13話 狩りは唐突に
こんにちこんばんは。
ようやくここからあらすじの所へ入っていく仁科紫です。
…長かった…。
それでは、良き暇つぶしを。
「かーみーさーまっ!」
朝、目が覚めてすぐさま隣にいる神様の元へとダイブすると、神様は苦笑いしつつも受け止めてくれた。
「おはよう。プティ。」
「はいっ!おはようございます!」
ニコニコっと笑って神様のお顔を存分に眺める。
えへへぇ…。今日も神様のお顔は最っ高ですねぇ。
心の中でぐへへとばかりにだらしない感想を述べていると、それが神様に伝わったのか、じとりとした視線を向けられた。
「な、なんでもないですよ?」
「僕が言う前にそう言うってことは何かあるんだろう。」
ギクリと肩ではなく魔力糸が震え、今のがバレていなかったかと神様をチラリと見る。
そこには何も言わずにいつものように服装を着替え終えた神様がいた。
えー…。なんでそこでツッコミを入れないんです?かまってちゃんになっちゃいますよ?私。
「かーみーさーまー?冷たくないですかー?」
「何言ってるんだ?今の流れは前もやっただろう。
どうせ有耶無耶にされるなら口を出さない方がいいって僕も学習したんだよ。」
首を傾げた神様はそう言って呆れたように私を見た。あー…。そういえば、そんな事もありましたね。
ということは、神様には同じネタが通じない…!?なんという学習能力。からかい対応のスペシャリストになれてしまうのでは!?……意味がわかりませんけどね。ええ。冗談ですし。
とはいえ、悔しいものは悔しいですねぇ。ここは一つ、大袈裟に悔しがっておきましょうか。
「ぐぬぬ…!神様が素敵なのは今更ですが、こういった面の才能もあるとは恐れ入るのです…!」
「いや、何に悔しがってるんだい?あと、才能って何の?」
「…さて!今日は何しましょうかねぇ!」
「さては何も考えてなかったな!?」
「ふふふ〜。どうでしょうね?」
笑ってはぐらかすと、神様はなんとも釈然としない様子で私を見ていた。
ふふふ。いいですね。特に私のことで頭を一杯にしている…あ。ダメですね。これ以上は変態さんっぽいので却下です。
頭をブンブンっと振ることで邪な考えを振り落とすと、神様に今日は何をしようかと話しかけた。
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「今日は森へ行かないかい?」
その一言で森へと行くことに決まった私たちは、東へと向かう門の方へと向かった。初日に案内された大通りを通り、賑やかな市場を通り抜けると3m程の石で出来た塀が見える。そこから先は街の外に出る人が少ないのか、人通りは少なかった。
「そういえば、街から出る人って見た覚えがないのです。」
「それもそうだろうね。街にいる人々はそこで暮らしが完結してしまうから外に出ることはないし、プレイヤーもある程度の生活場所は決まっていってしまうからね。
それに、この街には元々プレイヤーが少ないんだ。」
「そうなんですか?」
「ああ。プレイヤーは王都に集まりがちなんだよ。」
その言葉に納得しつつ、皮の鎧を纏った門番の横を通り抜けた。地面を踏み固められただけの道を進むと直ぐに、先日私が迷い込んだ森とは別の森にたどり着く。
私が迷い込んだのはどうやら西側の森だったらしい。
「おー。まさに森って感じですね。ハイキングに良さそうです。
…あれ?今まで気づきませんでしたが、意外とリアルですね。蝶々とかの虫もいるようですし。…これ、確実に虫嫌いな子にはウケてませんよね?」
「大丈夫だと思うよ?道のあるこっちには飛んでこないし。
まあ、見るだけで無理って人には設定でそういうものを見えないようにすることもできるからね。苦情は少ないんじゃないかな。」
神様の言葉に納得しつつもキョロキョロと辺りを見渡す。神様のお店に入り浸っている弊害を実感しつつも新鮮な環境が目新しく思えた。
ふむ。このVRMMOのモットーはリアルな生活のようですからね。設定で消せるならば問題はないのでしょう。
……ん?というか、そういう設定の話はキャラクタークリエイトの段階でされるものでは?私、その辺の話をされていない気がするのですが。
「神様。私、そもそもキャラクリエイトの記憶がないのですが。」
「あー…まあ、君の場合は緊急事態だったから、設定の類は全て初期設定のはずだよ。
キャラクリエイトは…だからこそ、人形族だったわけだしね。」
詳しい話を聞くとキャラクターを作れないという人物は時折出てくるものらしい。そういった場合は人形族として運営側が用意した人形を使ってこの世界に馴染んでもらうのだとか。
だから、この世界の住人は人形族には優しいらしい。……うん。よく分からんですね。どうして優しいのでしょう?
理由が分からず考え込んでいると、そこに気になる言葉が聞こえた。
「そうそう。この世界のプレイヤーに人族はいないからね?」
「えっ。それはどういう事ですか?」
丁度そのときだった。唐突にガサガサっという音がなり、何かがこちらを伺っているような気配を感じる。
……これは、なんだか既視感を覚えますね。
狼に追いかけられた時のことを思い出しつつ、あの時のようにならない為に考えていたことを実行した。
まずは魔力糸を伸ばしまして…。
地面に這うようにソロりと動かし、隠れている草むらに向けて伸ばす。
こちらが気づいていることが相手に伝わったのか、なかなか姿を現さない。
んー…焦れったいですね?こういう時は、先手必勝です!
