161話 辛辣は信頼の裏返し
こんにちこんばんは。
おかしい……戦闘する予定だったのに……と首を傾げる仁科紫です。
それでは、良き暇つぶしを。
その後、休息がいるだろうというロノさんの一言で一度解散した、次の日。
「いよいよですね!」
私たちは愛情の街一歩手前までやって来ていた。
何故愛情の街ではなく、一歩手前なのか。それは単純に影達がすでに愛情の街を占拠していたためである。戦闘区域に入らない場所となればその手前で集まるしかなかったのだ。
「ええ。私たちはアレを止める。」
「ギアが止めるというなら、当然私も力を貸さねばな。」
「ああ。止めなければ。我が子達の平穏のためにも。」
「……。ん?う、うむ!勿論止めるとも!今の世界がなくなるのは見るに忍びないからな!」
「シャッシャシャシャッシャアッ!」
所々ツッコミどころはあるものの、概ねやる気満々といったところか。これで天気も良ければ決戦日和なのだが、生憎の曇り空。空は暗く重い雲に覆われ、所々雷が帯電するように蠢いている。どう見ても普通の天気ではない。
恐らく、影が召喚されている影響だろう。一歩手前の街ではまだ晴れていたのだから間違いない。
少し気になるとするなら……
「テルさん、どうかされましたか?」
「いや!なんでもない!気にするな!少しばかり気になる気配があっただけのことだ!ガーハッハッハッ!」
少しぼんやりとしていたテルさんは強く否定し、誤魔化すように笑っている。
何か隠している……?と、言うよりも怯えている自分を隠そうとしている……?うん。そっちの方があっている気がします。
ジーッとテルさんを見ていると、テルさんはダラダラと冷や汗をかきはじめた。ジー……。
「な、何故ワシを凝視するのか!?」
「怪しいから。鳥頭弟、自供する。」
「ギアが言っているのだ!答えよ!」
「決戦前ですよ?憂いはなくしておきたいです。答えてください。」
「そうだな。俺もその方がいいと思う。」
「シャア!」
四人と一匹の視線がテルさんに集まる。
ジーッとテルさんの目の辺りを凝視すると、流石に耐えられなかったのか。テルさんは降参とばかりに手を挙げ、自供した。
「分かった分かった!言うからそんなに見てくれるな!
……どうも苦手な空気を感じてな。なんとなくだが、近くにワシの半身が居る気がするのだ。」
「珍しい。あのエレ坊が。」
「という事は、変態もセットであろうな。」
ふむふむと頷く4人に少し疎外感を感じる。私だけ知らず、他の4人にだけ通じることがあるというのは、やはり寂しい。
結局、エレ坊が誰なのか分かっていないんですよね。変態さんは恐らく、タルタロスさんなのですが。
いじけてカンタと戯れあおうかとも考えたが、目と鼻の先に空がいるのだ。そんな場合ではないと首を振り、4人に話しかける。
「それでは、テルさんの件も分かりましたし、突撃しますよ!
作戦はまず、守備がイアさんとノスさん!」
「ええ。任せて。」
「私とギアに任せるといい。影一つたりとも逃しはしない。」
キリッとした顔で宣言するイアさんとノスさんを頼もしく思いつつ、ロノさんとテルさんを振り向いた。
テルさんは未だに何処かを見ており、心ここにあらずといった様子だ。ふむ。このままではちょっと?よろしくないですね。
「テルさ……」
「あ!お姉様達こんにちは!」
テルさんに話しかけようとすると、割って入るような甲高い声が聞こえた。声の方を向くと、そこには2人の子どもたちと1人の青年がいた。
片方の子は白い翼を持ち、右半分の肩につくくらいの白髪を三つ編みにし、左半分の黒髪は顎の辺りで整えた愛らしく笑う美しい少年だ。琥珀色の瞳は柔らかく細められ、親しげな印象を受ける。
もう一方の少年はその姿を反転させたかのような姿をしている。黒い翼を持ち、右半分の黒髪は顎の辺りで整えられ、左半分の白髪は肩につくくらいでたり、三つ編みにしている。片方の少年とは違い、気難しげにムスッとした顔をしているのが近寄り難いだろうか。透明感のある黒真珠のような瞳は鋭くこちらを睨んでいる。銀縁の眼鏡をかけており、ますます近寄り難い……というか、私と空よりも双子してませんか!?この2人!!
