26話 おかしいは禁句
こんにちこんばんは。
話をまとめられているのか自信が無い仁科紫です。
それでは、良き暇つぶしを。
あれから数日経ち、今日は砂漠を渡り切ろうという話になっていた。
「はふぅ……暑いですねぇ。」
「砂漠だからね。」
「そういう事じゃないんですよぉ…。」
暑いものは暑いから暑いと言うのですと言うと、何とも不思議な顔をされた。
分からないですかねぇ?ほら、暑いとなんとなーく暑いって言ってしまう感覚。……私だけですかね?それはそれでちょっと悲しいというかなんというか……。
神様への抗議の意味を込めてしょぼんっと肩を落としながら飛ぶが、神様はチラリと私の方を見てから視線を戻し、それ以上は何も言わなかった。
むぅ……残念。関心を得ることは出来なかったようです。ちょっとからかい過ぎましたかね?
そんなやり取りをしつつのんびりと進んでいると、唐突に目の前の地面が隆起した。
すぐさま後ろへと下がり、魔力糸を周囲に張り巡らせる。
「シャァアアッ!」
地中から出てきた巨大な百足をすぐさま魔力糸で絡め取り、糸の属性を切断に変更。ギュッと糸を引っ張るも、糸は僅かに軋んだ後、プツリと切れてしまった。
それでも邪魔に思ったのか、大百足は跳ねるように私の方へと突進してくる。それを右へ左へと躱しながら泣き言を漏らした。
「うー。やっぱり切れません。硬すぎですよぉ…!」
「分かっているならもう少し工夫したらどうかな?」
「むぅ……レベルが上がったからいけると思ったんですよ……!かすり傷にしかなりませんでしたがね!」
本当に微かに見えるだけの傷に悲しくなるが、悲しんでばかりは居られない。何せ、少し離れたところにいる神様のことが大百足には見えていないのか、私ばかりを狙うのだから。砂の中に潜っては現れる大百足にどうしようかと考える。
結局、糸の強度が足りていないってことなんですよね。それなら太くしたら良いのではないかとも思ったのですが、それだと切断力が心もとない気もしますし……。
むむむ…と、考えて閃く。
そういえば、糸にしても紐にしても複数の繊維を撚り合わせて作っているわけですよね?それなら、魔力も3、4本程を編み込んで1本の糸にしてしまえばかなり強固なものとなるんじゃないでしょうか。
他には特に思いつきませんし……うん。試す価値はありそうですね。
まずはいつもの糸を作り出し、編みやすいように目の前に4本持ってくる。そして、1本になるように端の方を四つ編みをしていくと、自然と他の場所も四つ編みになっていった。何故だろうと首を傾げつつ、また跳びかかってきた大百足を高度を上げることで躱し、出来上がった糸で頭をぐるりと結んだ。最後の仕上げに切断の属性を糸に与えて引っ張る。すると、抵抗なくスパりと切れた。
《プレイヤー名:エンプティは〈手芸〉を習得しました。》
……なんだか、戦いとは全く縁もゆかりも無いようなものが手に入った気がしましたが、今は目の前に集中しましょう。
切れた頭は何処かへと飛んで行ったが、胴体だけは未だにビチビチと跳ね回り、まるで生きているかのようだ。……って、本当に生きてません!?なかなか青い光に変わらないんですが……!
「神様、これ生きてます…!?」
「双頭百足は頭が前と後ろのどちらにもあるからね。どちらも潰さないと死なないよ。」
「先に言ってくださいよっ!それ……っ!」
神様に言葉を返すタイミングで後ろの頭が私に向かって跳びかかってくる。
慌てて上空へと飛び上がるものの、足元でガチンッと鋭い歯が閉じられる音に冷や汗をかいた。
こっわ……!さっきよりも高く跳び上がっている気がするんですが……!?
