191話 攻撃方法は迷子中
こんにちこんばんは。
材料集めにどれだけ時間がかかるのかと戦々恐々中の仁科紫です。
それでは、良き暇つぶしを。
お次は晴雲羊の毛ということで、やって来たのは大地の街のダンジョンだ。
なんでも晴雲羊はダンジョン内に大量発生するらしく、割と苦労することなく手に入れられるとのことだ。
ただし、気をつけるべきはその質量。
晴雲羊は晴れた雲に擬態した羊だ。その大きさは人が抱えられる程度のものだが、とにかく数が多い。1つの群れで100頭はいると言われているのだとか。そして、敵を見つけると群れ全員で向かってきて圧殺しようとしてくるらしい。
しかも、晴雲羊はたった2頭でもプレイヤー1人を倒すのに十分な質量を作り出すことが出来るというのだから恐ろしい。
「でも、どうやって2頭でそんな質量に?人が抱えられるということは、ぬいぐるみサイズでしょうし想像がつかないです。」
大地の街でダンジョンに潜りながら神様の話を聞いて疑問に思ったことを口にする。
確かにクッションを顔に押さえつけられると息ができなくなるという話はよく聞くのだが、まさか頭を固定する役割をそんなサイズの羊が出来るわけもない。避けるのは簡単なはずだ。
そういった考えからの質問だったのだが、神様は笑って見ればわかるよとだけ言った。
そして、たどり着いた晴雲羊がいるという8階層でのこと。
私たちはそれを発見した。
「あれは……」
「あれが晴雲羊だよ。その重さは正に雲の如く軽いが、敵がふれれば一転し鉛のように重くなる。」
フワフワと綿のように浮かぶ雲をよく見ればそれが点々とした何かの集合体であることが分かる。
触らなければ本当に無害なのだろう。こちらを見向きもせずに飛ぶ姿は神様が言うほど害があるようには見えなかった。
「あれを倒せばいいんですよね?」
「うん。ダンジョンはランダムドロップだから、数を倒す必要はあるけどくらいなら1000頭倒せば十分だと思うよ。」
もはや数がおかしすぎて1000頭という言葉を軽く神様は言うが、どう考えても大変な数である。
……まあ、この後の鉱石堀り大会に比べれば圧倒的にマシであることは間違いないんですけど。
思わず今後のことに思考が飛んで行ったが、誰も責めることは出来ないだろう。この後に待ち受けるのは約10万回もの延々と繰り返される肉体労働なのだから。ピッケル振って〜何が出るかな〜……10万回……
「それじゃあ、やりますか!」
今はとにかく目の前の羊に集中と気持ちを切り替え、何で攻撃するかと考える。魔法一択ではあるんですけどね。
「うーんと、あの範囲の羊を倒すなら……〈シャドーボール〉?」
流石に妖華さんから貰った魔法は威力が強すぎるだろうといつか練習したシャドーボールを使う。
イメージするのは周辺を飲み込み消え去る闇の玉だ。まずは手のひらに乗る程度で様子を見ましょうかね。
ふわふわと近づくシャドーボールに警戒心を抱いていないのか晴雲羊は変わらず浮かんでおり、シャドーボールが晴雲羊に触れると同時に端の方の1頭が吸い込まれて消えた。なるほど。アレ1つだと羊1頭が限界のようですね。
ふむふむと私が分析している間に羊達は一瞬行動を止め、次の瞬間にはシャドーボールからピュンッと距離をとった。何処からそんなスピードが出せるのかという程の速さに思わずポカンとする。
そして、暫く動かなくなった後、何故か私の方へと一斉に進んできた。
「えっ、えーっ!?なんで急に!?」
「やっちゃったか。
晴雲羊は群れの1頭でも居なくなると攻撃した人を追いかける習性があるんだ。
あと、後ろの羊が後ろから風で押して移動してるから前は引いてもいいし、何らかの魔法を使ってもいい正に集団戦法が得意な生き物なんだよ。」
「冷静に解説してないで手伝って貰えますかね!?〈ニケの翼〉!」
およそ20頭は居るだろう羊の数に頬を引き攣らせてニケさんを召喚する。
ニケさん、気がついたら個別のアイテムじゃなくてスキルになってたんですよね。解雇されたんでしょうか?
