194話 合成は大変
こんにちこんばんは。
眠たさにやられた仁科紫です。
それでは、良き暇つぶしを。
神様の主導により合成をすることになった私は、神様のお店のキッチンに立っていた。というのも、合成は所謂錬金術に近いものがあるらしく、火や釜を使ってするかららしい。
神様から貰ったエプロンと三角巾を身につけ、様々な素材の乗った机に向かって立つ。
尚、空とイアさんは傍観役に徹している。イアさんはこの手の作業が苦手であり、空は魔力が少ないからと言っていた。今回の作業は魔力が沢山いるらしい。
「それじゃあ、まずは基礎から教えるよ。」
「はーい!」
「まず、今回する合成は素材の強化作業に当たるんだ。」
「素材の強化ですか?」
イマイチ想像のつかない言葉に首を傾げると、簡単にだが神様が説明をしてくれる。
曰く、素材はそのまま使ってもいいが、合成を行うことでよりその素材の特性を強めることができるのだとか。
例えば、鉄を合成すると元の5倍以上の強度を持つようになる。ミスリルであれば、魔力親和性が3倍など。
これは建築だけではなく、鍛冶や裁縫等の生産作業に全て共通しており、料理で言う下ごしらえに当たるらしい。つまり、しなくてもいいが、した方が出来は良くなるという訳ですね。
納得したところで神様に作業を説明してもらう。
今回する合成は不純物の多い鋼等の金属類を精製するものと、使う素材を混ぜるものの2種類だ。
実は、素材には程度の差はあるものの不純物が含まれているらしい。これを取り除くには錬金釜に素材を入れ、魔力を含ませながら混ぜて浮いてくる不純物をお玉のような道具でとる必要があるのだとか。
「なんだか料理みたいですね?」
「どっかの誰かがアクみたいに取れたら面白いとか考えたんじゃないかな。
さあ、素材の量もかなり多いし、さっそく始めようか。」
「はいです!」
初めはそんなに大量の合成は出来ないからと2つずつ釜に入れ、火にかけて待つ。中に入れた鋼は数分もすると灰色の固体から液体へと変化し、次第にブクブクと沸騰し始めた。金属が溶けるとはどれだけ高温なのかと引いていると、神様が錬金釜に入れるとどんな物でも溶けるのだと解説してくれた。ただし、生物は無理らしい。
「流石に生物まで溶かせるとこれを武器にしようとする人が出てくるからね。実際、年に2回くらいは今でも試されるし。」
「そうなんですね。……でも、それって前例があるから試されるのでは?」
「まあ、無機物系なら使えなくはないからね。
本体から切り話せば生物判定もなくなるし。」
「もしかしたら、誰かがあたかも出来ると見せかけた動画でもアップロードしたのかもね。」
興味なさげに空が呟く。実際に有り得そうだと納得して、アクのような濁った泡を神様に手渡されたお玉もどきで取っていく。
不思議なことに2度3度とアクをすくうようにお玉を動かすだけで濁った泡は消えた。
「わっ。凄いですね!もう消えましたよ!」
「このお玉は特別製だからね。
そろそろ魔力を込めていこう。」
「分かりました!」
完全に濁った泡が消え、灰色から黒や白の線が消えて綺麗な灰色になったタイミングで神様に言われた通り魔力を流した。
お玉ではなく棒でグルグルとかき混ぜていくと段々液体が固くなってくる。
そうして回し続けていくと、最後にはコロンっと丸い塊が釜の中に残った。
釜を火からおろし、少し冷めたところで灰色の丸い球体を手に取る。熱しながら混ぜていたはずなのにその球体からは熱を感じず、ひんやりとしていた。
「これで完成ですか? 」
「うん。上手くできているよ。これで不純物が取り除けていなかったら、少し歪な形になるからこの形をよく覚えておくように。」
「はーい!です!」
そして、ここからが大変だった。
「ぐぎぎぎ……!」
「まだまだあるよ。頑張って。」
「う、うでが……!」
「他の人は手を貸せないからね。あと半分。」
「も、もう……」
「ほら、手が止まってるよ。動かして。」
「……。」
「あと100個。頑張ろう。」
そして……
「で、出来ました!やりましたよ!神様!」
「おめでとう。プティ。よく頑張ったね。」
「はいです!」
神様に頭を撫でられ、さっきまでが何だったのかと思うほど疲れが吹き飛ぶ。神様に褒められるならもう少し頑張っても……。
と、思った瞬間に頭をよぎる言葉の数々に思考を止める。
「……神様。」
「なんだい?」
一体どうしたのかと言いたげな神様の様子に目がすわる。いや、どうしたもこうしたもないのだが。
確かに一瞬褒められたことで浮上した気分は、一気に下落した。
「神様もこれ、出来ますよね?」
「うん?出来るけど……どうしたの?」
「どうしたもこうしたもないんですが!?
