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199話 デートは難しい

こんにちこんばんは。

月曜……ま、まあ、お詫び投稿ですからね。投稿できただけでも偉い私と自分を誤魔化す仁科紫です。

糖度高いので注意してください。


それでは、良き暇つぶしを。

 一方その頃、メルフィーナは舞い上がっていた。どのくらい舞い上がっていたかというと、普段は口に出して伝える好意を態度で表すほどに。

 恥ずかしさを押し隠して愛しい人の腕に胸を押し当てるようにして腕を掴む。はしたないと思ってやったことはなかったが、その度に他の人と違って目を逸らし、頬を赤く染めるアル・マキナ……アルのことがただただ愛おしい。

 しかし、表に出すことなく先程までいたアトラクションのことを口に出す。まあ、アトラクションというよりはふれあい広場といった方が正しかったが。



「ふふふ。この世界にあんな大きな兎さんが居たのね。可愛かったわ。1体譲って貰えないかしら。」


「も、モテモテだったね。フィーナ。

 でも、またテイムするの?クロやシロに拗ねられるよ?」


「それもそうなんだけど……だって、可愛らしいのよ。あの子たち」



 むうと頬を膨らませるが、そもそもメルフィーナがこの世界を選んだ理由がテイムした動物との会話なのだ。メルフィーナにとって、仲良しの動物を増やすことは息をするのも同然だった。


 メルフィーナは元々、重度の動物アレルギー持ちだ。動物を見る度に動物達の可愛い姿に対して過剰反応した体が全身で反応して気絶するため、近づくことすらできない。

 近づけば最後、気絶して保健室送りの毎日。

 猫や犬だけでなく爬虫類や鳥類まで守護範囲が広すぎるゆえに歩いて通学できず、忙しい両親に変わって近所の知り合いのお姉さんに送って貰う日々だった。それでもやはり、自分で歩いて行き帰りをしなければならない日はあり。どれだけ気をつけても全てを避けることは出来なかった。

 道端で倒れることは年に数回。近所の事情を知っている人に家まで運んでもらうこと月に1回と、色んな人に世話になった。特に近所の家から一番近い総合病院には仲のいい看護師さんが出来るくらいにはお世話になった。


 その日も目が覚めるといつもの病室だった。

 高校生だったメルフィーナはいつもと同じようにナースコールを押し、看護師さんを呼ぶ。いつもと違ったのは、その看護師さんの後ろから声が聞こえたことだ。

 病院に入る前ではあったが、確かに幼い声がした。興味をひかれたメルフィーナは看護師さんに尋ねた。

 その時に出会ったのだ。アルとは。


 当時入院していたアルと交流を深めたメルフィーナはこのゲームのことを知った。

 アルは一般向けのエリアに出てきていなかったが、暫くして一般向けエリアにアルが来たことでゲームの中で会えるようになった。

 その時につくったファミリアがヘラファミリアだ。

 正直幸せの絶頂だったと思う。

 しかし、そんな時にアルがプレイヤーに殺された。理由は嫉妬。楽しそうな姿が許せなかったと言った加害者を今でもメルフィーナは忘れられない。勿論、報復はしたし、すぐにアルとも会えると思っていた。実際はそうはならなかったが。


 連絡の取れなくなったアルを心配して探して探してようやく見つけたと思えば、ゲーム内の記憶を失っていたのだ。割と本気でこの世界を滅ぼしてやろうかと虎視眈々と狙っていた程には世界が憎かった。

 ゲームなのだから世界を滅ぼせるわけがないと思うかもしれない。しかし、この世界はゲームだからこそそれが出来てしまう世界なのだ。諦められなかった。

 まあ、それも記憶の戻った今となってはいい塩梅のスパイスとなり、以前よりも親密な関係を築けている。


 少し過去を思い返していたメルフィーナがふと意識を戻すと、ほんの少し首を傾げるアルが居た。



「……動物だけが?」


「違うわ!アルが一番よ。アルが一番可愛くてカッコよくて好き。あの子たちも可愛いけど、アルが一番。アルが居るなら、あの子たちは……残念だけど、居なくても大丈夫。アルが居るもの。」


「ふふふ。冗談だよ。そんなに慌てて否定しなくていいから。僕も大好きだよ。フィーナ。」


「もう!からかったわね!?」



 またからかわれた。普段は余裕のあるメルフィーナも、流石に恋人……この世界での伴侶の前ではただの少女に等しい。

 しかし、そんな自分もアルの前でなら良いかと思うメルフィーナだった。



 □■□■□■□■



 もう一方のカップル……と、言っていいのか怪しい2人組ディボルトとトアは空を駆けていた。それも真剣に。



「……っ!」


「今の、どちらが早かったですか!?」



 楽しんで貰えればいいとエンプティが軽い気持ちで作っただけのコースは最早、真剣すぎて他の人が入り込めないほどになっている。

 それもそのはずで、審判役の住人に詰め寄るトアの顔は必死であり、近寄りたい者など居ないほどだからだ。

 しかし、それを眺める変わった見物客が一人。



「イヤァ。こンなところデこンな愉快ナ催し物ガ見れるトハ。ワタシは幸運ダネェ。」



 のんびりと妖華が眺めるレースだが、こうなったのにも理由はある。

 勿論、初めはトアもディボルトと一緒に遊園地を楽しもうと思っていた。ディボルトが皆で遊ぼうなどと言い始めなければ。

 実はこのディボルト、無表情かつ無口、少々上から目線な発言をするだけで協調性というものをしっかりと持ち合わせる常識人なのだ。

 ディボルトの事となるとその辺のことを頭からすっぽ抜けてしまうトアは、想定外の主張に頭を抱えた。

 結果、勝負して決める事になったのである。結果は……



「判定、ディボルト勝利!」


「そんなぁ……!」


「皆と遊べるな。」



 ほわっと花が舞うような笑みを浮かべるディボルト。それはただのトアの幻視でしかなかったが、それを見たトアは、沈んだ気持ちも一転、この笑顔が見られるのならばいいかと思い直してしまうのだった。

