165話 気づきは成長のきっかけ
こんにちこんばんは。
色々と設定をいかせないままに終わりそうな雰囲気に少し焦っている仁科紫です。
ま、まだ終わらないデスヨ……?
それでは、良き暇つぶしを。
海の考えを全て知っているという空は、徐々に消えていく地を這う影達を見て何を思っているのだろうか。ふとした思いつきで空を見る。しかし、空はただ表情のない顔で見下ろしているだけだった。
その表情になんだか落ち着かなくて空に話しかける。海の考えを聞けた今、話題は何でも良かった。
「あの、空。空はやっぱり戻ってきてくれないんですよね?」
甘えた質問だと分かってはいても結局そう問いかけてしまう私は、海の言う通りバカなのだろう。
それでも、私は空とずっと離れたままなんて考えられなかった。
「当たり前でしょ。」
「そう、ですよね……。」
「ボクは、これから自分がしたことに対する報いを受けないといけないから。」
何の……?と首を傾げようとしたところで、割って入る人影があった。それは、的確に空を捉えていた。
「空っ!?」
「くっ……!」
「やァやァ。楽しそうニお話中、ゴメンネ?
こノ世界、なクされちゃァアタシが困るものデ。」
いつものニヤニヤとした笑みの向こう側に赤い狂気を宿す妖華さんがそこには居た。右足が空に振り下ろされ、空はそれを両腕を交差して防いでいる。
ギリギリの攻防なのだろう。空は歯を食いしばり暫く競り合った後、妖華さんを弾き返した。
こちら側へと弾き返された妖華さんは、どういう原理なのか空中であるにも関わらず、まるで足場があるかのようにその場に佇んでいる。
急な襲撃に私は気づけば妖華さんに詰め寄っていた。
「妖華さん!急にどうしてですか……!?」
「どうしテ……?冗談キツいネ。元からアレは世界ノ敵じゃないカ。コノ行動ハ妥当。そうハ思わないカイ?」
ネェ?と言いたげに小首を傾げて私を見る。妖華さんは元々掴めない人だとは思っていたが、今はその印象がさらに強くなっていた。
「でも……」
「アレは、また同じようナことヲするモノ、ダヨ?それナラ、今ノうちニ壊しテしまわないト。」
クスクスと笑った妖華さんは、口角を上げたままに構えた。再び空を攻撃するつもりなのだろう。
空が世界の敵だから、空を壊す……?……いいえ。違う。空は、ただ私を思っていただけで。だから、空を壊すなんて……!
「許しませんっ!絶対に!〈魔力糸(縛)〉!」
「ン。やっぱり、カ?まァ戦えるナラそれでイイネッ!〈空脚〉!」
魔力糸で縛るべく妖華さんに向ける。しかし、妖華さんは蹴散らす様に魔力糸をかき消す。
そう簡単にいかないのも当然か。あちらはファミリアのマスターなのだから。でも、それは私も同じなのです!
宙を蹴って反転し、近づいてくる妖華さんにそれ以上は近づけまいと魔力を練った。
「負けません!〈魔力糸(粘)〉!」
「オヤ。これハ当たるト不味そうダネ?〈風破〉!」
今度は吹き飛ばすように風の塊が糸を吹き飛ばす。その姿を見つつ、やはりこれでは勝てそうにないかと息をつく。
勢いを僅かに緩めさせることに成功したが、それでも近づいてくる妖華さんに構える。しかし、そこに割って入る人影があった。
「そこ!抜け駆けは禁止ですが!?」
「おやァ。来テしまったカイ?」
「当然です!ここで活躍せず、どこで活躍するというんですか!」
「チィッ!」
あぁもう!次から次へと!
それは下から翼の集団を引き連れたトアさんだった。
苛立ちから舌打ちがもれたがすぐさま目的を切り替えることにする。
この人数を相手するよりは……!