(断じて違うが。主が使いやすいように変更したまで。私はこんなに主のためを思っているというのにな……シクシク……。)
(あのー。嘘泣きやめてもらっていいです?気まずいので。)
(……ちっ。)
なんだかんだ言ってはいるもののニケさんのお陰で羊から一定の距離をとることに成功した。……それはそうと、ニケさん?舌打ちが聞こえた気がするんですが、私の気のせいですよね?
最近より人間臭くなったニケさんに思いを馳せてと、後ろから風を感じて振り向く。
その先には刀を振り抜いた神様が立っていた。先程の風は羊を倒しときに生じたもののようで、こちらへと向かってくる羊は見る限りいない。
「大丈夫?」
「あっ……はい。大丈夫です……。」
神様に助けられた……ぅ、うぅうううっ!?な、なんだかムズムズするんですが!?
しかも、妙にかっこよく見えてしまったあの瞬間はなんなんでしょう!?これが所謂吊り橋効果でしょうか!?
うーわーと叫びたくなる気持ちと共にホワホワとあつくなる頬を抑え、ため息を一つもらす。
最近、本当に頭の中がお花畑になってきてますね……。
頭を冷やすべく頬をペチリと叩き、神様を見る。神様は案の定と言うべきか不可思議な行動をした私を心配そうな目で見ていた。
「本当に大丈夫?」
「あっ。は、はい!神様のプティは完全無欠なので全然お気になさらず!」
「……本当に大丈夫?」
「はい……大丈夫です。すみません……。」
あー完全無欠ってなんなんでしょう。本当に何言ってるんでしょう。私……。テンパリすぎと言うより、自分で自分のことを心配になるレベルですね……。
(全くもってその通りだな。)
ニケに言われるまでもないんですが!?
お花畑に占領される脳内から花を毟り取り、思考を現実に戻す。
今はどう考えても晴雲羊に関してだ。数を倒すためにも作戦が必要だろう。そのためにも情報は必須だ。
「えっと、助けて頂きありがとうございます。
どうも私は魔法の使い方が上手くないですし、いくつかの羊の群れを1箇所に集めて神様がドーンッと一気に倒した方が良さそうですね?」
「うーん。確かに、その方法でもいいとは思うんだけど、プティはもう少し魔法を試してみてもいいんじゃないかな。
的なら沢山いるし、さっきみたいに補助はするからこの際戦い方を確立させた方がいい気がしてきたよ。」
付け焼き刃だと忘れるみたいだしねと言われ、そういえば戦闘訓練をしていた時期もあったと思い出す。
なんで忘れるのかと言えば神様が頼りになりすぎるのと、空が戦ってくれるからなんですよね。
元々私の武器は魔力糸と魔法の2つだ。
魔力糸を基本的に使ってはいたものの、今回のように的が小さいと有効的であるとは言えず、レイドボスのように大きすぎるとそれもまたそれで使いにくい……いえ、まあ、使い方によるとは思うんですが。
しかも、魔法に関してはその時その時に魔力にものをいわせて魔法を使っているせいでこれといった決まった魔法がないのだ。正直今でもどう魔法を使ったものかと考えているほどである。だからこそ、他人が考えた魔法を他人に譲れる魔術書が売れるんでしょうけどね。
結局、私の戦い方で一番有効的な攻撃とは何かという問題に直面しているのが現状だ。神様の言う通り、晴雲羊を的にして練習するのが一番良いだろう。
「分かりました!色々試してみます!」
「うん。頑張って。」
「はいです!頑張りますよー!」
妙に気合いの入った私に何を思ったのか少しばかり遠い目をした神様がいたが、私はそれ所ではなく遠くに捉えた晴雲羊へと意識を向けていた。
えっと、魔法はイメージ、言葉で意味を作り出す……私は光と闇属性なので、この2つを使った魔法となりますね。
光と闇は互いに打ち消し合う関係でありながらも互いになければ存在できない関係でもある。だからこそ光と闇属性は完全に混ざりあうことは出来ないものの同時に使用することはできるのだ。
とはいえ、今の私の状態は空と分かれているので光属性にかなり寄っているんですよね。闇を含むにしても光の威力を増すのに使えるかどうか……?
