18話 来訪者は情報源
こんにちこんばんは。
説明回となっているなぁと書き終えてから思った仁科紫です。
それでは、良き暇つぶしを。
アキトが入り浸るようになってから数日。
今日もアキトは人形屋に訪れてきた。いつも彼は3時頃にふらりと来てはおやつを食べ、少し話してから何処かへと去っていく。何処からどう見ても暇人のように見えたが、実際はとんでもなく忙しい人らしい。
私からするとただのお菓子好きの人なんですけどね。
「ここの菓子はやっぱ上手いな!」
「それには同意ですが、用事をとっとと済ませてどっかに行けなのです。」
「酷くね!?」
「プティの言う通りだね。いい加減、諦めて仕事に戻りなよ。ファミリアのマスターにのんびりする暇はないだろう?」
「それもそうだけど…そこまで言わなくても良いじゃねぇか。」
神様と私のつれない反応にアキトは不貞腐れたようにそっぽを向き、今日のおやつであるパンケーキを一切れ口に頬張った。
口調は悪いですが、所作は案外綺麗なんですよね。
アキトが訪れるようになってから分かったことがある。
彼は口調の荒々しさとは違い、他の人に対して心配りの出来る好青年だった。もっと言えば、どうして神様のお店に訪れようと思ったのか不思議なくらいに。
多分ですが、理由が無ければ彼は1回目の訪問以降、ここを訪れることは無いはずなんですよね。だから、何か理由があるんでしょうけど…。
あと、彼が来るようになってからファミリアという謎の言葉もかなり聞くんですよね。
雰囲気からして、組織や組合みたいなもののようですが、神様に尋ねても答えてくれませんでした。今はまだ早いとか言って教えてくれないんですよねぇ。それならいつ教えられるんだって話ですけど。
そう考えていると、神様は空になったお茶のおかわりを入れるためにキッチンへと席を立った。
これはアキトさんと話すのにいい機会ですかね?
「アキトさん。確かめたい事があるのなら直接聞いた方がいいと思うのです。長くここにいる方が神様に良い印象を与えませんよ?」
「あー…。まあ、それもそうなんだよなぁ。
…とはいえ、俺の用事はここに居ることだからな。正直、それ以上の意味は無いのさ。そうでも無いと…」
アキトのいつになく真剣な様子に何事かと首を傾げると、丁度言葉を遮るようにチリンチリンとドアベルが鳴った。
「ここに居たんだね。アキト。」
「ふっ。遅かったな!我が象徴により繋がりし友よ!」
「うわぁ…。帰っていい?」
「えっ。ダメだからな!?」
「自業自得なのです。」
「酷いっ!?」
持病の発作が起きたらしいアキトに言葉のナイフを突き刺して放置し、今も嫌そうにアキトを見る男性に目を向ける。
それは以前遭遇した男性に間違いないようだった。
確か、あの時の神様はアポロンとアレスのマスターだと言っていたはずです。アキトさんがアポロンのマスターですから、彼はアレスのマスターということになるのでしょう。
ふむと一つ頷いてからアレスのマスターらしき男性に話しかける。
「こんにちは。わたしはエンプティと言います。
アレスのマスターさんが何用でしょうか?」
「ああ。この間のお嬢さんだね。
こんにちは。僕はデュラン。彼を連れ戻しに来たんだ。」
そう言ってアキトを指さすと、焦ったように彼は手を振った。
「はぁっ!?いやいや!ダメだからな!
ちょっとお茶しに来てるだけじゃねぇか!それを邪魔するいわれなんてねぇし!」
「そうは言っても、これは会議で決まった事だからね。諦めなよ。」
「会議だぁ?…うわぁ。もうそこまで話は進んだのかよ。」
「それは君も予想済みだったろ。今更何を言ってるんだい?」
私にはイマイチ理解できない内容に置いてけぼりにされていると、ふと気になった言葉があった。
「あ、あの。」
「何かな?取り込み中なんだけど。」
「神様に関係する話の予感がするので、それなら私は当事者なのです。
それはそうとして、会議って何の会議です?」
軽く睨まれたが、その程度で怯む私ではない。…と、言いますか、怖かろうと神様の為ならばそんな感情も消え去るのです。
ジーッとデュランから目を離さない私に何を思ったのか、やがてため息をついたデュランは口を開いた。
「……それは彼に聞けば教えてくれるんじゃないかな。」
「俺もその方がいいと思うぜ?…まあ、教えてくれるかは知らねぇけど。」
アキトの言葉に首を傾げる。
会議ってそんなに重要な事なんですかね?でも、どうやら一般的に知られているようです。それなのに私には教えず、神様に聞けと。しかも、教えてくれるかは分からないなんて…へぇ。それはとても気になりますね?
