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182話 騒動の種は身近に

こんにちこんばんは。

恋愛ナニソレオイシイノテンションで進行する仁科紫です。


それでは、良き暇つぶしを。

 イアさんを尋ねて訪れた豊穣の島。そこでは巨大化した家畜たちに追われるプレイヤーたちの姿があった。

 鶏は1m程の大きさになり、牛や馬といった元々大きな動物たちは更に巨大な全長5m程に。あの牛を捕まえようと思えば、大柄な男性が15人いても足りないだろう。

 そもそも囲むだけでも10人が手を広げてやっとという大きさだ。投擲網を使えばとも思わなくはないが、既に使っており、成果は出ていない。強度が足りないか、器用にも避けたり抜け出したりして一時的な足止めにしかなっていないのだ。あ。また吹き飛ばされてますね……。

 泣きながらも諦めず追いかける姿は感心するが、対象がダンディな男性ばかりなだけにシュールな光景でしかない。思わず苦笑いを浮かべていた。



「えっと、それで、神様?やっぱりとは?」


「あ、ああ。ほら、神の治める地にはそれぞれ神の力が宿るって言うだろう?」


「確かに……?」


「まあ、この世界ならそうだね。と、いうことは、あれはガイアの力を受けた結果か。」



 ああ。なるほど。確かにイアさんは大地を司る神様ですもんね。動物が巨大化してもおかしくはない……と、納得して頷くが、それにしてもこの状況を放置するとはイアさんらしくもない。

 困っている我が子が居れば手を差し伸べるのがイアさんなのだ。もしかして何か問題でもあったのだろうかと少し不安になる。


 とにかくイアさんの所へと向かおうと神様の先導で歩いていくと、作物も有り得ないほどの成長を遂げていることに気づく。

 稲や麦は私の背丈の倍ほどの大きさに成長し、風が吹けばバッサバッサと揺れ、トマトやキュウリといった野菜は細長いものは縦に長く、丸いものは全体的に大きく育っている。綺麗な熟れた赤色をしたトマトに思わずかじりつきたくなったが、今はイアさんに会わねばと雑念を振り払いながら進んだ。



 たどり着いた場所は一度訪れたことのあるイアさんの神殿によく似ていた。白をメインに黄緑の宝石が美しく映えており、観光地にもなりそうだ。

 その正面には人だかりがあり、奥には男女の影が見えた。近づくにつれて揉めている声が聞こえてくる。



「だから、話をさせろっつってんだろ!」


「全く。アンタら、何時からそんなに軟弱になったんだい!」


「でもよ!」


「でももへったくれもないよ。ほら、アンタらもちったちった!」



 女将さんのような恰幅のいい女性が周りに向けて言えば、渋々といった様子で囲んでいた人々が去っていく。どうやら女将さんらしき人物は彼らを纏めているらしい。

 不満はある様子ながら、皆言い返せないのはそういう事なのだろう。

 困ったように様子を伺っていた男性が女性に近づくと、人の良さそうな顔をしたその人は苦笑いを浮かべている。

 そこへ私達も話しかけた。



「こんにちは。デメテルファミリアのマスターとサブマスターだよね?」



 代表として神様が話しかけると、こちらに気づいた恰幅のいい女性が顔を顰める。私は知らない方だが、あちらは神様のことを知っているようだ。……まあ、イベントに出てましたし。忘却も元通りならあの時の記憶もあるはずですしね。



「……へぇ。珍しい客人だね。で?そうだけど何用だい?別にお呼びじゃないんだけどねぇ。」


「だろうね。でも、ちょっとここの島の守り神に用事があるんだ。

 今ここにいるかい?」



 イアさんを尋ねるときは島の守り神と呼ぶべきらしい。

 なるほどと思いつつ話の行方を見守っていると、少し悩んだ後頷いた。



「まあ、アンタならいいだろう。おいで。」


「女将さんがいいってんなら良いけどよ。

 程々にしとかねぇと、アイツらが暴走すんぞ。」


「この事で暴れる奴が居るなら相手してやるからいいんだよ。アンタは情報収集、頼んだよ。」


「おうよ。」



 何処かへと歩いていく男性を見ることなくこっちだよと言って女性が中へと入っていく。

 せめて女性の名前を知りたいと思いつつ後ろに続いた。



 ・

 ・

 ・



「ここだよ。」



 案内された先は大きな扉があった。

 綺麗なツタのような彫りがあり、鹿のような動物が描かれている。

 イアさんのイメージと合致しており、本当にこの場所がイアさんの居場所なんだと思えた。


 中へと入れば、そこは書斎だった。大きな扉に見合わないそこは植物が沢山置かれており、見るからに目に優しい空間だ。

 そして、奥には思い描いていた通り……とおり、の……?



「え。なんでまた小型化してるんですか。イアさん。」


「……見られたくなかった……。」


「なるほど。だから暴走してるのか。」



 合点がいったとばかりに納得した様子の神様に首を傾げる。

 イアさんの小型化=弱体化している=力が弱まっている……あ!もしかして、力の制御力も弱まっているんでしょうか?

