180話 一つの決着の形をここに
こんにちこんばんは。
追い詰められないと書けない病にかかってしまったために超ギリギリで書き上げた仁科紫です。
それでは、良き暇つぶしを。
なんだかんだで私たちが起こしたイベントにより、プレイヤー達は指名手配のことをすっかり忘れているように思えた。
しかし、念には念を。記憶の忘却を行わない限り安心は出来ないと気を引き締め直す。
遂に作戦は大詰めに入っていた。
ルナさんの宣告から迎えた一週間後。約束の日に空島の真ん中、全ての街へと通じるその場所は、満月の日に真なる姿を現す。
かつてこの地はルナさんにより下の大陸から切り離された島だ。それ故に、中心になればなるほどルナさんの力が強く作用し、通常の地とは異なる様相を示す。
島の真ん中が揺らいで見えるのはその姿を隠すため……らしい。全てイアさんに聞いたことだが。
そして、満月の夜。月が頂点に達する午前0時から1時間だけ現れるため、深夜にログインする必要があった。遅い時間にも関わらず、想像よりも多くのプレイヤー達が集まっていた。
軽く見ただけでも、上位ファミリアのマスターとサブマスターは全員居ることに少し驚いた。
かく言う私はと言えば、病院という施設は消灯時間が決まっているが故に深夜のログインは不可能に近かったのだ。見回りの看護師さんに見咎められれば詰みでしたし、どうしたものかと頭を悩ませたんですよねぇ。
そんな時に力を貸してくれたのは、なんと主治医の先生だった。
正直ダメ元で尋ねてみたわけなのだが、これが意外にも協力的だったのだ。
『患者が望むなら出来るだけ叶えてあげるのも僕たちの仕事だ』とかなんとか。……まあ、私の体の状態が良好であるのと個室であるため、一晩くらいならと許して貰えただけなんですが。普通のお医者さんなら規則だって言って却下だと思うんですけどねぇ。変わった方もいたものです。
回想している間にも人はどんどん集まってくる。千人は居るだろうか。最早数えられないため、何人とも言い難い。流石にぎゅうぎゅうで押し合い圧し合いになりそうなものだが、特に大きな騒動もなく大人しく成り行きを見守っている。後で聞いた話では予めアレスファミリアがファミリアの順位ごとに位置決め、人数制限をしてくれていたらしい。運営への呼びかけ含め、デュランさんは協力的に動いてくれていたようだ。
尚、この日までに一部のプレイヤーは元神だと聞いて襲いかかってくる者たちもいたが、そういった輩にはこんこんと説教をして解放したらしい。
その時のイアさんは凄くいい笑顔だったため、聞かなかったがきっと全員改心していることだろう。私なら今後イアさんに関わる気も起きない。これは断言出来る。皆のお姉さんは怒ると怖いんですよ……。
月が頂点に達した瞬間、その地は正に星空の庭園と呼ぶべき姿に移り変わった。
空には大きなまん丸の月が輝きを放ち、木々は星屑の輝きを纏う。大きな湖はキラキラと自身が発光しているかの如く輝きを生み出し、蛍のような淡い光が漂う幻想世界。
周りに気を取られた一瞬で空に狐耳の少女が現れた。
『よく集まった。真実を知りし異界の旅人たちよ。
宣告により、このルーナ・ブラッディレディ・イプラジオーネは顕現した。』
銀色の髪が一陣の風によりふわりと揺れる。
周囲の目はルナさんに釘付けだ。それを分かってだろう。ルナさんは微笑みを作り、問いかけた。
『して、答えは出たか。』
見れば頷くもの、手を強く握り締めるもの、険しくも覚悟決めた顔をしているもの。皆、程度に差はあるものの、今回知ったことに対して何かしらの思うところはある様子だ。
その中で手を挙げるものが一人居た。アキトさんだ。
「答えは出た。
でもよ。ここには答え合わせってヤツをアンタがしてくれるって言うから来たんだぜ?」
そうだそうだとあちこちから声があがる。
ルナさんは頷き、手を叩いた。と、同時に現れる巨大なスクリーンには暗闇が映し出されていた。
『良いだろう。先に答え合わせを行う。』
パチッと音が鳴る。それが始まりだった。
暗闇から現れたのは白金の輝きだった。いや、正しくはその人物の髪でしかなかったのだが、目の前に現れた人物に目を奪われる。
『……目が覚めたか。確認しよう。お前の名は。』
『月の女神、ルーナ。』
『では、成すべきことは。』
『子らの繁栄……。』
すらすらと。ただ淡々と行われる作業のような問答に満足したその人は頷き、どこかに連絡をとった後、こう言った。
『君には、この世界の母となって貰う。』
その後はあっという間だった。
余計なことは省いているのだろう。イアさん達神とのやり取りは映されていない。しかし、確かに現実に起こったのだろう出来事が次々と映し出される。
神様の創った世界に次々と子を創り出したルナさん。
子らに自身は要らぬと月に自ら封印されるルナさん。
世界にすら忘れ去られていくルナさん。
子の嘆きに応えられず悲しみ、遂には子のためと禁を破るルナさん。
禁を破り封印された後、幾度も繰り返される記憶の封と悲劇に歪んでいくルナさんの姿。
そして、ルナさんの歪みは世界にも繋がり、歪に組み合わさったために世界は壊れる一歩手前であること。
進めば進むほどに息を呑むプレイヤー達の姿に、何故か胸がすっとする私が居ることに気づいた。
勿論、私の知らない事情もある。
それでも、ルナさんという人を知っているからか、ルナさんの今までを知り、事情を知り。受け止めて何かを感じ取る姿はルナさんが少しでも報われるのではないかと思わずにはいられなかった。
