133話 散策に発見はつきもの
こんにちこんばんは。
ようやくお話を進められそうな仁科紫です。
それでは、良き暇つぶしを。
勝利を収めたその日は街にあるお店で打ち上げをし、解散することになった。
骨付きの揚げ鶏が特に美味しかったですねぇ。肉質は柔らかいのに衣はカリッとしていて、中からジュワッと脂と旨みが溢れ出てくるんですよ。思い出せばヨダレが……ジュルり。
もう一度打ち上げをしたいなと考えながら街を歩く。今日の散策は神様にお願いし、私1人だ。本当は神様と一緒に居たいが、アルファさん関連の探しものであるため、神様がいては不都合な事もあるだろうと別れることにしたのだ。
まあ、神様なら私の位置とかバレていそうなのですけど。
「さあさあ!お立ち会い!これより始まるはこの島に伝わる昔話!一度は見ていくことをオススメするよ!」
賑やかな通りから開けた場所に出る。どうやら住民の憩いの場になっているらしく、丁度人形劇が来ていた。
あ。あれってガイアさん達が見ていた劇と同じもののようですね。
そういえばこんな声をしていたなと興味が引かれるままに近づき、普段から観客席として使われているのだろうオブジェともベンチともとれる謎の石に腰掛けた。
少し時間が経ち、人が集まってくる。落ち着いたタイミングを見計らって人形劇の語り手が手に拍子木を持ち、朗々と語り出した。
「これより始まりますは、この島に古くからある伝説。月狐という物語にございます。」
カンカンっと音を鳴らすと語り手は手に持つものを糸繰り人形に変えた。
そして、再び語り始める。演目はあの日と同じもののようだ。
かつて月には1匹の狐がおったそうです。この狐は昔、それはそれはとんでもない悪さをしたとかで地上から追い出された狐でした。
初めの1年は追い出したもの達に怒り、次の2年は誰もいないことに泣いて暮らし、そして3年も経てば狐は自分のした事を悔いるようになっておりました。
『どうしてあんな事をしてしまったのか。今からでも償いたい。』
しかし、地上は遠く、狐は月から離れることなどできません。月には船に乗って来ましたが、その船ももう動かないのです。
何も出来ない狐はただ月から地上を眺め続けました。
そうして幾つの季節が過ぎたのか。ある日、狐は夢を見ました。
『しくしく。しくしく。』
それは少女が悲しそうに泣き続ける夢です。狐は思わず話しかけました。
『どうして泣いているの?』
しかし、少女は答えません。狐は届いていないのかと思い、今度はもっと大きな声で呼びかけました。
しかし、やはり少女は答えません。
夢は悲しそうな少女を残したまま、狐は目が覚めました。
『どうしたら気がついてくれたんだろう。』
眺めるしか出来ないまるで今の状況のような夢に狐は悲しくなりました。
今度こそ少女に言葉を届けたいと狐は夢の旅に出かけますが、なかなか少女と出会えません。
何度目の夢か。もはや分からなくなってきた頃、ようやく狐は涙を流す少女を再び見つけました。
『ねえ!どうして泣いているの!』
『しくしく……。』
声が届いていないのでしょうか。やはり声の届いていない様子の少女にふと思いつきます。
『そうか!私は月に居るから届いていないのかもしれない!』
その日から狐は自分の住む月をなんとか地上に近づけようと頑張ります。狐は少しだけ魔法が使えたのですが、月を動かすのはとても大変なことだったのです。
『よいしょ。よいしょ……。』
月は少しづつ地上に近づきます。そうした狐の努力により、ある日、泣いている少女は遂に狐の方を見ました。
『あ、あなた、誰?』
『私は狐。君は?』
『私はルカ。』
ルカと名乗った少女は何故泣いているのかと狐に問われるとこう答えました。
『大好きな人が遠くに行ってしまうの。もう一緒には居られないわ。』
『何故?』
狐は不思議に思います。どうして遠くに行くからとずっと泣いているのか。一緒に居たいなら居ればいい。ついていけばいいだけの話だと狐は言いました。
しかし、少女は首を振ります。
『私、体が弱いの。ついていけないわ。』
そういうとまた泣き始めた少女に狐は困りきってしまいます。狐は少女の泣いている姿ではなく、笑っている姿を見たかったからです。どうすれば少女は笑ってくれるのか。考えに考え、狐はこう言いました。
『ねえ。ルカ。一緒に遊ぼうよ。』
『え?』
『ルカが泣いてばかりだと、その大好きな人も悲しくなってしまうよ。だから、笑えるように遊ぼう!』
『それは確かにやだな……。狐さんの言う通り、遊んでみようかな。』
こうして少女と狐は時間を忘れ、文字通り夢中で遊び始めたのでした。
夢の中は全て自由です。思いのままに好きなものを作り出しました。綿あめみたいに食べられる雲。色とりどりの花畑。宙に浮かぶブランコ。そして、空に輝く大きなお月様。
『どうしてお月様?』
『私、あそこに居るんだ。』
『お月様に!?凄い!狐さん以外にはどんな人がいるの?』
尋ねられた狐はどう話したものかと悩みましたが、正直に答えることにしました。
『……私、1人なんだ。』
『1人なの?寂しくない?』
『どうだろう。分からない。私は、寂しいのかな?』
『狐さん……。ねえ、狐さんとまた会える?』
気づけば空は明るくなってきていました。明けない夜はないように覚めない夢はありません。
少女とのお別れの時間がやって来たのです。
『ルカが望むなら、きっとまた会える。もうルカが泣かないなら。』
