202話
こんにちこんばんは。
なんだか筆が進まなかった仁科紫です。
うーん。おかしい。書きたかった話のはずなのに……暑いからか……?
それでは、良き暇つぶしを。
辺りが夕闇に染まりきり、夜遅い時刻となった。事前に伝えていた通りに集まってきた今回のお客様の会話に耳をたてる。
「はーぁ!もう終わりかー!楽しかったな!アキト!」
「お、おぅ。……また来てみっか?」
「あったりまえだろ?楽しかったからな!」
何らかの進展があったのか、ほんのり甘い空気を漂わせるルカさんとアキトさん。ルカさんに次、会った時には必ず聞き出さなければなりませんね!
「ふふふ。楽しかったわね。」
「は、はい。とても……。」
「またここのかわい子ちゃんに会いに来ないと。」
鼻歌を歌い出しそうな程に機嫌の良さげなメルフィーナさんと、それを隣で微笑ましげに眺めるアル・マキナさんも存分に楽しめたようだ。
まあ、二人は元々恋人ですし、楽しい時間を過ごせたのなら十分でしょう。……妖華さんと喧嘩してましたけど。
「充実した時間だったです!」
「そうだね。帰ったら皆に共有しないと。」
「ですです!皆で来るですよ!」
「それはいいね!」
あまり見かけなかったヘルメスファミリアの二人組も、カルマさんのキラキラとした目とクラウンさんの満足気な顔から楽しめたことが分かる。
「やっぱり見逃せない良いもの、だったね。」
「はい!正式にオープンしたら皆と来ましょう!」
「これは教えないと苦情が来そうだからね。勿論だよ。」
苦笑するデュランさんはこうなる事は予期していたようで、キラキラとした目をするシュベリエさんを苦笑しながら見ていた。
この様子からしてツアーも大きな失敗はなかったと言っていいでしょう。
後は…
周りを見渡し、目的の人物を見つける。その人物はいつもの雰囲気とは違い、何処か淀んだ雰囲気を身にまとっていた。ある意味浮いていると言ってもいいだろう。
……あのトアさんの様子からして、告白はしたものの上手くいかなかったようですね。
「楽しかった、ですね。ディボルト様。」
「ああ。……また来るか?」
「!は、はい!是非!」
どうにかしていつも通りに振舞おうとするトアさんに、ディボルトさんは思うところでもあったのかトアさんに問いかけていた。
また来て貰えるのなら、チャンスは何度でもあるでしょうし、トアさんがヘタレなければ大丈夫でしょう。ただ、あの二人、どうも近過ぎて気づけない幼馴染のような雰囲気を感じるんですよねぇ。……トアさん、どんな告白をしたんでしょう?
ディボルトさんの『また来る』が、他の人も連れてという意味ではないことを祈りつつ、今日のプレオープンは終了するのだった。
リピーターになってくれそうですし、概ね成功といっても良いでしょう!
「今日は来てくださり、ありがとうございました!
正式なオープンは2週間後の予定です!
皆さんのご来園をお待ちしております!」
「チョット!?ワタシを忘れテないカナ!?マダマダ遊び足りないンだケド!」
「そろそろ帰りますよー?マスター。」
妖華さんたちは……まあ、見なかったことにしましょう。今回はなかったですが、通常のお客さんが来たときにはクレームの嵐が来そうですからね。対策を考えませんと……。
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「今日の成功に!カンパーイ!」
「「カンパーイ!」」
冷たいジュースに口をつけ、今日の出来事に思いを馳せる。
私たちは今、遊園地のお披露目が無事に終わったこともあり、神様のお店で打ち上げをしていた。面子は私、神様、空、イアさんの4人だ。何故かテルさんまで参加しようとしていたが、イアさんが信者の元へと返却していた。なんでも、『ワシ、我慢したであろう!?』とのこと。
もしや、テルさんも遊びたかったのかと思い至り、それならばと他の元旧神……元なのか旧なのか分かりにくいが、とにかく神々を今度招待する事になった。
何はともあれ、皆の遊び場としての遊園地、恋人の逢瀬の場としての遊園地。今日は十分その役目を発揮できた日と言っても過言ではないだろう。
ふっふっふ。これは人気になること間違いなし!なのです!
私が未来に少しばかり思いを馳せてクッキーをつまんでいると、空がそういえばと尋ねてきた。
「姉さん達は観覧車、乗ったの?」
「へ?いえ、私たちはあくまでも案内人ですし、今回は乗ってないです。」
お陰で妖華さんの奇行や喧嘩するメルフィーナさんを見る羽目になったが、止めなかったのには理由がある。
あくまでも本人たちの間での喧嘩でしかなかったことや、本気の取っ組み合いの喧嘩ではなかったこと。その為、私たちは見ているのが一番だと判断したのだ。喧嘩は当人の間で片付ける方が後腐れが少ないのである。
本当は放っておくのもどうかと思うんですけどね。神様に止められては致し方がないのです。
首を振る私に空はケーキを伸ばした手を止めた。
「え。そうなの?」
「はいです。何かおかしかったですか?」
「いや?でも、そっか……。」
空は考え込んだ様子で止めた手を再びケーキに伸ばし、ピースの先端をフォークで切り分けた。
そして、その後話題はこれからの遊園地の運営や、帰る前に書いてもらったアンケートに移り変わっていった。
だから、この話はここで終わったものとばかり思っていたが、空は違ったらしい。
そろそろ解散しようかと神様が言ったタイミングで空が待ったをかけた。
「今日の締めに2人で観覧車に乗ってきたら?」
「え。2人で、ですか?」
どういう風の吹き回しかと首を傾げて空を見れば、空は少しばかり物言いたげな表情でこっくりと頷いた。
空の仕草に思考をめぐらせ、思い至った考えに目を丸くする。空は苦笑いを浮かべたが、私はそれどころではない。
つ、遂に、空公認の仲に……!
