことにしたのだ。
初めの動けなかった頃以来で楽しいですね。
ニヤニヤとしつつふと思いついたお願いを口に出した。……叶うかどうかは気にしないことにして。
「あ!あと、私と対になる様なお人形さんも欲しいのです!」
「えっ。対に?良いけど、どうして?」
「欲しくなったので!」
キラキラと目を輝かせて神様を見る。
比喩ではなく本当に目がキラキラと輝き出したのを見て、神様は頬をひきつらせた。
魔力を目に集中させてみたのですが……うん。微妙な仕上がりですね。これはやめましょう。
私が心の中で今回のイタズラについて評価していると、神様は少し考えた後、頷いた。
「……うーん。うん。良いよ。今受けている依頼もあと2体で終わるし。」
「やったー!ですっ!」
嬉しさから両手を上げると、神様から微笑ましげに見られた。
神様は人形使いという職業の人や子供さんのいる人にお人形作りを依頼されることがあるんですよね。それ次第だとは思っていましたが、運が良かったです!
……というか、本当にお願い、聞いてくれるんですね。お願い事は1つしかダメだと思っていたので、こちらも考慮してもらえるとは思っていませんでした。
「そんなに喜んで貰えるなら、いくらでも作るよ。どんなのがいい?」
「そうですねぇ。…今のは大空の姫君という名ですから、次は赤華の皇子という名が良いと思うんですよ。」
「それなら……君は青みがかった銀髪だし、赤みがかった黒髪がいいかな?」
「いいですね!瞳も赤にしましょう。」
「うん。そうしよう!
あとは…プティの時はツリ目気味にしたから少しタレ目にするのもいいね。華というより花の印象になるけど、どうかな?」
「おー!私は全然いいと思います!」
「それから……」
以降も神様とどんなお人形を作るのか話し合いは続き、最終的にはどんな洋服を着せるのかまで考えてしまった。
ふふふ。お人形。新しい私のお人形。なんだか嬉しくなってしまいます。海がここに居ればどんな反応をしたでしょう。喜んだでしょうか。それとも、もうそんな歳でもないと大人ぶったでしょうか。……早く、起きないですかねぇ。
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「あ。見えてきたね。」
神様の言葉に前を向く。
そこにはヤシの木や湖といったものが見え、所謂オアシスというものであろうことが分かった。
あれが神様の言っていた今日の中継地点ですね。そして、多くのプレイヤーが拠点にしているという。
確かに遊牧民族が使うような白い大きなテントがいくつか見え、何故か湖の周りにはパラソルやビーチチェアなんてものも設置されている。まるで観光地のような場所だ。人気が出るのも頷けるというものだろう。
「綺麗なところですね。これは蜃気楼では無いんですか?」
「あー。そういう案もあったんだけどね。テストしてみると迷子が続出したから無くなったんだ。」
「なるほど。道理で遠くから見ても逃げていくことが無かったんですね。ちょっと体験してみたかったんですが……まあ、ゲーム内で迷子なんて嫌ですよね。仕方がありません。」
少し残念に思って口に出すと、何故か神様が慌てだした。
「い、いや、えっと…ほら!そういうのに近いのは上にならあったはずだよ!」
「……?えっと、上って何処ですか?」
あっと口篭る神様に首を傾げる。
上……言い方的に神様ランキング関係…ですかね?まあ、きっと神様なりに慰めようとしてくれたんですね。私が残念がったから。
そう考えるとなんだか嬉しくなってニヤニヤとしてしまう。……って、また糸が誤作動を起こすところでした!危ない。危ない。
とにかく、未だに焦った様子の神様に気にすることでもないと声をかけることにする。
「そんなに慌てなくても気になっただけなので、絶対に体験したかった訳でもないですよ?」
「……本当に?」
「本当です。疑うことでもないですよ?」
「いや、君の場合、僕の為なら嘘も平気でつけるのが段々分かってきたからね。」
「うっ。神様に分かってもらえて嬉しいような誤魔化しづらくなってやりにくいような複雑な気持ちです……。」
とはいえ、今回は本当に我慢しているというわけでは無いんですよね。興味もそこまで無いですし。
うーん。きっと、甘やかされる娘ってこんな気持ちなんですね。ちょっと楽しみが減っただけで別にそこまでじゃないのに次があるよって慰められる感じ。……複雑ですねぇ。
そんな私の気持ちを知らず、機嫌よく笑う神様に無性にイラッとする。
……きっと、世の中の娘さんが父親にイラッとするのはこういう瞬間なのでしょう。私も腹が立ちます。ええ。ムカムカっと。こちらが譲歩したはずなのに何故かそれを微笑ましげに見たりするんですよね。……まあ、海は違う所でムカッとすることが多かったようなので、書物とかで仕入れた知識でしかないんですが。
海の父親は一般的な父親とはズレていましたからね。お前のためにしてやっているんだーみたいなタイプ。……うん。よく耐えてましたね。海。
辿り着いたオアシスを見て回ると、そこは多くの人で賑わっていた。水場で泳ぐ人に日向ぼっこしている人。どう見てもバカンスをしているらしい人々は皆楽しそうだった。
ただ、見ていて面白いのは全員姿がバラバラな事だ。人形、ミイラ、スケルトン。吸血鬼に薄らと姿が透けている人。トンボや蝶のような羽のある小さな小人なんかも居る。
「あの小人さんは初めて見ましたね。」
