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139話 戦闘は唐突に

こんにちこんばんは。

ゴールデンウィークなので更新を多めにする気になった仁科紫です。(需要があるのかは知りませんが)


それでは、良き暇つぶしを。

 入城が始まって約10分。その間に中へと入れたのは上位8位までのファミリアだけだった。つまり、9位から下のファミリアはまだ列を作って待っている状態なのだ。

 こういう時、当然ながら待っていられない手合いが現れる。それが今の状況だった。



「おい!早く行けよっ!」


「ちょっと!?割り込まないで!」


「こんなのちんたら待ってられっか!退けっ!」



 勿論、各ファミリアのマスターやサブマスも収めようと努力はしている。なんなら、ヘルメスファミリアに至っては落ち着いていて、のほほんとその光景を端から眺めていたりする。血気盛んだねぇとかなんとか言いながら。いや、さっき我先にと機関車に駆け寄ろうとしていた奴らが何言ってんだって話なんですが。

 とはいえ、上位ファミリアともなればその人数もかなりのものでなかなか纏まらないものだ。アイドル的な人気からある種の団結力があるヘスティアファミリアなら兎も角として、血の気の多いヘファイストスファミリアはそうもいかないらしい。押し合い圧し合いが起きている。

 尚、アレスファミリアはというと、デュランさんが一喝した途端に大人しくなった。噂によると鬼団長とか呼ばれているらしい。人は見た目によらないものですね。


 そうして待ちながら神様やアイテールさんと話している時のことだった。



「お、おい!アレ見ろよ!」



 誰の声だったか、聞こえた声に何事かと視線をさ迷わせ、全員の注目が一箇所に集まる。城の正面のバルコニーに人影が現れたのだ。



「やはり人間とは愚かな生き物よ。」



 少女のような声。しかし、どこか老獪さを滲ませる声に警戒心を抱く。バサリと脱ぎ捨てられたフードはどこかへと消え去り、隠されていた姿を露わにする。

 それは美しい女性だった。凹凸のはっきりとした体に地面につきそうなほど長い金髪は艶やかかつ煌めいて見える。真っ黒の着物には橙色の百合の花が描かれており、少し不気味だが様になっている。妖艶な花魁のように気崩す様は首筋から肩のラインが艶かしく目のやりどころに困るほどだ。

 何よりも目を引くのは頭にある三角の耳と筆の先のようにフサフサとした尾だろうか。常時であれば思わず触りたいと考えたであろう魅力を持っていたが、その考えは女性の目を見て霧散することになる。

 遠くでも分かるほどに濁った目。本来は美しいはずの黄金の目は憎しみからか黒黒とした淀みを宿し、見るものを恐怖させる。

 そのヒトは扇で口元を隠しながら睥睨する。そして、ニヤリと笑ったのが雰囲気で分かった。



「あぁ。どうやら、我の子までそちらに居るようだな。嘆かわしい。いの一番に我が前に現れるべきであろうに。」



 恐らく、彼女がアルファさんなのだろう。以前見たときよりは理性的であり、姿も変わっているために一瞬分からなかったが間違いない。その証拠にアイテールさんが、直視しないようにそっぽを向いている。まだアルファさんを直視するのは無理なようだ。



「まあ、いいだろう。

 それよりも今はこの機会を生かす方が有効的だろうからな!」



 バタンッと城の扉が閉まる。突然の出来事に呆然とする。更に地面が再び揺れたかと思うと、巨大な壁によって周囲が覆われていた。

 まるで巨大な何かと戦うのを想定しているかのような大きさの囲いに嫌な予感がする。ま、まさか……?


 動揺が走り、危険を感じたのかそれぞれのファミリアが距離を取り合う。



「嘆かわしい。しかし、これが結果ならば我は引導を渡さねばならぬ。故に……楽しもうか。宴をな!」



 アルファさんの目が紅く光る。禍々しい血のような色に包まれたアルファさんはバルコニーから飛び降りると、空中で二転三転する。

 そして、地面に降り立った時には巨大な狐になっていた。



「グルァアアアアアァアアアアアッ!!」



 耳が痛くなるような咆哮にその場から動けなくなる。それは周りの人々も変わらないらしく、耳を塞いで蛇に睨まれたかのように動かない。否、動かないのではない。動けないのだ。何かの能力なのだろうか。疑問に抱く前に狐が動く。

 駆ける狐は動けないモノに容赦がない。狙われたのは城の前を陣取っていたアレスファミリアだ。群れとなっている場所に向けて突っ込み、左右に前足を振るってはまるでボーリングのピンのように飛ばしていく。待ち受けているのは落下による死だ。

 勿論、抗える者もいるが、その数は少ない。咆哮を聞いて動けるようになるまでにかかる時間に寄るのだ。見たところ、デュランさんや一騎打ちの会場で見かけた気がする人達はなんとか耐えたようだ。私は……ともかく、ニケは動けるようですね。



〈神性を帯びている故に。なければ動けなかっただろう。〉



 よく分からないがそういう事らしい。つまり、神性を帯びていれば咆哮による膠着を回避できるらしい。だからこそ、アイテールさんは問題なく空を飛んでいるし、神様に至っては片手を刀に添え、いつでも動けるように構えていた。

