196話 向き不向きは補うもの
こんにちこんばんは。
やる気をどこかに置いてきた仁科紫です。なんか疲れてるんですよね……。
それでは、良き暇つぶしを。
線路と駅ができ、他のアトラクションのコース整備や建物の作成を3週間近くかけてなんとか終わらせることができた。
次は乗り物だと、早速機関車の作成に取り掛かることにした。
あれ?でも、機関車とは言っても何両作って何人乗るような形にするんでしょう?多めに型は作ったので4両くらいは作れそうですが。
「神様。とりあえず4両作れるようにはしましたけど、何両くらいにしますか?」
「2両でいいんじゃないかな。動力面を集中させる車両にあと2つ車両を繋げる感じで。」
「いいですね!そうしましょう!」
うきうきとまず外側の枠を作り上げる。今回は〈定着〉ではなく〈接着〉を使って組み立てていく。
金属の板は重いが、空や神様に頼んで持ち上げてもらってどうにか組み立てていく。終われば次は4箇所に複数の車輪を付けていく。この辺りは神様の指示に従って作業を続ける。
クラフト画面から簡単に作ることも出来るらしいが、神様曰く自分の手で作ったものの方が高性能なものが出来るとの事だ。
「でも、よく知ってるね。機関車の構造なんて。」
「たまたまだよ。機関車の模型を作ったことがあってね。」
「そうなんですか!?凄いですね!神様!」
「いや、それほどの事じゃないよ。趣味なだけだし。」
謙遜する神様だが、嬉しいものは嬉しいのか照れくさそうに笑った。はぁ。そんな神様も素敵です……。
時折失敗してはやり直しつつ、車輪を付け終える。レールに乗せて動かしたところ、特に脱線するようなこともなく動くことが確認できた。
次は内装に取り掛かる。
「やはり長椅子よりは2、3人席の方がいいと思うんですよね。」
「長椅子の方が作りやすいよ?」
「それもそうなんですが、アトラクションなら2、3人席の方が楽しめると思います!
それに、今回は窓ガラスをはめずに外の風を感じられるようにしましたし、より景色を楽しんでもらうためにも長椅子でない方がいいと思いますよ?」
確かにと頷く神様に少し気分が良くなる。私だってちゃんと考える時は考えているのだ。
先頭車両は未知の領域であるため、神様に丸投げして次の乗り物作成をしていく。型は予めできていたため、作成自体はそう時間はかからなかった。
残す問題は見た目である。
出来上がった乗り物を見れば、どれもこれも元の素材の色をしており、金属光沢だけのシンプルなものや木目が綺麗なものばかり。
「これは……」
「ちょっと地味、だね。」
「はっきり言い過ぎ。いいじゃん。シンプルで。」
「えーっと、テーマを忘れて貰っても困るんですけど?空。」
ごめんごめんと言う空は果たして謝る気はあるのだろうか。いや、見たところ全然反省していなさそうである。これは本当に悪いと思っていないのだろう。まあ、空ですしいいんですけど。
「確かにこのままだと遊園地というより、豪華な公園、かな?」
「遊園地ならもっときらきらさせたいですよね!」
「それなら塗装でもする?材料はまたとってこないと行けないけど。」
「ぜひ!行きます!」
流石神様だ。何かしら問題に行き当たればすぐさま解決策を提案してくれる神様は、一家に一台欲しい人物だろう。この例えより、1プレイヤーに1人ですかね?……どっちにしろなんか違いますね。
とにかく、こうして塗装するための染料を求めてやってきたのは不浄の街郊外にあるカラフルな森だ。木や草葉がとにかくカラフルという訳ではなく、一般的な青々とした森が広がっている。
では、どうカラフルなのかと言えば、植物のほぼ全てにカラフルな落書きがされているのだ。インクをぶちまけられたような草や、幹に顔のような落書きがされた大木など、実に様々で面白い。
「わぁ!凄いですね!」
「あまりうろちょろしすぎて離れないでね。
この森、迷子になりやすいから。」
「はーい!」
神様に注意され、いい子のお返事をすれば本当に大丈夫なのかという視線を向けられる。こればっかりは信じてもらうしかないが、今までの行いからして目を逸らすしかないのだった。
いや、流石に私だってこんな知らないところで迷子なんて……
と、思っていた時もありました。
「神様ー!空ー!何処ですかー!」
森を探索して30分もしないうちにフラグを回収するかのごとく迷子になった。この森でとれるというインクのなる木、百色紅を探していたのだが、上ばかり見ていたために見失ってしまったのだ。
百色紅はこの森にしか生えていない木で、通常花が咲くところに大量のインクが詰まった細長い紡錘形の実を付けるのだとか。では花は何処に咲くのかという疑問が湧くが、なんと花は咲かず、丸い実を使って落書きされた場所を実が気に入ればその場所に根を生やすのだとか。実に不思議な生態をしている。
尚、近くに土壌がない場合は芽を出さないらしく、賢過ぎてもはや普通の植物か怪しい所がある。
百色紅の生態は気になるが、それよりも今は神様と空を探す方が先だ。辺りを見渡しても残念なことに見覚えのある景色はない。そもそも、獣道しかないような森なのだ。慣れていない私では元の道を辿ることさえ無理な話だろう。
