144話 過去は今に陰を落とす
こんにちこんばんは。
設定に不安しかないので、矛盾が生じいていた場合、感想などで教えていただけますととっても助かる仁科紫です。
それでは、良き暇つぶしを。
城外のプレイヤー達が黒い羊に苦戦している頃。城内の4階に到達したゼウスファミリアも苦戦を強いられていた。
4階。そこは長い廊下となっている。毛の長い赤い絨毯が敷かれ、玉座の間に通じる階段までの一直線。一見、今までの中で一番単純な構造に見え、攻略も簡単に思える。しかし、玉座の間に通じる道であるからこそ、通るのは一筋縄ではいかないのだ。
ゼウスファミリアが階段をのぼりきり、4階に到達した瞬間。ある意味一番油断しやすいその瞬間の隙を狙って巨大な鉾が振り下ろされる。
咄嗟の行動で避けきったディボルトは、後ろに続くファミリアのメンバーが混乱しないようにと声を上げた。
「気をつけろ!階段からすぐの地点に人型のエネミーだ!」
3mはあるだろう銀色に輝く鎧の騎士が、回避したディボルトに向けて更に鉾を振り上げ追撃する。その攻撃を読んでいたディボルトは翼を広げ、空へと逃れた。
しかし、空とは言ってもここは天井のある屋内に過ぎない。比較的高さはあるものの、鎧の騎士からの攻撃を完全に避け切れるわけではなかった。振り上げられた鉾が広げた翼を僅かに掠める。
「ディボルト様!」
「……問題ない。トアは距離をとって牽制を。俺は先に進む!他の者も続け!」
「「はい!」」
地ではなく空を統べるファミリアであるからこそ出来る横暴。障害物は全て無視せんとばかりに次々と空を駆る姿に銀の騎士達がそれを見逃すかと言えば、当然ながらそんな訳はない。
「……ォオオッ!」
「くっ!?コイツら、槍を投げてきやがった!」
「気をつけろよ!なかなかの精度だ!」
「は?なかなかの精度?その程度で落ちるヤツなんて居るんですか?居たら私直々に叩き落としてやりますが?」
「「問題ありません!サブマス!!」」
トアの脅しとも取れる発破に全員がピシりと敬礼をし、槍を回避する。息のあった飛行に牽制。槍が誰一人に当たる事もなくゼウスファミリアは中程まで進む。
しかし、そこで変化が訪れた。
ダンッという音が響く。全員が一斉に音源を見た。そこには、1本の矢と射抜かれた男の姿があった。
「ガハッ……!」
「マジか……!?」
誰が言ったか喧騒は広がる。驚くのも無理は無い。射抜かれた男はファミリアの中でも防御に特化している者だったのだから。それを易々と射抜かれたのは驚愕に値するだろう。
しかし、何時までも驚いていられる訳もなく、次々と矢の放たれる音がする。キリキリキリッと続く弓を引く音に我に返ったプレイヤーたちはすぐさま警戒にあたる。
何処から飛んできているのか。誰が射手なのか。疑問は尽きないが、射抜かれてしまえばそれで終わりだ。散開し、互いに背中をカバー出来るよう円形の陣を組んで飛んできた鉄の矢というよりも槍と呼ぶべきそれを叩き落とす。
「クッソ。重いんだけど!?これ!!」
「サブマス!ヘルプ!」
「貴方たち、もう少し頑張りなさいよ。」
弱音を吐くファミリアの仲間たちにトアはため息をついた。見ようによっては深刻な状況に思えるが、実際はただの軽口である事を知っているだけにトアは真面目にやれと言いたくなる。
楽をしたいだけだろうと反論しようとしたとき、トアに鶴の一声が聞こえた。
「トア、頼む。」
「はい!ディボルト様!
〈風の輪壁〉!」
先程までとは一転し、すぐさま矢避けの魔法をかけるトア。仲間たちは相変わらずだと苦笑いを浮かべ、射手へとそれぞれ狙いを定める。
この間に射手は天井付近の壁際から矢を放っているのだと情報が共有されていた。次々と魔法等の遠距離攻撃持ちが攻撃を仕掛ける。
そして、攻撃と攻撃の間に隙間が生まれる。今だと役目のないものから空を駆け始めた。
「目標はあのデカい扉だ!近づいて開くようなら進め!開かないようならこじ開けろ!それでも無理ならギミックを解け!以上!」
「「了解!」」
空を駆けていく仲間たちにディボルトが指示を出す。それに従い、数名が門へと近づくがやはりそう簡単には開くわけもない。
そもそもこの程度で妨害が終わるはずもないのだ。銀の騎士、弓に続き、次なる妨害、魔法が発動する。ここは単なる通路ではなく試練の間。玉座へと至らんとする者達への試練がゼウスファミリアに襲いかかる。
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一方、1階から2階へと到達したアポロンファミリアのマスター、アキトと隣を歩くアルテミスファミリアのマスター、月光院ルカは互いに無言で進んでいた。2人はサブマスにそれぞれのファミリアを任せ、その後ろを並んで歩いている。
しばらく無言で歩いていた2人だったが、先に痺れを切らしたルカが口を開いた。
「……なんも聞かねぇのかよ。」
「なんだよ。聞いて欲しいのか?」
ニヤリと笑うアキトに素直ではないルカは別に……と言ってそっぽを向いた。
アキトはその様子に内心で苦笑しつつ思いを零す。
(聞きたいことはあるんだが……。)
聞いても知りたい答えは得られないだろう。アキトはこの2年間の情報収集の結果から理解していた。
