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138話 登場は派手に

こんにちこんばんは。

なんでこんなに進まないんだろう……と遠い目をする仁科紫です。


それでは、良き暇つぶしを。

 そこは月面。灰色の凸凹とした大地には既に多くのプレイヤーが複数の集団を作って集まっていた。プレイヤー達の中には初めて月に来るものも少なくなく、キョロキョロと辺りを見渡してはこれから始まるらしいイベントを心待ちにする。



「ひっさしぶりのストーリーっぽいイベントだな!」


「ほんとそれ!その前は1年前だったもんね!」


「前は……確か『古き神々の襲来』だったか?」


「そうそう!ファミリア実装記念イベントみたいなもんだったけど、かなりリアルでさぁ!」



 数集まれば喧しく、ある者は以前のイベントを想起し、ある者は関連性について議論する。

 しかし、そんな騒々しさももう少しでイベント開始時刻だというタイミングで起こった出来事で掻き消される。

 シュポーッ!という何処か気が抜けるような、それでいて轟く音にプレイヤー達の視線は月と反対側にある巨大な大地へと向けられる。

 それはどのような原理なのだろうか。宇宙(そら)にかかる線路を走る二両編成の機関車。有り得そうで有り得なかった光景にプレイヤーたちは目を見開き、驚く。やがて線路が月面に到達し、機関車は静かにシュポーッと煌めく何かを煙突から吐き出しながら停止した。

 一瞬の静寂後、ざわざわと喧騒が起こる。

 あれはなんなのか。機関車だ。それは分かってる。誰が乗っているのか。これはイベントの一環なのか。あれは作れるのか。乗れるのか。

 特に一部の科学者達が興奮を抑えきれないようで、今にも駆け寄りそうになっているのを平凡な見た目をした青年が必死になって止めている。

 それは果たして正解だった。


 誰かが降りてくると同時に小刻みに振動し始めた機関車は、魔力の暴風を起こしながらはじけ飛んでしまったのだから。



「は。」

「え。」

「ぎゃぁあ!?」



 それは正しくドカーンとでもオノマトペで表現されるような大爆発。上位のファミリアとはいえ、咄嗟に行動できたのは一部のものたちだけだ。

 それは即ち、降りてきた人物の招待を隠すことにも繋がっていた。

 ……と、つまり、ガイアさんたち様様ですね!


 わーきゃーと叫ぶプレイヤー達を尻目にこそこそと離脱に成功した私と神様、アイテールさんは、少し離れたところからその光景を眺めていた。ちょっぴり愉快な気持ちになったのは内緒である。



「なんとか無事に到着ましたね!神様!」


「うん。途中でガイアたちからそろそろ持たないと言われた時は焦ったけど。一安心だね。」



 そう。なんと、あの機関車での移動は完璧に安全な旅路とはいえず、何度か線路から逸れそうになったり浮いたりして恐ろしい目にあったのだ。やはり地面から離れれば離れるほどにガイアさんの力が及びにくくなるらしい。最後の爆発も自爆ではなく、限界を迎えたがための暴走であったのだ。帰ったらお礼をする必要があるだろう。


 そんな事を考えていた時だった。

 突如、リゴーンリゴーンと鐘の音が鳴り響く。プレイヤー達は驚きのあまり静まり返った。恐らく、そういえばイベントが始まるんだったとでも考えていることだろう。その直前の機関車の登場があまりにも衝撃的過ぎて忘れていたのだ。

 そこへ少女の声が響く。いつの間にか現れていた少女はプレイヤー達を見下ろすように空に立っていた。現れた少女は朱色のフードを被っており、表情は伺えない。



『やれやれ。大事な登場のシーンを全部取られてしまったようだね。

 まあ、いいか。ようこそ。裏切り者共。我々、暁の使者は君たちを歓迎しよう。』



 地面が揺れる。何事かと構えると、凹凸しかなかった月面に巨大な城が出来ていた。

 白い美しい城だ。テーマパークの目印になりそうなお城を思い浮かべてくれればいいだろう。

 辺りは騒々しくなる。当然だ。何もない場所に一瞬で巨大な建造物が出来たのだから。それも美しいとなれば一入である。



『おいで。この中でキミたちを相手してあげるさ。』



 少女は言うだけ言って城の中へと消えていった。説明する気はないようである。うーん。相手の領域に何の用意もなく入るのは流石にどうなんでしょう。

 そう思っている間にも続々とプレイヤー達は城の中へと入っていく。

 どうやら、イベントなのだから疑う必要もないという思考回路のようだ。



「神様。良いのでしょうか?城に入っても。」


「……どうだろうね。流石にイベントと銘打っている以上、イベントらしいことは待ち受けているんじゃないかな。」


「ふむ。警戒心は良いが時には大胆な行動も必要ぞ!