どうしたものかと頭を悩ませ、とにかく百色紅を探すことにする。この世界では1人のプレイヤーが1つの木から実を採取できる数は決まっている。私と空は2人で1人扱いであるため、空ならば気づけるだろう。
気持ちを切り替えてさっそく百色紅を探す。
神様に百色紅が好む土壌を尋ねていたのだが、神様もはっきりとしない様子だった。というのも、百色紅にも実によって好みがあり、水場を好むものもあれば、険しい崖を好むもの、むしろ洞窟の中を好むものなど、本当に千差万別なのだ。
これでは探しようがないが、百色紅を探す際にヒントとなるものがあった。それが落書きの数である。
加工していない百色紅の実は時間が経つほどに個体から液体へと変化していく。そのため、落書きがある場所は百色紅が近くにあるという証明になるのだ。
そして、勿論この落書きは百色紅とは関係なく別の生物が描いたものだ。
「キキキーッ!」
現れたのは全身をインクまみれにしたような黄色い猿。見た目はどこからどう見てもニホンザルなのだが、全身にペンキを塗りたくったかのように鮮やかな黄色をしている。それだけでも目を引くが、更に赤や青などのインクで汚したかのような斑な色合いはどこかのアーティストのようだ。
この黄色い猿はこの森で最もよく遭遇し、最も注意が必要な生き物だ。群れで動くことは少ないものの、頭がいいために一度見た技はすぐに対策されるらしい。つまり、一度で仕留めきる必要があるということですね!
「出ましたか!〈魔力糸〉!」
「キィッ!?」
粘着質な魔力糸を網のような形にして放り投げ、黄色い猿の動きを阻害する。
邪魔をされた黄色い猿は一瞬動きをとめたが、すぐさま抜け出すべくもがき始めた。
「させません!」
糸の性質を粘着質のものから細く鋭利なものへと変更する。黄色い猿を緩く覆っていた網は一転して刃物へと変わり、黄色い猿へと襲いかかった。
さあ、早く2人を見つけにいきませんと。
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「神様!空ぁ……!」
あれから2時間ほど経ち、百色紅の木を5本ほど回ったところでようやく合流することができた。
2人も私と同じ考えだったらしく、あらかた百色紅の実を集め終わったところだったようだ。
「もう。だから言ったのに。」
「すみません……。」
「プティにはリールか何かが必要そうだよね。」
「要りませんが!?」
いや、やっぱりちょっと欲しい気がする。神様から貰えるならなんでも嬉しいですからね。しかも、神様から離れるなという事ですから……
「……やっぱり、リールはやめよう。」
「何故ですか!?」
「そりゃそうだよね。」
思い直した神様が訂正し、すんっとした顔の空にも止められるのだった。ちょっとくらいならいいと思うんですけどねぇ。
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こうして材料を集め切り、さあ早速塗装するぞと意気込んだのはいいものの。
「えっと、あの……これはなんでもないんですよ?」
「うん。プティには向いてないみたいだね。」
「それはここに居る全員に言えることだと思うけど。」
「「はぁ……。」」
3人で揃ってため息をつく。
目の前には私が描いた尖った耳の謎の生物、神様が描いたブサカワという表現のふさわしい犬のキャラクター、空が描いたやけにリアルすぎてもはや怖い猫の絵が並んでいた。
うん。これは割と本気で遊園地向けではありませんね。
どうしたものかと頭を悩ます。
他の人に描いて貰おうにもイアさんは今、ノスさんに用事があるからとお出かけ中だ。逢瀬の邪魔をするわけにはいかない。馬に蹴られたくないですからねぇ。
他の候補と言えば……
「あ。」
「どうしたの?プティ。」
「あまりこの手は使いたくなかったのですが、たまには頼ってみようかと思いまして。」
神様は思い当たる相手が居ないらしく首を傾げているが、空は訳知り顔で頷いている。空は私と同じ人を思い浮かべられているようだ。
「と、言うことで。お願い出来ますか?ルカさん。」
「急に連れてこられたと思えば……まあ、いいぜ。珍しい奴の頼みだしな。」
そう。その人物とはルカさん。学校で先に話を付けておいたのだが、本人としては不服という体で参加することにしたらしい。
実はルカさん、結構絵が上手い。それもほわほわとした可愛らしいタイプの絵柄であるため、遊園地に向いていると思って今回スカウトしたのだ。
本人は勿論嫌がったが、そこはそれ、アキトさんとの2人きりのデートを提案するとすぐに食いついてきた。ふふふ。やはり情報は大切ですね。
こうしてルカさんという強力な助っ人を得た私たちは遊園地を完成しきったのだった。
後は細々とした飾り付けと運営方針ですね。入場料に遊園地内で販売する食べ物やグッズ等を考えませんと!
次回、いよいよお披露目
因みに、百色紅は百日紅から名付けていたり。
それでは、これ以降も良き暇つぶしをお送りください。




