153話 神様探しは困難の一つ
こんにちこんばんは。
いきなり別の話の掲示板回は分かりにくかったに違いないと反省中の仁科紫です。
それでは、良き暇つぶしを。
「あぁーっ!もー!神様ったらどこに行ったんですかねっ!?」
〈叫んでも出てくる訳がないが。〉
容赦なく現実を突きつけてくるニケに分かってますよと悪態をつく。
ギョッとするような目で見られてはいるが、そんなものは気にしてられない。脇目も振らず、下から上の島へと移動した。
「ホント、どこに行っちゃったんですか。神様……。」
あれから一週間が経とうとしていた。
私はまだ、神様を見つけられていない。
イベントが終わり、神様がいなくなったあの日、私は神様の行方を知るべくあの場所にいた人全員に聞いて回った。
しかし、返ってきた言葉はそんな人は知らない。では、ノーフェイスは?プレイヤーのランキング1位は誰なのかと聞けば答えは簡単、順位が一つずつ繰り上がっていた。軽く一回絶望した。いや、こんな一回程度で諦めてなるものかと何度も話しかけた。その結果、もう一つの地獄を見たのだが、それは置いておく。
尋ねて回るうちに一つの事実に気がついた。
それは、神様に関する記憶が消えている人物と置き換えられている人物がいることだ。
相手と話していると齟齬がどうしても生まれるのだ。神様がした事が私がした事になっていたり、別の人がした事になっていたり。いずれにせよ、私が許せることではなかったが。
全てを見て、聞いて、理解して。私は目の前が真っ暗になった。立っていられないほどの衝撃に耐えきれずログアウトした程だ。逃げたとも言う。
暫くログインもしたくない。そんな気持ちから病室でただ一人篭っていた。
だって、神様がいないならあそこに私がいる意味がないのだ。空のことは勿論、気にかかるが……空が、海がそうしたいなら私はもう良いとすら思えてきた。本当は空に帰ってきて欲しい気持ちが強い。しかし、それよりも神様が居ないことを思い知る事の方が辛いのだ。
いつの間にか神様ファーストになりつつある私に苦笑するが、もしかしたら空はこれを狙っていたのかもしれない。ホント、なんなんでしょうね。
連日ゲームをしていた私がただ部屋に籠るようになってから2日。今までとは違う行動に心配した看護師さんが話しかけてくれるが、何も気力がわかない。
そんなある日、病室に訪ねてきた人物がいた。
「……お久しぶりです。空野さん。」
コクリと首を縦に動かす。
丁寧なノックの後に扉から現れたのは、大和撫子と称されるに値する大人しげな少女だった。腰まである長い髪は癖がなくサラサラと揺れ、伏せられていても分かるパッチリとしたアーモンドアイと艶のある桜色の唇、年齢の割にはスタイルが良く……いや、良すぎて少々目のやり場に困るのだがそれはさておき、流石、クラスの男子から度々ラブレターを貰っていただけあるとぼんやりと思う。尚、海はそのスタイルの良さを羨ましく思っていたようだ。まあ、私も少し羨ましいですけど。
それはさておき、これが私と彼女の初対面だ。しかし、彼女からすればあくまでも今までの延長線上でしかない。だからこそ、私もそのように振る舞う必要がある。
電子板が私の思考を読み取り、ボードに言葉を映した。
『久しぶりね。晴風さん。』
そう返すと、空野海の幼馴染である晴風美月は目を見張った。彼女は、私の声が出ないという言葉の意味をよく理解しているからだろう。痛ましげな目で見てくる。
まあ、そんな目で見られたところで私は海ではないので意味がないんですが。
「……声が出ないというのは、本当でしたか。」
『うーん。まあ、ね。だからこそのVR治療だもの。』
「それは……。…あの、もう分かっていますよね?」
その問いに再びこくりと頷く。彼女が何を言いたいのかは既に分かっていた。
だから、こう口にした。
『貴方がああいうキャラクターだって初めて知ったわ。月光院ルカ。』
「まあ……貴方も大概ですが。エンプティ……いえ、空、ですか?」
『エンプティでいいわ。空は……ちょっと違うもの。』
溢れ出た苦いものをそのまま飲み込み、笑みの形をつくる。目覚めた時よりは動く体に、あともう少しなのですが……と思考が逸れた。
その間に晴風さんがベッドサイドまで来て看護師さんが気を利かせて置いていった椅子に座った。晴風さんは部屋を見渡したが特に何も言うことはなかった。
えっと?これは私が話しかけるべきなのでしょうか……?
