168話 乱入者は突然に
こんにちこんばんは。
ちょっと用事があり、書く元気もなかったために文字数が少なめで申し訳ない仁科紫です。
話が進まない……→誰か乱入させよう!になりがちな気がする今日この頃……。
それでは、良き暇つぶしを。
「えっ、神様の痕跡が分かる……?本当に?」
コクリと目の前の少女が頷く。どうやら、嘘や冗談ではなさそうだ。
そもそも、目の前にいるのは一時、騒動の最中にいたルナさんである。今となっては覚えていないらしいが、それでも本人の持つ力は変わりないのだろう。
そう。ルナさんは記憶喪失らしい。
イアさんが愛情の街で遭遇したことをきっかけに、イアさん達がルナさんにある程度の常識を教えて今に至るそうだ。本人は、『しる?ちがう……。』と言っており、過去のことにそこまでの執着はないらしい。
では、何故ここにいるのかと言えば、単純に居場所の問題である。エロスさん曰く、騒がしい場所をルナさん本人が望んでいないため、託されたらしかった。騒がしいという向こうの状況については考えないでおく。
ですが、何かおかしい気もするんですよね?イアさんがルナさんを離すかと言われると……離さない気がするんですが。
ジト目でエロスさんを見る。ニコニコと変わらぬ笑顔の圧を受けた。……くっ。強い……。
諦めて思考に戻ることとする。
さて、そのルナさんであるが、記憶がなくとも力はあるらしく、愛情の街でも影を相手に余裕綽々と立ち回っていたらしい。本人は『こ、のぞむ。わたし、かなえる。』と言っていた事から、少し違う世界が彼女には見えているのかもしれない。
そんなルナさんは、なんと神様の気配を感じることができるらしい。正直、羨ましい限りだが、習得できるようなものでもないとの事だったため、大人しくルナさんに協力してもらうことにした。
「それなら、今神様が何処にいるか分かるのかしら?」
「んぅ……」
尋ねると、ルナさんは狐の耳に手を当て、ピコピコと動かし始める。集中しているらしいルナさんは、やがて口を開いた。
「……いま、ちかくいない。」
「そう……ありがとう、ございます。」
「ん。」
どうやら、ルナさんの能力には距離という問題があるようだ。感じ取れるだけでも凄いが、流石に何処でも分かるというわけではないのだろう。
そこへ、今まで成り行きを見守っていたエロスさんが首を傾げて入ってきた。何か気になる事でもあったのだろうか。
「おかしいね?僕にはこの世界にも居ないように感じるんだけど。」
「ん。いない。どこも。」
「えっ。何処もって……まさか、神様はこの世界に居ないんですか!?」
驚きのあまり、目を点にしてエロスさんを見る。
そもそも探している相手がいないというのなら話にならない。私は神様に会う方法がないということになる。ど、どうしましょう!?
あわあわとその場で一人、行き場のない感情におろおろしていると、エロスさんは呆れたように私を見た。
「今は、なんだからそのうち現れるよ。
何のために彼女をここに連れてきたと思ってるの?
当然、君が探してるあの人が居た場所を探してもらうためなんだから、大丈夫に決まってるだろう?」
「そう……そう、ね。」
どうやら、エロスさんがルナさんを連れてきたのは気配に敏感かつ痕跡を辿ることが出来るかららしい。つまり、神様探知機のような働きを期待しているわけですね。
「あら?だけど、さっきはイアさんに託されたと言っていなかった?
連れて来たって……同意は得ているのよね?」
「ん?何が?」
にっこりと笑うエロスさんに嫌な予感がする。え。もしかして、声かけずに来ました?え。えぇ……。
「それ、誘拐って言うんですよ?」
「ゆうかい、よくない。ガイア、いってた。」
「おっふ。君は黙ってようねー?」
「……?」
あ。これ、黒確ですね。
何をやっているのやらとエロスさんをジト目で見ていると、そこへバンッと扉が開く。
「宿敵、変態誘拐犯!姉を返す!」
「あ。イアさん。」
こちらを見てコクリと頷くイアさんは、数日ぶりだが懐かしく感じた。
エロスさんを指さし、過激な言葉を言うイアさんはどうやら相当怒っているようで、周りに大量の蔓を引き連れていた。蠢くそれにエロスさんが顔をひきつらせる。
「ちょ、ちょっと落ち着こうか?姉さん。
ほら、暴力は何も解決しないって言う…っし!?」
「問答無用!」
ドッタンバッタンと広いわけでもない部屋で戦闘を繰り広げ始めたいい大人の2人に驚き、呆然と見る。
イアさんは蔓で、エロスさんは何処から取りだしたのか弓で応戦している。エロスさんの方が武器からして不利だが、どう見てもエロスさんが悪いだろう。
ここは巻き込まれないようにルナさんを回収し、端の方で待機する事にした。
「いいの?」
「いいのよ。問題ないわ。」
あの2人は満足するまでやり合わないと気が済まない質ですからねぇ。
放置するのが一番だろうと傍観に徹する。ちょこんと隣に座るルナさんは、耳をぴょこりと動かし、フサフサとした尻尾をゆらゆらと揺らしており、何を考えているのかは分からない。
一連を通してエロスさんが本気で神様を探そうとしているのは分かった。しかし、エロスさんはどうしてそこまで神様を探したいんだろうか。
分からない人ですよね。エロスさんって。
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「ぜぇーはぁっはぁ……ホラ!もういいだろ!
