185話 楽しいを作るのは大変
こんにちこんばんは。
遊園地を考えるのが思いのほか大変なことに気づいた仁科紫です。
それでは、良き暇つぶしを。
いざ、制作!と、思ったのだが、まず初めに取り掛かったのは遊園地の要となるアトラクションの配置場所についてだ。
この島における伐採不可の地域は3箇所。
1つ目は島の外周。これはかなりの広範囲に渡っており、今後島にアトラクションを作れば森の中にある遊園地になるはずだ。ここは一先ず後にしましょう。
2つ目は島の中心。小さな公園程度の広さであり、小規模ではあることから上手く使えば癒しのスポットにでもなるだろう。丁度この真ん中に基地とも言える神様のお店はポツンとある。何故ここに神様のお店があるのかと神様に聞けば、『出張?みたいな感じかな。』と言っていた。
そして、最後の3つ目。ここがかなりの難点だ。
「まさか、内部にこれだけ広い森を残さないといけないなんて……。」
ニケの翼をひろげて空から位置を確認する。
中に広範囲で残さなければならない森は、外周の森からは離れているが中と外を分断するかのように歪な円状に森がひろがっている。幅は1km程だろうか。この森があるために中と外を繋げる方法を考えなければならない。
中に道を作ることは出来なくはないが、木々を切ることが出来ないためあまり現実的ではないだろう。
森の大まかな位置を確認していると、森の中の木々は1つの種類のものではなく複数種類が合わさっていた。
未開の森のようだと景色を眺めつつ高度を落とす。地面から見た方が気づくものが多そうだ。
「よいしょっと。」
さわさわと心地よい風が吹き、揺れる木陰。思ったよりも森の中は明るく、煌めく太陽の光を程よく遮ってくれている。……なるほど。ここに遊園地を作るのは確かに躊躇いますね。
自然の美しさを知ってしまうとそれを活かしたくなる気持ちが湧いてくる。もしかしたら、他のファミリアの人達はそんな気持ちだったのかもしれない。
それでも作りますけど。遊園地。
とはいえ、元々の良さを活かしたくなるのも確かだ。
ふむ……それなら、トロッコや機関車を用意して走らせてもいいかもしれませんね。ありきたりなので、もう少し捻りたいところではありますが。
元々アトラクションには乗り物でゆっくりというものも考えていたのだ。中と外を繋げるという点からしてもいい案であることに違いはない。ちょっと神様たちと相談してみますか。
こうして私は土地の視察を切り上げ、神様達の元へと戻った。
□■□■□■□■
戻って直ぐに神様たちへ先程考えた案を伝えると、三者三葉の反応がかえってきた。
「いいね。それなら中と外で分けて、客層を変えたらいいんじゃないかな。」
「機関車……夢があっていいとは思うけど、動力源とかはどうするつもりなの?」
「素敵。のんびりは正義。」
以上が神様、空、イアさんの反応である。
神様は助言、空は疑問、イアさんは感想を教えてくれた。やはり客観的な意見は参考になる。
神様の案からして乗り物の類はどうにかなりそうだが、確認が必要だろう。
「神様、この世界に機関車はないんですか?月に行った時はイアさんたちが作ってくれましたよ?」
「あれは例外だよ。本来、この世界に機関車はないんだ。移動手段は船か馬車、後はテイムした生物くらいかな。」
発達した街がある偶像の島や昼光の街を知っているだけに勘違いしていたが、この世界はあまり機械の類が発達していないらしい。
ふむ……それなら、あえてメカメカしい遊園地というのも……いえ、やはりメルヘンなのも捨てがたい……はっ。今はそれどころではないんでした。
先に建築スキルの方を極めなければこだわろうにも実現できませんからね。
とにかく、今は機関車の話を終わらせてしまいましょう。
「それなら機関車は難しいかもしれないですね。」
「いや、僕が作るっていう話ならできなくはないな。」
「ちょっと。姉さんを甘やかさないでよね。」
「良いじゃないか。何より僕がこの島を走る機関車を見てみたいんだよね。
大自然を走り風を切る姿は絶対カッコイイっ!」
キラキラとした目の神様はレアだ。どうやら、神様は機関車が好きらしい。ふむ。これはメモをしておきませんと。神様は機関車が好きで思いの外男の子っぽいところがあるっと。よし。神様の誕生日プレゼントの参考に……参考に……?
「神様。神様のお誕生日は何時ですか?」
「え。2月26日だけど。突然どうしたの?」
「そうなんですね。因みに私は7月20日です。」
「そうな……ん?7月20日……?プティ、誕生日過ぎてるじゃないか!」
唐突に神様の誕生日を知らないことに思い至り、問いかけると何故か神様が大きな声を出した。
そういえば過ぎてますね。とはいえ、私としては海の誕生日=私の誕生日っていう感じがしないんですよねぇ。どちらかと言えば神様に出会った日が私の誕生日と言っても良いくらいですし。……引かれそうなので神様には言いませんが。
「まあ、なんやかんややっていたらいつの間にか過ぎていましたね。」
「いや、もっと何かあると思うんだけど……。」
「誕生日なんて毎年来るんですから、1年くらい忘れてもいいんですよ。」
「えぇ……。」
何やら物言いたげな神様はともかくとして機関車は実現できそうだ。そうと分かれば、まずは簡易的に島の地図を出して何処に何を作るのかを決めませんと!
