21話 進化は選択肢がないもの
こんにちこんばんは。
まだ私には早かったか……と思いながら書く仁科紫です。
それでは、良き暇つぶしを。
そうして次の日の昼頃。ようやくレベル50に達した私は人形屋で睨めっこしていた。…ステータス欄と。
本当は神様と睨めっこしたいぐらいなんですけどねぇ。早々にちょっと用事があるからと置いてけぼりを食らったのです。
むぅ……。1人で考える時間も良いですが、なんとなーく不本意です……。
はぁ……と、溜息をつきつつさっきから何度も見返していたステータス欄をもう一度見る。
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名前:エンプティ
分類:人形族 種族:グラスリング LvMAX《※進化可》
属性:無
HP 10
MP 10200
STR 0
VIT 1
INT 120
MND 120
DEX 90
AGI 30
LUK 15
AP 49
種族スキル
〈透明化〉〈魔力回復(小)〉〈浮遊〉
〈魔力視〉〈毒類無効化(中)〉〈立体視〉
〈人形憑依:対象【大空の姫君】〉
スキル
〈魔力糸〉〈魔力操作(中)〉〈暗視〉
〈魔力結界(糸)〉〈魔味蕾〉〈魔力変換〉
固有スキル
〈■■■■〉
称号
【ソウゾウを超える者】【神様(?)を崇める者】
【水霊の友達】【糸の操者】
【兎の天敵】【兎の宿敵】【狼の天敵】
【大蜥蜴の天敵】
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特殊進化先
デュアルリング 属性:光・闇
詳細:1つの輪っかが2つになっちゃった!?……なーんて、よくある事だよね?
さぁ。願いを叶えに行こう。全てはその先に待っているんだから。
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はいっ。見てのとおり、結局STRはひとっつも上がりやがらなかった訳ですね!
というか、ですよ。
……進化先の説明、雑すぎません?ねぇ。雑すぎますよね!?
「輪っかが1つから2つになんてよくある事じゃありませんよっ!バーカバーカっ!どこのビスケットですか!」
小学生でももう少しマトモな罵倒をしそうなものだが、致し方がない。今はこの鬱憤をどうにかするのが先ですっ!
うがーっと叫んでいると、そこではたと思い出す。
そういえば、今の私と同じような罵倒をしていたお友達が居ましたね。暇ですし、どうせなら話し相手にでもなってもらいましょう。そうでもしないと子の苛立ちは収まりそうにもないですし!
思い立ったが吉日とすぐさまキッチンへと向かい、水で満たしたグラスを持って戻ってきた。
「後は彼女を呼ぶだけですね。
おいでませ!我が友ウンディーネ!」
アキトと居たからか似てしまった言葉も、今は疲れきったためだと気にしないこととする。なんですか我が友って。普段なら出ない言葉なんですが。
自分で自分にツッコミを入れつつ淡く光り始めた水面を見つめる。暫くしてぴょんっと水の中から飛び出してきたのは、あの日見た幻想的な半人半魚の少女だった。
よしっ。成功ですよ!
さぁ。早速愚痴を……
「どした?あそぶ?」
…と言う前に、ウンディーネから先にキラキラとした目を向けられてしまい、口篭る。
うっ。そんな眩しい視線を向けられると……。まさか、ただ愚痴りたくなっただけなんて言えませんし……。
はぁ。そりゃそうですよねー。愚痴を自ら聞きたがる変人なんてそうそういる訳ありませんよねー。
ため息をまたつきたくなったがここは我慢し、どうせ呼んだのだからと質問することにした。
「すみません。遊ぶのは後で…ちょっと、聞きたいことがあったのです。」
「なぁに?」
以前のように癇癪を起こすことなくニコリと笑って言葉の続きを待つウンディーネ。その可愛らしい様子に癒されつつも聞きたかったことを口にした。
「進化ってよくある事なんですか?」
「しんか…んー。ないっ!」
ニパッと笑って答える彼女に目をパチクリとさせる。思ったよりもはっきりとした返事に考えを巡らせる。
これは信用していい情報……?いえ、聞いておいてその疑問は酷いですね。それなら聞かない方が良いのです。
……あ。そういえば、神様もあの時は驚いていましたから事実なのでしょう。
そう考えると次の質問をしていいのか悩んでしまいますね。……この際ですし、尋ねてしまいましょう。情報は大切だってよく言いますしね。
軽く考えて結論づけた私は次の質問を口にする。
「では、一つのものが二つに別れた人を知っていますか?」
その問いにウンディーネは難しい顔をして黙り込んでしまった。
うーん。何気に気になっただけだったのですが、やはりそんな人は居ないんでしょうか。もし居るなら……もしかしたら、海と私に分かれることができるかもしれない。そう思っての言葉でしたが……高望み、でしたかねぇ。
