193話 素材集めは最終回
こんにちこんばんは。
ちょっとキリがいいので短めな仁科紫です。
それでは、良き暇つぶしを。
あれから1週間と少しかけて鉱山で集められる素材を集め切り、残すは宇宙石とカメレオン石、スライムゼリー、水スライムの核のみとなった。
宇宙石は文字通り、宇宙に出て浮遊している石を取るだけで良かったため、月に行って神様特製虫取り網で確保するだけで集まった。
確保したあとが大変でしたけどね。まさか本当に持っているだけで浮いてしまうなんて……。
宇宙石を手に持ってしまったがために起こった悲劇はなかった事として、目の前の密林へと目をやる。今は愛情の街の郊外にある密林でカメレオン石を探しているところだった。
「とはいえ、まさかカメレオン石が生き物の事とは……。」
ここに来るまでに受けた神様からの説明を思い出す。
カメレオン石とは通称のことであり、実際の名前は岩憑カメレオンというらしい。その実態はなんとも哀れなもので、何十年と岩に擬態し続けた変化カメレオンが気づけば岩から別のものに変化出来なくなり、進化した先が岩憑カメレオンなのだとか。
そんな岩憑カメレオンの能力は、体を切り分けられても生き残れるというものであり、体はカメレオンとしての能力を忘れず残していることから、周りの風景に溶け込ませたい時に使われることがある。
要は、カメレオン石を貼り付けた家は周りから見えなくなるため、隠れ家を持ちたい人やこっそり何かをしたい人なんかが持っていることがあるらしい。更には、ただ持つだけでは効果がないものの、装備品の素材として使えば姿を隠すことも可能と聞いた日には、私も1着作ってもらおうか考えたほどだ。イタズラの幅が広がりますからねぇ。……神様には何故か許可して貰えませんでしたが。
岩憑カメレオンは動けない生物となった自身の境遇に時折怨嗟の声をあげるらしく、今はその声を頼りに探しているところだった。
「キィイイイイイヤァアアアアアアアッ!!」
「あ。こっちですね。」
何処かのホラー映画で聞いたような女性の金切り声があがる。
しかし、これが岩憑カメレオンの鳴き声であり、既に何度か遭遇した巨大な謎の空間からする音だった。
岩憑カメレオンは確かに岩に擬態している。しかし、長らく岩に変化して完全に岩に取り憑くだけの存在となった岩憑カメレオンは、カメレオンとしての特性を岩となっても発動するようになってしまった。結果、周りの風景に溶け込む岩がある場所は密林の中でポッカリと空いたスペースに見えるのだ。
だからか、この地域は肝試しに訪れるプレイヤーも多く、私たちが岩憑カメレオンを探している間にも何人かとすれ違った。
「えーっと……ん?声がなくなってしまいましたね。」
無駄足を踏んだと溜息をつき、また耳をすませる。これで既に5回目。私が金切り声の近くにたどり着く前に消えてしまうという事象にも、いい加減慣れてきてしまうほどだった。
初めは神様たちが回収したのかとも思ったのだが、別行動している神様たちと出会った際に違うと言われたのだ。どうやら、他にカメレオン石を必要としている人達がいるらしい。
ですが、これで5回目ともなればかなりの量のカメレオン石を手にしたことになります。一体何を作る気なんでしょう?
