22話 やってから考えるは遅い?
こんにちこんばんは。
なんだか長くなってしまった仁科紫です。
……明日あたりからは減らすかもしれません。
それでは、良き暇つぶしを。
何はともあれと神様に情報を共有した後。とりあえず私たちは平原から更に西へと進み、小さな村を通り過ぎた先にある岩山へと来ていた。
尚、運営に対する愚痴に関しては微妙な顔で慰められました……。神様に慰められるのは嬉しいですが、そういう事じゃないんですよ…!
「ほら、プティ。着いたよ。」
「ワーホントデスネー。」
「……まだ怒ってるのかい?」
「ふんっ。運営の肩を持つ神様なんて知らないのです!」
プイっとそっぽを向きつつ神様の背中に陣取る。気分は子泣き爺……いえ、この場合は婆でしょうか?
まあ、何でもいいのです。今日は神様の背中から離れません。ええ。これは抗議なのです!
……とはいえ、お話は進めないと行けませんし?ここは大人っぽく私が折れるのです。(※本当に大人っぽい人は拗ねて背中にくっついたりしません。)
「……ここで、進化後の私の性能を確かめるんですよね?」
「……くっついたままなんだね……。
えっと、うん。そうだよ。大蜥蜴もいいんだけど、物足りなかっただろう?
それに、どうせなら新しい相手の方がいいだろうと思ってね。」
初めて見たゴツゴツとした剥き出しの岩肌に感心しながらも神様の言葉に耳を傾ける。神様の聞き心地のいい声にうっとりとしつつ、行きで倒した大蜥蜴を思い出した。
そう言えば、あの大蜥蜴さんは切断面も綺麗にスパッと切れていましたね。今までの大蜥蜴さんはどちらかというと糸の切断力が足りなくて、半分くらいは絞め殺していたようなものですし……うわぁ。そう考えるとちょっと嫌な人ですね。私。
今更過去の行いに心中で頭を抱えていると、なかなか返事をしない私を不審に思ったらしい。どうしたのかと神様から尋ねられてしまった。
うっかり物思いにふけってしまいましたね。拗ねていても優しい神様……はぁ。仕方がありませんね。気に入っていたのですが、自力で飛ぶとしましょうか。
「いえ。大丈夫ですよ?
それに、神様以上に大切なものなんてありませんからね!いざゆかんっ!お山の頂上へ!」
「あ。やっと出てきたね。……って、僕以上に大切なものは沢山あるからね!?」
良かったと、ホッとした様子の神様に気まずくなる。
うぅ……。どうしましょう。拗ねた私が悪いとはいえ、この気まずさ……と、とりあえず、笑っておきましょうか。
あは。あはは。あはははは……。
はぁ……空回ってますね。今度から拗ねる時はタイミングを考えましょう……。
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岩肌が見え始めてから10分ほど歩くと、洞窟に続く道と上へと進む2つの道を見つけた。そこで後ろを歩いていた神様にクルリと振り向く。
「分かれ道ですね。」
「だね。どっちに進む?」
神様の問いかけに道中で聞いた説明を思い出す。
『ここには鳥系の生き物が多くいてね。一番倒しやすいのは火祭鶏。火の回りをクルクルとお祭りみたいに回る鶏とでも言えばいいかな。知性は低いから、プティならあっさりと倒せるとは思うよ。』
『ふむふむ。……え。火の回りをクルクル……?どういう状況です?それ。』
『まあ、見れば分かるよ。
あと、注意しないといけないのが禿鷲と獰猛な闇鴉だ。禿鷹は群れになって襲ってくるから、一羽見かけたら十羽はいると思ってくれ。特徴は……名前の通りとだけ言っておこうかな。』
『なるほど。群れてる禿げ注意……。』
『……ゴホン。闇鴉だけど、彼らは闇に乗じて襲い掛かってくる。だから、夜や洞窟では気をつけてね。気づけば…なんてことが結構あるからさ。』
『そこは神様が居ますから安心ですね!』
『……信頼してくれるのは嬉しいけど、自分でも警戒してね?』
と、ここまで回想して次に進む道を決める。
洞窟では闇鴉さんの対処が難しそうですからね。それなら慣れるまでは陽の当たる道を行った方が無難そうです。
「よし。上に行きましょう!」
「上だね。それじゃあ、進もうか。」
「はいです!」
そうして緩やかな坂を登りきると、そこは広場になっていた。子供たちが走り回れるくらいには広く、周りは岩の壁で阻まれている。光源は上から差す光のみで薄暗い
が、休憩するには丁度よさそうな場所ではあった。……目の前に広がるおかしな光景さえなければ、の話だが。
「……なるほど。アレが火祭鶏……。」
広場にはキャンプファイヤーよろしく火を囲んでクルクルと回ってはコケーッ!と鳴く赤い鶏が居た。……これまた、巨大な。
あれ?今回はそこまで大きくないと思っていたんですが……。
「……なんで、巨大化するのが好きなんですか?」
「うーん。……その方が倒しやすいから、とかかな。何より、ゲームっぽいだろう?」
「まあ、そうなんですが……違和感が酷いですよ。」
ゲームっぽいというならあの兎やら狼やらはどうなるのかと突っ込みたいところですが……まあ、そこはいいとしましょう。神様に言っても仕方がありませんからね。
あと、幾ら鳥だからって地響きもしないとかどうなんです?鳥の骨が飛べるように空洞になってるからって軽すぎません?そもそも、鶏なんですよね?飛べないんですよね?確実に骨も重いじゃないですか!