 とはいえ、怪しいのは間違いあるまい。後から入るのが良かろう!」



 ガハハッと笑うアイテールさんに珍しくまともな事を言っているなと驚く。やる時はやる鷲なのだからおかしくはないはずなのだが、普段の空気の読まない行動がなんとも残念である。



「チョっと聞きたいコトがあるンだけド、いいカナ?」



 それぞれのファミリアから数十人参加しているらしく、狭い門から入るには時間がかかる。それを待っているときのことだった。

 久しぶりに聞いた戯けたような声。振り向くとそこには怪しげに笑う導師姿の人物が居た。



「えっとー?どなたでしたっけ?」


「ヤヤッ!忘レタふりカナッ!?流石ノワタシもショックをうけルヨッ!?」


「あ。思い出しました。妖華さんでしたね。そうでした!」



 うんうんそうだったと手をうち、にっこりと笑う。妖華さんは不貞腐れたように頬を膨らませる。



「全ク!顔なしクンはどういう教育ヲしテいるのカナッ!」


「あはは。なんの事だろう。

 僕とは無関係な話のようだし、そう言われても困るよ?」



 ニッコリと笑う神様は大変いい顔をしている。妖華さんはますます頬を膨らませ、そっぽを向いた。



「モーッ!いいサ!アテナがそこノお人形ちゃんニ用ガあるッテ言うカラ来たノニナァ!」



 妖華さんの言葉に興味が湧く。アテナと言えば妖華さんのファミリアの神様だ。つまり、マスコットのはずである。用とは一体何なのか。

 そこで一つ思い当たることがあった。ニケが言っていたのだ。

 私の力の活用は今の主では無理である、と。

 それは空との再会に向けて特訓をしていた時のことだった。以前ニケが言っていたニケの運用方法に武器として使うという提案があり、試そうとしたのだがニケに言われたのがこの言葉だった。

 更に、ニケはこうも言っていた。

 私より上位の神であれば何か知っているかもしれない、と。

 という事でガイアさん達に聞いてみたのだが、残念なことに何も情報は得られなかったのだ。

 それの管轄は我らにあらずと言って。

 つまり、だ。鍵があるならば今の神様ランキングに参加しているファミリアであるはずなのだ。そう考えれば妖華さんから声をかけて貰えるとはなかなかに幸運かもしれませんね。


