25話 人生はままならないもの
こんにちこんばんは。
色々と埋まらなかったので4分の1が続き(あとから考えると要らなかった気もする)、4分の1がエンプティ(現実side)、残りの半分が神様(現実side)にすることにした仁科紫です。
それでは、良き暇つぶしを。
「酷い目にあった……。」
あの後、グリフォンが満足するまで舐められ続けた神様はグリフォンの毛と涎でぐちょぐちょになっていた。
いい気m……コホン。少し可哀想な気がしますね。ええ。あのグリフォン、なんてことをしてくれたのでしょう!私の神様をこんなにぐったりとさせて……!からかうのは私の権利なんですよ!?
「いや、誰の権利でも無いからね!?」
「あっ。漏れてました?」
「漏れてたよ……!いい気味を言い直したあたりから……!」
涙目になりながら言う神様に、あちゃーと額に手を当てる。
「バレちゃいましたか。……面白くない。」
「僕の方が面白くないよ!?」
「……?神様が面白くないから私が面白くないんですよ?」
「ああ。なるほ……分かってるなら考え方を改めるとか無いのかな!?」
「無いですねぇ。」
「無いのか……。」
ガックリと肩を下げる神様に首を傾げる。
いや、言いたいことは分かるんですけどね?とはいえ、それとこれとはまた別のお話な訳じゃないですか。
これはある意味の独占欲なのです。それを神様が理解しないうちは考え方を改めることはありませんね。
そんなやり取りをしつつ頂上から下へと続く階段を降りきる。その先には頂上から見た通りの砂漠が広がっていた。
「おー。初めて来ましたよ。砂漠。」
「まあ、日本に居るうちはなかなか見れない光景ではあるよね。近いもので鳥取砂丘くらいかな?」
「あー……靴の中が砂だらけになるやつですね。海が一度行って、二度と来ることは無いだろうなって考えていましたよ。」
「えっ。本当に?」
確か、家族旅行で島根に行くついでに鳥取に寄ったらしいんですよね。その時に鳥取砂丘に行ったはいいものの、母親が不機嫌になって二度と来ないだろうなぁと考えていたんでしたっけ。お気に入りのお洋服が汚れたとかなんとかで。……ちょっと、海は悲しそうでしたね。
その苦い思い出を海の記憶から引っ張り出しつつ、何故か愕然とする神様に首を傾げ、頷く。
「こんな所で嘘を言っても仕方が無いじゃないですか。
私に得もありませんからね。事実です。」
「そっか……。」
私の肯定に更に落ち込む神様。状況がよく分からずどうフォローしようかと思ったが、目に入った西日にそろそろログアウトしなければならないと思い出す。
「神様。今日はここまでのようです。」
「…ああ。それもそうだね。帰ろうか。」
そう言って神様が取り出した銀色の鍵を空中に向けるとポッカリと鍵穴が開く。どこか不気味な暗闇に鍵を差し込み、右に回すとスゥッと扉が現れた。何度か通ったことがあるが、未だにこの扉の向こう側に神様の店があるとは信じ難い。
「いつ見ても不思議な光景ですね。」
「早くしないと閉じるよ?」
「はーい。」
これが普通の対応ですよねと、考えながら神様の後に続いて扉を潜る。次の瞬間、扉は音もなく消えてしまった。
どういう原理なのだろうかとこの扉を通る度に思うが、考えるだけ無駄だといつも途中でやめてしまう。それでも考えてしまうのは、何事にも理由があると信じているからだ。
理由があるのなら知りたいし、理解したい。それが私ですからね。……だから、今私がここに居るのもそうでなければならない理由があるはずなのです。
そして、私はそれを海が起きるまでのその場しのぎのためだと理由付けました……が、本当にそうなんでしょうかね?
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「はい。今日の検診はこれで終わりですよ。」
ニコリと微笑む看護師さんにぺこっと小さく頭を下げた。二度目の進化を遂げたあたりから僅かに動かすことが出来るようになった体は、不便はあるものの意思疎通が多少マシになっていた。……とはいえ、声はまだ出ないようだが。
「治療が順調なようで何よりです。
何度も言うようですが、空野さんの場合、精神的な治療が最も効果的なんです。なので、ゆっくり焦らず、自分を休ませるつもりで過ごしてくださいね。」
こくりと縦に首を動かせば、それを見た看護師さんは「では、お大事に」と言って病室から去っていった。
それを見届けてからベッドに横になり、物思いにふける。もう4月も末になり、あと数日もすれば5月という頃。私はこの世界とゲームの世界を行き来する生活に慣れ始めていた。
しかし、時々ふと思うのだ。本来、この生活を送るのは海だったはずなのに私が楽しんでもいいのか、と。
まあ、海の本音が分からないからこその悩みなんですけどね。早く起きてハッキリさせてくれると嬉しいんですが。……そういえば、最近朗報がありましたね。
進化…あれは、あの世界での進化は、希望と呼ぶに値するものでした。神様はフレイバーテキストと言っていましたが…フェイク、の可能性もあるんですよね。あれ。
そもそも、あの段階で種明かしなんて早々にするわけがないのです。それは今日の神様の態度から見ても明らかでした。……神様の言葉を疑うことになりますが。
はぁ…。やーですね。まったく。考えるだけで鬱になってきますよ。