 とりあえずこちらに来なかっただけマシだろう。その事にホッと息をつき、アルファさんの次の行動に注目する。

 突進した後は僅かな休憩時間を必要とするのか、ゆっくりとこちらへ振り向く。この間にデュランさん達は立て直しを計っていた。



「グルァッ!!」



 再び獣が駈ける。今度は集団に突っ込むのではなく、高い壁の上へと飛び乗った。そして、ひと鳴きしたかと思えば上を向いて口を開けると、その先に闇色の光が集っていく。



「あれはどう見てもヤバいですよ!?神様っ!!」


「うわぁ。レギュレーションとか何もかもを無視して頂上の生物になってるね。全く。誰だよこれ許可したヤツ……。」


「えっと、神様?」


「あぁ。なんでもないよ。とりあえず、あれを回避するとするならもう少し端まで下がろうか。壁ギリギリまで届く程鬼畜仕様ではないと思うし。」


「了解です!」


「うむ!下がるとしよう!」



 神様の指示に従い、慌てて距離をとる。そうして壁まで寄った時だった。輝きが増した光線がフィールドを蹂躙する。



「うわぁあああっ!?」


「ぎゃぁああああっ!!」



 光線に備えて構えていた人が吹き飛ばされる。逃げ遅れた人は光線に当たった瞬間、キラキラとした輝きになって消え去っていた。



「す、凄い、ですね。」



 あまりの攻撃に呆然とする。

 神様の読み通り、光線は壁に沿うように弧を描いたが、壁から5mは安全圏だった。

 どうやらこの光線が発射される時は中心に逃げるか端に逃れるしかないようだ。実際、光線の射程距離に入っていた人は、一部以外を覗いて吹き飛ばされている。その威力は驚異的と言うべきだろう。

 そして、光線を放ち終えた狐は再び壁から降りて来る。また咆哮を放つつもりなのか、息を吸い込む動作をした狐に慌てたのはプレイヤー達だ。もう一度隙を作ってたまるものかと遠距離攻撃が出来るものは魔法や矢を放ち、剣などの近距離で攻撃するものは一斉に狐に向かって走り出す。



「アイテール頼んだよ。」


「任された!」



 アイテールさんに声をかけた神様も駆け出す。かと思えば一瞬で姿が消え去り、気づけば狐の前に居た。

 そこでハッとし、置いていかれたことに気づく。



「わ、私も……」


「待つのだ!」


「でも……!」



 確かに、咄嗟に攻撃へと動けなかった私は足手まといでしかないだろう。しかし、しかし、だ。それでも私は神様の隣に立ちたい。



「落ち着くのだ。我らが父を見よ。」



 いつになく落ち着いた声でアイテールさんが言う。そろそろと目線をアルファさんに向けると、アルファさんに一歩も引けを取らない神様がいた。



「ハァッ……!」


『このぉっ……!!』



 アルファさんの巨大な爪を神様が刀で受け止めて弾く。間髪入れずに再び繰り出される爪もまた弾き、距離をとる。その瞬間、アルファさんが体を横に回転させたのだ。纏わりつくプレイヤー達を一掃しようとしたのだろう。

 長い尾と巨体は凶器と化し、遠心力も加わり当たったものを吹き飛ばす。

 悲鳴があがるが、神様はものともせずに止まったアルファさんへと刀を振り下ろす。刀がアルファさんの胴体を捉えた。



「グルぁああっ!?」



 痛みに呻くアルファさんに他のファミリアも攻撃をしかける。



「行きますよ!〈聖なる鉄槌(ホーリーバニッシュ)〉!」


「手抜きしたらお仕置よ!〈四元素の焔(エレメンタルフレア)〉!」


「過激だね。〈灼熱の悪戯(トリックorボム)〉」


「貴方も似たようなものですよ。〈幸運の一撃(フォーカードショット)〉」


「僕らも遅れるなよ!〈撃墜剣〉!」


「はいっ!〈必勝の(ヴィクトリー)一撃(ストライク)〉!」



 白い光を放ちながら杖が狐の尾を捉え、虹色の炎が胴体を燃やす。黄色の輝きを纏った塊が狐の背に襲いかかり、何が起きたのか狐が大きくよろめいた。そこへ次々と攻撃が襲いかかる。流石の巨体もこれだけくらうと耐えられるものではないのだろう。狐は咆哮ではなく叫び声を上げた。



「グルァ、グルァアアアアアッ!!」



 その凄まじさに自分がただ見ていただけなのだと思い出す。



「……確かに、これなら私は必要なさそうですね。」


「む?違うぞ。ワシが言いたかったのはだな……」



 アイテールさんが何かを言いかけるが、状況が変わる。城から巨大な黒い犬が現れたのだ。

 黒い犬は狐を庇うように群がる人々を蹴散らし、吠えた。



『我らが母を虐げるとは何事か!母よ。大丈夫か?』


『ああ。可愛い我が子。助かったわ。

 さあ、この不届き者を滅しましょう!!』


「グルァアアァッ!!」


「アォオオオオンッ!!」



 恐るべき事に敵が増えてしまった。一体このイベントはどういうオチが着くのだろうかとふと頭によぎる。

 ん?と言いますか、暁の使者さんたちが納得するように決戦するっていう設定だったはずでは?それなのにどうしてアルファさんが戦っているんでしょう?

 そもそも、出てきた黒い犬は声からしてタルタロスさんですよね。これ、倒してしまってはまずいのでは……?


 空を取り戻しに来たはずが、何故かアルファさんたちと戦っている現状に困惑するのだった。これからどう行動するのが正解なのでしょう……?

次回、どうするプティ


尚、城の中では強襲が起きている模様。

『PK!?なんで!?』

みたいな声が聞こえるとか聞こえないとか。


それでは、これ以降も良き暇つぶしをお送りください。

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― 新着の感想 ―
[良い点] ついに始まった戦い。コレ、強すぎない? 漸く神様が動きました。しばらく見ていましょう(漸くの見せ場なのですから) [気になる点] 中に突入した方たちはどうしているのでしょうか?あのカメさ…
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