光で敵を消し去る……広範囲の技が今回は良さそうです。とはいえ、ただ巨大な光の玉というだけでは攻撃力がないんですよね。ダークボールには攻撃力があってもライトボールにはないですから。
元々、光は治癒、闇は攻撃というイメージでしたし……。
攻撃力のある光……熱光線、紫外線、太陽光……結局、熱がある光でないと攻撃力ってないんですよね。紫外線に至っては見えませんしそもそも光でしたっけ?これ。
太陽から降り注ぐものではありますけど、紫の外の線、つまり見えない色の線なんですよね。はたして光に分類していいのか……あ。いつの間にか脱線してました。
……熱を持たせた光の玉をつくって投げる……熱を持たせるには、光を構成するものを激しく振動させれば力を持つ……んでしょうか?
そもそも、光ってなんで光るんでしょう?物が見えるのは物に光が当たったものが反射するからですし、光には直線に動く力があるはずです。つまり、光を攻撃として使う上で攻撃力を持たせるにはその性質を歪める必要があるわけで。
……うん。結局、よく分かりませんけど多分、今回は光の魔力を激しく振動……ランダムに不安定にさせればより攻撃力が増す……?……闇は不安定であるが故に全てを飲み込むというのであれば、性質としておかしくはない、かもしれませんね。この推測通りであれば光を不安定にしていくと闇に転化するはずです。あれ。これって貰った魔法の原理のような……?これを逆にして、不安定な闇を安定した光へと変化させることで生じるエネルギーで敵を倒していたとか……まさか、ですね。とりあえず、やってみますか。
「我求めるは空を覆い尽くす程の光。」
唱えると上空が眩しい光に包まれた。魔力の消費はおよそ5分の1程。流石にただの光とはいえ、広範囲なだけに結構削られている。維持する程に消費魔力は増えますからね。早く最後まで唱え切りましょう。
「全てを照らす光は多くを見るが故に揺らぎ、闇に墜ちる。」
白い光が想像通り、黒紫色へと変化して下にいる羊たちが吸い込まれていく。あとは……
「しかし、堕ちた光は再び戻りて、かつての栄華を取り戻さん!〈神様の一生〉!」
黒紫色は再び白い光へと変化し、消え去った。なんとか上手くいったようだ。消費魔力は8割……20万程で攻撃力は〈混沌なる夜明け〉の4分の1くらいといった印象だが、普段使うならこのくらいがちょうどいいだろう。
ふふふ。カオスファミリアからちょっと取ってみました。混沌なる一生。まさに私たちみたいですし、これからも使うことにしましょう。
「神様!見てました!?上手くできたと思うんです!……神様?」
「……あ。うん。凄いね。プティは。……やっぱり、あっちはナーフしないとだよなぁ。」
「?」
神様が何かを考えている様子は気にかかったが、とにかく攻撃手段を自力で手に入れた私は、この後も素材を手に入れるべく晴雲羊を倒し続けたのだった。
「ふふふ。意外と楽しいですね!」
「プティが戦闘狂になる前に止めないとなぁ……空くんに怒られそうだ……。」
次回、肉体労働へ
街に関する裏設定(多分出てないはず……)
各街は元々ダンジョン(旧神の封印の地)を更に強化するべくそれぞれに封印されていた旧神とは逆の属性の街を形成されていた。
現在は形式的なものとなっており、属性の拮抗をさせることで島全体の安定化をはかっている。
それでは、これ以降も良き暇つぶしをお送りください。