あのお肉を支える時点でとんでもなく重そうですし。骨粗鬆症待ったナシですよ!……はっ。もしや、あれはお肉ではなく羽根で着膨れてるんですか!?即ち、水をかけるとほっそりするというアレ…!?
……むむ。見たいですね。水をかけられてちょっと情けない顔をしているのが可愛いんですよ。ああいうのって。
クルクルと楽しげに回り続ける鶏はそれを見る私たちに気づいた様子はない。ぼんやりと火祭鶏が水浸しになる姿へ思いを馳せていると、神様が目の前で手を振っていることに気がついた。
「あれ。神様、どうしたんですか?」
「大丈夫?今日はいつもに増してぼんやりしているようだけど。」
心配気な神様になるほどと納得する。思ったよりも考え込んでしまっていたようだ。
むぅ。この癖、どうにかしないといけませんね。神様に心配ばかりかけてしまいますし。
「大丈夫です。ところで、水を出したりとか出来ますか?火祭鶏にかけて欲しいんですけど。」
「えっ。突然どうしたの?」
「ちょっとだけでいいので!」
「うん。せめて理由くらいは説明しようか?」
思いもよらないお願いだったのか、笑いながら冷ややかな目をする神様。あっ。これ、ちょっと怒ってるやつ……。
そういえば、説明していませんでしたね。うっかり忘れていました。
少しは殊勝な態度を示しておくべきですね。ちょっと今日はいろいろと……うん。いろいろとやらかしちゃってますから。
そう判断した私は申し訳なさそうに眉を下げて上目遣いで神様を見上げる。
「ごめんなさい。神様。つい、いろいろと考えが暴走してしまったみたいで……。」
「……はぁ。いいよ。とりあえず、説明してくれるかな?」
「はいです。えっと、あの鶏、足踏みしても地面が揺れないじゃないですか。」
「うん?……あ。ホントだ。でも、それがどうしたの?」
特に気にしていなかったらしい神様は私の言葉に首を傾げ、確認して納得したのか頷いた後、余計に不思議そうな顔をした。
まあ、そりゃそうなりますよね。唐突に聞かれても意味が分からないものですし。
「なので、あの鶏はとんでもなくお肉が少なくて羽がとーっても多いと思ったのです。」
「なるほど。それが水と……あー。水をかけて萎むところでも見たかったのかな?」
「おー!よく分かりましたね!神様!」
ようやく考えていたことが神様に伝わり、嬉しくなってニコニコとしていると、今度は神様が申し訳なさそうな顔をした。
「どうされました?」
「……いや、期待しているところ申し訳ないんだけど、多分エンプティの期待に添える結果にはならないと思うんだよね。」
やってみるから見ててという言葉に、大人しく見守ることにする。
期待に添えない……とは、どういう事でしょうね?