『……これが全て。
妾はこの世界を愛している。時に苦しく、妾を忘れる世界が憎いこともあった。
それでも、この世界で過ごす貴方達を見て妾は愛いと思ったのだ。
この世界を、貴方達の拠り所であるこの世界を、妾は無くしたくない。』
ポツリと零れる雫。目隠しをしているにも関わらず、それでも溢れた涙は、この場の誰もの胸をうつ。
これで、プレイヤー達の掴みは十分かと思われた……が、さっくりと解決するなら大事にする必要もない。
「……なら、そう思うなら!返してよ!私たちの大切なものをそこまで分かってるなら……!」
「神様なんだろ!俺らの記憶!返せよ!」
罵声とまではいかないものの、悲痛な声にルナさんは顔を俯かせる。
こうなるのは分かっていた。寧ろ、こっちがメインになると事前の話し合いをしていたくらいなのだ。
故に、この後の対応も決まっていた。
ルナさんが顔を上げる。その場で手をつくように浮きながらもしゃがむと周りに10の影が現れる。
見覚えのある影達が祈りの体勢を取ると同時に空に巨大な魔法陣を出現させた。
『世界の統治者たる我らが問う。
世界よ。今ある姿は正しきものか。
世界よ。世界の傍観者よ。是にあるべき姿は何たるものか。描きしものは何たるか。
教えよ。伝えよ。我らが願うは全てのものの幸のみなり。
ただ笑い、泣き、友との絆を奪うことが真に幸に繋がるというのか。
否。否と我ら統治者は理解した。故に乞う。彼ら旅人に救済を。世界の歪みを正すこの世界の存続を。
我らはその為ならば犠牲を問わぬ。叶えよ。見届けよ。これが統治者たる我らの覚悟なり。』
魔法陣に立つ姿が輝きに消えていく。一際強い輝きを魔法陣が放つと、雪のようなキラキラとしたものが降ってきた。
実体はなくただ降ってくる煌めきに目を奪われる。
そして、気づくのだ。
「……ぁ。思い、出した。」
声が聞こえると同時に想い人の元へと走り出す。
もう誤魔化さなくていいのだと、嬉しいような、泣きたいような、そんな気持ちを込めてあの日のように飛び込んだ。
「アキトぉっ……!!」
「うわっ。おぅ。ルカか。……なんか、世話、掛けちまったみてぇだな。」
「ホントだ!アンタが、アンタが居なくなるから!アルテミスはオレが維持しねぇと行けなくなったんだぞ!分かってんのか!?」
「すまねぇって。あの時は、お前らのこと忘れるよりも二度と会えなくなる可能性の方が辛かったんだ。
力を得れば得る程、初めからだと考えるとな……。」
「そんなの!会えるならなんだって良かったんだ……!バカアキトッ……!」
「うん……。ごめんな。」
普段の気丈な姿からは想像もつかない弱気なルカの頭を撫で、アキトは苦笑した。ようやく思い出した大切なものを胸の内に仕舞いながら。
隣にポスリと体重を寄せる。
ヘラファミリアのアル・マキナは今までではありえない体勢であるにも関わらず、気にせず力を抜いてメルフィーナに寄りかかっていた。
メルフィーナはその体勢を満足気に受け入れていた。ようやく埋まった隣の肩に、喜びすら感じていた。
「フィーナ……。ごめん。」
「本当よ。アル。やっと思い出したのね。」
「うん。……もう、間違えないから。」
「全くだわ!今度、一人にしたら……そうねぇ。どうしてやろうかしら。」
「も、もう大丈夫だよ!フィーナの隣に、ずっと居る。」
アル・マキナは元来、気弱な青年だった。しかし、メルフィーナと出会って自分に自信を持てるようになった。
その後、いろいろあり、一度開いた距離の詰め方をメルフィーナは分からなかったために元通りとはいかず、アル・マキナは自信を持てないままにメルフィーナの隣に立っていたのだった。
あの頃を思い出したアル・マキナはメルフィーナの横に立つことをもう躊躇わない。
尚、この時メルフィーナは別のことを考えていたのだが、割愛する。メルフィーナはとにかく愛が重いのだとだけ記述しておこう。
こうして記憶は戻ったのだが、一方で忘れ去られたこともあった。
それは……
「空ー!こっちはこれでいいんでしたっけ?」
「うん。いいと思うよ。」
あれから空と私は普通に過ごしても誰かから注目されるようなことはなかった。
時折、女店主を尋ねてくる客は居るものの、至って平穏な日常を送れている。
指名手配の記憶はなかったことにして貰えたようだ。
「2人とも、準備は出来た?」
「はいです!」
神様もあの騒動から一週間が経った頃に復帰した。
久しぶりに会ったときには思わず抱きついてしまったが、致し方ないだろう。なんせ、暫くぶりの神様なのだから。
「それじゃあ、開店するね。」
こうしてまた、私たちは日常を送っていくのだ。ごく普通の、ありふれて当たり前の日常を。
……でも、おかしいんですよねぇ。時々、何故か神様を見ると不整脈が起こるというか……。
「どうしたの?プティ。」
「ふぇっ!?い、いえ!な、な、なんでもないですっ!」
気の所為、ですかねぇ……?
次回……(恋愛パート、始まります?)
ここまでお付き合い頂き、ありがとうございます。
正直、プティたちの物語を書くのは狂い猫に比べてかなり頭の中の整理が出来ておらず、見切り発車だった事もあって訳が分からないところも多かったと思います。(作者もよく分かってない部分が……((オイッ。)
ここからプティの恋愛模様を書くか正直なやみどころではあるのですが、もう少し頑張って書いてみようと思います。
よろしくお願いしますm(_ _)m
それでは、これ以降も良き暇つぶしをお送りください。




