175話 会議は状況把握から
こんにちこんばんは。
来週にはクリスマスが迫っていることに驚愕を隠せない仁科紫です。何も書けてない……。
それでは、良き暇つぶしを。
「んー。とりあえず、これくらいでしょうか?」
手元に用意した紙を見ながら呟く。そこには思いつくだけ書き出した現在の解決すべき問題点が書いてあった。
今、私たちはエロスさんの引きこもり部屋とも言うべき場所で作戦会議を行っていた。
イアさんが何処からか出してくれたローテーブルと絨毯の上で私、ロノさん、イアさん、ノスさん、ルナさんの順番で座っている。エロスさんは一人、パソコン机からこちらに体を向けて座っていた。
「見せて。」
「あ。はい。どうぞ。」
「神様の帰還、空の指名手配の解除、悪者にされたルナさんの汚名返上……これだけ?」
もっと他にもあるでしょと言いたげなエロスさんにまだあったかと首を傾げる。
大元の問題はこれくらいだと思ったのだが、実際にはまだあるのかもしれない。何にせよ、私からの視点だけでは分からない問題がこの世界にあるのは間違いないと言えた。
そういえば、月光院さんも何か思い詰めた様子でしたね。皆がハッピーとなれば他の方も入るのでしょうし、その辺も解決しないといけないんでしょうか。
益々遠くなっていく理想のハッピーエンドに遠い目をしつつ、エロスさんの言葉を待つ。私の様子を見てエロスさんは溜息をついた。
「君ね。そもそも何が問題かって言ったら、これ、ほぼ君がこの世界から居なくなれば知る人も居なくなって解決なんて事になりかねないことなんだけど?」
「へ。」
「……我らが父の帰還は、プティが必要としているだけで私たちの必須ではない。空はプティが居るから存在する。指名手配も貴方が居なくなれば自然と消えると言える。
姉はプティが居たから再び世界に姿を現した。プティが居なければすぐにでも消える。」
「あー。なるほど?って。
……はぃいいいいいいい!?」
何故そんなことにと頭を抱える。え。つまり、私が居なくなれば問題解決……って、それは確かにエロスさんも躊躇を……
「まあ、問題はそこじゃないんだけど。別に君が居なくなろうがどうでもいいし。」
「デスヨネー。」
という訳でもなく、単純にハッピーエンドの方法に悩んでいたらしい。
エロスさんは私が書いた3つの項目に更に付け足していく。
「今の神とファミリアが同時に存在している謎世界の解決でしょ。ポントスの奪還とあと、この世界が歪な理由、記憶の封印だね。これが一番難問かな。」
「ポン……えっ。記憶の封印……えっと!?」
そういえば、大分と前からポントスさんの姿を見ていないなと思考がよぎり、続いて聞こえてきた言葉に思考が止まる。
記憶の封印とはなんとも物騒な話だ。一体、誰が誰の記憶を封印したというのか。
そこでふと、神様の存在を忘れ去ったプレイヤー達のことを思い出す。あれは確かに記憶の封印と言われても納得のいくものだった。
世界が歪な理由というくらいです。何度も記憶の封印とやらが行われていてもおかしくありません。
つまり。
「運営が、プレイヤーの記憶を封印している……?」
「今更か。気づくの遅すぎじゃない?」
呆然と呟く私に、呆れ混じりに言うエロスさんの声が少し冷たい。危機感がないとでも言いたげだ。実際にその通りであるため、反論はできないが。
「し、仕方がないじゃないですか。私自身が忘れていると感じたことがないんですから!」
「へぇ。……道理で。」
ボソリと口元が動くのが見え、何を言ったのかと首を傾げる。しかし、エロスさんはなんでもないと言って話を戻した。
「それより、これだけ解決しないといけないわけなんだけど、君ならどうする?」
「どうって……一つ一つ解決するしかないんじゃないですか。」
強いて言うなら、神様の帰還と記憶の封印に関してはどちらも運営に呼びかけるしかない部分が大きいため、一つの項目だといえなくもない。
とはいえ、運営がたった一人のプレイヤーのために動いてくれるわけもない。この案件はエロスさんの言う通り、決着をつけるのが難しそうだ。
後ろ向きなことを考えていると、エロスさんはやれやれと言いたげに溜息をついた。私の答えはエロスさんのお眼鏡にかなわなかったらしい。
「そんな事じゃ、解決できないんだよ。
一連の騒動には君が関わっているから、君が動けば解決出来るものもある。幾つかは僕達が力技でも解決できるから、殆どのものはどうにか出来るかもしれない。でも、それだと下手したらこの世界は外の奴らに閉じられるんだ。
だからこそ、あちらに口出しできる存在と懇意にする必要がある。」
「神様とかですか?」
「我らが父も権力は持っている……が、弱い。」
「あくまでもこの世界を見つけて創っただけに過ぎないからね。彼は。役どころで言えば働き蜂って所だろう。それでは足りない。」
イアさんとエロスさんの言葉に口篭る。確かに、神様はあくまでも私の案内役でしかないわけであり、そんな人が運営でも偉い人であるとは思えなかった。
では、どうするのが一番なんでしょう。
私の問いに答えるかのようにロノさんが口を開いた。
「この世界にはまだ彼以外にも近くで見守る者がいる。」
「その人の方が、神様よりも……」
「ああ。力になってくれるだろう。」
それが誰であるかをロノさんは教えてくれそうにない。その助言迄がロノさんの限界なのだろう。つまり、自分たちで探す必要があると。
「分かりました。皆で探しましょう。」
「……その必要はない。呼ぶ。」
「え。皆さん、知っているんですか?」
淡々とした調子で言うイアさんに、驚くと他の方達からは呆れた目で見られる。この雰囲気からして私の知っている人の可能性が高そうだ。
