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136話 特訓と裏での一幕

こんにちこんばんは。

いろいろなものに影響されがちな仁科紫です。

(今回、ほぼ説明回です。たぶん。)


それでは、良き暇つぶしを。

 さて、一面真っ白な雪山という現実ではなかなか行かない場所での動物探しは難航した。ただでさえ雪で見つけにくいというのに、探しているリスは白色なのだという。どうしたものかと考えていたが、考え込む前に向こうの方から出てきてくれた。とはいえ……



「この大きさはないと思いますけどね!?」


「頑張れー。プティー。」


「はーいっ!」



 返事は元気よく。とはいえ、内心のモヤモヤがすぐさま消える訳でもなくため息をついた。



「キュキュッキュッ!!」


「鳴き声は可愛いんですけどねぇ……。」



 そう。それは厳しい寒さという環境において適応するための進化の結果なのか。よく言われる暑い地方での小型化と同様、いや、反対の方向へ進化した結果が目の前のリスなのだろう。

 小さな耳にフサフサとした毛が生えた尻尾。白い毛はさわり心地がよさそうだと現実逃避をするが、目の前のリスは居なくなってくれない。むしろ、存在感のある堂々とした態度でこちらを丸いきゅるんとした黒い目で見つめてくる。……存在感があり過ぎるんですよねぇ……。きゅるんというか、ぎょろりともとれますし……。

 呆れつつもリスの観察を続ける。そのリスはどう見ても白いだけの普通のリスだ。しかし、近くで見れば異変に気づく。……見上げるほどに大きい。むしろ、首が痛くなりそうな程には大きいのだ。ホッキョクグマサイズのリスを果たしてリスと呼んでいいのかは問わないこととする。



「ワー。見上ゲルホドニ大キイッテ凄イデスネ。」


〈主。現実逃避も程々に。〉


「分かってますよ!」



 気を取り直し、魔力糸を手に持とうとしてやめる。今は自分が何を出来るのか見直したい。ならば、まず試すべきは魔法だろう。最近、魔法から離れていた自覚はあるんですよねぇ……。



「えっと、魔法は想像!闇よ丸く渦巻け回転せよ!〈闇の螺旋〉!」


〈安直過ぎる。〉


「やかましいです!分かりやすい方が想像しやすいんですよ!」



 それ即ち、相手にも対策されやすいということに他ならないのだが、私とて分かっている。

 今の悩みの種はそれですからね。どうしたものやらって感じです。


 作り出した黒紫の渦はそれなりの勢いでリスへと向かっていく。しかし、イメージが足りなかったのか速度は遅く、リスに軽々と避けられてしまった。

 そして、リスは脅威にすら思わなかったのか、こちらを見て首を傾げている。非常に腹立たしい。



「えーっと、じゃあ、これはどうでしょう!

 闇の直線!其は光の如く走る!〈暗闇の伝令〉!」



 黒紫の線が指先から一直線に伸び、リスへと当たる。しかし、リスは痛くも痒くもなさそうに線を見ているだけだった。攻撃力が欠片もないです!?あ。MPが徐々に回復してますね。MPドレイン……私のしたかったことと違う……。



〈今度は分かりづらい。そもそもイメージを固めるための詠唱に引っ張られてどうする。〉


(うっ。というか、やっぱり詠唱って必要なんですか?)


〈その答えは既に知っているはず。〉


(全ては想像次第、ですか……。)



 むむむっと眉間に眉がよる。正直、想像はあまり得意ではないのだ。更に言うと、論理派ではなく感覚派。もっと言えば考えるよりも手が出るタイプだ。何かをうだうだ考える暇があれば行動した方が早いと思ってしまうのだからタチが悪い。海のときはまだ論理的に考えられていたはずなんですが……うーん。おかしいですねぇ。

 相変わらず自分のことのようで他人事に思える海の記憶にため息が出る……って、リスが逃げようとしてますっ!?