なおも尋ねようとすると、そこへ神様が戻ってきた。
その手にはティーポットと新しいティーカップが一つ乗ったお盆があり、それはデュランの分であるようだった。
「いらっしゃい。」
「お邪魔してるよ。
でも、長居する予定では無いんだ。彼を連れ帰りに来ただけだからね。」
「へぇ。彼を連れ帰ってくれるのは有難いけど、それで面倒事が増えるのは僕としては看過出来ないな。」
神様の視線とデュランの視線が交わり、ピリっとした空気が流れる。
神様の目は笑っていませんし、デュランさんの顔は強ばっていますし…到底友好的とは言えないですね。
これからどうなるのかとハラハラしながら見守っていると、神様が口を開いた。
「……何はともあれ、どうなったのかくらいは聞いておこうか。」
「…仕方がないね。当事者だから教えるけど、彼らは逃す気は無いみたいだよ。」
「はぁっ!?アイツら、マジで言ってんのか!?敵に回していい事なんて無い…って、あー。そういう事か…?」
「うわぁ。無いわー」と呟くアキトにデュランは苦笑いを浮かべていた。
「仕方ないだろ。
いくら運営側の人間だっていっても、彼は『ノーフェイス』だ。それだけのメリットがある。」
「その分、デメリットがデカすぎるけどな。…はぁ。で、アンタはどうすんの?」
アキトに話を振られた神様はため息を吐くと、ニコリと笑った。…それはもう、目が笑っていないどころか辺り一体が冷えきりそうな程の冷たい笑顔で。
うわぁ。神様、怒ってるんですけど!?それ程困ったことが起きているんでしょうか…?
ちょっと、考えてみましょう。会議にメリット、デメリットという言葉……ふむ。もしかして、神様を何かに巻き込もうとしているのでしょうか?…とはいえ、それ以上はまだ分かりませんね。もう少し話を聞いてみるとしましょう。
そう考えた私は神様が追加で何処からか出したパンケーキを魔力糸で操ったナイフで切り分けつつ、話に耳を傾けた。
むふふ。ベリー系のフルーツの乗ったパンケーキにチョコソースがかけられていて最っ高なのです!
「笑えない冗談だね。僕が何処かに所属するなんて有り得ないよ。…彼女もいる事だしね。」
もしゃもしゃと本体を動かし咀嚼していると、神様がチラリと私を見た。
……む?私ですか?ふーむ。私が重枷になるなら、放っていただいても構わないのですが。…まあ、神様は私を言い訳として使うつもりのようですし、それはそれでお役に立てるのなら嬉しいお話なのです。
そう結論づけた私はもう1切れとパンケーキを輪へ運んだ。
「ああ。そう言うと思ったよ。それについては、どちらも受け入れるという話で落ち着いたみたいだ。……特に、ゼウスは乗り気だったよ。」
「いやそれ、絶対ゼウスだけだろ!?…アイツら、飛べる奴には寛容過ぎるくらいだしな。」
「全くもってその件には同感だよ。彼らには困ったものだ。」
はぁとため息をつくアキトとデュラン。
それを見て首を傾げる。どうやら、2人は今回の案件には反対みたいだ。
それなら、どうして2人は神様に接触したのでしょう?不思議なのです。
「あの。一つ疑問なのですが、良いですか?」
「おう。良いぜ。」
「聞いている限り、お二人は今回の件には反対しているように思えるのです。どうしてお二人がいらっしゃったのですか?
来るとするなら、他の賛成している方だと思うのですが。」
そう尋ねると、アキトは苦笑いで答えてくれた。
「それは簡単な話だな。俺らはそいつらより立場が下だからよ。頼まれたら断れねぇんだ。」
「あと、ここに来れるマスターが僕ら2人だけだったっていう不運もあったけどね。」
苦虫を噛み潰したような顔でそう言ったデュラン。その言葉に結びついた記憶があった。
そういえば、神様がこの世界には人間が居ないと言っていた気がしますね。世界が他にもあるなら可能性がありそうです。
……あれ。でも、人間じゃないなら何になるんでしょう?お花見会場で見かけたのは…む?違和感を覚えていませんでしたが、骨だけの方やゾンビさんなんかもいたような…気のせいですね!
思い出しかけた何かを放り出し、話の行方を見守る。2人の反応を見て思い直したのか、神様は幾分か張り詰めた空気を緩めていた。
「だろうね。…ふむ。つまり、今は良くてもあちらに移った時は逃れられないと考えるべきか?」
「あー…まあ、こっちにだけ居るつもりなら、アイツらには会わねぇし、そういう意味では関係無いだろうな。」
「それもそうだね。彼らには『ノーフェイスはこっちに来るつもりは無いらしい』とだけ言っておくとするよ。」
「ああ。そうしてくれ。どうせ、僕は行けてもプティは向こうに行けないからね。」
その言葉に引っかかったのか、2人して不思議そうな顔をしていた。
「ん?エンプティにか?いや、飛べるんだし、流石にその資格はあるんじゃね?こんな種族見たことないし。」
「だよね。人形族にしろ、何にしろ、下級から始まって上級に上がるまでは皆同じ進化をするんだから。彼女は初めの3回の進化を終えているんだろう?」
2人の不思議そうな言葉に神様は気まずそうな顔をした。その一方で、私は妙に納得していた。
なるほど。道理で神様が驚いていた訳なのです。
「いや、彼女はまだ一度目の進化を終えたばかりだ。」
「え?それって、二段階目の進化の一度目という事だろう?」
「そうだぜ。流石にな。一度目でこれはないだろ。」
冗談だと思ったのか笑って否定する2人。その2人には悪いが、嘘をつく訳にもいかないと手を挙げて自己主張する事にした。
「えっと、マジで進化は一回しかしたことが無いです…。」
「「……は?」」
いや、2人で信じられないものでも見るような顔で見ないでください。私としても不本意なので!
次回、さあ。神様を問い詰めますか!
それでは、これ以降も良き暇つぶしをお送りください。