 去っていく二人を見て残念がる者が一人いるが、そんなものが目に入るはずもない。2人はヘルサイドに向けて歩き始めたのだった。



「酷クないかネェ!?キミたちィ!」




 □■□■□■□■



 火山内の探索には結局6人で参加した。

 というのも、ルカさん達がジェットコースターに乗って本当にすぐに合流してきたからだ。

 その時にアキトさんの顔が青かった気がしたが、今はすっかりご機嫌な様子でデュランさんに話しかけている。……そう。何故かデュランさんに……。

 火山内探索用の車は3列の6人乗りで作成したため、1番前に乗るアキトさんと3列目に座る私とルカさんでは距離がある。何があったのか聞くには丁度いい機会であるといえた。



「それで、どうだったんですか?」


「どうだったも何も……ねぇよ。アキトの奴、本当はジェットコースター無理だったみたいで、乗る直前すっごい顔が青くなっててよ。アタシ、そこでようやく気づいて……。

 乗った後話す余裕もなく走り出したアキトを止められなかったんだ。」



 落ち込んだ様子のルカさんにどうしたものかと頭を捻る。

 正直、どう考えても今回はアキトさんが悪いという結論にしか行き着かないのだ。素直にジェットコースターは無理だと言えば良かったのだが、恐らく強がってしまったのだろう。

 普段ならその辺までルカさんは見て方向を決められたのだろうが、今回は絶賛空回りバーゲン中のルカさんだ。そこまで求めるのは無理があった。



「ルカさん、それってある意味脈アリなのでは?」


「は?」


「だって、それってつまり、好きな子には弱いところを見せたくない男心ってやつですよ。多分。」


「いや、でもよ。アキトってカッコつけちまうタイプだし、それに……」


「それに?」



 言い淀むルカさんに首を傾げる。

 いつも言いたいことははっきり言うタイプなだけにこの反応は珍しかった。

 迷いながらもルカさんは言うことにしたらしい。目線をさまよわせ、最終的に行き着いた2列前にいるアキトさんを見て口を開く。



「……多分、アイツ、ジェットコースターに乗ったことがなかったんだよ。そもそもな。」


「え。そうなんですか?」



 今どき遊園地に行ったことがない人は珍しくない。それならそうと言えば良いだけの話なのだが、やはり強がってしまったのだろうか。

 男の子とは度し難いと考えていると、ルカさんが語り始めた。



「アイツ、吸血鬼だろ?吸血鬼は病院のソフトからしかなれない。アンタはまだ治療中だからアカウントの返還を求められてねぇけど、本当は退院したら一般向けソフトに移行しなきゃなんねぇ。

 そんときは特殊な種族の場合、人間かエルフ、ドワーフ、獣人のどれかになんだよ。だから、今でも吸血鬼のアイツは出会った時からずっと入院し続けてんだ。それか、闘病生活を続けてる。

 そんな奴が遊園地なんて行ったことあると思うか?」


「ないですね。」


「だろ?」



 そこまで言われて理解する。アキトさんは遊園地に行けない状況である自身に負い目のようなものがあったのかもしれない。尋ねた際に浮かない様子だったのもそれが理由だったのだろう。

 アキトさんには悪いことをしましたね。というか、その仕様初めて聞いたんですが……神様から説明されてないんですけど?



「だから、そこまで分かってたアタシが無神経だったんだ。」


「ルカさん……。」



 言葉が出なくなる。

 そこまで考えて後悔しているルカさんにどんな言葉をかければいいのか。私には分からなかったのだから。

 本当に、人間という奴は厄介なものですね。



「まあ、聞いてくれてありがとな。アンタ、こういう話苦手だろうに。」


「え。分かります?」


「何年アンタと居たと思ってんだ。周りにこういう話された事ねぇだろ。」


「あーそうですね。」



 確かにその通りだと車の外を眺めながら思う。

 アトラクションは佳境を迎え、隠された秘宝を守るドラゴンと対峙していた。ドラゴンに向けて直接この車に搭載されている魔物避けの玉を投げて撃退し、空から降ってきたお宝を手に取って出口まで行くのが一連の流れだ。

 もうすぐでアトラクションが終わってしまう。その前にルカさんを慰めたかったのだが、上手くいったのかどうか。……海は、人としての感情の機微に疎かったんですね。


 今更ながら気づいた事実に、私もそうなのだと思い知らされたようで少し落ち込んだ。

次回、デートの結果


それでは、これ以降も良き暇つぶしをお送りください。


〜2024/05/27 20:00〜

出てきていたなかった→出てきていなかった

に訂正する誤字報告を適応しました

ポンコツですみませんm(_ _)m

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― 新着の感想 ―
[良い点] ひきこもごもですね。仲良しさん、いつも通り、ちょっと微妙。果たして効果は如何に♪ [気になる点] でも知識として知っているのでは?怖がって抱き着く場所だと。 [一言] 上手くいってるといい…
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