悩んでいると晴風さんは私を見て慎重な様子で話しかけてきた。
「あの、空野さん。」
『何?』
「どうして私を誘ったんですか?」
一瞬、本当に一瞬分からなくなって、でも一つ思い当たる節があった。海を演じるならば齟齬がないようにしなければならない。あえて何を言っているのか分からないと演じているように首を傾げた。
当然、晴風さんは不快そうに眉を寄せる。私は笑みを作って念じた。
『全ては神様の思し召し、よ。』
「……っ。」
ああ。なんだか嫌ですね。その顔。
顔を歪めてこちらを見る目は不愉快だと訴えている。つまりは、おそらく正解。これで彼女は私が空を使い、彼女をイベント時にいろいろと使ってみせたのだと考えたなら。
「なら、あれはどういう事ですか!」
『落ち着きなさい。ここは病院よ?』
「……あの茶番は、何だったんですか?あの子は敵じゃありません。ただの寂しがり屋な少女だったんです。どうして、あんな事に……?」
恐らく、アルファさん……いや、ルナさんのことを言っているのだろう。
しかし、これに私が答えられることは無い。ただ、彼女が禁忌を犯したということを知っているだけの私が口を出すべき話ではないのだから。
『私から言えることはないわ。でも、それは誰かのためだったはずよ。』
「誰かの、ため……?」
『だって、ただの寂しがり屋な少女が変わったんでしょう?それは誰かのため以外にありえるの?』
「それは……。」
口篭る晴風さんを見て、この話題はここまでにした方がいいだろうと判断する。これ以上は私の方にボロが出る可能性があった。
それに、私も聞きたいことがありますからね。
『ヒントはおしまい。
私も、貴方に聞きたいことがあるの。良いかしら?』
「……っ、何ですか?」
身構える晴風さんに私は笑う。彼女がこの笑顔が苦手だと私は知っていたから。
相手に自分の意図した情報を求めるときに必要なのは協力しなければならないという状況だ。晴風さんは頭のいい子だ。ちょっと意図してその環境を作るだけで逆らうべきではないとすぐに悟る。……いえ、だからこそのルカのキャラクターなのでしょうか。
意思の強いルカを連想し、頭を振る。それよりも今は情報収集をすべきだろう。
『アルベルト・テオスというプレイヤーを知らないかしら?』
「……いいえ。知りません。」
ああ。やっぱり。神様を覚えている人はこの世にも居ないんですね。
心中で呟き、また一つ落胆する。分かってはいたが、ここまで来ると神様探しは困難以外の何物でもないように思えた。
さて、用は済んだとさっさと目の前の人を追い出そうとする。しかし、その前に彼女が口を開いた。仕方がなく何を言い出す気なのか見守ることにした。
「えっと、でも、誰かを忘れている気はします。」
『……どうして?』
「貴方のことを知っている方が、少ないので……。」
なるほど。そこから違和感を抱く人もいるんですね。
尚、これが2つ目の絶望だ。
あの後、神様のことを聞いてまわっている時に、当然顔見知りにも声をかけたのだ。しかし、時折私のことすら分からない、記憶にないと言う人物が居たのだ。
まあ、絶望と言ってもこちらは神様のことを知っている人が私を除いて居なくなった事よりかは幾分とマシではあったのですが。
因みに、トアさんはすっかり私のことを忘れていた。
眉を寄せて、『誰です?』と聞かれた時のダメージはそこそこ大きい。折角イジ……コホン。張り合える相手だと思っていたのですが……。
と、いうわけで私はそこそこピンチだったりする。唯一ファミリアだけは何故か存続できているが、神様のお店が何処にあるのか、神様たちが何処へ行ったのかも分からない。更には私のことを知っている人も少ないとくればもう何をしたらいいかすら分からなくなったのだ。
『まあ、いいわ。知らないなら知らないで。
私は探し続けるだけだから。』
「大事な人、なんですね。」
『ええ。だからこそ諦められないの。』
「そうなんですか……ちょっと、分かる気がします。」
そう言って晴風さんは病室を出ていった。
結局、何も分からずじまいだったが分からないということが分かっただけ良しとしよう。
まあ、これが4日前の出来事なわけですが。
この会話の後、私は重い腰をあげて神様探しを始めた。神様と出会った場所、行った街、全て回って神様の痕跡を探した。その成果は今のところ出ていない。……はぁ。ほんと、どうしましょうかねぇ。
一先ず神様のお店を探しているわけだが、これがまた見つからない。一番初めにあったあの街にもない。では、今まで訪れたことのある街にあるのかと言えばそれもまたない。
では、何処にあるのか。
困った私は、最終的に諦めることにした。ないものはないのだ。とはいえ、今度は何を探すのか。……行き詰まっているのはそこだ。
(思いつく場所、街は探し終えましたしねぇ。あと残っているところは……。)
〈思ったのだが。主。〉
(なんでしょう?)
〈実は探していない場所、本当はあるんじゃないか?〉
(えっ。)
口篭る。探していない場所。一番、何かの関係がありそうな場所。……あるにはある。しかし……
(あそこは、もし行けたとしても。……もし、そこに誰か居たとしても、その場合は一番考えたくない事実を認めることになるのです。)
だから、行くに行けない。行きたくない。あの、ガイアさん達と出会ったあの場所には。
でも、もうそこしか思い当たる場所はないのだ。仕方がなく、私はその場所へと足を向けた。天空の街にあるダンジョンへと。
次回、ダンジョンへ
それでは、これ以降も良き暇つぶしをお送りください。




