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わちゃわちゃハロウィン3

こんにちこんばんは。

遅れて申し訳ない仁科紫です。

明日は諸事情により投稿出来そうにないので、明後日に投稿させていただこうと思っています。


それでは、良き暇つぶしを。

「ありがとう。封印を解いてくれて。」


 やっと解放されたとばかりに嬉しそうな声を出すホロさんは、然しながら口元は全く笑っていない。しかし、先程までの口調とは異なりやけに流暢だった。

 私、思うんですが、こういう時って大抵の場合、操られているか、乗っ取られているかの二択なんですよね。

 余りにも唐突な出来事にポカンとしていると、チェシャさんが確信に迫るように慎重な声でホロさんに問いかけていた。



「……どういたしまして、かしら?

 貴方はどなた?」



 余裕のある笑みを浮かべるチェシャさんは、とても大人っぽく見える。衝動的な行動が多く見えた為にあまり気にしていなかったが、もしかしたら私よりも人生経験が豊富なのかもしれない。

 ぼんやりと考え事に沈んでいると、チェシャさんの笑顔につられたのか、ホロさんも笑顔になって答えその問いに答えた。



「私はソウよ。」


「えっ。でも、さっき……」



 さっきはホロと答えていた。そう言いかけたタイミングで空が割って入るように問いかける。どうやら失言だったようだ。



「ソウさん、だね。封印ってどういう事かな?」



 申し訳ないです……と、空に向けて軽く手を合わせると、こちらを見ずに片手をあげてくれた。どうやら伝わったらしい。

 ほんの少しホッとしていると、空の問いに対して綺麗すぎる笑顔を浮かべるソウと名乗った少女が目に入った。うわぁ。恐ろしいですね……。



「ふふふ。私ね?この世界に一人で閉じ込められてしまったものだから、どうしたものかしらって思っていたのよ。」


「それで?」


「だから……お友達でも作ろうかと思って、ねぇっ!」



 ゴゴゴッと地面の揺れる音に何事かと辺りを見渡す。すると、地面が割れて鎖が伸びてくるのが見えた。

 また鎖ですか!?拘束されるのは嫌なんですが!!


 思わず慌てるが、その鎖たちは一直線にチェシャさんを狙う。



「チェシャさん!?」



 声を上げるが、既に手遅れだった。ジャラリと鎖が足に巻き付き、チェシャさんの足が鎖につられて引っ張られる……かのように見えた、その時。

 ポンっと音がなり、女性の姿から猫の姿へと変化する。足の太さが変わったからか、すぐさま鎖から抜け出したチェシャさんは、鎖を蹴って地面に着地した。そのしなやかな動きに感心する。



「にゃ。」


「へぇ。2つの姿があるってそういう使い方ができるんだ、ねっ。」



 よっと、言いながらクルクルと空は鎖を避ける。そして、その鎖は私の方へも来ていた。

 感心している場合ではないと、向かってくる鎖を一本、二本と今度は避け、三本目にして音を上げる。そもそも、私は地上での戦闘は全くもって苦手なのですが!?



「あ、あのー?私、これ以上避けられないんですが!?」


「姉さんは魔法で結界をはるか、糸で結界をはるかしたらいいと思うよ。」


「つまり、結界を作れってことですね!〈魔力糸(断)〉!」



 空の助言と同時に糸を辺りに張り巡らせる。これで、敵意のある物や人は全て断つことが出来る訳ですが……これからどうしましょうか?

 少し余裕が出来た為に生まれた疑問だったが、それもすぐ近くで聞こえた笑い声にすぐ掻き消えることとなった。



「あはははっ!」



 思わず固まった思考の中にチェシャさんの笑い声が入ってくる。鎖に飛び乗り、飛び移り。次々と鎖を足場にソウさんへと近づいていくその姿は、正に別格というか、人ではなく一匹の黒猫のように見えた。