「さーて、何を作りましょうかね?」
敷地としては有名なテーマパーク程度の大きさはあるため、基本的な遊園地にあるようなアトラクションは全て置けるだろう。
まず、観覧車は絶対欲しいですし、定番のジェットコースターにコーヒーカップ、メリーゴーランド、船……あれは酔うのでどっちでもいいですね。急流すべりも楽しいので欲しいところ。山と川があれば出来るから……って、あれ?そういえば、観覧車等の設計って私、出来るんでしょうか?
「神様。設計が出来たとしても機械部分の仕組みが分からないことに気づきました!どうしましょう!?」
「調べればある程度は出てくると思うよ。その辺は僕も手伝うから大丈夫。この世界にある魔法を使っても同じような物は作れるし。
それより、誕生日の話なんだけど。」
「もうその話は終わりましたよね?」
どれだけその話をしたいのかと呆れつつ、神様に用意してもらった紙と鉛筆でサラサラと作りたい物の配置を書いていく。具体的な絵はその後で良いだろう。
どれくらいの大きさにするのかを決めなければデザイン所ではない……はずだ。素人であるために正しいかは分からないが、私の場合はこのやり方が一番良いように思えた。
絵心はそんなにない方だと思っていたが、思ったよりは上手く描けそうだ。
「プティ。誕生日プレゼントに何か欲しいものはないかい?」
「うーん。別に要りませんけど……そうですね。神様と一緒にいられるのならそれで。」
「いつもと変わらないじゃないか。」
他に何かないかと諦め悪く尋ねてくる神様に少しばかり辟易とする。
私は本当に神様と居ることが出来るのならそれだけで良いのだが、それだけで神様は満足出来ないらしい。本当の私の願いを言えば神様は無理だと言うだろうに、贅沢な人だとため息を着く。
「はぁ。姉さんの気持ちを全く理解していないね?しつこい男は嫌われるって前にも言わなかったっけ?」
「だが、誕生日だぞ?どうせなら……いや、いい。この件に関しては自分でまた考えるよ。
だから、な?その物騒な構えを解いてくれるか?」
紙から顔を動かさず、伺うように神様の方へ目をやると頬を引き攣らせている姿が目に入った。目線の先には空が両手を拳の形にして構えている姿がある。次の瞬間には容赦が欠けらもない殴打がとんできそうだ。
まあ、これに関しては神様が悪いので私は止めませんが。
暫くしてニコりと笑った空は拳を開いて構えを解いた。緊迫した雰囲気もなくなり、私は紙に視線をおとす。
まずは何処に線路を引くか考えるべきだろう。どうせなら移動も楽にしたいところだ。
「ホント、仕方がないねぇ?」
「我らが父は乙女心に疎い。根気が必要。」
「みたいだね。」
何やら話している声は聞こえないフリで聞き流す。今に始まったことではないのだから。
・
・
・
「出来ましたー!」
「お。出来たんだね。見せてもらってもいいかな?」
「はいです!」
自信満々で渡したのは、機関車の線路に観覧車等のアトラクションの大まかな位置とジェットコースターを走らせる線路の位置を書いた紙だ。
機関車はやはりより便利なものをと、森の中を進む観光用とアトラクションの移動を楽にするための移動用の線路を描いてみた。
アトラクションの配置は、真ん中に巨大な山を設置し、頂上に森が残るように配分し、周りをジェットコースターの建設予定にする。そして、外側の土地には子どもたちが遊べるようなメリーゴーランドや観覧車、コーヒーカップ、迷路の庭、水路を通して舟遊びや水遊びが出来るようにするのもいいかもしれない。ひとまず、大まかに線を入れただけであるため、まだまだ内容は詰められていないがこんなところだろう。正直、あまりにも遊園地を知らなさすぎて案が浮かばなかったとも言う。……そ、空とか神様ならきっといい案を思いついて……あれ。遊園地とか行くんですかね。2人とも……。
尚、森に関しては山の中に取り入れても問題はないらしい。これで急流すべりは作れそうだ。
ジェットコースターの線路は園内を見て回ることが出来るように内側から外側へとぐるりと回って程よく迂回させつつ高低差を付ける予定だ。
さて、神様の反応は……
「うーん。面白みが足りない?」
「普通すぎるよね。」
「楽しそうだけど?珍しいものばかり。」
何故か見せてもいない空とイアさんが後ろから覗いてそんな事を言っているが、神様と空は判定が辛すぎないだろうか。
イアさんはやはりこの世界しか知らないからか、目を輝かせて見てくれている。
私も思ってはいましたけど、やっぱり普通ですか……。
「まあ、こっちの世界の人からしたら珍しいけど、プレイヤー達からしたら目新しくないだろうね。」
「これじゃあ、お客さんはこの世界の人ばかりになりそうだね。それでも問題はないと言えばないけれど。」
そう。私が考えた遊園地のアトラクションは全この世界の特色を活かしきれていない、『普通』の現実にあるようなものばかりなのだ。
プレイヤー達を呼ぶにはこの世界でしか体験できないようなアトラクションが必要になってくる。
それが考えついたら苦労しないんですけどねぇ……。
さてどうしたものかと私は再び頭を悩ませるのだった。
次回、ファンタジーな遊園地ってなんですか
それでは、これ以降も良き暇つぶしをお送りください。