「すみません。おかしなことを聞きましたね。」
「うーうん。いい。きいたこと、ある。
ふたつにわかれたぴかぴかのはなし。」
ぴかぴかのはなし…?それは何のことかと尋ねる前に店の扉が開いた。
振り向くとそこには神様がいた。
「あ。神様。えっと、お帰りなさいです」
「うん。ただいま。」
あまり使った覚えのない言葉に戸惑いつつも声をかけると、神様は微笑ましそうに私を見た。
むぅ。なんだか不服なんですが。別に、悲しい理由からではなく、私は生まれたばかりだから仕方がないのです。故に、そこまで微笑ましそうにされる理由がないと言いますか……。
そもそも、彼と私、リアルの方で関わりがあるとかどうとかの話は何処に行ったんでしょうね?私の記憶には欠片もないんですが。……まあ、今は良いですか。
思考に沈んでいると、グラスの縁に座るウンディーネが目に入ったらしい。神様は不思議そうに首を傾げた。
「あれ。ウンディーネも居たんだ。2人で何を話してたの?」
「あ。かみさまだ!」
「君もか……。」
どこか苦虫を噛み潰したような顔でウンディーネを見る神様のことは置いておくとして、神様の問いに答えることにした。
ふふふ。この調子で徐々に神様呼びが定着していくといいのですよ。
「進化の話をしていました。」
「ああ。進化できるレベルに達してたんだっけ。
それで、進化先には何があったの?」
「デュアルリングですよ。」
「ゲッ。」
途端になんとも言えない顔をした神様は何かを考えるようにブツブツと独り言を言い始めた。
うーん?どうしたんでしょう。ウンディーネも久しぶりに神様に構ってほしそうに見てますし、そろそろ復帰して頂かないと私が困るのですが。
……あっ!そうです!この状況ならイタズラされても文句は言えませんよね?ふふふ。隙を見せてはいけませんよねぇ?
「かーみっさまっ♪」
「う?うん。なんだい?」
「もしかして、神様には透明人間のお友達でも居るのですか?」
「ん?いや、そんなわけないけど。」
「ふふふ。それなら、こーんな可愛い私たちを放ってひとりの世界に入り込んでいたという事ですか。
まあ。酷い方ですよね。神様って。聞きました?ウンディーネさん。神様ったら、私たちのことは眼中にも無いんですって。」
「きいたよ!ひどーいっ!かみさま、ひどい!」
「なんでそうなる!?」
「ですよね!さあ、神様は除け者にして私たちだけで楽しいお茶会でも開きましょうか!」
「するー!おちゃかい!おちゃかい!」
「えっちょっ。」
何やらあたふたとしだした神様を放置し、私とウンディーネはお茶をお供に神様についてあそこは良いけどここはちょっと…と話し始めた。
ふふふ。ウンディーネからは滅多に聞けない神様の少し前のお話を聞けて大満足の午後でした。
「は、恥ずかしいからやめてくれないかな!?」
「「いーやーでーすー!」」
・
・
・
「……と、それはそれとして、進化先ですよね。ホントどうしましょう。これ。」
神様を放置して1時間程。納得のいくまで神様のお話をし続けると、気づけば神様はぐったりとしていた。その様子に満足したのかウンディーネさんは『またね』と手を振りつつ水の中へと帰っていった。
その流れで話を変え、進化先について口に出す。
そもそもこれについて考えていましたからねぇ。うーん。……ホント、どうしましょうか。
「いや、どうしようも何も、進化先があるなら進化したらいいんじゃないか。」
進化することを悩んでいる私の様子を興味深そうに見る神様に首を振る。
むぅ。面白がってますね。これ。まあ、良いですが。
「いえ、そう簡単な話でもないのです。」
見てください、これ。とステータスを共有すると神様は複雑そうにそれを見た。先程も変な反応していましたからね。やっぱり何かあるんでしょうか。この進化先。
「……デュアルリング。いいんじゃない?これの何処が気になったの?」
「えっ。気になりませんか?」
「えっ。何か気になるところある?」
お互いに顔を見合わせて鏡合わせになるように首を傾げる。
あ。なんだか以心伝心みたいでいいですね。これ。……って、違います。それよりも、今は進化先のことですよ。
「うーん。……この説明って普通なんですか?」
「ああ。これ?フレイバーテキストってやつじゃない?そこまで深い意味は無いはずだよ。」
「……そう、なんですか……。」
ふむ。どうやら、神様は本当にそう思っているようですね。その割りには思わせぶりな内容なわけですが。……と言いますか、神様は運営側の筈なのにそんなに曖昧で大丈夫ですか?ちょっと心配になっちゃいますよ。
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特殊進化先
デュアルリング 属性:光・闇
詳細:1つの輪っかが2つになっちゃった!?……なーんて、よくある事だよね?
