179話 嵐は唐突に
こんにちこんばんは。
話のネタがおも……コホン。忘れていた存在を思い出したために前話とのアップダウンの激しい内容になった仁科紫です。
それでは、良き暇つぶしを。
「さて、本日も頑張りますよー!」
「頑張ってるのはガイア達だけどね。」
「うっ……それもそうなんですが……。」
痛いところを突かれて手を動かすことに集中する。
今手元にあるのは魔力を込めた糸で作っている人形たちだ。所謂あみぐるみなるものを作っている最中なのだが、これがなかなか難しい。糸を引っ張りすぎると目が細くなりすぎ、緩めすぎると解けやすく、ブサイクな人形が出来上がる。
やはりと言うべきか、空の方が器用らしく進みは空の方が早いのが少し悔しいが、こういうのは慣れだと少しでも手を動かす。
そうして出来上がったあみぐるみは、今後の私たちの武器になる予定だった。自身の魔力で作られたものは囮や魔法の発動地点としても使えて優秀だとルナさんが教えてくれたのだが、ただここで待っているよりは良いだろうと考えた末の行動だった。
あみぐるみは海が少しだけやったことがあったんですよね。楽しかった記憶はあるんですが、その後母親にあまり遊びすぎないようにと言われたので普通の編み物ばかりしていたみたいですが。
空の手際の良さに少し嫉妬しつつ、平和的に編み物をしていたその時。
「ここに指名手配者がいると聞いて来ました!その場から動かないでください!」
バーンッ!と扉が開き、出来れば聞きたくなかった言葉が聞こえた。声には聞き覚えがあり、面倒臭い相手が来てしまったとため息をつきたくなる。まあ、流石にバレるようなマネはしませんけど。
今の私たちの姿を確認し、予備の人形にそれぞれ入っていることを確認する。これで良しと騒々しい侵入者……トアさんに向き直った。
「あら。どちら様かしら。
ここはお店よ?そんな入り方をするなんて風評被害だわ。」
「ふ……そ、そんなことを言って誤魔化されませんよ!?
夜空の君に聞いたんですからね!貴方も人形なのであれば知っているのではないですか!?」
「夜空……。」
あれ?もしや、ニュクスさんがこの場所をリークしました……?
自分のしたいことを優先し、面白ければ口止め関係なくゴーしてしまうニュクスさんのことだ。今回も軽いノリで教えてしまったに違いない。
と、とりあえず、今の所は私がエンプティだとバレている様子はないですね。店内をキョロキョロ見回していますし、何かを探しているのは明らかです。
「あの、何かをお探しのようだけど、何を探しているのかしら。」
「だから、指名手配者です。人間のの子どもくらいの大きさの少女の人形、ここにはないのでしょうか。」
端的に言えば、あるにはある。神様が作っていたものにはそれくらいの大きさの人形が何体かあるからだ。
とはいえ、素直に言うのも少し違うだろう。……ここは用意しておいたあの方法しかありませんね!
階段から降りてきた気配のするルナさんに背中に回した手で合図する。それは、もしもが起こった時の行動を指示するためのものだった。
「はぁ……当店は人形屋よ。当然、子どもほどの大きさの人形も置いてあるわ。
でも、指名手配だなんてされている訳がないじゃない。」
「分かりませんよ?貴方の大事な大事なお人形に不審者が紛れ込んでいる可能性もあります。」
「全く。ここの事も知らない余所者が言えることではないわね。大体、指名手配されていようが私には関係ないことよ。店に用がないなら帰ってくれる?」
如何にも商売の邪魔だと言いたげに眉をしかめ、ため息をつく。
ここまで反応が冷たければ、話しかけている方も話す気力がなくなるだろう。
……と、思ったのだが。
「何でまだいるのよ。」
「答えて頂くまでは居させて頂きます。」
もう1時間は経っている。しかし、目の前の傍迷惑な人は動く気がなさそうだ。空も隣でいつまでも置物のフリをしていられないでしょうし……むむむ。まあ、ルナさんがそろそろ動いてくれるはずです。
もう少し待ってみようと仕方がなくあみぐるみを再開する。すると、何故かトアさんが珍しげに近づいてきた。
「それ、何してるんですか?」
「……あなた、犯人探しに来たんじゃなかったの。」
「指名手配者です。犯人ではありません。」
「似たようなものでしょ。まあ、どっちでもいいけど。
これはあみぐるみよ。こういう可愛いのもたまには良いかと思って。」
何気なく話していて分かるのは、トアさんには私に対する探して問い詰めたいという思いはあっても、糾弾したいという意思はないということ。つまり、バレて捕まっても何かされるというのはなさそうだ。
まあ、話を聞かれるだけでも面倒そうなんで嫌なんですけど。
「……確かに、可愛いですね。
店主。鷹の人形はありますか。」
「鷹……剥製に似たものならそこに。」
以前、神様が作って棚に一つだけ置いてある鷹を指さす。
しかし、トアさんは首を振って私の手元を指さした。
「持ち運びできるものがいいのです。
これ……あみぐるみ、でしたっけ。あみぐるみであれば丁度いいかと思ったんです。」
「……なるほど。良いわ。鷹はないから、今から作るけど。
持ち運び出来るものなら、そう大きい物でなくて良いんでしょう?そんなに時間はかからないわ。」
「お願いします。」
鳥の図面を思い浮かべつつ茶色の糸を用意する。材料は神様が使っていたものが沢山倉庫にあったため、不足することはない。
以前、ここに居た時に使用の許可は貰っていたため、いくら使っても特に問題はない。流石に使い切る気はありませんが。
「……器用ね。」
「別に。この程度はあなたも出来ると思うわ。」
「本当に!?」
ガバッと顔を寄せてきたトアさんに少しピンとくる。これはもしや、どなたかに贈りたいとかそういう……?