慌ててこれ以上抵抗される前にカタをつけようと再び魔力糸を編む。そして、また大百足が飛び上がってきたタイミングで糸を巻き付け、切断した。
「シャァ……。」
ドーンッと沈む大百足の体にやっと終わったかと神様の方を向くと、神様は刀を構えて大百足の残骸を見ていた。不思議に思い、何をするのかと見ているとそれは起こった。
気づけばキンっと音がなり、大百足の残骸は完全にバラバラになっていたのだ。切れ端から青白い粒子へと変化していく光景からも大百足が倒されたことは一目瞭然だった。
どうしてそんな事を神様がしたのかと考え、一つの結論に行き着く。なるほどと理解はしたもののいまいち納得が出来なかった私はニコリと笑って刀を収納した神様に近づいた。
「神様?もしかして、また私は神様のお楽しみとやらに付き合わされましたか?」
「えっ。……あははっ。なんの事かな?」
その作り物めいた笑みにまたかと思いつつ、なんでもないと答える。
どうやら、この百足は徹底的に細切れにして漸く倒せるような敵だったらしい。確かに、切ると倒せるでは無く、どちらも潰さなければならないとは言っていたが、それは想定外である。
そもそも、今までは私が捕獲し、神様が百足を細切れにしていたために知らなかったのだ。そういう生態ならそうだと先に教えて欲しいというのは甘えだろうか。……まあ、神様が楽しそうなので良いんですが。
この砂漠には先程遭遇した大百足の他に巨大なミミズや蠍、ラクダといった砂漠と言われて想像するような敵がいた。どれも何故か巨大化しており、私が倒せるのはミミズくらいだろうという神様の助言もあってミミズの時以外、私は補助をするのみで神様が主に倒しながら進んでいた。
「うーん。やっぱり、ずるいと思うんですよねぇ。」
「何がだい?」
更に砂漠を西に進みながらポツリと零す。
「パーティのメンバーが倒せば、戦いに関与していなくても経験値が入るってやつですよ。幾ら半分になるからとはいえ、何もしていなくても報酬が入るのはおかしいと思いまして。」
「うーん。でも、1人でレベリングはやっぱり大変だからね。……普通は。」
物言いたげな私の視線に神様は言葉を付け足した。私が1人でもレベリング出来ていたのを思い出したからなのだろうが、その言葉は余計だ。
まるで私が普通ではないかのような言いようですね。強いて普通でありたいとは思いませんが、一般常識から外れていると言われて喜ぶ人は居ないでしょう。
「へぇ。一般的に必要なだけなら個別に設定に出来ても良いはずですよね?
システム的に面倒くさそうですが、貢献度で分配される経験値を弄るぐらいはあった方がいいと思うんですよ。」
「なるほど。プティならではの視点だね。思いつかなかったよ。……でも、初めから攻撃手段がある方がおかしいんだよなぁ……。」
ボソッと呟かれた神様の言葉にムスッとしてそっぽを向く。
ふーんだっ!もういいですよーっだっ!もう今日は神様だけを見て過ごすのです。嫌という程凝視してやりますよっ!
「ジーッ」
「……えっと、僕に何か付いてるかな…?」
「ジーッ」
「……。いや、何か話してくれるかなっ!?気まずいんだけど!?」
遂に沈黙に耐えかねたらしい神様は神様の頭に乗っている私の方を見て叫ぶ。
いえ、ほら、神様がよそ見運転は良くないって言っていたじゃないですか。なので、神様を乗r…コホン。代わりに歩いてもらうことにしたんですよ。ええ。その方が早く進めますし?