逃しません(〈切れろ〉)っ!」


「キュッ!?ギュぅッ……。」


「あ、あれ……?」



 なんでもいいから飛んで切れろっという私の雑な想像が実を結んだのか。驚く程簡単に飛んでいった魔力の塊がリスの背中に直撃。そして、思いのほか深い傷をつけて白と黒の混じった光が消え去る。リスは大きな図体の割にあっさりと倒れてしまった。……はて?



(今、何が起きたのでしょう?)


〈……。主は考えない方がいい(この脳筋が)。〉


(今、凄く不本意な言葉が聞こてた気がしますよ!?)



 何はともあれ、魔法の有効活用の糸口が掴めたかもしれませんね!

 後は練習あるのみ!なのです!




 ■□■□■□■



 少女は迷っていた。いや、迷いというよりも困惑の色の方が強いだろうか。少女は相手の提案に乗る乗らない以前に何故が占めている頭を一旦置いて、相手の本心を探ることにした。



「それで?なんでアタシなんだ?」


「それを聞くの?相も変わらず慎重だね。」



 ニコリと笑う顔に少女は既視感を抱く。それは何度も見てきた表情であり、何度も見てきたが故にこの目の前の人形が何であるかもすぐさま分かってしまった自分に顔を歪めたくなる。

 しかし、少女はそれ以前にやはり首を傾げざるを得なない。少女のよく知る彼女はとある理由から入院中のはずなのだから。いや、それも違うか。あの病院であれば自身もかつて入院したことがあっただけにある程度は知っている。つまり、彼女がここに居るのは別におかしい話ではない。では何がおかしいのか。それは、人伝で知った情報と目の前の存在が噛み合わないからに相違ない。



「違ぇーよ。アタシを頼るのがよく分からねぇって話だ。

 アタシはそこまで強くねぇからな?なんなら、他のやつに頼んだ方がいいぜ?」



 それこそかの紅月の吸血鬼とか。と、声にならず思い浮かべるのはかつての憧憬。馬鹿みたいに明るくて自身の立場も顧みず、無鉄砲にも自分を庇って消えたかと思えば責任諸々全て忘れて帰ってきたあの大バカ野郎……いや、今は関係ない話だ。

 逸れた思考を現実に戻す。現実逃避故ともいえる一連の思考に気づいているのかいないのか……目の前の人形は人間臭くも苦笑いをうかべた。



「やれやれ。どうやら勘違いしているみたいだね。」


「勘違い?」



 情報が少ないからこそ警戒心を抱く。もし、いや、ほぼ確信してはいるが目の前の存在が少女のよく知る人物であるなら、それは必至。例え、かつての彼女が正に人形の如き生を歩んでていたとしても、警戒を怠らない理由にならない。少女はよく知っているのだ。何故なら、彼女は親の人形に甘んじていたのではない。人形として振る舞うことでむしろ実の親さえも操っていたのだという事実を知っているからだ。

 ……正直、こうして対談している時点で負けを感じなくもないのだが、致し方ない。どうせ話にのせられるのだからとアルテミスファミリアのマスター、月光院ルカは腹を括って次の言葉を待った。



「うん。キミさ。月の女神と仲が良かっただろう?」


「仲が良かっただぁ?勝手に過去形にするんじゃねぇよ。今も仲良いぜ?」



 な?と傍らにいる蝙蝠に話しかける。蝙蝠は何を思ったのか少女を見てキシャッとだけ答えた。

 実の所、ファミリアの象徴とも言える(マスコット)の姿はファミリアのマスターの望む姿になることが多い。そのため、それらしくない姿になることも多々あるが、今のアルテミスは赤い蝙蝠だった。



「まあ、そう答えるよね。でも、キミは知っているだろう?月の空虚さも。役割も。そこにいたもののことも。」


「……。」



 ただ絶句する。傍から見れば不機嫌に睨んでいるように見えるだろうか。取り繕えているのかは分からないが、今はいい。

 何故それを知っているのか。それだけが頭を占める。あれはそもそも誰も知りようのない話だ。まだ己が何者でもなく、何者であるかを決める以前。幼すぎる思いを抱いて悲しみに溺れんとしていた日々のこと。故に誰も知るはずがないのだ。少女の無茶な願いを聞いてくれた、優しい月の住人との日々を。