ウキウキとしつつ見ていると、神様が手を翳して一言呟いた。
「〈水生成:雨〉」
すると、空から小雨がサーっと降り出す。現実ではありえない現象に感心しつつ本題の鶏は、と視線をそちらに向けた。……が、そこで見た光景に目を開く。
全長2mほどの巨体は雨に当たれば当たるほどに縮んでいき、気がつけば通常の鶏とさして変わらないほどの大きさになっていた。しかし、変化はそれだけではない。雨によって小さくなった焚き火の火に何故か次々と鶏が飛び込んでいく。声を上げることなく何かに導かれるように火へと焼かれにいく鶏に背筋が寒くなった。
えっ。ホラーか超常現象か何かですか?ジャンル間違えてません?……というか、アニサキスか何かの寄生虫によって水の中へと引き擦り込まれるカマキリみたいですね。うわぁ。
なんてものを見せるんだという気持ちを込めて神様を見ると、何処と無く気まずげに神様は目を逸らした。
「ね?」
「ね?……じゃないですよ!?なんでこんなにホラーっぽいんですかっ!」
「い、いや、ほら、見て。プティ。まだ続きはあるから!」
神様の必死な様子に仕方がないから見てあげるかと何処か上から目線で神様が指さした方向を見る。
そこでは火の中にいる火祭鶏の15匹ほどが不自然に光り始めていた。
あれは、炎に照らされて……という訳ではなさそうですね。しかも、よく見るとちっとも焦げていないようです。黒い煙すら出ていませんし、寧ろ、焚き火の炎の勢いが増している気もしますね。……ちっ。ちょっと可哀想とか思った私の気持ちを返せなのです。
それから1分も待たないうちに輝きがピークを迎え、目も開けられなくなる。
そして、ようやく光が収まり、目を開けれるようになった頃にはコケーッとご機嫌な様子の鶏の声が聞こえた。……イラッ。いえ。私は鶏さんになんて怒らないのです。ええ。断じて。
目を開き、鳴き声の元を見る。
そこには6mほどの高さにまで巨大化した鶏がいた。……二階建ての建築物サイズって大きすぎません?体積的におよそ9倍程の大きさなんですが。……うん。考えなかったことにしてしまいましょう。
巨大化した鶏は鶏冠が炎のように揺らめき、赤かった体は白くより鶏らしい鶏になっていた。
そして、キランっと目を光らせた鶏は私たちの方を見て飛びかかってきた……って、回避!回避ですっ!
「コケーッ!」
翼をばたつかせ、蹴りあげるように襲いかかってくる鶏に背を向けて飛びだす。
ガッと物凄い音が広場に響き、振り向くと石壁にヒビが入っていた。……アホかーっ!ですよ!?石ですよね!?硬いですよね!?なんて威力してるんです!?
あまりの威力に驚き、固まっていると方向転換してこちらへと走ってくる鶏。考える前に体は前へと進み出していた。
「コケーッコッコッコッ!」
「なんで追いかけてくるんですかーっ!」
「火を消そうとしたからかな?」
あくまでも冷静な様子で隣を走る神様に首を傾げる。
おっかしいですねぇ。まるでこの展開を知っていたかのような……うん?いえ、知っていないとおかしいですよね?さっき、結果がどうのって言ってましたから……。
今の私は間違いなくジトっとした目を神様に向けていることだろう。
「……神様、知ってましたよね!?止めてくださいよーっ!」
「止めて聞いたかい?」
「……。」
「だろう?」
「しかしですね?知って驚くのと知らないで困惑するのは心の持ちようが違うんですよ!」
「そういうものかな?」
「そういうものなんですっ!次からは教えてくださいなっ!」
「次があればね。」
ハイハイという調子で軽く返事をする神様にムッとしつつ、この状況からどうするかを考える。
うーん。……よし。深く考えるのも面倒ですね。どうせ性能を確かめるために来たんですし、あれ使っちゃいましょう。
「〈闇の糸〉〈魔力結界(糸)〉!」
左手から糸を出し、鶏が踏むように設置する。
ふむ。糸の色は黒ですか。不可視化するので何色でもいいですが、カラフルじゃなくていいですね。
ふむふむと観察しながら飛んでいると、心配げにこちらを見る神様が目に入った。
「なんです?」
「いや、器用だなって思って。」
「そうですかね?そうでも無いと思うんですが。」
「……いや、よそ見しながら事故を一度も起こさずに運転出来る人って本当に居るんだと思ってね。」
「へぇ。そんな人いるんですね。」
「……。」
黙り込んでしまった神様に首を傾げつつ、糸を踏んだ鶏に糸を絡めて捕まえる。どうやら糸に触れている間、本当に魔力を吸収しているようで魔力を使ううちから回復していく。
げ、ゲージが一ミリも減らないってどういう事です?これ。……まあ、魔力回復量も増えてましたからね。それも原因の一つでしょうが。
「コーッ!コーッ!!」
「闇の糸の効力の消し方ってどうしたらいいんですか?」
「解除って言うか思うだけでいいよ。慣れないうちは言う方が無難だとは思うけど。」
「了解です。〈闇の糸:解除〉」
スっと黒から透明へと変化したのを感じた瞬間に糸の性質を切断へと変化させる。
そんでもって、ギュッと糸を縛るっ!
「コーッ!?」
こうして名も知らない鶏さんは地に沈んだのでした。……これ、現実だったら細切れ……よし。考えないでおきましょう!さあ、次行きますよ!次!
次回、対禿鷹……多分。
それでは、これ以降も良き暇つぶしをお送りくださ
〜2022/01/24 10:24 火円鶏→火祭鶏に訂正しました。〜
全部変更しきれていませんでしたか……( ̄^ ̄゜)