ある日、気がつけば慣れ親しんだ地界ではなく、天界にいた理由。初めは何かのバグだと思っていた。自分はずっと昔からあの街が好きだったから。あそこから離れるなんて考えられなかったから。……だが、そこに居たはずの誰かが居なかった。何処にも。探しても居なかった。顔も姿も思い出せない。それでも、確かに居たのに。
ずっと埋まらない胸の中の空白にどうしたものかと考えていた頃、デュランと遭遇した。初対面のはずのデュランはおかしなものを相手するようにアキトと話していた。何より、向こうから声をかけてきたのには驚いた。『やぁ。久しぶりだね。また相手をしてくれないか』と言って。
混乱したのはアキトだ。デュランはそんなアキトの様子をただ眺めていただけ。
やがてデュランは何かに納得したように『あぁ。なるほど。僕も気をつけないとね。落ち着いたら連絡してね』と言って去っていった。
残されたアキトは呆然とした。向こうが知っていて自分が知らないなんてことが有り得るのか、と。その日は混乱したままにログアウトし、暫くログインする気持ちも起きなかった。
そして、数日経った頃。イベントのお知らせが来た。それはプレイヤーの中でランキングを決めるという単純な腕試しだった。最初は乗り気になれなかったが、デュランのしつこい勧誘(何故かフレンドになっていた上にメールアドレスまで知っていた)により参加することにしたのだ。
しかし、アキトは今でもあの時誘ってくれたデュランには感謝している。お陰で空白を埋める存在を見つけることが出来たのだから。
大会当日、アキトは開催されていた賭博に参加していた。賭博師としての血が騒いだのだ。これは賭けるっきゃないと当時最強の名を冠していたディボルトに賭けようとしたが、直感が訴えた。ちょっと待て、と。
こういったときのアキトの勘は外れない。すぐさま名前の一覧を見直すと、気になる名を見つけた。いや、正しくは気になる存在、か。名を公表する気のないプレイヤーは時折いるため、そこはあまり気にならなかった。
しかし、なんとなく気になる。故にアキトはただ気になったというだけでその名無しに賭けることを決めた。
『『13番に賭ける!』』
声が重なった。隣のカウンターを見る。そこには驚愕に染まった顔をこちらに向けて座る少女がいた。今まで見たことのない種類の獣人だ。狐だろうか。サラリと流れる長い髪は黄色で薄緑色のメッシュが何故か黒い和服によく似合っている。
その和服は陰陽師を連想させるものであることから、少女がレアな職業である陰陽師なのはすぐに分かった。……何故だろう。彼女を見ると心が落ち着かなくなる自分がいる。
驚きながらもなんとかニヘラッと笑う。停止する頭とは別に、口は目の前の少女を逃すのは得策ではないと瞬時に判断していた。
『同じ相手に賭けるたぁ奇遇だな。やっぱ気になるよな。そいつ。』
『……別に。』
素っ気ない態度を取った少女は残念なことにさっさとどこかへ行ってしまった。流石にいきなり話しかけるのは不審だったかと反省する。また会えなければそれまでの縁だと思考を切りかえ、大会に集中する事にした。少女が見てくれていたらいいという思いで。
そして、アキトと少女は巡り会った。大会のベスト8を決める試合で。
『よう。さっきぶりだな。ルカ。』
『……いきなり名前で呼ぶんじゃねぇよ。』
アキトを睨む瞳には僅かに憎しみが見えた気がして、アキトはこれだと確信する。
やはり少女はアキトの事を知っているのだ。ならば、少女ともっと会う必要がある。幸いにも彼女と会う方法は分かっていた。
何故なら、彼女はアルテミスファミリアのマスターなのだから。この嫌われっぷりからして同じファミリアには入れてくれないだろう。ならば、新しくファミリアを作ればいい。彼女と同じ所まで上り詰めたなら、機会も増えるはずだ。
そうしてアキトはその試合に勝ち、運悪く自分が賭けた相手と準決勝を争い、敗退となった。
結果は5位。その報酬でファミリアを結成する権利を手に入れたのだった。全ては少女…ルカと会うために。
そのルカに、尋ねる絶好の機会。今ならば素直に答えるだろう事は予想がついた。
しかしながら、今まで己について尋ねた相手の様子からして答えないのではなく答えられないのだということもアキトは知っていた。
口を開いてはパクパクと動くだけの口に何度落胆したことか。だからこそ、ルカに聞くことはないとアキトは思うのだ。
「別に無理には聞かねぇよ。だけどよ。ルカ。」
「……なんだ。」
「オレは、お前さんが思ってるよりは自分の状態について知ってるつもりだぜ?
だからよ。そんな無理してオレみてぇに振る舞わなくていいんだよ。」
ルカはパッと顔を上げる。その顔はあの日見た表情によく似ていた。瞳が潤んでいること以外は。
(ったくよぉ。オレはコイツに何をしちまったんだろうなぁ。)
離れ難いと思う相手にこんな顔をさせた過去の自分に憤り、せめて少女が少女らしく振る舞えることを願うのだった。
次回、多分外の話
因みにルカとアキトが出会った場所はアキトの行きつけの賭博屋です。
それでは、これ以降も良き暇つぶしをお送りください。




