163話 未知との遭遇は唐突に
こんにちこんばんは。
猛烈に眠いため、いつもより短めで申し訳ない仁科紫です。
それでは、良き暇つぶしを。
暫く飛びながら向かってくる敵を一体一体倒していると、流石に面倒になってきた。
まあ、一体ずつ倒すのが適切であるとは思うのですが。こうも群がってくると鬱陶しくなるんですよね。
手のひらの上に混沌の糸を構え、すれ違い際に影へと押し付けて消し去る。
また一体消えた影に目もくれず先へと進む。
眼下にひろがる街に蠢く影たちは建物を何故か壊すことなくするりと抜けて這い進む。建物を避けるのは面倒に違いないにも関わらず、空を飛ぶものと地を這うものの2種類いるのはどうしてか。きっと何か法則があるのだろうが、今の所は分からないままだ。
急に飛ひだすことを考えれば、ある意味進化の過程を見ているようでもあるが、それでは説明のつかないこともある。
それは、時折見かける小さく丸まった影だ。今の所害は無さそうだということで放置しているが、果たしてあれは進化と呼べるのか。などと考えていると、目の前に10体ほどの群れが現れる。
「むっ。流石に数が多いな!」
「ああ。この数は骨が折れる。」
面倒くさと顔に書いたかのような顔をする2人を見てどうしたものかと考える。対処しきれないことはないが、やはり面倒であることには変わりない。きっと私も2人と同じような顔をしていることだろう。
少し考えてピンとくる。
あっ!そうです。この方法で行ってみましょうか!
「ロノさん!テルさん!ちょっと任せていただいても良いですか!?」
「ああ。構わない。」
「うむ!何か策があるというのなら任せた!」
思いついたことを実行するべく2人に手を出さないよう声をかける。
色良い返事に気をよくし、群れの一番端にいる影へと狙いを定める。
あそこから引っ張ってドーン……うん。いけそうですね!
「〈魔力糸(粘)〉!蜘蛛の糸風ですよ!」
「……!?」
放射線状に放たれる糸は狙い通り一番端の影を絡めとり、声なき悲鳴を上げた影にグルグルと糸を巻き付ける。
影に質量はないようで、そこまで重くはないことにホッとしつつ出来上がった巨大な糸玉をグルグルと砲丸投げのように回す。
「そーれ、ぐるぐる〜っと!です!」
「うわぁ……糸、グルグル……うっ、頭が……!」
「効率的な狩り方だな。参考にしよう。」
今も飛ぶ影はこちらの動きを察知して上へ下へと散らばっているが、そんなことは気にしない。巻き込まれるものから糸に張り付き、更に被害が拡がっていく。最終的な大きさは元々の大きさのおよそ6倍にまでなり、鈍器となった影たちはそれぞれ影同士で衝突しながら振り回されるしかない。
どうやら影同士だからといってすり抜けることはないらしく、互いにダメージを受けているようだ。飛び散る影からしても間違いないだろう。
衝突し合う度に小さくなっていく影たちは、以前のままであれば恐らく復元されてしまっただろう。しかし、今回はヒュプノスさんやタナトスさんが対処してくれているからか、傷はそのままであり、翼を失くしたものから下へと墜落していく。
グルグルと回すこと数回。空には何も居なくなったことを確認し、回していた影を街の中心にある黒い穴へと放り投げた。
どうなるのかは分からないが、興味本位に見ているとぐるぐる巻きにされた影は黒い穴に衝突する前に弾けるようにして消えた。もう少し近づいていれば理由も分かったかもしれないが、残念なことに遠くてよく見えなかった。
何かしらの障壁があるのかもしれませんね。
近づけば分かるかと気にすることなく、障害物のなくなった空をぐるぐる巻きにしたままの影を引きずりながら進んだ。
「というか、いつまで引きずるつもりなんだ?それ。」
「え?私の武器ですが。何か?」
「お、恐ろしいことを言うようになったものだな……!」
そんなに震えなくても、テルさんは私の敵じゃないんですから大丈夫ですよ?おかしなテルさんですねぇ。
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空を飛び続け、街の中心へと近づいていく。中心に迫れば迫るほど襲いかかってくる影は増えたが、3人もいれば対処出来ない数という訳でもなく、順調と言えた。
いや、もしもここに神様がいれば君たちがおかしいだけだから!?というツッコミが入っていたかもしれない。周りを見よう!?なんていう声が聞こえた気もしたが、周りなんて見てられないのだ。
そうして進んでいると、唐突にロノさんが叫んだ。
「上から来るぞ!散開っ!」
「は、はいっ!」
咄嗟に後ろへと下がると、目の前を黒い一際大きな影が落ちていくのが見えた。
それは地面スレスレで反転すると、こちらに向かって再び上昇してくる。狙いはテルさんのようだ。