 回想はさておき、目の前の妖華さんに目を向ける。不貞腐れている妖華さんの機嫌を良くするならば何がいいのか。

 答えは簡単。興味を持つような新しいおもちゃを用意する、だ。



「あの、もしかしてなんですが、コレについて、ですか?」



 バサリとニケの翼を背にして妖華さんに見せる。妖華さんは細い目を微かに開けて凝視する。

 そして、しばらくふんふんと頷いたかと思えば、やがて納得するように頷いた。



「ウん!全然分からないネ!」



 ニヤニヤと笑う妖華さんは悪びれもせずに結論を出した。戸惑いから妖華さんを見上げる。



「えっと……?」


「デモ、そうダネ。キミなら分かるンだろウ?……アテナ。」


「ホゥッ!」



 何もない場所から一羽の白い梟がポンッと現れる。デフォルメされた梟ではなく、リアルな梟だった。嘴は鋭く、黄色い目は真実を見通すかのようである。



「この方が……」


「アァ。アテナだヨ。さテ、そろそロ用事モ済ませたイところダカラサ。チャチャッと頼ンだヨ。」


「ホゥ!」


 辺りを見渡せば、残っているのは今まで通った島を管理するときに見かけたファミリアばかりだ。ようやく半分中に入ったところらしい。



「まだ、時間はありそうですよ?」


「そうハ言ってもネ?これデモ上位ファミリアのマスターであル以上、ワタシも遅れルわけニハいかないのサ。」


「そうなんですね。」


「さァ、アテナ。後ハどうゾ。」


「ホゥッ!」



 アテナがひと鳴きすると、ニケが青白い光に包まれる。光は瞬きもしないうちに消え去り、アテナは満足したかのように消えた。



「えっと?」


「……じゃあ、ネッ!」


「何したのかだけでも言っていってください!?」


「自分デ見つけテコソだってサッ!応援してるヨ!ワタシはネェ?」



 サラバ!とばかりに遠ざかっていく後ろ姿が少し腹立たしい。やらかして逃げるのは流石にどうかと思うのだ。



「うーん。ニケ、何をしていったのか分かります?」


〈……。〉


「ニケ?」


〈あ。すまない。主。どうやら、私を主にとって使いやすいように変更していったようだ。〉



 ……変更?

 それは一体どういう意味なのかと尋ねてみると、驚くべきことがわかった。

 どうやらニケの装備基準から私は外れた存在だったらしい。てっきり能力値の問題なのかと思ったのだが、そうではなかった。

 なんでも、私がつくったカオスファミリアに原因があるらしい。

 私は知らなかったが、カオスファミリアは現在の神に当てはまらない神を崇めていることになっている、らしい。うん。よく分からないがとにかく、ニケの装備は現在の神を崇めるファミリアを基準としており、私はその基準から外れていた。故に、その力を十分に発揮できていなかったのである。

 それをニケの親とも言えるアテナさんが手を加えたことで私もニケを今まで以上に使えるようになったのだとか。



「具体的に言うと?」


〈全ての武具への転身、魔法の補助、防御の強化が可能となった。〉


「……わぁ。ニケって凄かったんですネ。」


「プティ、目が死んでるよ。」



 いえ、まさかこんな土壇場で私が強化されるとは思いませんでしたし、そもそもこんな事をしておいて何の見返りも要求せずに去っていった妖華さんが恐ろしいですし。

 とりあえず、一つ言えるのは次会ったら妖華さんにお礼をしなければならないという事だろう。貸し借りはさっさと返したいですしねぇ……。



 □■□■□■□



「〜♪〜♪」


「いやァ、ご機嫌だネェ。我らガ女神様ハ。」



 妖華は目の前を飛ぶアテナを見て苦笑いをする。妖華にカミサマとやらへの信仰心などはない。ただ、ファミリアのオプション的存在でしかないと思ってはいたものの、先程の光景を見て違うのだと思い知った。



(本当は恩とか貸しとかノ一言でモ言ッテやりたかったンだけどネェ。)



 それ以上にあの人形が持つ翼を見た時のアテナの様子がおかしかったのだ。暴れて人形に近づこうと何度も妖華から離れて行こうとする。そんな姿を見れば誰だってアテナの願いを叶えたいと思うだろう。



(だかラ、コレは必要経費ッテことで妥協しテあげようじゃナイカ。大事ナことに気ガつくキッカケになった、ネ。)



 普段は相手に貸しを作らせて巧妙に立ち回る妖華も今回ばかりは受け入れた。久しぶりに世界が動きそうなイベントに浮かれていたのもあるだろうが。



「さァテ。頑張るトしますカ!」


「ホゥッ!」



 陽気に城の中へと入っていく。何が待ち受けているのかも知らないままに。

次回、やっとイベント開始


ニケの翼

ニケと名はついているものの、それはアテナが生み出した力のためである。

本来は持ち主が崇める神の眷属として持ち主に力を間接的に与える存在の予定だった。

しかし、ニケはカオスファミリアに適応できず、外付けの能力である飛翔能力のみ使用できていたのだった。


それでは、これ以降も良き暇つぶしをお送りください。

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― 新着の感想 ―
[良い点] オヤクソクの爆発をこんな大事な場面で持ち出してくるとは?!盛大に目立ちましたね♪ ニケさんの本領発揮の時が遂に!…張り切り過ぎないようにね♪ [気になる点] ガイアさんたちのこの後の行動…
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