そんなにコイツと居たいなら付き合ってくれれば良いだけじゃねぇか!」
「口悪い。本性出てるけど、いいの?」
「うっせ。……はぁ。もう、いいだろ。ほっとけよ。」
「放っておけるなら姉なんてしてない。」
「……あっそ。」
ゴロンっと床に寝転がるエロスさんにイアさんが苦笑する。
結局、2人の戦闘は部屋を穴だらけにし、天井に穴が空いて空が完全に見えるまで続いた。隣のルナさんなんかは途中で飽きたのか、ウトウトと船を漕ぎ始めたかと思えばいつの間にか眠りについていたほどだ。尚、寝ていても流れ弾にかすりすらしなかったのは流石神だと思った。飛んできた瞬間に首を横にずらしだり、物理的に殴り返したりしているにも関わらず、寝息が聞こえた時はどう反応したらいいものか悩んだくらいですよ。
でも、そろそろお話を進めねばですね。
「あのー?」
「何?」
「イアさんは、結局神様探しには協力して貰えるのかしら。」
苦笑混じりに問いかける。イアさんは少し首を傾げて私を見たあと、口を開いた。
「プティ。その口調、似合ってない。」
「もうそのやり取りは良いんですが!?」
イアさん、お前もかと裏切られた気持ちになりつつ投げやり気味に答える。イアさんはやはり、また首を傾げつつもやがて頷いた。
「やっぱり、そっちの方がいい。」
「あーもう。これにも事情があるんですから、今はいいんですって。
それより、協力していただけるんですか?」
イエスかノーか。それだけが知りたいにも関わらず、なかなか答えてくれないイアさんに少しばかり苛立つ。
まあ、イアさんはマイペースですもんね。ここは落ち着いて、冷静になって対応しましょう。
味方を得るチャンスを逃してたまるかとイアさんを見ると、今度こそイアさんは頷いてくれた。
「ええ。元よりそのつもり。コレが関わってるのは度し難いけど、その子を巻き込むなら同じこと。プティに協力する。」
「ありがとうございます!」
喜びからイアさんに抱きつくと、イアさんによしよしと頭を撫でられた。くっ。やはり、慣れないからかどうも気恥ずかしさが勝ちますね!?
落ち着かないままに撫でられていると、いつの間にか起きていたらしいルナさんが隣に立って頭を差し出していた。
「ん。」
「よしよし。良い子。」
「ちょっと?それ、洗脳じゃないよね?姉さんの野望がついに叶ってしまってるし……。」
2人の少女をよしよしと撫でる女性というなんとも傍から見れば微笑ましそうな光景に、エロスさんが胡乱な目をしてイアさんを見る。
ん?イアさんの野望?不穏なワードが聞こえましたね。
成り行きをいつまで撫でられるのかと考えながら見守っていると、イアさんは片眉を上げて不機嫌そうにエロスさんに反論した。
「心外。ちゃんと教えてあげただけ。」
「……何を?」
「寂しかったら撫でられに来る。」
「やっぱり洗脳じゃないか!?」
因みに、イアさんの野望は頑固で人を頼らない姉をよしよしして甘やかすことだったらしい。
確かにそういうの好きそうですね……と思う私なのだった。
次回、ようやく動く……と、信じたい。
因みに、ルナの回避はオートで発動します。
寝ている時に起こすと超絶不機嫌になるので、怒らないのが正解だったり。
それでは、これ以降も良き暇つぶしをお送りください。