何故か唖然とした様子で私を見る空に近づき、手をとる。
「えっ。」
「行きますよ!空!」
グイッと引っ張り同意を得ることなく飛び出した。行先は考えていなかったが、ここにはとてもではないがいられない。いつ空が狙われるか分かったものではないのだ。
地上には既に影の姿はなく、あるのは瓦礫の山だけ。後方では未だに金属の衝突音と衝撃が伝わってくるため、まだエロスさんとの戦いは終わっていないのだろう。しかし、空の後方にあった黒い穴が閉じかけている。それはつまり、元凶とも言える空を狙うものが増える可能性を意味していた。
プレイヤー達にとってこれはイベントでしかない。ならば、空はこのイベントのボスだと思われても仕方がないのである。でも、それだけは……!
「私にだって、譲れないものはあるんです!ニケ!加速を!私に力をください!」
〈承った。行け!主!〉
願うと同時に加速する。世界は急速に過ぎ去り、後ろに迫りつつあった気配はなくなる。
結果だけを聞けば成功したように思えたかもしれない。しかし、急激な加速に私の貧弱な動体視力が追いつくはずもない。正しく一瞬で過ぎ去る世界に、少しでもついていこうとするがそこは私の残念さが出た。少しして見えてきた山に停止しようとするが、当然のごとく急停止できるわけがない。衝突を覚悟し、衝撃に備えた。
あーもう。カッコよく連れ出したのにこれってホント……。
手を握ったままの空を庇うように抱えようとするが、空はその前に行動を起こしていた。
「〈百花繚乱〉!」
ブワッと山肌に花が咲き乱れる。一つ一つが人くらいの大きさの花達がクッションとなり、なんとか無事に着地できた。
「危なかったです……。」
〈すまない。主の制御能力を甘くみていた。〉
(貶してますか!?)
全くもって遺憾であるとニケに訴えるが、ニケはその訴えもなんのその。
返答は誤魔化すような口笛のみであり、更にニケに詰め寄るよりも前に空が私に詰め寄っていた。
「ちょっと!姉さん!?どういうつもりなの!ボクは戻るからっ!!」
折角ここまで逃げてきたのに。それでも空は戻ると言う。
それを見て、やっぱりと。ただそう思った。
全てのピースが嵌り、空の思惑通りにさせるかと強い意志を込めて口にする。
「いいえ。戻らせません。」
「ボクはあそこで!!」
「倒されるつもりだった、そう言うんですよね?」
「……っ!」
息を飲む音。空はなんでと不安に染った顔をしているが、半身の事だ。分からないはずがなかった。
「空。私が分からないとでも思いましたか?
あの門は貴方があそこで守らなくても良かった。何故なら、あれはそこにあってそこにないものだから。
なのに、空はまるで門番のようにあそこに居ましたよね?どうしてですか?」
「それは……」
「倒されるため、ですよね?
貴方は自分を倒さないと門を閉じれないとプレイヤー達に思わせ、そして、自然と消えるつもりだった。私の目の前から……!」
理解したくない、許せない。どうして私から逃げようとするのか、私の前から姿を消したときから思っていた。空は、私の事を姉だ、半身だと言いながら、結局のところ、心の中ではだから自分は消えなければならないという思いをずっと抱えていたのだ。
私は、ずっと一緒に居てくれると思っていたのに……!
「空。どうせ、こう思ったんですよね?