『うん!また会おう!今度は絶対泣いてないから!』
2人は再会を約束し、別れました。
それから狐は何度も夢を見ましたが、少女とは出会えません。狐はなんとなく少女がもう泣いていないから会えないんだろうと思いました。狐は少女を思い出す度に少し寂しい気持ちになりましたが、それでいい。少女が泣いていないならと自分に言い聞かせます。
しかし、少女は諦めていなかったのです。
ある日、月に一艘の船がやって来ました。狐は驚きます。まさか地上から遠く離れた月に他の誰かがやって来るとは思っていなかったのです。
狐がドキドキしながら船を見ていると、遂に扉が開きました。中から出てきたのは……
『狐さん!』
『ルカ!?』
夢であった少女でした。少女は嬉しそうに笑いました。
『狐さんに会いたくて頑張ったの!体もね、なんだか調子が良くなっちゃった!だから、これから一緒に暮らせるよ!』
『ルカ……。ありがとう!これからはずっと一緒だ!』
『うん!』
こうして再会した2人は仲良く幸せに暮らし始めましたとさ。
おしまいおしまい。
カンッカンッカーンと鳴らされ、物語が終わる。
ハッピーエンドだ。それはいい。しかし、モヤモヤとする話だったと心の中でつぶやく。だいたい物語というのはご都合主義であることは分かっているのだが、それにしたってツッコミどころが多いのだ。
いくら少女が悲しんでいるところに狐が現れたからといっても少女の好きな人はどうしたのかとか、そもそもどうやって月に来ることが出来たのかとか、体の調子はそう簡単に良くなるものなのかとか……うん。気になるところが多いですね!
こうなったら人形使いのおじさんに話を聞いてみましょう!
「あの、今お話を聞いてもいいですか?」
「ん?なんだい。嬢ちゃん。片付けながらでもいいなら聞くけど。」
10分にも満たない人形劇を終え、片付けをしていたおじさんは戸惑った様子で答えた。
おじさんの様子にハッとして相手の迷惑になっていそうだと思い至る。これでは思い切って話しかけたはいいものの、何の収穫もない行動になってしまうだろう。
折角の機会なのだからと慎重に言葉を選ぶ。
「えっと、先程の劇、とても素敵だったんですが、少し分からない事があるんです。」
「分からないこと?言われても伝えてるだけの俺じゃあちと答えられないかもな。」
「あ、ですよね……。あの、おにいさんの考えでいいんですが、どうして少女は狐と生きる道を選んだんでしょう。好きな人がいて、離れるのを毎晩泣いて惜しむくらいなのに。」
答えられないかもしれないと言ったおじさんは意外にも苦笑いを浮かべた。この質問は割と頻繁にされるのかもしれない。
あ。もちろん、おにいさんというのはリップサービスなのです。こういうのは重要だと聞きましたからね。
「ああ。その事なら簡単さ。
人間ってのは遠くで自分のことを思ってくれてる奴と遠くに行っちまう自分のことを思っているかもわかんねえ奴なら思ってくれてる奴を選ぶのさ。」
「そうでしょうか……。」
「まっ。嬢ちゃんにはまだ早い話かね。
またこの辺で劇やっから見に来てくれよ。」
じゃあなと去っていく人形使いをじっと見る。その背に答えがある訳でもない。ただ先程の会話が頭から離れず、動けなかっただけだ。
「本当に、そうなんでしょうか?」
それなら、私はどうして神様よりも空を選んだんでしょう……?
近くで思ってくれているであろう相手を思い浮かべ、遠くに離れていった半身を思い浮かべる。
やはり私には答えが見つからなかった。
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「さて、と。それじゃあ、始めようか。」
「もういいのかい?待たなくて。」
クスッと笑って胡散臭い男が尋ねる。黒髪の少女は何を今更言っているのかとジトりとした目を男に向ける。男は肩を竦め、少女はため息をついた。
このやり取りはいつもの事だ。だからこそ、少女はこう答える。
「いつも言っているだろう?待ってたんじゃない。
全ては彼女がボクを切り捨てるように仕向けるために必要なことなのさ。だから、ボクはこのタイミングで仕掛けるし、彼女には悩んでもらう。」
「うーん。いつもそう言うけど、そこまでする必要って実際あるの?
僕には分からないなぁ。」
「あるんだよ。彼女は真面目で頑固っていう面倒な性格をしているからね。考えを変えさせるには前例が必要なのさ。
正しさに囚われたっていい事はない。彼女…姉さんには自由に生きてもらいたいから。」
生みの親であるはずの半身を姉と呼ぶ少女は迷いを断ち切るように眼下の景色へと目を向ける。少女を見て男は思う。
(そういう君も充分真面目で頑固だけどね。)
心に思っても表に出すことなく男はやはり胡散臭い笑みを浮かべた。
「お姫様の仰せのままに。」
「うるさいよ。エロス。ボクはキミに従順さを求めていないし、姫なんて柄じゃない。
それに、ボクには反逆者の名こそ相応しい。」
断定的に答える少女にもう男は何も言わない。ただ、心中で言葉にするだけだ。
(やっぱり、分からないなぁ。
だからこそ、最後まで見てあげる気持ちになったんだけど。)
男は少女と出会った日を思い出し、口角を上げる。
少女と男の眼下には小さな浮島と遠く離れた大地が広がっていた。
次回、次の島へ
それでは、これ以降も良き暇つぶしをお送りください。




