2話 貴方は神様
こんにちこんばんは。
何度か読み返してはいるものの、感情表現やらなんやらが慣れない仁科紫です。
語彙力ぅ...。
それでは、良き暇つぶしを。
『エンプティ…空って、君、自分に凄い名前を付けたね。』
今付けた名を咄嗟に名乗ると、返ってきたのはその言葉だった。苦笑いする神様に内心ムカッとする。
失礼ですねぇ。これでも大真面目なんですが。
あと、何故、自分で名付けたとバレたのでしょう?それとも、ここでは自分で自分に名をつけるのが普通なんでしょうか?…下手に答えて、記憶がないとバレるのは面倒です。ここは不満だけ述べておきますか。
そう結論付けた私はニヤリと笑うような雰囲気を思い浮かべつつ目を細める。
『いいでしょう?空っぽの自分にこれから思い出を詰めていくんです。ぴったりですよ。』
『…なるほど。』
少し間をあけ、考えた後、神様は納得したように頷いた。
おや。割と冗談で言ってみたんですが、これで納得されるとは意外ですね。
…それにしても、何処でからかってやりましょうか。神様って呼ぶ方もなかなかにハードルが高いですね。これ。
え?じゃあ、呼ぶなって?いえいえ。一度決めたならばやり遂げるべきだと思うのです。私とて、記憶はなくともその程度のプライドはあるのですよ。
……もう、なんだか面倒臭いですね。ええぃっ!ままよっ!なのです!今言ってしまいましょう!女は度胸とも言いますしね!
心の中でヤケになりながらも、それが表に出ないように平静を装い、神様に話しかけた。
『ところで、神様?こちらには何をしにいらっしゃったのでしょう?』
ジッと神様の反応を一瞬も見逃さないように待つ。
くふふ。見ものですね!やっぱり、慌てて聞き返したりするんでしょうか?想像するだけで気分がいいですね。何かが満たされます。
ニヤニヤと内心で笑いつつ、頷いた神様の様子を映画館でポップコーンでも食べるような気分で眺める。いわゆる鑑賞会のようなものだ。
『うん。君を…って、え。か、かかかかみ?うぇ?髪?……神様!?僕は神じゃないっ!って違うくって…えっと……ああもう!なんてことを言うんだ!君は!悪ふざけにも程がある!!』
突然の私による神様呼びに狼狽えた神様は顔を青くしたり赤くしたりしながら、私の方をジロリと睨んだ。
…ぷふっ。全然怖くないですね。寧ろ、大満足です。
想像以上に満たされる感覚にホワホワとした気分になりながらも、少しばかりの違和感に首を傾げる。
それにしても、神様は神じゃないって否定していましたが、つまり、この世界には神様がいたりするんですかね?
いえ、まあ、私にとっての神様は神様ただお一人なのですが。他に神がいないとそんな否定の仕方にはならないでしょうし…。
……考えても分かりませんね。また今度にでも聞くとしましょう。
ひとまず疑問は置いておき、真面目な声で神様に話しかけた。
『悪ふざけじゃありません。大真面目です。
お名前、アルベルト・テオズさんと言うのですよね?ならば、テオズさんとお呼びするべきかと思ったのですが、面白みにかけているかと思いまして。神という意味をもつテオスに似ているので、神様と呼ばせて頂こうかと思った次第ですよ。』
そう言ってニッコリと笑おうとし、頬が動かないことに違和感を覚える。
…そーいえば、動かないんでしたね。忘れていました。
動かない頬に格好がつかないなと落ち込んでいると、私の言い分をどう思ったのか、神様は黙りこくって考えているようだった。
…何かを葛藤しているようにも見えますね。
ふふふ。さあ、悩め悩めなのです!これ程愉快なことはないのですから!
ふははははっと、何処か悪役っぽく内心で笑う遊びをしていると結論が出たのか、神様は顔をあげてため息をついた。
『……はぁ。本当にただアルベルトって呼んでくれるだけでよかったんだけど…仕方がないね。これは僕のミスのようだし。いいよ。好きなように呼んで。』
『では、神様とお呼びしますね!神様!』
『なんでこうなったんだろう…。』
ふふふ。今更後悔したって遅いのです!