神様に頼りきりたいにも関わらず、当の神様は絶対的な信頼を寄せるには未だに足りない。確かにあの時の『僕に依存して?』という言葉は嬉しかったが、冷静になると本当に信頼してもいいのかと不安になるのが人間だ。そこまでしてくれる理由も分からないのに頼れる人間なんてほんの一部だろう。特に、私は性格がひねくれてしまっているのだから余計にその傾向がある。それは十分と言っていいほどに自覚していた。
全く。なんとも生きにくい人格が宿ってしまったものです。もう少し純粋で素直だったなら良かったのに。人生とはままならないものですねぇ……。
内心でため息を一つつき、その日はいつもより早い就寝についた。
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(神様side)
「お疲れ様ー。どうだった?」
「散々だった……。」
またかと言いたげな同僚からの視線を睨み返す。同僚も慣れたもので、ハイハイと言って軽く流した。
もはや日常と化したやり取りであり、いつもならここで同僚の成瀬が目の前から去っていくのだが、何故か今回はニヤニヤとした腹が立つ顔で未だにこちらを見ている。
「……何か?」
「いやぁ。安土さんが苦戦しているのを見るのが面白くて?」
「…君まで彼女と同じような事を言うのはやめてもらえるか?」
寄っている眉が更に寄り、目に力が篭もる。人1人殺してしまえそうな程の視線の鋭さに成瀬はわざとらしく体を震わせた。
「おー怖い怖い。まさか、そんな態度で彼女さんと接しているわけじゃないよな?」
「そんな訳ないだろ。」
ぶっきらぼうにそう答え、今日あったことを思い出す。
進化条件を満たした彼女が悩んでいるのは知っていたが、丁度仕事の案件で離れなければならず、相談に乗ることが出来なかった。まさか、その間にウンディーネを呼ばれて2対1の構図が出来るとは思わなかったが、彼女が頼れる相手が増えたのを確認できたのは良しとしよう。
しかし、問題はその後だ。特殊進化であるリング系の進化先という時点で嫌な予感しかしていなかったが、妙な称号を得たことで更に不安が増した。
【可能性の欠片】…あれはゲーム内で本当に叶えたい願いがあるものにしか現れない。つまり、彼女にはゲーム内で叶う願いを持っているということになる。そして、それは恐らく安土も予想出来る範囲のものだ。
(本当に、無くした人格が戻ると思っているのだろうか。彼女は。)
ふと考え、打ち消す。今までにゲーム内で記憶喪失になるという事例が無いわけでは無かったが、それは大抵、記憶が戻った時点で記憶が統合されるか二重人格として分けられるかの2つの道しかないはずだった。
そこに来ての彼女の記憶喪失。彼女は記憶が戻っても、自分は元の自分ではないと言い張った。それを信じない訳では無いが、確信できるほどの仲でも無い。もしも事実だとして、元の人格が今の彼女にどのような影響を与えるのかさえ分からないのだ。今の彼女を知る安土からすると到底乗り気にはなれない話だった。
なにより問題なのは、現在、恐らく最も不安要素の多い神様ランキングへの参加だ。自分がいればそこまで酷いことにならないという自信はある。でも、それは想定内の出来事であれば、の話だ。あの世界は自立的に成長しすぎている。それを望んだのは安土自身であるが、管理が難しいという点では時折我が身を呪いたくもなった。
今日のグリフォンもそのうちの1つだ。まさか、自分の創造主だと分かってわざわざ顔を出すものがいるとは思ってもみなかった。これではこの先もそういったイレギュラーに見舞われるのは確実だろう。
はぁっとため息をつき、今日に限って何故か未だにデスクの前に陣取る成瀬を不審に思った安土は、目の前でニヤニヤと笑う男を見た。
「今日はどうしたんだ?」
「いや、いつも通りだけど?」
事実ではないことは明白な答えに苛立ち、成瀬を睨みながらも辛抱強く待つ。やがて、降参と言わんばかりに両手を上げた成瀬は渋々と口を開いた。
「んー……でも、そうだな。一つ理由を挙げるとするなら、お前がその子のために苦労してあの世界を創り上げたことは知ってるから、かな。気になるんだよ。どうせなら上手くいって欲しいじゃん?」
ヘラヘラとした顔でそんな事を言う成瀬に苦虫を噛み潰したような気分になる。
分かってはいるのだ。ずっと心配されている事ぐらい。そもそも、安土がここに居るのは彼女のためだ。幼少期の彼女を知って、彼女に少しでも笑顔を届けたい。そう思ったから父と同じ道ではなく、ゲームを運営する側になる事を選んだ。その過程で父に協力してもらい、治療用のVRMMOを開発したのも、彼女がどのような状況にあってもサポート出来るようにといった下心ありきのことだった。そして、その事は会社の誰もが知っていることでもあった。……と、いうよりも目の前にいる成瀬が相手構わず周囲に喧伝した結果なのだが。
何にせよ、安土が今、彼女のことに専念出来るのも今までの功績とその根回しがあったからと言っても過言ではない。その事には一応、感謝してはいる為、安土は成瀬に強く出られないでいた。……本人の性質という所もあるだろうが。
それを分かってか、成瀬は会社で浮き気味の安土にこうして気安く話しかけてはじゃれあいのようなやり取りをして去っていくのが日常と化している。
「まっ、上手くいってないお前を見るのもそれはそれで楽しいけどな。」
「おいっ!」
「へへへっ。そう怒んなって。彼女さんに嫌われるぜ?」
じゃあな!と言って去っていく成瀬にまた一つため息をついた。人生とはどうしてこうもままならないものなのだろうか。今日も今日とて空回りを続ける安土だった。
次回、砂漠探索(エンプティに拗ねられる神様)
それでは、これ以降も良き暇つぶしをお送りください。