さぁ。願いを叶えに行こう。全てはその先に待っているんだから。
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改めて説明を読み、考える。
願いを叶えに行く、ですか。まるでこの進化をしたら願い事が叶うかのような文面なんですよね。
海をこちらに呼ぶための進化、そう捉えてしまいそうになる私に一度蓋をする。
……ダメですね。ええ。きっと、それを信じてしまえば…………うん。やめておきましょう。
「……ティ。プティ?大丈夫?」
「あっ。はい。大丈夫ですよ。」
「そんなに考え込まなくても、気楽に進化したら良いよ。あまり気に病まないで。ね?」
「ふふふ。そうですね。分かりました。
では、ポチッと。」
《プレイヤー名:エンプティのデュアルリングへの進化を開始します。》
何処からか聞こえてきた声とともにフワッと光に包まれ、その眩しさに目をつぶる。次に目を開き、視点を変えて上から自分の姿を見て見たりしたが、そこまで大きな変化はないようだった。
……あっ。これ、人形の姿でした。本体は輪っかの方ですし、確認するには手鏡か何かがいりますね。一先ず、姿が変わったようですし、神様に感想を尋ねるとしましょうか。
「どうです?何が変わってます?」
「うん。輪の色が変わってるよ。
えっと……あ。はい。これで見て。」
渡された手鏡を魔力糸で受け取ると、クルクルと視点を変えながら見てみる。
ただの光の輪だった本体が小さい黒紫色の輪と大きい白色の輪になっていた。二重になっていて一応魔力的な繋がりがあるようだ。
……とはいえ、それだけですか。まあ、輪っかなことに変わりはありませんし、それ以上変わりようがありませんよね。
「あまり変わりませんね。」
「そう?結構変わったと思うけど。」
首を傾げる神様に悪戯心が湧き上がり、気づけばニヤリと神様に笑いかけていた。
「そういうことなら、神様なら変わったところの4個や5個は言えるんですよね?」
「うん。当然だろう?」
余裕綽々といった様子の神様。
からかうチャンスだと思ったんですが……むぅ。なんだかムカつきますね。あれですか?褒め慣れてるってことですか?
無性に腹が立った私は半眼で神様を見つつ口を尖らせた。
「へー。そーですか。そーですか。
それなら、具体的に挙げてみてくださいよ。当然なんですよね?」
「いいよ。何をそんなに怒っているのかは分からないけど……えっと、まず、円が二重になったことだね。外側の白い円は前よりも大きくて、黒い円は前より少し小さめ。属性もそれに従って光と闇属性になってる。
後、属性の影響が人形にもでていて、青みがかった銀髪はより輝きを増していてキラキラとしてる。とっても綺麗だね。それから、サファイアのような青い瞳はより深みを……」
「ちょっ。も、もう!もういいです!」
何やらまだまだ続きそうな予感に慌てて止める。
本当にするなんてビックリなんですが。変化を教えて欲しいとは言ったものの、褒めて欲しいとは言ってませんよ!流石にこれ以上は私が褒め殺されるので……ぅう…恥ずかしい……。控えめに言って褒め殺しってこういう事を言うんですね。
神様の言葉の数々にいつもとは形勢逆転し、私の方がタジタジになってしまう。
「そんなに照れなくてもいいのに。」
そりゃ照れますよ!褒められ慣れてないんですから!と、言いたくなる気持ちをグッと抑えて糸の制御を持ち直す。
うぅ。絶対、変な顔になってましたよ。私。だって、糸の制御出来てませんでしたもん。表情がないくらいなら良いですが、変顔になっていたら……もう神様に合わせる顔がないですよ……!
そんな泣き言を心中でもらしていると、神様がそう言えばと口を開いた。
「進化後のステータスは見たの?」
「あ。いえ、まだですけど……。」
「確認しておいた方がいいよ。前みたいに変わっているかもしれないからさ。」
「……はーい。」
正直、そんな気持ちにはなれなかったが、神様が言うことだしと、渋々ステータスを開いてみる。
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名前:エンプティ
分類:人形族 種族:デュアルリング Lv1
属性:光・闇
HP 20
MP 30000
STR 0
VIT 1
INT 480
MND 480
DEX 240
AGI 120
LUK 60
AP 49
種族スキル
〈透明化〉〈魔力回復(中)〉〈浮遊〉〈魔力視〉
〈毒類無効化(中)〉〈立体視〉〈光の糸〉
〈闇の糸〉
〈人形憑依:対象【大空の姫君】〉
スキル
〈魔力糸〉〈魔力操作(中)〉〈暗視〉
〈魔力結界(糸)〉〈魔味蕾〉〈魔力変換〉
固有スキル
〈■■■■〉
称号
【ソウゾウを超える者】【神様(?)を崇める者】
【水霊の友達】【糸の操者】
【兎の天敵】【兎の宿敵】【狼の天敵】
【大蜥蜴の天敵】【可能性の欠片】
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詳細情報
〈光の糸〉
効果:糸に触れたものを癒す。
〈闇の糸〉
効果:糸に触れたものの魔力を吸収する。
【可能性の欠片】
説明:まだ生まれていない可能性。それはこれからのあなた次第だ。
効果:特殊な進化先に進んだとき、ステータスが微上昇する。
※特殊な進化先以外を選ぶとこの称号は消えます。
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……えっと、いろいろと言いたいことはありますが、一言だけ言いましょうか。
進化ぐらい選択肢下さいなっ!
次回、能力確認
それでは、これ以降も良き暇つぶしをお送りください。