ほうほう。ほうほうほうほう!良いでしょう!私とて恋のキューピットになるのも吝かではないのです!
「ええ。何が作りたいの?」
「白鳥です!」
「はくちょう。白鳥……?」
とにかく基本の編み方だけでも学んでもらおうと空が使っていたかぎ針を渡し、椅子を魔力の糸で持ち上げて持ってくる。
比較的簡単な丸いマスコットの形を教えていく。
同時にちょっと作り方が想像できないと頭を悩ませながらも白鳥の完成図を思い描き、編み図を検討するのだった。
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トアさんは私以上に不器用だった。
何がどうとは言わないが、とにかく不器用だった。次に通す穴を指示したにも関わらず、通す穴は次の穴だったり。ここで糸の色を変えるために糸どうしを結ぶのだと言えば糸を掴めず、結ぶのにも一苦労したりとやはり空が上手なだけだったのだと自尊心を取り戻す程にはトアさんはとにかく不器用だった。
そして……
「「できたぁーっ!」」
2人で思わずハイタッチをしようとして大きさの問題から空ぶってしまうくらいにはトアさんは喜び、私はホッとする。
中に詰め込む綿を絶対入らないだろうというくらい入れようとする姿を見た時はどうしようかと思ったが、とにかく不格好ながらも白鳥のマスコットは完成した。
とっくの昔に出来ていた鷹と並べて嬉しそうに笑うトアさんを見れば苦労も報われる気がした。
「ありがとうございます。良い物が手に入りました。」
「そう。良かったわ。」
「店主。お代は。」
「そうね……貴方の気持ちで十分と言いたいところだけど、それでは納得いかなさそうよね。」
何も言わずに頷くトアさんにやはりと思う。
とはいえ、問題は私が適正価格を知らないことだ。しかも、この世界の貨幣価値を私は知らない。
困ったことになったと思いつつ、店主らしく振る舞うべく5本の指を立てた。
「じゃあ、これでいいわ。」
「5万ですね。では……」
「ちょっ、出しすぎよ!」
ジャラジャラと金色のお金を渡そうとしてくるトアさんを慌てて止め、ため息をつく。
うーん。1回やってみたかったからやってみたんですが、想像以上のお金を渡されると困ってしまいますね。
今度、神様に適正価格を聞いておこうと決心しつつ今回のお代を伝えた。
「ご縁があったからそれだけでいいわ。
だから、たったの5だけ。それ以上のお金を貰うことに私は価値を感じないの。」
「ご縁……貴方は変わった人ですね。私との縁を最大の価値とするんですか。」
「ええ。今回は貴方との縁だけど、お金以上に価値のあるものはこの世には他にも沢山あるわ。
それに、貴方なら気まづくてこれ以上居座れないでしょう?」
私の言葉に目を開き、ややして口角を上げたトアさんは確かにと苦笑した。
そして、代金を払ったトアさんはありがとうと言って店から去っていった。
トアさんが去った後では、置物のフリをしていた空が安堵の息をついていた。
「はぁ。やっと出ていってくれた……。」
「全くですよー。慣れない口調でいつボロが出ることかと……。」
やれやれと肩を竦めれば、空は苦笑いを浮かべる。その割には楽しそうだったと言いたいのだろう。
いえ、まあ、確かに楽しかったのは楽しかったんですが。それはそうとボロが出る心配の方が上回ってたんですよね。途中から忘れてましたけど。
「それはそうと、ルナさんは!?
私、合図出しましたよね!?」
そう。ルナさんに作戦決行の合図を送ったのだが、何時になっても完了の合図が来なかったのだ。
少し不安になり、ルナさんの姿を探す。空もそういえばと、周りを見るがいない。
2人で顔を見合せ、屋内を探してまわる。
その姿を見つけたのは、暖炉のあるリビングだった。
暖かい暖炉の前に置いてある3人掛けのソファで寝転がり、ポントスさんの膝の上で幸せそうに寝ている。
ルナさんの頭を撫でるポントスさんの表情はとても穏やかだ。見ていてほんわかとする光景で癒される……のだが。
「うぅ……こ、こんなの起こせないじゃないですか……!」
「また後で事情を聞こうか。」
「……ですね。」
すぐに話すのは諦め、ルナさんがが見つかったことに安堵して再び店番に戻った。
この後も時折トアさんが店を訪ねてくることになるのだが、そんな事は知る由もないのだった。
次回、そろそろ決着を(願望)
それでは、これ以降も良き暇つぶしをお送りください。




