16話 見知らぬ人は種をまく
こんにちこんばんは。
予定変更を実行してみた仁科紫です。
書いていると展開を変えてみたくなるものですね。
それでは、良き暇つぶしを。
神様の言葉を聞き逃すことなく、最後まで聞き届けてから上空へと飛ぶ。
目標の真上までたどり着いた私は魔力糸を伸ばしてサクララバイに巻き付けた。
きゅきゅきゅーっと巻き付けて生えている木に巻きつけてやるのです!
魔力糸を木に巻きつけるとすぐさま切り、もう一本伸ばして同様にする。自身から切り離しても実体を持つことは既に実証済だ。
おっと…あれ、もしや、これはちょっと足りないです…?
あともう少しというところで限界ギリギリまで魔力を使ってしまったらしい。若干ふらつく体に慌てて魔力糸の性質を針状へと変更。地面に糸を突き刺した。
残り1パーセント程の魔力を使い、近くまで来ていた神様の上まで吹き飛ぶように移動。落下することでその胸へと飛び込むと、神様は優しく受け止めてくれた。
「おかえり。魔力切れの感覚はどうだい?」
「自分が擦切れるようなイヤーな感じです…。」
本体が魔力の塊であるためか、かなりの不快感を感じる。
恐らく、今の私の頭にある輪は普段よりも細くなっているはずだ。
私の疲れきった姿に神様は苦笑し、私の頭を撫でた。
「全く。無茶するね?大盤振る舞いにも程があるよ。
初めてのイベントでテンションでも上がったのかい?」
「いえ、私に出来ることはこれくらいだと判断したまでです。後はお願いします。」
淡々と事実を述べると神様はふわりと笑い、サクララバイを見た。
「あ゛ぁ゛ん?」
そこには行動を阻害されたことに気づき、じたばたと暴れるサクララバイがいた。
尖った目を更に尖らせ、キョロキョロと辺りを見渡したかと思うと、再び周囲へと酒を振りまき始める。
どうやら動くことよりもそちらを優先するようですね。
相手の行動を分析しているといつの間にか神様はサクララバイへと近づき、手に持った剣を振り下ろしていた。もちろん、私を肩に乗せてである。このバランス能力はどこから来ているのでしょう?不思議です。
「せいっ!」
「ギャァッ!?」
腕を切り落とされ、叫び声を上げたサクララバイは一瞬怯んだ後、もう一方の酒瓶を持った腕を神様に向けて伸ばし、傾けた。
「…ノメヤァッ!」
しかしながら、神様とてそれは想定内の行動だったらしい。すぐさま地面を蹴ってサクララバイの後ろへと回り込む。
わぁ。…速いですね!一歩で何メートルどころではなく、何十メートル進むなんて…流石神様です!
予想以上の神様の強さに最早ヤケクソになりながら内心叫んでいると、後ろに回った神様は動けないでいるサクララバイの背中に目掛けて飛び上がり、勢いのままに袈裟斬りにした。
そこへ後方から放たれる魔法が次々と突き刺さる。赤や緑、青といった色とりどりの魔法はなんとも見応えのある花火のようだった。
おお。綺麗ですね。何気にサクララバイを固定したのが良かったのかもしれません。
どうやら、主力となる人形族や幽霊族というのは後方支援職が多いらしく、なかなか決定打を打てずにいたらしい。そこへ私が敵の固定という荒業を行ったことで最早敵はただの巨大な的と化したようだ。
その状況を把握しているうちにも、サクララバイは弱っていく。よくよく見ると浮かんでいたHPゲージもそろそろ4分の1を切り、赤色になって来た。もう少しで敵を倒しきるだろう。
…という、その時だった。
「ノォメェヤァアアアアッ!」
突如として叫び始めたサクララバイに離れていた神様が剣を構え、油断なくサクララバイを見る。私は神様の邪魔にならないようにと頭の後ろに魔力で張りつくことにした。
……え?嫌がらせじゃないですよ?動きやすさを考慮した位置取りなのです。ほら、神様の活躍を観たいですからね!
