154話 信仰は止められない
こんにちこんばんは。
気がつけば眠っていて投稿が遅れた仁科紫です。すみませんでしたm(_ _)m
それでは、良き暇つぶしを。
さて。そうこうして辿り着いたダンジョンでは思いの外サクサクと進むことが出来ていた。
当時はまだ神様と空と私だけであり、何かと空や神様に助けて貰っていたことが懐かしい。少し不安だったのだが、杞憂でしかなかった。
〈私のお陰だな。〉
(うっ。それは……まあ、そうですけど。)
何故だろう。目に見えないはずなのに胸を張っているニケさんの幻影が見える気がする。
それはさておき、ダンジョンを攻略しているとどうしても神様や空との戦闘を思い出してしまう。
初めて倒したスライム、もう何も思わなくなった虫、スパッと切ってしまったクマの首(今回もこのルートを通ったのでまたスパッと切りましたすみません)、そして、不思議なカード状の鍵を見つけてはめた、この岩がゴロゴロと転がった崖の下……がけの、した……?
「あれ?ニケ。ここに何かありませんか?」
〈……遂に主はおかしくなったか。〉
「おかしくなってません!」
ニケには分からないそれ。以前来た時にはあった崖が綺麗さっぱり消え、代わりに扉のようなものだけがあった。
何故、扉のようなものという表現なのかと言えば、単純に扉のような模様がついているただの板が自立しているように見えるからだ。正に絵に書いた扉。そこに現実味はなく、あるのはある種の違和感だけ。
ニケには見えていないという事実に不安になる。しかし、ニケが認識できないこの違和感こそが神様のことを覚えている私に自信を与えた。
この扉には何かある、と。
(とりあえず、入りますよ!ニケ!)
〈むぅ……。予め言っておく。主。〉
(なんですか?改まって。)
何処か不服そうで、それでいて不穏な空気を醸し出しているニケに首を傾げる。
この扉の向こう側にニケは何か思い当たることでもあるのでしょうか。
〈これは可能性の一つであり、私の思い違いの可能性もある。だが、恐らく主の言っているそれを開ければ私は何も出来ない可能性が高い。〉
(え……ど、どうしてですか!)
ニケが居なければ本格的に私は一人になる。それどころか、私だけの力で問題を解決しなければならなくなる。
そう考えた途端に不安が襲いかかってきた。本当にこの先へ進んでいいのだろうか。それよりも、空の元へ……
〈落ち着け。主。〉
(で、でも!)
〈完全に一人になるわけじゃない。私が話せなくとも力は使えるはずだ。主とのパスはかなり強固なものになっている。気がつけばなっていたんだ。ほとんど同化していると言ってもいい。
私の力は、主の力。不甲斐ない姿を見せてくれるな。〉
(ニケ……。)
視線は感じない。ただ、ニケから熱い眼差しを向けられているようで頷くしかなくなる。
(……分かりました。覚悟して進みます。)
〈うむ。それでこそ私の主だ。〉
扉に向かい合う。先程よりも妙に存在感を感じる扉の取ってへと手を伸ばす。その手は宙をきることなく取ってを掴んだ。
(では、行きます!)
〈ああ。〉
手前へと引く。音もなく開いた扉の向こう側はただ眩しく輝き、瞬きをする間もなくその光の中へと吸い込まれた。
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眩しい光に瞑っていた目を暗闇に変わったらしいことを悟って開く。
「ここは……?」
辺りを見渡す。白い壁、白い柱に白い床。高い天井にはよく見ると植物のようなレリーフが刻まれている。同じようなものが壁にも刻まれ、その反対側には柱が並んでいる。
丁寧に整えられた庭が広がっているのが見えた。さわさわと気持ちよさそうな風が吹いており、少し外に出たくなる。
……まあ、今すべきことではありませんが。
さて、と気を取り直してどこに行こうかと考える。恐らく、この建物の中のどこかにヒントがあるはずだ。……というか、もしかてもしかしなくてもここってガイアさんの神殿だったりします?