私が全部してましたよね!これ!」
そう。神様はサポートこそしてくれたものの、途中から声をかけるばかりで合成を私に任せっきりだったのだ。流石に私も怒っていいだろう。
そう考えてのことだったが、神様は苦笑を浮かべて頬をかいた。
「えっと、プティ。多分、何回したか忘れてるからだとは思うけど、一応僕も別で3分の2くらいは手伝ったよ?」
「……はい?」
「あと、合成の熟練度を上げるために1000回くらいはやって欲しかったからそれ以上は手伝えなかったんだ。」
「……え。」
本当のことなのかと空の方へ向けば、空も苦笑して頷いており、イアさんは気がつけば頭をポンポンと撫でに来ていた。
あまりの事にポカンと固まっていると、徐々に恥ずかしさが勝ってくる。
「は、そ、えっ……きょ、今日は疲れたので帰りますっ!」
さささっとログアウトをしてその場を去る。いつもなら神様たちと離れることに寂しさを覚えるが、今日に限っては一刻も早く離れたかった。私のバカ、私のバカぁっ!神様が手伝わないなんて今までなかったのに何故ムカついてしまったんでしょうっ!?
ログアウトして暫くしてもなかなか眠気は訪れそうにないのだった。私のおバカぁっ!!
「あーあ。あれは暫く気まずいだろうねぇ。」
「我らが父の作業は分かりにくい。気づかなかったのも仕方がない。」
「あー……これ、僕が責められてる?もしかして。」
エンプティがログアウトした後、ジトっとした目と無表情ながらも圧を感じる視線に顔を引き攣らせる。
確かに自分でも分かりにくかったとは思っている。アルベルトの合成は一瞬であり、最早錬金釜すら要らないのだからエンプティが気付かなかったのも当然だった。
「当たり前でしょ。あの状態なら怒るよ。普通さ。」
「プティはくたくた。隣に傍観者はムカつく。」
「……それもそうだね。僕が悪かった。後で謝っておくよ。」
こくりと頷く2人に眉を下げる。
ほんの少し憂鬱になった明日に溜息をつきつつもどう謝ろうか考えるアルベルトなのだった。
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「うぅ。気まずいです……。」
エンプティは翌日、ゲームにログインする前からウロウロと部屋を歩き回っていた。
思い起こすは昨日の出来事。思わず苛立ってしまったが、疲れ切っていたとはいえ神様からすれば理不尽だったに違いない。神様は親切にやり方を教えてくれていたのだ。あそこまで怒る必要はなかっただろう。挙句、恥ずかしすぎて逃げ帰るというこの体たらく……流石の神様も呆れたに違いない。はぁ。本当に、何やってるんでしょう。私。
「ここは気合いをあげて謝りませんと!」
ぺちりと頬を叩き、ゲームにログインする。
早速見つけた神様の姿に息を整え、助走をつけてジャンプする。
「神様ぁあああああっ!」
「えっ。何!?プティ!?」
「ごめんなさいぃいいいいっ!!」
空中で体勢を整え、所謂土下座の形を作る。ダンッというよりもベチャッという擬音語が似合う着地をして、あ。思いの外難しいやつをしてしまったと一瞬頭に過ぎったが、今は気にするところではない。
試しにジャンピング土下座なるものをやってみたが、私には合わないようだ……って、そうじゃなく。
「神様!」
「えっ、う、うん。何?どうしたの?」
「昨日、理不尽に怒ってすみませんでした!」
ガバッと頭を下げる。
「い、いや、あれは僕が悪かったから。何も事情の説明をしなかった僕が悪かったんだよ。
だから、立ってくれないかい?」
「いえ!神様が謝ることなんてありませんから!私が悪いんです!」
「いや僕が……」
「いや、何やってるの?2人とも。
姉さんも立ちなよ。通行の邪魔だよ。」
延々と続きそうなやり取りを通りがかった空が止める。
私の気持ちはまだまだ謝りたりなかったが、空が言うならと立ち上がる。
「おはようございます。空。」
「うん。おはよう。
でも、なんで姉さんが謝ってるの?あれは姉さんよりもそこにいる奴の方が悪かったと思うけど。」
「辛辣だね。言いたいことは分かるけれど。」
「いや!私が悪かったんですよ?
空、そんなに言うことないじゃないですか!」
空は私贔屓が過ぎると頬を膨らませると、肩を竦めてため息をつく。
そこへイアさんがやって来た。イアさんは私たちの状況を見て不思議そうに首を傾げている。
「何やってる?」
「あ。イアさん。おはようございます。
神様と謝りあってたんですよ。」
「?なぜ?あれは我らが父が悪い。
プティが謝ることではない。」
「えぇ。イアさんもですか?
あれはお互い様だと思うんですが……。」
神様と謝りあったために段々私だけが悪いのではなく、お互い様だと思えてきた私である。とはいえ、やはり神様だけが悪いとは思えませんが。
「そう。プティが思うならそれでいい。
私が許す。」
「許されました!なので、お互い様、ですね!」
「え?あ。うん。お互い様、だね。」
「はぁ……。仕方がないな。
いいよ。今回はお互い様ね。」
こうして神様とのちょっとした喧嘩は終わったのだった。
さあ、今日も頑張って合成しますよー!
次回、さくさくと準備は進み……
因みにそのどっかの誰かとはアルベルトの同僚だったり。
「なんかさぁ。隠し要素とかあったら面白そうじゃない?」
「隠し要素?そんなの居るのか?」
「ほら、より良いものを作るって考える人にとったら工程は増えれば増えるほどいいんだよ。」
「へー。」
という会話があったとかなかったとか。
それでは、これ以降も良き暇つぶしをお送りください。