空が海である可能性を知れば、私が海であることをやめてしまうのではないか、と。」
「どうして……!」
「分かりますよ。だって、私たちは同じ海から産まれたんですから。」
私は、いつも自分がどうなってもいいとばかりの行動ばかりとっていた。私にそんなつもりはなかったのに。
でも、今なら分かる。私は、何時だって誰かのためになら消えてしまってもいいと思っていたのだと。空も私も、そう変わりないんですよ。実は。
「でも、もう大丈夫ですよ。空。」
「……何が?」
「私はちゃんと海になります。他の誰かではなく、私が。
もう、海を求めるのはやめるんです。」
本当は、まだ少し未練があった。もう一度、海の歌を聞きたかったから。
私が目覚める前に聞いた歌。懐かしいような、それでいて何処か寂しげな歌は、海の歌だったのだと。現実で目が覚めたときに知ったから。
何もない私が、生きるための目標にしたものだったから。
それでも、私が海を求めてしまう為に空が消えようとするぐらいなら。
私は、海を諦められる。
「どうして?姉さん。あれだけ海に拘っていたのに。」
「私の独りよがりだと気づいたからですよ。」
私は、海じゃない。あの歌を何度歌おうと思っても歌えなかったから。
産まれたばかりの私は、あの歌を歌えるものが海であると勝手に思い込んでいた。歌が人生と共にあったのに、それがなくなってしまった海を私は海だとは思えなかったから。
でも、海は海の歌声と一緒に消えてしまった。
もう居ないのだと、存在しないのだと認めなくてはいけない。結局、私は自分のことばかりで海のことも空のことも考えようとしていなかったのだ。
「例え、歌を歌えなくても、海は海。私は海です。それでいいんですよね?」
「あ、当たり前でしょっ……!
そんな事、気にしなくて良かったのに……!」
涙ながらに言う空に苦笑する。
その判断が出来ていれば苦労しないと、今なら笑えた。
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あれから少し時間が経った頃。
私たちはこれからどうするのかと話し合っていたが、ふと目に入った角に言葉を漏らしていた。
「空の姿、変わりませんね。」
「あー……うん。多分、これはもう戻らないと思うよ。禁忌に手を出した罰だから。
言ったでしょ。報いを受けないといけないって。」
落ち着いてから話を聞いたところ、空の額の角はこの世界に存在する地下世界、所謂黄泉の国から許可なく物を持ち出した罪人の目印なのだということが判明した。つまり、神様に許して貰えるまではそのままということなのである。
「でも、エレボスさんはいい人でしたよ?許してくれるんじゃないでしょうか。」
「姉さん。神がそんなに甘い存在なわけがないでしょう。それより、姉さんはボクから離れた方がいい。」
「何故ですか!?」
ここに来てまた離れろと言うのかと、空を睨みつける。
空は私を見てやはり苦笑していた。
「うーん。そんなにボクと居たい?」
「勿論です!だって、家族なんですから!」
「家族……そっか。家族なんだね。ボクたち。」
苦笑が微笑に変わる。空は覚悟を決めたようにひとつ頷いた。
「それなら、絶対大丈夫だから、〈分裂〉を解いてくれない?」
「〈分裂〉……ま、また一つに戻るってことですよね……?本当に空は消えませんか?」
分裂を解除するのは構わないが、また分裂した時の存在が同一であるか不安だったためにずっと解除したことはなかった。
でも、空が言うのなら……。
「うん。絶対、大丈夫だよ。」
「……分かりました。〈分裂:解除〉」
空が黒紫色の光に包まれ、光の塊になったかと思えば、光が私の胸元辺りに飛んでくる。すうっと消えた感覚に胸の辺りを撫でた。
空と呼びかけても返事はない。でも、確かにここに居るのだという充足感を得て、少しホッとする。落ちていた人形を拾い、その日はログアウトをした。
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パクパクと口を動かし、喉をあ〜っと震わせる。どうやら、声は出てくれそうだ。
そこでよしっと、意気込んで本格的に声を出した。
「空野海、高校1年生。いろいろとありましたが、新生海として頑張りますよ!」
まずは友達作りからですね!
という声に驚いた看護師が扉から声をかけてくるまで後3秒。
こうして、私は空野海として生きると覚悟を決めたのだった。
次回、神様探しは終わらない。
因みに、妖華さんとトアさんはこの後戦ったとかなんとか。
妖華「獲物ヲ逃しタ責任、取っテくれるヨネ?」
トア「ふん!貴方よりも私の方が強いと証明して見せます!」
それでは、これ以降も良き暇つぶしをお送りください。