伸ばしていた魔力糸をなんとなくの感覚でそれに結びつけると、上に引っ張った。
「よいしょーっ!」
「グァッ!?」
掛け声と同時に茂みの奥から姿を現したそれは毛がフワフワとした兎だった。
どうやら、結びついたのは兎の前足だったらしく、後ろ足をじたばたとさせて逃れようとしている。
ふむ。これはきっちりと捕まえておかないと逃げ出しそうですね。
そう思った私は魔力糸が毛に埋もれて見えなくなるほど締め付ける。流石に動けなくなったのか、兎はグァグァと威嚇しながらこちらを睨みつけていた。
ふむ。よくイメージされるような真っ白で赤い目の兎ではなく、茶色の斑な毛に黒い目をしているんですね。見た目はなかなかに可愛いです。…声はちょっと見た目と合いませんが。
「兎ですね。」
「兎だね。どうする?狩るかい?」
こちらを伺いみる神様は少し心配そうに見えた。
むぅ?どうして心配されているのでしょう?……あ。もしや、私が悲しむのではないかと心配されているのでしょうか?それなら、提案しなければ良いと思うのですが…よく分かりませんね。
まあ、ここは狩る一択ですかね。せっかく初めて捕らえたんですから、狩らない理由はないでしょう。
「狩りましょう。どうしたらいいんですか?」
「…そうだね。僕がやろうか。」
そう言って神様は刀を取り出した。
うん?それでは意味がありませんよね?ここは私がしましょう。なんでもやってもらうのは気が引けますし。
それに、これは私の獲物ですから!…言ってみたかっただけです。まあ、やりたい事もあるのでここは任せてもらいましょうか。
「いえ。ここは私が。」
そう言って魔力糸を新たに一本伸ばした。
実は、ここ最近のトレーニングで気づいたことがあるんですよね。どうやら、この魔力糸。硬度や強度、性質も自由自在のようなんです。
ということで、硬度は硬く、強度はそれなり。性質は切れ味抜群といきましょう。
首を一周させて一息に引っ張るイメージをする。
「えいっ!」
「グ!?グゥ…。」
スパンっと切れた頭はその場で青い光に包まれて粒子へと変化していき、もう一方も粒子へと変わっていく。
うん。やはり綺麗な光景ですね。
神様から助けてもらった時に見たのと似た光景に見とれてしまう。とはいえ、今は昼間のためかあの時よりは見劣るような気がした。
それはそうと先程から反応のない神様の様子を確かめようと振り向く。そこにはポカーンとした神様がいた。
あはは。その顔、面白いですね?折角ですし、指摘せずに話しかけてみましょうか。
「切りましたよ?」
「切りましたよ?じゃないんだけどな!躊躇もなかったし…。」
兎だぞ?あの可愛くてもふもふな…と何やらブツブツと言っている神様にちょっぴりイラッとした私は神様を糸でからめて持ち運ぶことにした。
そもそも神様から提案しておいて何を言っているんでしょう?それに、神様も切ろうとしていましたし、そう変わらないはずなんですよねぇ。おかしな方です。
「うぉっ!?」
「かーみっさま?さあ、先を急ぎましょうか?」
「いや、どこに行くかもまだ決めてないよな!?」
あ。おろせって言われませんでした。よし。暫くはこのままで進みましょう。
手を繋いで進んでいるようなものですし、私の気分も好調です。
「そうですね。次はどうしましょうか?さっきみたいに兎さんでも倒していきます?」
「あー。それよりも説明しないといけないことがあるね。」
頬を引き攣らせる神様は以前教えて貰ったインベントリを開けるようにと言った。
指示通り開いてみると、何も入っていないはずの中に兎肉と毛皮(小)の文字があり、神様の説明したかったことを理解する。
因みに、なんとも便利なことにこの世界ではインベントリという50種類のアイテムを各99個までなら収納できちゃう素敵な収納を誰もが持っています。
そして、そこに入り切らないものに関しては街の冒険者ギルドに預けられるとのことでした。なんでも、預ければどの街の冒険者ギルドでも取り出すことが出来るそうです。不思議ですね。
「兎肉が入っていましたよ。」
「いいね。あれは香草焼きにすると美味しいんだ…って、プティは食べられなかったか。配慮が足りなかったね。ごめん。」
そう言って謝る神様を見て苦い顔になる。
初日からやらかしてますからね。もう少し気をつけて欲しいものなのです。
まあ、本当はあの時にみせつけられましたし、ゲームのお人形なのでその辺は大丈夫かと思っていたんですよ。しかしながら、意外とその辺りがシビアだったんですよねぇ。世知辛い世の中です。…が、一つ思いついたことがあるのです!
「神様ー?ちょっとご相談があるのですが。」
「ん?なんだい?」
「人形族って、口からは食べられないんですよね?」
その突拍子もない言葉に驚いたのか、神様は目をぱちくりとさせた。
ふふふ。いいですね。これからどれくらい驚いてくれるのか楽しみになってしまいます。
「私、思いついたことがあるんですよ。」
そう言って不敵に笑う私を神様は不思議そうに見ていた。
次回、エンプティ、お肉を食べる。
それでは、これ以降も良き暇つぶしをお送りください。