ニコニコとしつつも無言で前を指さし、前へ進むように促すと神様はため息を一つつき、歩き始めた。
これ以上言っても無駄だと判断したんでしょうね。大正解です。
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そうして進むこと数時間。神様に代わりに歩いてもらったのが功を奏したのか、いつもよりも早く砂漠の4分の1を進むことが出来ていた。
『やはり、神様に歩いてもらった方が早いですね。』
「うん。それはそうだけど、そろそろ自分で飛ぼうか?」
『嫌です。』
「……はぁ。ホント、器用だよね。魔力糸で文字を空中に作って意思疎通しようとするなんて。プティぐらいじゃないかな?」
普通に話せばいいのにという言葉は無視し、エッヘンと胸を張る。
ふっふっふ。でしょう?そうでしょう!話したくないけど意思疎通はしたい。そんなときにピーンときたのですよ!我ながら頭が冴えていましたねぇ。うんうん。
ニヤニヤとしながら頷いていると、その間、ずっと目を合わせているからか何やら神様が複雑そうな顔をした。
「胸を張るのはいいけど、そろそろ本当に機嫌を直してくれないか?」
『えー。なんでですか?』
「あー……そろそろ他のプレイヤーと遭遇するかもしれないからね。」
歯切れの悪い神様の言葉に首を傾げる。
ふむ。砂漠でというのは案外初かもしれませんね。時折遠目で見ることはあってもかなり遠かったですから。
そういう事なら…仕方がありませんね。私が折れるとしましょう。変な2人組と思われるのは私としても不本意ですから。……まあ、そろそろやめ時だとも思っていましたし。
「仕方がありませんねぇ。」
「…それで、今回は何がダメだったのかな?」
不安げに揺れる瞳にグッと息が詰まる。
そんな目で見られたら…教えない訳にはいかないですよね……。むぅ。神様は策士なのです。
「…私は、別に普通と比べられる事を厭うことはありません。普通とは基準の一つでしかありませんから。
しかし、です。普通でないことを理由におかしいと言われるのは気に入りません。『普通じゃない』のは普通じゃないだけでありふれているんですよ。だから、『普通じゃない』のはおかしい事じゃないんです。」
「えーっと…?つまり、プティはおかしいって言われたのが気に入らなかったのかな?」
「んー。ちょっと違いますね。
私はおかしいということをさも悪いことであるかのように言う人が嫌いなんですよ。」
思い浮かべるのは海の幼少期。周囲から浮いてしまう程度には自立してしまっていた海は、何処にも馴染めずにいた。それは両親から受ける教育のせいでもあったが、異物を嫌う周囲の影響もあったのだと今なら分かる。
普通とは違うことをおかしいと認識する。それこそが当時の海にとっての障害だったのだ。その記憶を持つ私が嫌うのはある意味自然だろう。
「おかしい。変だと思うのは人間として生きていく以上、必要な感覚であることは否定しません。
しかし、それを相手に強要する行為は好みません。先程、神様は言いましたよね?『初めから攻撃手段を持つ方がおかしいんだ』と。」
「言ったけど…それに近いことは前にも言ったことは何度かあるよね?その時は何も言わなかったじゃないか。」
「それはそういうものだと受け入れるしかない部分だったからです。折り合いは付けるべきですからね。そうでなければ世の中では生きていけないでしょう。
ですが、初めからどうのこうのの件については私にはどうしようもない話でしたから、我慢が出来ませんでした。」
そう。本当にどうしようもないことなのだ。気づけば進化していて、思いつくがままに行動した結果、武器となるものを得ていた。気づけばそうなっていたのだから、おかしいと言われるのは不本意でしかない。
更に言うと、事の発端は神様自身である。まだちょっと早いけど…と、言いながら魔力について教えたくせにどの口が言うのかというのが私の本音だった。
「確かに…今回に関しては僕が悪いね。ごめん。もう言わないよ。」
「分かればよろしいです。私とて鬼ではありませんから。」
うんうんと腕を組んで頷き、少し間を開けてからニコリと神様に笑いかける。
「それで、なんですが。神様。」
「うん?なんだい?」
「今回のお詫びと言ってはなんですが、一つくらいお願いを聞いてくれたりしません……?」
伺うように神様を見ると神様は苦笑し、やがて頷いた。
「仕方が無いなぁ。僕が悪いし、良いよ。その代わり、僕にできる範囲のことにしてね?」
「!勿論ですよ!えっとですね…」
私のお願いを聞いて神様がどんな反応をしたかは言うまでもないだろう。
次回、休憩
それでは、これ以降も良き暇つぶしをお送りください。