落ち着いた状態で見ると、それはコウモリのような翼をもつトカゲのように見えた。所謂ドラゴンというやつだろう。
すぐさま手に持つ糸を縮め、ヨーヨーのように反動をつけて振り上げる。未だに団子状になったままの影たちがテルさんを狙う巨大な影へと迫るが、ドラゴンは下から来る攻撃をさも当然とばかりに横に回転して回避した。
そして、こちらが本命とばかりに私に迫ってくる。
「逃げろっ!!」
「だい、じょうぶですっ!!」
そりゃっと振り上げた影の塊を私の方へと寄せる。すると、まるで読んでいたかのように糸を切るような動きでドラゴンが急旋回する。重力はどうなっているのかと思うほどの動きに翻弄されるが、まず対応すべきは私へと迫っている影の塊だ。このドラゴンはどうやらこれを狙っていたらしい。他の影と比べても知性が高いのだろう。
「〈浄化の爪〉!」
「テルさん!」
避けるか糸を引くかで悩んでいるところへテルさんが影の塊をかかと落としで蹴り落とす。
一度受けた衝撃のまま重力に従い落ちていく影の塊は、そのまま地面に衝突して消えた。門の向こう側に帰らされたのだろう。
せっかくの良い武器だったのですが……。
少し未練は残るものの、次の獲物がもう居るのだったとドラゴンの姿を探す。
その姿は簡単に見つけることが出来た。丁度ロノさんと向かい合うようにして睨み合っていたのだ。
「……なるほど。お前の相手は随分と時間がかかりそうだな。」
「……。」
呟くような声に何も返さないドラゴン。
そういえばと、ふと考えが頭をよぎる。影たちは声を出さない。攻撃する時も、される時も声を出さないのだ。それは影たちがただの影であるためか、そもそも声を出す機関が体にないからなのか。理由は不明だが、声のないものたちの進行はただただ無音で不気味であった事だけは事実だ。
やっぱり、あれが何であれ元の場所に戻ってもらわないと、ですね。
改めて決意をしていると、ロノさんがこちらを見ることなく口を開いた。
「不服だが、これの相手は骨が折れそうだ。
2人は先に行ってくれ。」
「えっ。い、いいんですか?」
突然の申し出に驚き、ロノさんを見るが既にドラゴンとの戦闘に入っており、話ができそうにない。
トントンっと肩を叩かれ、そちらを向くとテルさんが首を横に振っていた。先を急ごうという事なのだろうが、ロノさんを置いていくのもそれはそれで気が引ける。
それでも腕を掴まれ、ひかれては進むしかなくなる。思わずテルさんに声をかけていた。
「あの、良いんですか?」
「ふん。末弟とはいえ、あの程度の相手にやられる程やわではない。言っておっただろう。時間がかかる、と。」
「そう、ですね……。」
確かに、時間がかかるだけで倒せないわけではないのだろう。だから、私たちに先へ行けと言ったのであれば、心配する方が野暮と言うもの。
後ろ髪引かれる気持ちもそのうち消えると誤魔化し、更に穴へと近づいた。もうここまで来ればあと少しだ。
もう少しですよ。空……。
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「……。」
「やはり気になるか。ギア。」
「ええ。」
それはこの場で感じるべきでは無い気配。しかも、よくよく探れば少しばかりの変異を感じた。長い時間を共にしたガイアにとってそれは見過ごせないものだった。
「……行ってきてもいいぞ。」
「……いえ。私は、守るためにここに居る。会うためじゃない。」
しかし、ガイアは自分の今のやるべき事をよく理解していた。だからこそ、気になれども会いに行くことはない。会いに行けない。
このまますれ違うままなのは如何なものかといくらウラノスが思おうとも、頑固なガイアの意思を変える難しさをよく知っているだけに如何ともし難い。
故に、ウラノスは諦め混じりにこのままただ影を押し戻すだけの時間が過ぎるものだと思っていた。
この状況が続くのであれば。
それは突然のことだった。
「……あなた、だれ?」
「!?」
バッと声がした方を振り向く。そこには想像していた姿とは違うが、気配はよく似た、いや、間違いなくよく知る彼女がいた。
だからこそ、ガイアは歓喜ではなく険しい目でその少女を見る。揺らぐ気配は不安定であり、この場に居るという存在自体があやふやな少女は今にも消えてしまいそうに思えた。
「……へんなかんじ。」
「私は、ガイア。貴方こそ、何?」
誰、ではなく何、と聞いたのはそのため。
到底生物であるとは思えない気配にガイアは息を飲む。まさかとは思うものの、それは到底信じられないこと。
少女は、ガイアの問いに静かに答えた。
「わからない」と。
次回、ようやく穴に到達(多分)
(一方で、自分探しの会議が行われていたり。)
それでは、これ以降も良き暇つぶしをお送りください。