「あはははははっ!」


「わぁ。何故か急に笑い始めたんですが……?」


「やっぱり、ちょっとオカシイ人だったみたいだね?」



 チェシャさん、初めは変わっている方だと思いましたが、それ以上に凄い方だったんですね。

 思わず空の言葉に同意しかけたが、オカシイと言うよりも、凄いという言葉の方が相応しい気がする。

 確かに、あの動きは猫になるべく日々精進しているという言葉に嘘偽りはないだろう。



「空。私、思うんですが。」


「何?」


「チェシャさんは、悪い方ではありませんよ?」


「……そうだね。分かってる。」



 未だに少し警戒した様子の残る空は、苦笑しながらもチェシャさんの行く末を見ていた。


 チェシャさんは進み続け、もう少しでソウさんの目の前というところまで来ていた。遠目では分かりづらいが、どうやらソウさんは少し驚いているらしい。

 少し開いている口が次の瞬間には悔しげに歪む……と、同時にチェシャさんが鎖の上から地面へと飛び降りた。

 その途端に先程までチェシャさんがいた場所へ鎖が殺到する。

 チェシャさんはこれを読んでいたんですね。

 改めて凄いと感心すると、チェシャさんが不思議そうに首を傾げた。



「にゃぁ……?」


「どうして与えられるのはあなた達ばかりなの?私は全部、全部っ!奪われたというのに!」



 ソウさんが激昂するままに鎖の動きが激しくなる。標的などは関係なく辺りをまとめて壊そうとしているのだろう。地面や地面から生えている植物さえも纏めてボロボロになっていく。

 あっ。流石に糸だけだと無理ですね。これ。



「災いもたらす万物を斥けろ。〈対魔結界〉」



 イメージを固めるための呪文と適当に名付けた名前を告げると、周りに紡錘形の糸と糸を繋ぐように魔力の結界が出来上がる。

 どうにかそれで耐えて終いには鎖により向こう側が見えないほどぐるぐる巻きにされた頃。


 ピタリ猛攻が止んだ。


 あ、あのー?周りの状況が全くわからないんですが?

 どうしましょうと戸惑いながらも耳を済ませると、ソウさん……んー?ちょっと違う気がする淡々とした声が聞こえた。



「所定時間、オーバー。

 与えないものには、Trickを。」



 何処か機械音のような声に気を取られていると、更に鎖が巻きついたのか、ピシピシと結界にヒビが入る音がする。



「流石にキツイんですが!」


「耐えて、姉さん!」


「耐えろと言われても……!」



 思わず叫ぶと、空からも切羽詰まった声が聞こえた。いや、本当にキツイんですが!?

 耐えろとか鬼畜の所業かと叫びたくなりつつ、何かないかと考える。


 とにかく、今の状況は鎖を止めなければならないのだ。何故?鎖を止めなければ、鎖により拘束されてしまうから。

 では、何故鎖による拘束がマイナスの事象として私たちは認識しているのか。

 単純に拘束されるのが嫌なのもありますが……何が起きるか分からない、抵抗出来ないから、ですね。……あれ?そもそも、危険でなければ抵抗する必要もない、ですよね?

 その思考に行き着き、一先ず拘束されるどうこうは置いておくとして、私たちは抵抗しなければならない、抵抗する状況に陥る可能性がある相手と向き合っているということにならないだろうかと考える。

 そして、先程のこの世界でのやり取りを思い出せば、今の状況が少し理解出来る気がした。



『初めまして。私、チェシャというの。』


『私はエンプティです!よろしくお願いします!』


『ボクは空。』


『わたし、ホロ……。』



『あまぁいお菓子はいかがかしら?』


『とっても美味しいチョコレートですよ!』


『うーん。寝ながらだと食べにくいんじゃないかな?棺を立ててみよう。』


『Treat確認。Treatの1つが置き換わります。』



 初めのTreatは名前。そして、返ってきたものはホロさんの名前だった。


 それ以降のTreatは食べ物。そして、返ってきたものはなく、置き換わったという説明があった。


 この2つの出来事から考えられることは、Treatに返すものは基本的にTreatと同じものである、ということだ。しかし、ホロさん自身が返せないものであるとするならばその限りではなく、別のものと置き換わる。

 だとするならば、ソウさんに変わったのは、ホロさんから置き換わっていったから……?


 では、この状況を改善するにはどうするべきか。

 答えは単純。これ以上、ソウさんに置き換わらないよう別のTreatを行うこと、ですかね?

 とにかく、この事を2人に共有したい所ですが……残念なことに結界の周りがあまりにも鎖でぐるぐる巻きにされ過ぎているので、こちらから行くのは無理そうですね。


 そう考えていると、丁度チェシャさんと空が近くに来たのか、声が聞こえた。あ。私も言わなければならないことが……!


「にゃにゃっにゃにゃにゃ!」

「分かったよ!チェシャさん、姉さん!」

「分かりましたよ!空!チェシャさんも!」


「「え(にゃ)?」」


 3人重なった……と、言うよりも、なんとか合わせた声に思わず声のした方へと顔を向ける。

 ついおかしくて笑ってしまったが、こちらに攻撃する意思はないと示さなければならないのだから、問題はないはずだ。

 恐らくですが、こちらがあまりにも鎖を警戒しすぎたために拘束しようとしてきたんだと思うんですよね。

 2人もそれをわかっているのだろう。先程までとは打って変わって和やかな空気が流れる。



「とにかく、全ては鏡合わせの行動なわけだから、ボク達は攻撃をせず、Treatをすればいい。」


「そうすれば、彼女も同じ行動をすることになるというわけですね!」


「にゃぁっ!」



 うんうんと頷くと、なにか重たい音がドンッと1つ、カタン、カタンっと複数の少し軽めのものが置かれたような音が聞こえた。

 むむむ。ちょっと、何を置いたのかは見えませんが……音と状況からして、恐らく椅子と机でしょう。ハロウィンと言えばパーティーですからね!