「ああ。あれは妖精だよ。イタズラ好きな子が多いから気をつけてね。」
「はーい。」
ふむふむと辺りを見渡す。一言に人形と言えど、テディベアのようなぬいぐるみや私と同じビスクドールなど実に様々で興味深い。
イベントの時にも見ましたが、どうして同じ人形なのにこんなに違うのかと不思議に思ったんですよね。因みに、妖精さんはあの会場に居なかったので、知らなかったんですよ。時折見かけても遠くからだったので、プレイヤーだとは知らなかったんですよね。てっきりウンディーネさんと同じ類の人かと思ってました。
「ここの名物でも食べていく?」
「名物ですか?」
「うん。ココナッツアイス。ここでしか食べられないから食べておいて損は無いと思うよ。」
「いいですね。頂きましょう!」
付近を見ると、近くにあったココナッツののぼりが出ている屋台には少しだけ列ができていた。
「あそこですね。」
「そうだね。そこもいいんだけど…ああ。あっちの屋台にしようか。」
神様が指さした先には同じような屋台があった。
「あっち…ですか?どちらも同じですよね?」
「うん。でも、空いてるからさ。」
確かに…?と、首を傾げながらもそちらへと向かって進もうとしたその時、後ろから声がかけられた。……この流れ、何処かでもやった気がしますねぇ。
「よっ。アルベルト。」
「……何かな?その声のかけ方には嫌な記憶しかないんだけど。」
神様が嫌味っぽく笑いかけた先にはヘラりとした顔で笑う栗色の髪の毛に優しげな緑の目が特徴的な背の高い男性がいた。
胡散くs…優しげな背高のっぽという印象ですね。
「あー……スマン。アイツか。こっちでは俺の口調を真似してた節があったからなぁ…。」
「えっ。そうなんだ。」
「そうそう。」
和やかに話す神様にどうしようかと考える。
何やら知り合いのようですし。私は離れておいた方が良いでしょうか。
いそいそと神様の肩から離れようとした時、男性の視線がこちらに向き、ビクッと動きを止めた。
そして、なんだろうかと首を傾げる。
「こんにちは。お嬢さん。」
「おじょーさん…あっ。私のことですか?もしかして。」
いまいちピンと来ず、ジーッと男性の目を見る。見知らぬ人からお嬢さんと呼ばれるのは何とも不思議な感覚だった。
「そうそう!お嬢さん。改めてこんにちは。俺はナルって言うんだ。宜しくね。」
「あっはい。こんにちは。エンプティ、です。宜しくお願いします…?」
親しげに話しかけてくるナルという男性に戸惑いながらも返事をすると、神様が不機嫌そうに口を開いた。
「だから離れようとしたのに……。なぁ、自己紹介出来たんならもう行っていいか?」
「えー。もう少しお話しようぜ?冷たいなぁ。
ね?お嬢さん、こんな人になっちゃダメだよ?」
「はぁ!?プティに同意を求めるもんじゃないだろっ!」
「ね?」
ヘラッと笑いかけられ、どう反応しようかと考える。
こういう相手は慣れてないんですよね…。どう反応したらいいんでしょう……?
幾ら考えても出ない答えに出来たのは笑みを浮かべるだけだった。いつだったか神様が私に人見知りなのかと問いかけたことがあったが、これではそう思われるのも致し方がないだろう。
「ほら、プティも困ってるだろ。早くどっか行け!」
「本当だ。うーん。いい子。すっごくいい子なんだな。この子。」
「分かったんならもういいだろ。」
「えー。もーちょっと。てか、マジで優しくして上げてるんだな。その子もお前に懐いてるみたいだし。いい関係築いてるねぇ。」
感心したように頷くナルさんにドヤっとした顔を見せる神様は怒りながらもどこか嬉しそうだった。それを見てなんとなく私も嬉しくなる。
「当然だろ。俺の担当なんだから。」
……が、次に続く言葉でピシリと固まる。
へぇ。まあ、お仕事ですからね?ええ。そりゃあ上手くいっていれば嬉しいでしょうねぇ!
思わずムスッとすると、ナルさんが面白そうにこちらを見た。
「あー。こんな調子なんだな。なんか分かったわ。」
「何が?」
「いやー…うん。まあ、頑張れよ。」
何とも言えない表情でヘラりと笑う。それは心配げでもあったし、残念なものを見る目でもあった。
不思議そうに首を傾げる神様はナルさんにそれはどちらの事かと問いかけ、ナルさんはやや間を開けてから口を開いた。
「……お嬢さんかなぁ。少なくともコイツの天然とかに関しては治らねぇって知ってっからな。」
「あー…ですよねぇ。」
「あ。分かってんだ。」
「当然ですよ。何回神様のせいで拗ねたと思ってんですか。」
「ああ。やっぱり。ちょっとはアルベルトから聞いてるよ。
てか、神様って呼ばれてんの?アルベルト。」
ニヤニヤと笑うナルさん。その面白げに歪められた口元と目からはチェシャ猫が連想された。ナルさんの顔を見てゲッと顔を歪める神様に首を傾げる。
てっきり言ってると思ったんですけどね。報告とか情報共有とかしないんでしょうか。多分、同僚の方ですよね?話を聞いている限り。……あれ?違ったんですかねぇ…。
「あだ名だからな。」
「あだ名ねぇ。ま、面白いからいっか。また聞かせろよ。」
神様の言葉に納得は言っていない様子だったが、ナルさんはじゃあなと言って去っていった。
なんというか…面白い人、でしたね。もう一度会うのも悪くない。そう思わせてくれるような人でした。今度は神様のお話を聞けるのを楽しみにしましょう。
次回、新しい攻撃手段
それでは、これ以降も良き暇つぶしをお送りください。




