201話 楽しみ方は人それぞれ
こんにちこんばんは。
順番がぐっちゃぐちゃで申し訳ない仁科紫です。
本当は書く予定がなかった人も書いているので致し方ないと思っていただければ……
それでは、良き暇つぶしを。
ルカがアキトとの焦れったい友人関係から恋人へとシフトチェンジした頃、トアはというと、至近距離のディボルトに内心あたふたとしていた。
トア自身は普段からディボルトと二人きりになることは少なくない。寧ろ、ほぼ一緒にいると言っても過言ではない程だ。
しかし、この明らかな良いムード、正に恋人同士ならばキスの一つや二つしてしまいそうな空気感にトアは完全にいつも通りでは居られなくなっていた。寧ろ身の置き場に困っていると言ってもいい。
こ、これはどうしたらいいのでしょう!?
ディボルト様と二人きり!しかも良いムード!と脳内がお祭り騒ぎし、最早真っ白になっているトアの頭はショート寸前だ。しかし、正面に座るディボルトはそんなトアに気づくことなく外の景色をぼんやりと眺めている。……ように見える。
その実、ディボルトの内心では思春期男子の如く荒波がたっていた。
えっと、この状況ってトアと二人きりだよな?今日はお淑やかな服装で髪もおろしてていつもと雰囲気が違いすぎるし距離近すぎてなんだかいい匂いがしてきそ……ちょっと待てその思考は流石に変態過ぎる……!ああ、もう!どうしろと!?
お互いにお互いを意識し過ぎて無言の時間が過ぎる。
そして、何も話すことがないまま頂上までやって来てしまった。
この観覧車、頂上が中から分かりにくいため、中から分かるように頂上で2分程度の停止時間を設けている。
つまり、2分間景色が変わらないこの時間は絶好の告白タイミングなのである。
「あの!」
「トア。」
「「あ……」」
完全に被ったタイミングにお互いが視線で譲り合う。あまりの焦れったい空気感に世界すらもさっさとくっつけと思ったのだろうか。
設計上あまり揺れないはずの観覧車内で思わずバランスを崩してしまうほどの突風が吹いた。
結果、何が起きたかは想像にかたくない。グラッと揺れたトアの体をディボルトが支える。……が、何の偶然かそのまま絨毯に倒れ込んでしまう。いつものディボルトならばこんな事にはならなかっただろう。しかし、今回、この場では違った。この場は空を飛べない、つまり背中にある翼はただの重荷にしかならなかったのだ。
うっかり崩したバランスのまま、至近距離で互いの顔を見る。この時点で互いに大ダメージを受け、トアの顔は真っ赤に、ディボルトの顔色は変わらないものの心做し耳が赤くなっているように見える。
「す、すまない……!」
一瞬で我に返ったディボルトは慌てて飛び退けようとするが、トアの指がディボルトの服を掴んでいることに気づく。
一方のトアはと言えば、無意識の行動であったため、ディボルトが気づいて漸く自身の行動を理解した。即ち、この時点で互いに瀕死のダメージをくらっているのである。
最早収集が付かないこの状況に、何を血迷ったのかトアは決心した。
今日、ここで今までの胸の内を明かす……!と。
エンプティが聞けばうっかり笑い転げてしまいそうな展開ではあるが、本人は至って真剣だ。数度深呼吸し、ディボルトの服を掴んだまま起き上がる。初めよりも近い距離感にドキドキしつつ、トアはディボルトを見上げた。
「あ、あの、ディボルト様。」
「な、なんだ。」
「わ、私……ディボルト様をお慕い申し上げております!末永く付き従わせてくださいませ!」
赤い顔がりんごも真っ赤になりそうな程更に赤くなる。ディボルトは顔色を見て体調が悪いのだろうかと心配になったが、トアの言葉はきちんと聞いていた。
聞いた上で、ディボルトは判断に迷っていた。
これは、まさか告白!?いや、そもそもトアが慕ってくれているのはいつもの事だし、付き従うのもいつもの事……あれ?これは告白ではない……?
鈍感主人公の如くトアの告白を告白ではないと認識したディボルトは、改まった様子のトアに真摯に答えることにした。
「ああ。末永く頼む。」
「ディボルト様!」
感極まり、ディボルトに抱きつこうとするトア。しかし、続く言葉に動きを止める。
「相棒として。」
「え。」
フリーズするトアを不思議そうに眺めるディボルト。二人は、トアがディボルトの服を掴んだままという近い距離感で最後まで観覧車に乗車していた。
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一方その頃、合流しなかったメルフィーナ達も最後だからと観覧車まで来ていた。しかし、観覧車の下に怪しげな動きをする人物を見て動きを止める。
「何をしているのですか。」
「ン?おオ!これハこれハ麗しノ【優雅なる蝶】サマじゃないカ!