「そんなもの何処から……?」


「まあまあ。とりあえず、見えはしませんがそちらに椅子や机があるのは分かったので、結界を広げていきますね。」


「にゃにゃにゃぁにゃにゃにゃ!」



 2人の反応からも間違いはなさそうだと結界を拡張する。

 鎖は途中から解けていたため、障害にはならない。問題なく2人を結界の中に入れることに成功した。

 ホッと一息ついていると、空が私の頭をポンポンと撫でてくれた。その手に少しばかり安心していると、チェシャさんが机の上に紅茶やスコーン等のお菓子を沢山用意し、ハロウィンらしくカボチャや黒猫、コウモリの模様が入った小物で飾りつけをしていた。

 その猫の手でどうやっているのか不思議に思ったが、見るからにこれはハロウィンパーティーと呼べるものだろう。

 完成とばかりに胸を張るチェシャさんに、思わず尋ねていた。



「にゃ!」


「ハロウィンパーティー……ですか?」


「へぇ?つまり、相手を戦う状況ではないハロウィンパーティーに誘うことで、相手にもハロウィンパーティーを開いてもらうんだね。」



 頷く空にそういう考え方もあるのかと考え、では早速とソウさんに話しかけた。



「ハロウィンパーティーしませんか?

 きっと、その鎖をを振り回すよりは楽しいですよ?」


「ハロウィン……?」


「うん。ハロウィンは死者が生者と一緒になって楽しく過ごす日のことを言うんだ。キミもどうかな?」


「にゃにゃにゃぁにゃにゃ?」



 ハロウィンを知らないのだろう。不思議そうに呟くソウさんに空が説明すると、ソウさんは俯いた。尚、チェシャさんが何を言っているのかはさっぱり分からない。

 ニュアンスで分かるような……分からないような、なんですよねぇ。

 誰か分かる人も居そうだなと考えていると、ソウさんは震える声で私たちに問いかけてきた。



「……私が、私達が。参加しても……いい、の……?」


「にゃぁ!」


「勿論です!」


「当然。」



 肯定する言葉に、ソウさんが笑顔を浮かべる。あ。これ、結界をはったままだと入れませんね。

 うっかり忘れていた結界をすぐさま解くと、ソウさんが恐る恐る着席する。

 それと同時にチェシャさんが乾杯と言わんばかりにカップを手に取り、前へと突き出した。



「にゃんにゃぁっ!」


「えっ。ちょっと?紅茶で乾杯は流石に行儀が悪いと思うんだけど。」


「良いじゃありませんか。こういうときくらいは。

 はい。乾杯、です!」


「えっと、こう……?」



 コンッと静かにカップを当て合い、戸惑った様子の初々しいソウさんともカップを片手に乾杯する。

 その後、ソウさんと話したところ、ソウさんとホロさんは同一人物という訳ではなく、ホロさんの中に封印されているソウという方が今目の前に居るソウさんなのだということが分かった。

 ただし、別にこれはソウさんの意志という訳でもないらしく、ただ人見知りのホロさんが人と話すことを恐れてソウさんに全てを任せたというのがことの経緯らしい。



「持ちつ持たれつ。それが私たちの関係なのよ。」


「そうなんですね。」


「じゃあ、あの鎖は?」


「あれはホロの性質よ。全てを封じる力が強力すぎる故に、何もなければ余剰に力が有り余って土地に影響を及ぼしてしまうらしいわ。

 だから、普段は自分を拘束してその力を出さないようにしているのよ。」


「にゃぁあ。」



 なんとも厄介な性質だと話しながら、こうして4人のハロウィンパーティー(お茶会?)は穏やかに進んで行った。

 ……あれ?そういえば、何かを忘れているような?



「プティ!大じょう、ぶ……大丈夫そうだね。」



 あっ。そういえば、帰り道をさがしていたのでした。色々あってすっかり忘れていましたね……。

次回、皆でパーティー


ちなみに、ホロは母衣から。

ソウは操から名付けてます。

(まあ、理由は後付なんですが。)


それでは、これ以降も良き暇つぶしをお送りください。

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― 新着の感想 ―
[良い点] お茶会の始まりは声を掛けての呼び込みから♪ [気になる点] やって来た捜索隊。お菓子の追加はありますか?皆さんも仮装しているのですか? [一言] 嵐の後の穏やかな光景。
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