今まで空はどちらかと言えば反対派だと思っていたが、今回ばかりは味方してくれるらしい。
「神様!せっかくの機会ですし、一緒に乗りませんか?」
「え。2人は乗らないのかな?」
神様の手を取り、笑いかけると神様は困ったように周りを見る。
しかし、この場にいるのは私も神様を除けば空とイアさんだけ。つまり、空気を読めr
「私も乗る。」
「「え。」」
まさかのイアさんの発言に空と2人で固まる。神様は救いを見つけたようにイアさんを見た。
イアさんは私たちの反応に首を傾げ、やがて合点がいったのか言葉を付け足した。
「空と。」
「ああ。ボクとガイア、神様と姉さんで別に乗るんだね。」
「当然。私は弟じゃない。」
遠回しに誰を貶しているのか察した私と空は、未だに戸惑った様子の神様を置いて片付け始めるのだった。
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そして、遂にやってきた観覧車。
周りに遊具の灯りがあるとはいえ、薄暗い中乗る観覧車にテンションが上がり、神様が一緒であるという事実に更にテンションが上がる。
えっ。どうしましょう!まさか、こんな乙女の憧れのような展開になるなんて!
思考は舞い上がり、全く考えていなかった状況にどんな言葉を紡ごうかと思考が迷路に入る。
とはいえ、一度も妄想したことがないなんて訳もなく。理想は……そう。理想はあるのです。
だから、その通りにしてみれば……!
「……てぃ。プティ。おーい。」
「はっ!神様!」
「大丈夫?」
慌ててこくこくと頷き、状況を確認する。
辺りを見渡せば、かなり高いところまで来ていたらしく、神様も困ったように笑っている。長い時間意識が飛んでいたようだ。
えっと、見た感じ本当にあと少しで頂上、ですね。
「か、神様。」
「どうしたの?」
「いつもありがとうございます。」
「いや、本当に急にどうしたの!?」
柄にもなく殊勝なことを言い始めた私に驚いたのだろう、神様はおどおどとした様子で私を見ていた。
「別に、急とかそういうのではないんです。
ただ、初めて出会った時からずっと一緒に居てくれた神様に、お礼の一言だけでも言いたかった。それだけなんです。」
「プティ……。」
神様は初め、ただ仕事のために私に付き合ってくれていた。それが今では仕事のためではなく、私のために一緒に居てくれている。私との約束のために。
「なんて、すみません。改まってしまって。
でも、伝えておきたかったんです。神様に。」
戸惑った様子ながらも私の気持ちを受け入れてくれた様子の神様に少しほっとした。この調子だと本番が恐ろしいことになりそうだと少し気が重くなる。
それでも、伝えられるうちに伝えませんと。
ふと現実世界に一人で居ると考えてしまうことがある。
既に父も母も失った私には何の縛りもない。
ならば、私は何をしても自由なのではないか。
この生を捨てるも活かすも、自由なのではないか、と。
今の私には何の価値もない。ただ、海が培ったものの上に立っているだけの私に価値なんてあるわけがない。そんな私は世界にとって要らないのではないかと……海から貰った私であるが故に、捨てられはしないが思わずには居られなかった。
私は、誰かにとって必要とされない私は、もう捨ててしまっても良いのではないかと。
でも、いつからか気持ちが沈む度に、神様の存在を思い浮かべるだけで、私はころりと考えを変えられるようになった。初めはただ海が戻ったときのためばかりを思っていたのに、おかしな話だ。
神様がいるのだから、彼を悲しませないためにも私は自由に海として生きていかねばならないのだと、そう思うようになるなんて。
私は、本当の意味でもう貴方なしでは生きられないのですよ。神様。……私の、神様。
ガタンッと振動が伝わり、観覧車が止まったことが分かる。頂上まで来たようだ。
「あの、神様。もう一つ伝えたいことがあるんです。」
「何かな?」
静かに神様が私を見る。その視線に一つも熱が籠っていないことを私は知っている。
それでも、私は神様が好きで、神様がいなければ私はここに居ないと断言出来る。
私は何時だって不安定で、何時消えたっておかしくなかったのだから。
「神様、好きです。例え、空が海になりたいと言ったって変わってあげられないほどに。
貴方のことを愛してます。」
何時から私が譲れなくなったのか。譲れなくしたのは間違いなく目の前の人のせいであり、背を押したのは空だ。
それでも、この言葉を伝えると決めたのは私だ。その結末が例え想像通りのものであろうと、伝えられるときに伝えねば言葉は消えてしまう。だから、今伝える。言葉にしなければ、相手には本当の意味で伝わることなんてないのだから。
神様は真剣に悩んでくれたのだろう。答えが出たのは観覧車が動き始める頃だった。
次回、2人の答え
そろそろラスト……?
尚、空曰く
空「まあ、ボクの友人がお世話になったみたいだからね。今回はちょっとだけ力になってあげるよ。」
ということで、今回のお許しが出ました。
それでは、これ以降も良き暇つぶしをお送りください。