心の中で誰に言うともなく言い訳をしつつサクララバイを見る。
そこには魔力糸から魔力を吸収し、自由を取り戻したサクララバイの姿があった。
うわぁ…。あれ、吸収されちゃうんですね。覚えておかないと。
衝撃的な出来事にポカンとしていると、サクララバイはくるりと方向を変え、右側にいた私たちへと走り始めた。
「やっぱり来るか…。プティ。ちょっと揺れるから気をつけて。」
「了解です!」
すぐさま了承し、回復してきた魔力で魔力糸をより頑丈なものとする。
そうして補強が完了すると神様は向かってくるサクララバイに向けて肉薄し、直前で地面を蹴ってサクララバイの真上へと到達。それをサクララバイは慌てて止まろうとするも止まりきれず、ただ呆然と見つめるだけだ。
すぐさまかかる重力に従い、神様はサクララバイの頭へと剣を突き立てる。その剣は決して柔らかくないはずのサクララバイの体を突き破り、遂には真っ二つに切り裂いてしまった。
「ノォオオオオオオッ…!」
なんともしまらない叫び声を上げてサクララバイは倒れ、徐々に青白い光の粒子へと変化していく。
その姿を見た人々は歓声を上げた。
「「うぉおおおおおおぉおぉぉぉっ!!」」
…って、やっかましいですね!?
あまりにものうるささに眉を顰めていると、それは私だけではなく神様も同様のようだった。
あ。そうです。ならば、神様に提案してしまいましょうか!
今思いついたばかりの提案を早速神様にする。神様は使っていた剣を収納し、一息ついたところのようだった。
「神様。イベントもこれで終わりですよね?」
「うん。これで終わり。後はまたどんちゃん騒ぎをするだけかな。」
「なら、もうちょっとあっちの人の居ない方へ行きませんか?騒がしいのもいいですが、やはり最後は神様としめたいのです。」
そう言うと、神様は微笑みながら頷いてくれた。
喜びのあまり飛び回りそうになったが、流石に子どもっぽすぎると気持ちを抑えて目処をつけていた場所を告げ、そちらへと歩き始める。…が、その途中で神様が止まった。
不思議に思い、首を傾げているとそこへ聞き覚えのない声がかけられたのだ。
「さっきは大活躍だったな!」
「特に魔力で括り付けるなんて驚いたよ。
初めて見る顔だけど、新人さんかな?」
気になり、そちらを見ると蝙蝠のような羽を生やした金髪赤目の元気そうな青年と、髪で片目を隠した赤髪赤目の真面目そうな男性がそこに居た。
はて。どなたでしょうか?
青年の夕暮れのような紫みのある赤い目と男性の炎のようなオレンジみのある赤い目を見て、ふと思う。
なんというか…
「赤友達ですか?」
赤い目という共通点にそう尋ねると、男性は目の前で手を振って否定した。
「いや、友達じゃなくて知り合いかな。」
「ふっふーん!俺らは地獄の炎で結び付けられし縁をもつ者だからな!」
「うわぁ…いつもの悪い癖出てるよ…。しかも、なんかちょっと違うし…。」
「えー!良いだろ!」
ガシッと肩を組もうとする青年を男性がするりと避け、数歩下がって嫌そうに青年を見た。
悪い癖…厨二病なんでしょうか?それも、憧れているだけでイマイチよく分かってないタイプ…。
まあ、それはともかくとして、どうしてこの方々はこちらへ話しかけてきたのでしょう?神様のお知り合いでしょうか?
「神様。お知り合いですか?」
「いや、初対m」
「「神様!?」」
なんとも食い付きのいい反応に驚いてポカーンっとしていると、二人は何やら見つめ合い始めた。
……ふむ。これが噂のアイコンタクト…。私も神様と出来たりしませんかね?
そう思い、神様をジーッと見つめる。
神様はそんな私に気づいたものの、首を傾げただけだった。
……くっ。アイコンタクトって、ハードル高すぎません!?かーみーさーまー!気づいてっ!
思いを込めて見つめるものの、それは無駄足掻きでしかなかったようだ。
神様は私から目線を外し、二人の方を見てしまった。
なぬっ!?見知らぬ二人に優先順位で負けたんですが!?なんというか…こう…ムカムカ…じゃなく…イライラでもなく……そう!悔しいんですが!?