実は、さっきから壁や天井の差し色としてか黄緑色の宝石が品良く用いられていた。
あの宝石はガイアさんの封印されていた場所へ入るために使った鍵に付いていたものだ。可能性は低くないはずだ。
「居るとするなら……」
「……誰?」
聞き慣れた声にハッと振り向く。
そこには見慣れたふわふわとした髪の女性が立っていた。
「ガイア、さん……?」
少女ではない。チョコレート色のふわふわとした髪と新緑の眠たげな瞳は変わらないが、背丈は160cm程だろうか。スラリとした体型にダボッとした白いローブを身につけている。
表情は相変わらず変化が乏しい。しかし、どことなく包容力のようなものを感じる女性だった。
「……何故、名を。」
何故知っているのか理解出来ず不快なのだろう。私を見るガイアさんは眉を寄せていた。
なるほど。記憶の喪失はガイアさん達旧神にも起きているんですね。
「……失礼しました。私の名前は、エンプティ。
神様を探している罰当たりな人形です。」
丁寧に礼をする。ガイアさんも神様だ。初対面ならば礼を欠かさない方がいいだろう。
暫くガイアさんは固まっていたが、こてりと首を傾け自身を指さした。さも不思議そうな顔で。
「神様……私、神様。」
「ええ。知っています。貴方も素敵な神様です。……でも、私が探しているのは、私だけの神様、なのです……。」
「あなた、だけの……」
しばらく考え込んだガイアさんはやはりこてりと首を傾げた。
「それは、本当にいるの?」
「はい。神様はいるのです。」
「間違いなく?」
「間違いなく、です。例え、誰かに否定されようと神様は私の隣に居ましたし、私は必要としています。今も。
だから探しています。」
一つ一つの問いかけに真剣に答える。
ガイアさんの力を借りれるか否かで今後が変わるのだ。ここが一つの分かれ道であるように感じた。
ガイアさんの目を見る。ガイアさんは私を静かに見つめていたが、やがて口を開いた。
「分かった。探す。」
「え……?」
「ついていく。」
「な、何故ですか!?いや、ありがたいですが……!」
相変わらず思い切りのいいガイアさんに困惑する。記憶がないにも関わらず、一緒に探してくれる理由が分からなかった。
ガイアさん自身も何故なのか分かっていないのか、一度目を瞑ってから私を見た。その目からは戸惑いを感じた。
「……気になるから。」
「気になるから、ですか……?」
「ええ。……何故か、貴方から加護の気配がする。この世界に居ないはずの、あの人の加護の気配。」
そう言ってガイアさんは躊躇するように時間をかけて手を差し出した。
「私はガイア。大地の女神。ここは大地の神殿。
貴方が何故、どうやってここに来たのかは分からない。……ただ、記憶にない記録が手を貸せと訴えているから。貴方を手伝う。エンプティ。」
「……はいっ!よろしくお願いします!ガイアさん!」
「ええ。……よろしく。」
口元を綻ばせ、笑みを浮かべるガイアさんは正しく女神のように美しかった。
「えっと、それでどうやったらこの場所から元の場所へ戻れるのでしょう?」
「元の場所?」
「あ。はい。私はダンジョンという場所にあった扉を開けたらここに居たのですが。」
ダンジョンについて伝えると、ガイアさんはしばらく考えた後頷いた。どうやら心当たりがあるらしかった。
「そこに貴方の神様、居る?」
「……いえ。分かりません。何処にいるのかも見当すらつきません。」
「それでも探す?」
「はい。神様は、私の神様なので。」
それだけは譲れないと胸を張り、堂々と宣言する。手がかりがないからと諦められるほど私は賢くないのだ。神様を見つけるまで神様探しをやめるつもりもなかった。
その後、着いてきなさいと言ったガイアさんの少し後ろに続いて歩く。ガイアさんは無言で歩き続けたが、やがてポツリと呟いた。
「……羨ましい。」
「何がですか?」
ガイアさんらしくないように思い気になって尋ねる。その小さな呟きは静謐なこの場所でよく響いた。
ガイアさんは私を見て首を傾げたが、その眠たそうな目でジッと私を見つめた。
「貴方の神様が。例え、あの人なのであったとしてもそんな人の子がいることに羨望する。」
「そうなんですか?神様は皆に好かれてこそだと思うのですが。」
神様と言えば多くの人からの信仰心を集めなければ存在できない。そんなイメージが強い。
だからこそ、ガイアさんの言葉が意外だった。
「確かに。それは否定できない。
私たちは神。人の子の信仰により存在し、力を得るもの。
だからといって信仰心を持つ人の子が、貴方のように私たちを思ってくれるわけじゃない。むしろ、神を必要とする者より欺こうと。……利用しようとする者の方が多い。」
だから羨ましいのだとガイアさんは言った。純粋な信仰を向けられることは少ないから、と。
ガイアさんの言葉に私は黙るしかなくなった。恐らく、それらは多くのプレイヤー達に向けた言葉のように感じたからだ。
しかし、ガイアさんは先程自身のことを神と呼んだ。旧神ではなく、神であると。だとするならば記憶は一体どうなっているのかと気になったが、尋ねるのも気が引ける。貴方は一度、封印されたことがありますか?などと到底聞けるわけがなかった。
暫くして一つの扉の前に辿り着いた。
ガイアさんが言うにはこの扉の向こう側は自分の思い描いた好きな場所へと出られるらしい。
「それなら、ここから神様を思い浮かべれば神様にも会えるんですか?」
「人は不可能。場所だけ。」
「なるほど……では、神様探しはどうしたらいいのでしょう……。」
ガイアさんには会えた。同行してもらえる事にもなった。しかし、逆に言うとそれだけだ。神様に繋がることは何も見つかっていない。
この先について考え込んでいると、頭に重みを感じた。何事かといつの間にか下がっていた顔を上げるとガイアさんの顔が近い。思わず一歩下がればガイアさんの手が頭に乗っているのだと気づいた。
「不安になることはない。この地に関することなら私に任せる。」
「……ありがとうございます。ガイアさん。」
微笑むガイアさんにつられて笑顔になる。ほんの少しだけ不安が薄れた気がした。
次回、神様探し続き
それでは、これ以降も良き暇つぶしをお送りください。