岩憑カメレオン1体から手に入れられるカメレオン石は10個。5個あれば装備を作るには十分であり、50個あれば小屋、100個あれば大きめのログハウスを隠す程度の量は手に入れられる。
つまり、今回行く先々で岩憑カメレオンを手にしている人達は既に小屋を隠す程度のカメレオン石を持っている事になる。もし、仮にこれ以上岩憑カメレオンを確保する動きがあるとするなら、かなり大きなものを隠そうとしている集団が他にいるのかもしれない。
私たちはアトラクションのためですけど……怪しいですね?一度、神様たちと合流すべきかもしれません。
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「え?プティの方も?」
「はいです……。かれこれ7回目なのですよ……。」
あれから2回ほどまた先を越され、1時間経ったこともあり合流地点に集合していた。
はぁと溜息をつき、合流した2人を見る。尚、イアさんは今回お留守番を言い渡されている。前回のやらかしの件もあるが、今回は役に立てないからとすんなりと諦めていた。岩憑カメレオンはイアさんのレーダーに反応しないらしい。「あれは冥府の領域だ」とは、イアさんの言葉だ。
「ボクの方は3回かな。8回はボクが先だったけど、去っていく気配はしてたから狙ってたんだとは思うよ。」
「僕の所は4回。100個は確保してるけど、狙ってたのはそのうち7回だね。」
やはり他にも回収していたらしい。複数人数で動いているのだろう。今で合わせて140個……使い方にもよりますけど、御屋敷くらいは作れそうですね。こうなると1つのグループというより、複数グループが集めていたと言われた方がしっくりくる気がします。
「うーん。カメレオン石って結構人気なんですか?」
「えぇ。どうだろう。カメレオン石か……。
用途が限られているからね。それなら、昨日まで行っていた鉱山の方が人気だと思うよ。」
昨日までいた鉱山は神様が言うだけあり、確かに採掘していると視線を感じることがあった。……主に掘りますくんのせいですけど。流石にああいう機械的なもので採掘する人は、あまりいないらしいですからねぇ。
「そもそも、カメレオン石が大量に必要な建築物を作るっていうのも最近はあまりないんだよ。
そういう土地は粗方埋まっているし、最近はもう人気もあまりないはず。」
「それなら、建て直しの為に必要だとかはないんですか?」
「あるにはあると思うんだけど……ただ、今回はプレイヤーじゃないみたいなんだよね。」
「え。そうなんですか?」
空の言葉に目をぱちくりとさせて神様を見れば、神様は頷き、今回の相手はこの世界の住人だと伝えられた。
即ち、大量の姿を隠す材料を使ってこの世界の人が何かを作っている……
「つまり、犯罪集団の隠れ蓑がこれからつくられようとしているのでは!?」
「流石に考えが飛躍しすぎてると思うけど。」
「そうだね。ただ、完全にその推測が外れているわけではなさそうだよ。」
半分冗談で言ってみたのだが、まさかの空の反応に驚く。え。本当に言ってます?
私の疑問が顔に出ていたのだろう。空は苦笑しつつ口を開いた。
「相手がコソコソ話していたんだよ。
『親方はまだ集めろって?あと何回あの悲鳴を聞かねぇといけねぇんだよ。』ってね。」
空の妙に上手いモノマネに思わず笑いそうになるが、それよりも内容が気になった。どうやら、主犯は親方と呼ばれている人らしい。
ふむふむ。これは事情を聞いた方が良さそうですかね?
必要なカメレオン石は650個。今は空と神様が集めた180個しかなくて、あと3倍以上は必要ですから、邪魔者はいない方がありがたいですし。
「それなら、1人捕まえてみますか?」
「無用な争いに首を突っ込んでも時間を無駄にするだけだよ。姉さんは早く遊園地を作りたいんでしょ?」
「それはそうですけど……。」
今採取に時間がかかるのと邪魔する人の原因を取り除くのであれば、間違いなく後者の方が時間はかかる。とはいえ、気になるのは事実なのだ。
こんな面白そu……コホン。もしかしたら、困る人がいるかもしれませんし!
「だいたい、姉さんは相手を一度も出し抜けてないでしょ。」
「うっ。」
それを言われると痛いのが本音だ。確かに、そもそも私の実力では捕まえられなさそうなのだ。2人を頼るしかないのなら、私が提案すべきことではないだろう。
「……分かりました。今回は諦めます……。」
「うん。それじゃあ、皆で他のカメレオン石を探しに行こうか。」
「えっ!何でですか!?」
「プティ、僕と一緒なのに嬉しくないのかい?」
神様ににっこりと微笑まれ、冷や汗をかく。あー。これ、バレてますねぇ。
流石は神様。私の行動はお見通しだったようで、1人にしたら1人で勝手に捕まえに行くよね?と顔に書いてある。ぐぬぬ……!
「わぁかりましたよ!皆でカメレオン石を集めましょう!」
「うん。頑張ろうね。」
こうして、効率は多少落ちたものの、2日かけてカメレオン石を集めきったのだった。悪者退治したかったんですがぁ……!!
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そして、残るスライムゼリーと水スライムの核に至っては火山の街のダンジョン、ポントスさんの神殿があった場所でサクサクと集め切ることができた。
いよいよ建築の開始というわけである。
「さあ!神様、まずは何をしましょうか!」
「うん。まずやることは決まってるよね。」
「それは……?」
「合成だよ。」
建築と思っていただけにポカンとしてしまったが、次は合成らしい。一体、何をするんでしょうねぇ?
次回、合成とは?
因みに、悪い集団と勘違いされた人々。
ヘルメスファミリアの調査員だったり……。
「まだまだ集めねぇと、マスターがこぇーからなぁ。」
「でも、なんで今更になってカメレオン石っすか?」
「さぁな。でも、俺たちゃぁ集めるだけよ。」
「そっすね!」
それでは、これ以降も良き暇つぶしをお送りください。