何処か遠くの方を見る神様を私は満足そうに見るのだった。
『そういえば、なんでここに来たんです?神様。』
『…あ。忘れてた。』
……やっぱり、この人には神様というあだ名は似合わないのかもしれない。
そもそも、見た目の割に中身がそこそこポンコツそうなんですよねぇ。
…あ。冗談ですよ?ええ。断じてポンコツだなんて思っていません。可愛いとは思いますが。
そう考えている私を神様はジト目で見ていた。
あ。これ、バレてるやつです。誤魔化さなければ。
『……何かな?』
『いえ、なんでも。』
『いーや。今、絶対に何かおかしな事を考えていただろう?』
それは誤解だと神様に言い返す。あくまでも必死に見えないように平静を保ちながら、っと。
『違いますよ。おかしな事なんて考えていません。ただ、小娘?の戯言に付き合ってくれるだなんて、素敵なお兄さんだなぁと思いまして?』
『なんでそこで疑問形?…まあ、素敵なお兄さんと言われて悪い気はしないけどね。』
どうやら、素敵なお兄さんというワードを気に入ったらしい神様は機嫌がなおったようで、ジトっとした目から苦笑いではあるものの、笑顔へと戻っていた。
ふぅ。危ないところでした。自分が小娘かどうか分からなかったので、思わず疑問形になってしまったのですが、語尾を疑問形にすることでどうやら誤魔化せたようです。……というか、本当に私は何歳なんでしょう…?
…まあ、分からないですし、無意味な問いなので深く考える必要はありませんか。
そう結論づけた頃、神様は仕切り直しとばかりに咳払いをして私を見た。
『さて。ようやくここに来た本題を話すよ。
僕はね。君に街を案内しに来たんだ。』
『?誘拐ですか?』
『違うよ!?』
どうやら違ったみたいだ。知らない人にはついて行かないというのが一般常識だったはずなのだが…よく分からず、心の中で首を傾げる。神様は疲れきったようにゲッソリとしていた。なんとなく、また満たされた気がした。
ふふふ。神様は良い方ですね。実にからかいがいがあります。
脱力気味だった神様がコホンとわざとらしい咳をし、話し始める。その様子に今度こそ真面目に聞こうと背筋を伸ばす。…あくまでも、気持ちだけの話だが。
『言ってしまえば、チュートリアルみたいなものだよ。急にこの世界に来て、何が何だか分からないまま始まるよりも説明があった方が親切だって言う話があってね。僕みたいなのがお手伝いしているんだ。』
『へぇ。チュートリアルですか。では、さっそくお願いしても?』
この世界に来る、チュートリアル、始まる、説明…この言葉に危うく聞き返しそうになった私は、内心慌てつつも表に出さないようにそう答えた。
まあ、目しか動きませんし、表に出るも何もないんですけどね。それにしても、チュートリアルですか。言い方が先程のバグ同様、やはりゲームか何かみたいですね?知識によると、どうやらVRMMOなるものが存在する模様。
……え。てことは、VRMMO、つまり、ゲーム内で記憶喪失ですか?わぁ。やっだー。冗談じゃないですよ。これ、間違った憶測だったりしませんかねぇ?
…どこかで確認、してみましょう。もしかしたら、異世界に飛ばされ…それはそれで嫌ですね。まあ、何はともあれ、何処かで聞くしか方法はありませんか。腹を括りましょう。
覚悟を決めた頃、私がそんなことを考えているとはつゆ知らず、街の構造について淡々と説明をしていた神様は何を思ってか私に向けて手を差し伸べていた。どうやら、簡単な説明は終わりでこれから実際に街を案内してくれるらしい。
『エスコートさせていただきますね?リトルレディ。』
『まぁ。お上手ですね。…ああ。そうそう。私、体が動きそうにありませんので、持ち運びしていただけますと助かります。』
妙に甘い声でそう宣いやがったので、そのノリに合わせて返事をした後、うんともすんとも言わない体を持ち運んでもらうことにした。
ふふふ。どの道、こうなる運命なのですから、それくらいは構わないですよね?
私の言葉に驚いたらしい神様は、笑顔のまま固まると、深刻そうな表情で何やら呟いた。…私には聞こえませんでしたが。
『……。……こちらでもここまで酷いのはそう居ないんだが…。』
『あら?何がおっしゃいましたか?神様。』
『いや。なんでもないよ。…というか、本当にその呼び名で固定する気?』
頭を振ってそう答えた神様を可笑しなものでも見るような気持ちで見つめつつ、諦め悪くも撤回を希望するその質問を一蹴する。
『勿論です。こんなにおm…ぴったりなあだ名はそうそうありませんからね。神様で固定です。』
『今、面白いって言いかけたよね!?』
『あら。気のせいですよ。キノセイ。それよりも、早く街へと案内してくださいな。これでも結構楽しみにしているんですよ?』
未だにぐぬぬと悔しそうに顔を歪める神様を見つつ、私はお前が言うか!?と言われそうな提案をした。
ふふふ。こんな顔もするんですね。
何故かは分からない。でも、また、満たされた気がした。
次回、街でもやる事は1つですよね?
それでは、これ以降も良き暇つぶしをお送りください。