2人はお揃いのモノクロのスーツを着ており、これぞ双子といえるだろう。
残る青年は大人しそうであり、見慣れた黒髪だからかどう見ても普通の青年に見えた。強いて言うなら、血のように真っ赤な目が人とは違っているだろうか。
「ヒュプノス、タナトス。エレ坊も一緒は珍しい。」
「はい!今回ばかりは見ているだけとは行きませんので!」
「……このポンコツのせいでな。」
ビシッと青年に向けて指をさした気難しそうな少年は不機嫌な様子を隠そうともしない。向けられた指にビクリと震えた青年は顔を歪ませる。そして、その場でしゃがみこんでしまった。
「どうせ僕のせいだよ……。僕が管理しきれてなかったから……。」
「本当にな。」
「そーだよ!僕が悪いんだよ!もうほっといてよ!!」
「わわわ。お父様、泣かないでください。泣いても仕方がないんですから!」
「何気にトドメ刺しに来ないでくれる!?もうやだぁ……!」
うわーんと泣き始める青年に戸惑ってイアさんを見ると、イアさんはもうその場には居なかった。
何処に行ったのかと姿を探す。イアさんは青年の頭をポンポンっと撫でていた。流石、行動が早い。
「エレ坊。よしよし。」
「姉さん……。」
「落ち着いた?」
「うーうん……。」
もうちょっと待ってとばかりに頭上のイアさんの手を頭に押し付ける青年が落ち着くまで、暫くその状態が続くのだった。
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「こんな事をしてる場合じゃないのに……。」
「全くだ。」
「まあまあ。その間に情報収集も出来ましたし、問題ありませんよ!ちょっと時間が無駄になっただけですから!」
「う゛っ。……お待たせしました……。」
鋭い言葉で切り込む黒い少年とニコニコ笑いながら棘を刺す白い少年。
その2人に挟まれてエレ坊と呼ばれた青年は沈んだ顔をしている。見ている様子からして皆さん知り合いのようだが、出来れば自己紹介をして欲しいところ。
取り敢えず、私からですかね。
「あの、初めまして。エンプティと申します。
よろしければ、皆さんのお名前を教えて頂けませんか?」
ジッと3人の反応を待つ。
私が前に出たからか、3人は少し身構えて私の方を見ている。少し後悔しそうになるが、既に言ってしまった後なのだ。取り消しもできない今、待つしかない。
暫く沈黙が落ちる。先に声を出したのは意外にも黒い少年の方だった。
「皆さん……とは、俺たちの事か?」
「はい!共闘するのであれば、名前を知っておいた方が咄嗟に呼びやすいですから。」
「ふむ。一理あるな。
俺はタナトスだ。白いのはヒュプノス。そっちのダメダメそうなのはエレボス。
なんでか分からんが、お前とはそう悪くない関係でいたいと思う。よろしく。」
手を差し出すタナトスさんの手を取ると、不貞腐れたように白い少年、ヒュプノスさんが繋いだ私とタナトスさんの手を離す。
私がヒュプノスさんの行動に驚いていると、今度はヒュプノスさんが私と握手をした。ニコニコと笑ってはいるが、何処か不機嫌さを感じさせるのは気のせいか否か。ヒュプノスさんは私の手を握ったまま、にこやかに話し始めた。
「タナトスがそう言うなんて珍しいですね!
僕とも仲良くしてください!」
「…はい!よろしくお願いしますね。」
まるで天使のような少年……なのだろう。白い翼に色素の薄い瞳は間違いなく天使らしい。しかし、その瞳には親しみは感じず、むしろ怖い。
あ。これ、あれですね。親しい人にこれ以上近づくなって言われてるやつですね。
不用意に近づくのはやめよう……と心に決めていると、話はこれからどうするという方向へと移る。どうやら、3人はあの影を追ってここに来たらしかった。
「コイツがちゃんと見張ってねぇから。」
「でもでも、どちらかと言うと今回はおじ様のせいでもありますから!お父様だけのせいではありませんよ!とはいえ、監督不足なのは否めませんけど。」
「ぐっ……。」
なんでも、あの影達は普段エレボスさんが管理している地下世界の特別管理区域に閉じ込めていたもの達らしい。つまり、今開いている空の穴は地下世界に繋がっているらしいのだ。私たちがエレボスさんの神殿へ向かっていても入れ違いになっていた可能性が高かったと聞き、ガイアさん達が言っていたのはこの事なのかと理解する。
それにしても、ちょっと可哀想なくらい責められてますね。大事だからなのでしょうけど。
哀れみの目でエレボスさんを見ていると、ここぞとばかりにイアさんが頭を撫でていた。
「よしよし。相変わらず厳しい2人相手にエレ坊はよくやってる。」
「姉さん……。ありがとう。
とりあえず、そういう訳だから、僕たちは僕たちで対処しようと思う。」
暫く撫でられたエレボスさんは気力が回復したらしく、消えかかっていたハイライトが元に戻る。イアさんの姉パワーは偉大だった。
キリッとした顔で宣言したエレボスさんに続き、タナトスさんが口を開く。
「影はこの場で倒せばヒュプノスが眠らせ、俺が地下世界へと連れて帰る。」
「全部居なくなったら、お父様が閉じてくださいますから!むしろ、その為だけに居るようなものなので!」
「あ、ああ。僕はそれしか出来ないからね。ハハハ……。」
あっ。またハイライトが……。
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そうこうして3人とは別れ、私たちは愛情の街へと入っていた。尚、エレボスさんはまたイアさんにヨシヨシされてなんとか復活したとだけ言っておこう。後でどうなるかは知らないが。
当たりを見渡すとそこは影で一杯……かと思えば、案外そうでもなかった。特に一部、大量の岩が重なり、山となっている部分は後の復興のことさえ考えなければ影が避けて通るレベルだ。
えっと、あれだけの事をする事ができるプレイヤーが居たという事でしょうか……?
困惑を込めて見ていると、隣から呟くような声が聞こえた。
「……ルナ……。」
次回、やっと開戦。
尚、3人と1匹は途中から影が薄くなっていますが、以下のやり取りがあったという。
〜ヒュプノス&タナトス登場〜
「あっ。わ、ワシはちょっと空の偵察に行ってくるな!」
「そ、それなら私もついていこう。」
そそくさと去るアイテールさんとウラノスさん。
クロノスさんはというと、カンタを抱えて先に街へと偵察に向かうのだった……。
「あの双子は気難しいからな。何より目をつけられるとあとが怖い。プティが心配だが……まあ、あの子なら上手くやるだろう。」
「シャァ?」
それでは、これ以降も良き暇つぶしをお送りください。