 潜在能力はそのままに制御能力が落ちたというのなら、確かに厄介なことになっていそうだ。



「でも、どうしてそんなに弱っているんですか?」


「……。」


「そんなの決まってるでしょ。神の力は信仰心の力。

 信仰心が足りてない。でしょ?ガイア。」


「……ええ。不甲斐ない。」



 悔しそうに俯くイアさんの様子からして間違いないようだ。

 イアさんの話を聞けば、どうもこの島に来た当初から信仰心が不足し始めていたらしい。

 理由を聞けば納得の話であり、どうしようもないことだった。

 元々自分達の島だった場所を別のものが統治するとなれば良い顔はしない。更に、内心はともかく歓迎していたプレイヤー達もイアさんの力でどんどん育っていく作物や動物たちを見て離れていったらしいのだ。

 この島にいるプレイヤーたちは、育成が好きでやっているような人たちばかりだ。苦労が減れば喜ぶかと思いきや、寧ろ手がかからない事を嘆いたのだという。

 そうして元々ないに等しかった信仰心は益々なくなり、力の制御も覚束ない程に。

 信仰心のないプレイヤー達に育ちすぎた生物たちは襲いかかり、信仰心のあるプレイヤーには襲いかからないものの、信仰心があると分かれば何故あんな疫病神に友好的なのかと周りから白い目で見られるのだとか。うわぁ。人間の悪い所出てますねぇ。


 それでもイアさんはプレイヤー達を追い出そうとは思わなかったらしい。

 イアさんはこの島の統治者だ。別のファミリアをこの地に住ませるという方法もあった。

 しかし、イアさんはそれを選ばなかった。



「彼ら以上に自然を愛しているもの達が居なかった。」


「私らも選んでもらえたのは嬉しいとは思うんだけどねぇ。……まったく。融通がきかない頑固者ばかりですまんね。大地の君。」


「いい。誰も悪くない事を謝らない。

 謝ればその人が悪いことをした事になるから。」


「ホント、アンタは気のいいヤツだってんのにねぇ。

 ……やっぱりしめるか。」


「それはダメ。ただでさえ、貴方には迷惑をかけてる。」


「これくらい良いんだけどねぇ。

 まったく。アンタも頑固者だ。」



 やれやれと肩を竦める女性を見る限り、マスターさんとイアさんの仲は悪くないらしい。

 ただ、現状は信仰心が足りていないために力が暴走し、力が暴走するためにより信仰心が離れていく。悪い循環に入ってしまっているのは間違いない。



「うーん。どうしましょうか。」


「信仰心を得るためなら簡単な方法があるけど。」


「え!どんな方法ですか!?」



 空がボソリと呟く。思わずその言葉に飛びつけば、少し悩んだ後に口を開いた。



「まず、この混乱をガイアが治められる状況、それが必要だよ。ガイア、いける?」


「それが出来れば苦労はしない。……ただ、我らが父が居るならば出来なくもない。

 ……手助けは可能?」



 イアさんが神様に視線を向ける。



「ああ。勿論。」



 視線を集めた神様が頷き、作戦会議に移っていった。



 □■□■□■□■



 その日、豊穣の島は今までで一番といっていいほどの大きな騒動で人々が走り回っていた。



「ちょっ。なんで群れになって走り回ってんの!?」


「しかも、今まで動きのなかった野菜まで襲ってくるとかどういう状況!?」


「野菜に襲われるとか……サイッコーかよ!?ちょっとオレ襲われてくるわ!」


「帰ってこーい!そっちに楽園はないぞー!?」


「……あそこまでは吹っ切れねぇな。」


「それな。俺は無理。」


「って、お前ら!止まってる暇はねぇぞ!?逃げろーっ!?」



 わぁわぁと言いながら走り回る人々を見て上手くいっている状況にほくそ笑む。

 そして、隣にいる空を見れば、空が頷いた。

 あちらも準備は終わったらしい。



「それでは、開始!ですね!」



 手に持った糸を引っ張る。一定区画をグルグルと回り続けていたプレイヤー達が一纏めになった。

 それはこの島にいるプレイヤー達もそうだろう。一部は勿論逃げているだろうが、大多数を抑えられれば十分だ。


 空から強い光が差し込む。

 空から現れたのは、もちろんイアさんだ。



『聞け。この島に居る、我が同士達よ。

 我が名はガイア。大地を司りし女神である。今はこの地を治め、繁栄に導きし者だ。』



 プレイヤー達は突然のことに驚いた様子だが、イアさんの話に耳を傾けている。

 勿論、反抗的な様子のプレイヤー達は強めに縛っているのだが、意外とそういったプレイヤー達は少ない。きちんとイアさんの話を聞こうとしているのだ。

 少しばかり驚きつつも様子を伺っていると、どうもイアさんの姿を見て真剣な表情になっている人が多い印象だ。

 そういえば、神殿の前にも人だかりが出来ていましたね。あれは殴り込みに来たのではなく、ちゃんとイアさんと相談がしたくて集まっていた、ということなのでしょう。


 納得しつつ、イアさんの話に耳を傾ける。

 それは現状の島と信仰心についての説明だった。

 説明を終える頃にはイアさんは大人の姿に戻り、空に浮かんでいる。信仰心が少しは戻ったようだ。



『既にヨッダとも話し合い、この島への関与は最小限に、神殿のみに私の力を集中させることで決まった。

 それにはかなりの制御力が必要となる。力を貸してくれないだろうか。……また、暴走させてそなたらの大切な物を歪に変えたくはない。』


「おおー!」

「勿論だ!作物のためならいくらでも信仰してやんよ!」



 ある意味脅しとも取れるイアさんの発言に、全員がコクコクと何度も頷く。……と、言いますか、これは完全に脅しですよね?まあ、イアさん達が良いなら良いんですが。


 こうして豊穣の島での騒動はあっさりと終幕を迎えた……のだが、ふと我に返って思う。

 あれ?これ、他の島でも同じことになっているのでは……?と。

次回、他の島ってどうなってるの。


それでは、これ以降も良き暇つぶしをお送りください。

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― 新着の感想 ―
[良い点] なるほどの納得いく光景でした。 混乱も無事治まりました。 [気になる点] 「大きなカブ」をした方、いたら手を挙げて♪ [一言] 大食い大会とか収穫祭でしてみませんか(笑)
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