こンな所デどうシタのカナ?」
「貴方こそどうしました?そんな所で1人で。」
あまり気に入っていない二つ名を呼ばれてメルフィーナはピクりと眉を動かす。つい言葉に棘があるのも致し方がないだろう。
一方の妖華は棘のある言葉にも気にした様子もなく、下を見て首を傾げている。というのも、妖華は観覧車乗り場の屋根の上に乗って観覧車を眺めていたのだ。流石に怪しすぎる。
ジトッとした視線に妖華はニヤリと笑みを深め、首をわざとらしく横に倒した。
「ンー?まァ、ワタシはカップルウォッチングっテところカネ。面白イ見世物ガない以上、自分デ見つけるシカないダロ?」
「まあ。悪趣味ですね。そんなだからアレスから追い出されたんですよ。
人の逢瀬を覗き見するなんて。ファミリアのマスターとして如何なものかと思いますわ。」
実は、妖華はかつてアレスファミリアでマスターをしていたという過去がある。もっとも、マスコットのアレスと性格が合わなかったから仕方がないのだが。
妖華はその後、アレスファミリアから妖華を慕うメンバーを連れて今のアテナファミリアが出来たのだ。別に追い出されたわけではなく性に合わなかっただけなのだが、そこまではあまり知られていない。妖華自身も真実はどうだってよく、今が面白ければいい快楽主義者だ。今はこの口論が愉しい。ならば、訂正するまでもないだろう。
そんな狸と狐の化かし合いならぬ山羊と梟の化かし合いに、それぞれのサブマスター達は顔を見合せていた。
「うちのマスターがすみません。」
「いえ。こちらこそ、いつも申し訳ありません。
あの人、本当に自由人なので……。」
「ははは……。」
妖華の今日の行動に全て付き合わされたカシューナツは、妖華がカップルウォッチングという悪趣味なことをしている間も下で待機していたのだ。カシューナツの愚痴は暫く止まらず、誰も止めることがない妖華とメルフィーナの口論は先に乗っていたルカたちが降りてくるまで続いたのだった。
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少し時を遡り、カルマは目の前の楽園に目を輝かしていた。
「ほうほう!これは百色紅を用いて染色しているです!ここまで様々な物を同じように染色できる素材だったとは!知らなかったですよ!」
嬉々として様々なアトラクションの細かいところを見て回る。錬金術を司るファミリアとしては、錬金術で作られたというアトラクションに興味がひかれないわけがない。
「ふふふ。我らがマスターは乗るよりも見る方にご執心かな。」
「当然ですです!乗るのも興味深いですが、我らが技術の進歩のためにも素材について協議を……!」
「はいはい。でも、折角だし乗ってみよう?
アレとか。」
「アレ……?」
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クラウンに案内されるがままに辿り着いたのはマグマの急流すべり。
目の前の乗り物に心をひかれ、好奇心の赴くがままに乗車したカルマは、10分が経過して頂上付近にたどり着いてもまだ興奮した様子だった。
「この火山のマグマにも耐える舟!これだけ乗ってもジュウともシュワッともいいませんです!
実に興味深いです!」
「ふふふ。でしょ?」
「はいです!やはり、実際に乗ってみると見るのでは……ガコン?」
突如として止まった舟に嫌な予感がヒシヒシとしてくるカルマ。そういえば、外から見た時にマグマを滑り落ちていなかったかという考えに至るまでにかかった時間はコンマ一秒。
脳内に叩き出された無慈悲なる結論にカルマは叫んだ。
「落ちるです!?むり!むりむりむりむりィ……!」
「わぁ。可愛いねー。大丈夫。お姉さんがいるからねー。」
よしよしと励ますように頭に手を置けば、誘導されたかのようにカルマがクラウンに抱きつく。
余程恐ろしいのだろう。先を見るのも嫌だとばかりに目を瞑り、僅かに震えている少年は普段の様子からは見ることの出来ない年相応の姿をしていた。その姿と言えば、カルマのファンクラブ隊長であるクラウンが思わずスクリーンショットを撮りたくなるほどである。……本人の了承がないため撮らないが、脳内フォルダに永久保存する所存である。了承を取っておけば良かったなと肩を落とすが、すぐに気持ちを切り替えてカルマを観察する。
身長差から肩に頭を預ける形となったこの体勢、仕草、表情、何をとっても完璧だ!シチュエーションもバッチシだし、あの大人びたマスターが私を頼ってくれているというのがまた……!
口元が緩むのを抑え、ついに来たその瞬間にカルマは叫び、クラウンはただ可愛い年下の男の子を愛でるのだった。
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「はぁ。酷い目にあったです。」
ようやく落ち着いた様子のカルマにクラウンはさて、次はどの乗り物に乗ってもらおうかと思案する。あの変わった見た目のフリーフォールも捨てがたいが、まず間違いなくカルマがオーケーを出さない。
どうにかして油断してくれそうなもので普段見れない姿を見せてもらえないか。……その前に、スクリーンショットの了承だけは貰っておこう。
「マスター。スクショ撮ってもいいかい?」
「スクショ……?僕を含めてですね?」
「そうだよ。記念に残しておきたくてね。」
「はぁ。まあ、良いです。無断で投稿等は絶対にしないでくださいです。」
「ありがとう!」
当然のことを念押しで注意するカルマはなんとなくでも嫌な予感がしているのだろう。ほんの少し眉間に皺が寄っている。
それでもせっかく許可がおりたことだし、と案内板で目をつけた機関車乗り場へ向かうのだった。
「機関車乗るの初めましてです!楽しむですよ!」
「そうだね。楽しもう!」
内心でうちのマスター可愛すぎっと悶えながらも、解散時間まで充実した時間を過ごすクラウンなのだった。
次回、
(トアの心内)
なんで告白したら相棒として末長くよろしくになるんですか!?まあ、そこもディボルト様らしくて浮ついていなくて素敵なんですけど!?
エンプティ「わぁ。救いようがないですねー。」
それでは、これ以降も良き暇つぶしをお送りください。