心の中で一人芝居の如くのの字を書きまくるイメージで落ち込んでいると、神様が口を開いた。
あ。これはちゃんと聞きませんと。神様のお言葉は聴き逃してはならないのです!
そう思い、真剣に聞いていると、神様から出た言葉は聞いたことがあるようでないような話だった。
「アポロンとアレスのマスターが何か用かな?
見ての通り、ただの幽霊と人形だけど。」
はて?アポロンとアレス…?何の話でしょう?
あと、私が人形なのは間違いないので…えっ。神様って幽霊だったんですか!?
驚きのあまり固まっていると、問われた2人組は穏やかに話を進める。
「いや、見かけたから声を掛けただけだよ。
ここには討伐出来なかったときに僕らが手伝おうと思って来ていてね。」
「そしたら、滅茶苦茶強いやつが居るじゃん?しかも、なーんか、変わったの連れてるし!
いやぁ。あのサクララバイの動き、マジ見ものだったわ!」
ケラケラと笑う青年が私の事を話題に出すと、男性の視線も私に向いた。
「こら。『変わったの』は流石に失礼だよ。
でも、確かに気になるお嬢さんだよね。」
「イッテッ…!?拳骨はねぇだろ〜。ひでぇな。」
「それくらい失礼ということさ。分かったら謝っておきなよ。
…彼も、機嫌を悪くしてしまったみたいだしね。」
「げっ。…すまん。流石に良くなかったな。次からは言わねぇから、そのトゲトゲしたのを収めてくれると助かる。」
「分かっているならいいんだ。次から気をつけてくれるなら、ね。」
その視線を遮るように私を手で覆った神様は不機嫌そうにそう言った。
うん?私が変わっているのは普通のことなので気にしなくてもいいんですけどねぇ。…と、言いますか。神様の手で神様のお顔が見えないんですが?今の神様、いつもと違ってちょっとクールでカッコイイんですから!見逃せないんですって!
神様の手を避けようにもすぐさまそれを阻止する神様に苛立ちを覚えるものの、少し楽しくなってくる。
ひょいっひょいっと私が神様の手と戯れている間も話は進んでいた。
「ああ。もちろん、気をつけるって。…てか、なーんか身に覚えのある殺気なんだよなぁ。」
「…あー。そういえば、僕もさっきの動き、なんか見覚えがあるんだよね。なんなんだろう…。」
何やら考え込む青年たちを見て、神様はため息をついた。
「もう行ってもいいかい?」
「あ。すまん。邪魔したな。」
「そうだね。君ほどの実力者ならまた何処かで会えるだろうし、その時までに思い出しておくよ。」
そうして2人組は去っていった。
むぅ。結局、あまり神様の顔は見えませんでしたね。
「神様、あの2人はどういった方々なんですか?
アポロンとアレスのマスターという事でしたが。」
「それはまた今度教えてあげるよ。
それよりも、今はお花見を楽しもうか?」
「ふむ…。神様のお言葉とあらば、仕方がありませんね。
いいですよ。お花見しましょう!」
こうしてその後はのほほんとお花見を楽しむのだった。
その一方で。
「なーんか、やっぱり見覚えがある気がすんだよなぁ。」
「うん。それに、あの殺気…。あれほどのものはなかなか出せるものじゃない。それこそ、ランキング上位者に入るような…。」
「…ランキング上位者…?
なぁ。アイツ、剣を使ってたよな?」
「え。うん…。それがどうし…っ!まさか…!?」
「剣であの動きはないっしょ。どっちかってーと、刀が良く似合いそうな動きだった。」
「い、いや!…それは確かに…?
でも、実際にそうだったとして、彼だよ?変に刺激するのは…。」
「ちょっと調べてみっか!」
「えっ!?ちょっ……はぁ。やめた方がいいと思うんだけどなぁ。」
こうして、エンプティ達が気づくことなく種はまかれたのだった。
次回、予期せぬ訪問者
それでは、これ以降も良き暇つぶしをお送りください。