一体誰かと待っていると、暫くして扉からいつもの大きな声が聞こえた。
「む!?皆、こんな所に居たのか!……どうした?」
「えっ。テルさんが、運営の人……!?」
にゅっと入ってきた人物に驚き、二度見する。まさかこの能天気な人物が神様よりも偉いなんて事があるのだろうかと考えていると、テルさんは私の様子を眺めて首を傾げた。
「うむ!……なんの事だ?」
「……冗談。こっち。」
どうやらテルさんが近づいてくることを知りながらもタイミングを合わせた、イアさんなりの冗談だったらしい。こっちと無表情に淡々と指さした続いて入ってくる人物に、今度こそ驚愕に目を見開いた。
「全く。君は凄い子だね。エンプティ。」
「デュランさん!?」
そこに居たのは、赤い髪と瞳をもつ鎧姿の青年だった。すっかり久しぶりではあるが、確かアレスファミリアのマスターだったはずだ。
この人が運営側であるとは一体誰が思うものかと思わず呆然とする。しかし、すぐさま神様のためだと考え直し、目の前の人物に話しかけた。
「デュランさんは、運営側の人物なんですね。」
「まあ、一応ね。でも、君たちにはあまり力を貸せないから、先に言っておくね。」
「うっ。神様と同じようなことを……。」
「僕たちも組織で動いているから勝手な行動はできないんだよね。」
そりゃそうでしょうけどと、当たり前のことを言われて少しばかり気持ちが沈む。
考えれば分かる事だ。運営側にメッセージを送ることは出来ても運営側に圧力をかけて強制することは出来ない。そんな事が出来てしまえば、運営の存在が破綻してしまうからだ。
だからこそ、運営側の一個人が何かをするにしても責任が伴うのであり、神様もそれが原因で今も罰則を受けている。
簡単に解決できる事ではない。その事実を改めて実感し、溜息をつく。
「どうして運営って頭が固いんでしょうね。あれがダメ、これはダメ、望んだ姿をしていないなら不要なものだ。不必要なものは消してしまえとまるで過保護な親のようです。」
「過保護……?」
「そうです。
相手のことを思って動いているつもりなんでしょうけど、結局は自分の為でしかない。自分が想定できない事だから、自分が心配だから、先に余計なものや障害物を消していく。
それのどこが過保護じゃないって言うんですか。」
デュランさんを見る。見ると言うよりも、感情が篭もりすぎて睨むように見てしまったが、デュランさんは考え込んだ様子で気付くことは無かった。
口元に手を当てたデュランさんはやがてそうかと一つ呟いた。理解してくれたとまではいかないかもしれないが、何かを納得しているようだ。
「君の気持ちは分かったよ。エンプティ。
少し、上と相談してこよう。僕もこの世界は少し不自由過ぎると思っていたんだ。」
「不自由、ですか?」
この世界は望めば何にでもなれる自由な世界であると感じていただけに、首を傾げる。しかし、デュランさんはこの世界にも色々あるんだよと言って苦笑いを浮かべた。
「あちこちに綻びが出来ているし、そろそろ友人の応援をしたかった所だ。
タイミングとしては、ちょうど良かったかな。勝手に動く訳にはいかないからね。
友人のため、この世界のために僕が動けるきっかけを作ってくれて、ありがとう。」
そう言ってデュランさんは晴れ晴れした顔でにこりと笑い、何処かへと去っていった。
思わず目をパチクリとさせる程の即断即決にイアさんたちと目を合わせる。
「は、早かったですね。」
「まあ、これで何かは変わるだろう。少なくとも、記憶の封印は解かれるだろうな。」
ロノさんの言葉に少しホッとする。何より、私たちが一番どうにか出来そうにないものが解決しそうなことに安心した。
「後は……」
「指名手配と姉の汚名返上はどちらも何かしらのイベントでどうにかするのがいい。出来れば、私たちとファミリアの位置づけも。」
「ポントスの奪還は……この後に行くのでもいいかな。」
やつれた表情がマシになった気がするエロスさんがそう口にする。ポントスさんの奪還……って、そもそも、ポントスさんは何処にいるんでしょう?
「あの、ポントスさんは?」
「そういえば言ってなかったな。奴は今、予備のリソースとして上に捕まっているぞ。」
「……捕まっている!?どうしてですか!?」
てっきり、ポントスさんは海にでも居るのかと思えば違うらしい。予備のリソースという所からして、どうやら運営側に捕まっていたようだ。あれ?という事は、神様の時に一緒に助けてしまえばよかったのでは……?
私の困惑を読んだようにイアさんが宥めるように口を開いた。
「プティ。あの時は、他に行動する余裕がなかった。
それに、あの子の所在はいつも不安定。私でも見つけるのは苦労する。」
「彼の性質上仕方がないよ。彼は生命の母たる海を司るものだ。まあ、だからこそ今の運営がリソースにするには適していたんだけど。」
「まさか。」
一瞬過ぎったのは月で見た滅びの天使。あの時はリソースが足りないからともう現れることはないと言っていたが。
その、リソースが存在するなら。
「そのまさかだろうね。彼らはこの世界を新しく作り直すことを諦めていないみたいだ。」
エロスさんは苦い顔でそう言った。
次回、ポントスさん奪還作戦
因みに、ルナさんは開始早々爆睡、ノスさんはイアさんに膝枕をして貰っていたり。
カンタはエンプティのお膝の上でうとうとしています。話は聞いているらしく、時折触手が反応していますが、難しい話になると途端に意識が落ちていたり。
それでは、これ以降も良き暇つぶしをお送りください。