「何を根拠にそんな事を言ってんだよ。」


「ふふふ。知ってるかい?み……じゃなかった、ルカ。

 狐はこの世界に一匹しか居ないんだよ?」


「は……?」



 急に何の話をし始めたのか。問おうとして気づく。顔に出ているのだろう。目の前の人形はしてやったりと口角を片方だけ釣り上げていることに腹が立つ。


 さて、突然だが、月光院ルカというこのアバターは元々、人形族であったものを獣人族に転生させたものである。さらに言えば、ただの犬の獣人だったのだ。しかし、今の月光院ルカは狐の獣人である。では、ここで疑問が一つ生じる。どうやって犬から狐に変化したのか?

 この世界では進化が出来るのは人外種のみと決まっており、獣人族は犬、猫、兎、羊、鹿、鳥、魚の6種族のみだ。そこに例外はない。

 つまり、犬から狐に進化することもなく、狐の獣人という存在は初めから居ないはずである。

 この疑問を解決するにあたり、獣人族という種族について説明する必要がある。

 獣人族とは、古の神々を崇める種族であり、恩恵はそれに伴ったものであることが多い。犬ならば暗闇を見通す目を。猫ならば住民と友好的になりやすく、兎は速さ。羊は頑丈な体を。鹿、鳥、魚は魔法において特定属性の適正が上昇するのだが、今はさておき。重要なのは古の神々を崇める種族であるということだ。古の神々……そこに狐は本来であれば入らない。しかし、特定のものを崇めるという条件、元が犬の獣人であったという幸運。彼の者を思うがあまりに暴走する今を生きる古き神によりそれは成された。……ルカは知る由もないが。

 ルカが知っているのは、ただ月の住人に出会った後に気づけば変化していたということだけだ。



「まさか……?」


「ねぇ。ルカ、こっちにおいでよ。」


「……さっきも言ってたが、宣戦布告した側ってことだろ?なんでアタシ……」



 正直、ルカは未だにあのイベントの意味が分かっていない。何故月なのか。そもそも、暁の使者の言っていた言葉の意味も分からない。何せ、そういうイベントだったからファミリアは結成されたのだ。今更敵対勢力が現れた所で混乱しか生まれないだろう。

 しかし、そこまで思考したが故にルカは一連の会話から一つの可能性に思い至る。



「……彼女が、居るのか?」



 答えはただ笑顔で返される。ルカは逡巡し、結論から言えば頷かなかった。

 もっとも、否とすぐに言わなかった時点で答えは見えているようなものだったが。



 ■□■□■□■



「それで、どうだったの?」



 過保護な共犯者が尋ねてくる。それを煩わしげに等身大の人形……空は見た。



「多分、こっち側で参戦かな。彼女、真面目だからファミリアのメンバーに説明してから返事をくれると思うよ。」


「ふーん?」



 興味はそこまでなかったのか、それだけ言うとエロスは去っていった。その場に残った空は思う。

 やはり、エンプティの直感は外れていなかった。あの日見た狐の獣人に既視感を覚えたのは、海が彼女を知っていたからだ。勿論、ただの知り合い程度であれば気づくことは出来なかっただろう。しかし、それが10年近く共に居た相手だったとするならば。



「まさかこんな所で幼馴染と会うとはね。世の中何が起きるかは分からないものだ。」



 今頃その幼馴染、月光院ルカこと晴風美月(はるかぜみづき)が苦悩しているだろうと思い浮かべ、思わぬ巡り合わせに笑うのだった。

次回、月にて


因みに、かなりどうでもいいですが月光院ルカの命名はプレイヤー名が先に決まりました。(月光院→美月 ルカ→はルカぜ)


それでは、これ以降も良き暇つぶしをお送りください。

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― 新着の感想 ―
[良い点] プティちゃんの頑張り…脳筋さんになりました♪(感覚でやる派だからかな?) でっかいウサギさん♪乗り心地良さそうですね~(笑) [気になる点] 狐ってイヌ科だったよね。   ……シッポは…
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