131話 勝負は真剣に
こんにちこんばんは。
構成上どう考えても姫プになる上に勝敗なんて決まってるようなものじゃんこんなの書き始めたバカ誰だよ私だよとなった仁科紫です。←今更何言ってんの。
それでは、良き暇つぶしを。
「ふふふ。冗談ですよ。冗談。
我がファミリアとの対戦を望む方は随分と久しぶりなので、つい楽しみになってしまいまして。」
すみませんねと悪戯っぽく笑う受付嬢に息をゆっくりと吐き出す。案外、このお姉さんは戦闘狂と呼ばれる類の人なのかもしれないと頬をかいた。
いえ、まあ、確かに一騎討ちなんてものをするファミリアですし、街中にコロッセオありますし。戦いが好きな人が多いかもしれないというのはなんとなく察していなかったこともないんですが……こういう方々とこれから戦うんですよね?私、ちょっとご遠慮したくなってきた気がしますよ…?
「さて、我がファミリアとの対戦はこの受付で予約できます。もっとも、宣伝や招集をかけるために数日お時間を頂きたいのですが、よろしいでしょうか。」
「大丈夫ですよ。早くていつでしょうか。」
「そうですね。3日も頂けましたら十分だと思います。都合の良い日時などはございますか。」
「では、3日後の午後一時開始でどうですか。」
「畏まりました。」
その後、諸々の手続きを済ませ、後は時を待つのみとなった。
エントリーはファミリアの名前と参加者だけであり、大将は聞かれたがおかしな事に順番などは不要だと言われてしまった。かなり不自然だが、またあの恐ろしい笑みを浮かべられては何も言えない。内心で涙目になりつつ隣を歩く神様に愚痴を零した。
「なんで代わりに手続きしてくれないんですか!」
「え?ほら、早く大人になりたそうにしていたから、折角だしこれも経験かなって。」
なんでもない事のように言う神様に戸惑うが、次の瞬間にはハッとして愕然とする。どうやら今の今まで私が賭けた事を根に持っているらしい、と。
それはそれは…なんだか、可愛らしいですね……じゃなくっ!
「もう賭け事はしませんから!
まだ神様のお力を借りていたいんです……ダメ、ですか?」
上目遣いで神様を見る。ほんの少しあざといとしても、かわいいは正義なのだ。きっとやられてくれるはずです……!
絶対目をそらさないぞと目を逸らした方が負けと言わんばかりに神様の目を見つめ続ける。神様はやはりと言うべきか気まずそうに頬をかいて目を逸らした。
「うん。まあ、良いけど……。」
「やったぁっ!です!!」
「……君、さては賭け事やめる気ないだろ。」
じとりとした目を向けられたが、気にするまい。うーん。本当はやめる気あったんですけどねぇ。神様に疑われると反射的にうっかりやめたくなる私が……。
ひとまず笑ってその場を誤魔化すと神様は諦めたようにため息をつくのだった。おかしいですねぇ。やめる気はあるんですけど……?
ここは適当にのっておくべきかと首を傾げる。
「どうしてバレたんです?」
「へぇ?本当にやめる気なかったんだ。」
「まさかの鎌をかけられただけですか!?」
ヤラレターと棒読みで胸を押さえると、神様は肩を竦めた。そろそろやめた方が良さそうですね。
「まあ、冗談ですけど。」
「……どこから?」
「『どうしてバレたんです?』からです。」
「人をからかうのも程々にしようね!?」
耳を赤くさせながら言う神様にえーっと不満の声をあげる。個人的にはこの掛け合いが楽しいのだが、神様はそうでもないのだろうか。
「……誰かと言い合う経験、これまでした事がなくてとても楽しかったんでんですが……。そうですね。神様がそう言うなら、残念ですがやめます。
すみません。神様。ご迷惑をおかけしました。」
「えっ。ちょっプティ!?待って待って!」
「神様がからかわれたくないのも当然ですよね。配慮が欠けていて……」
「あーもう!良いよ!プティが望むなら幾らでもからかってくれていいから!」
ニタリと笑う。その言葉が聞きたかったのです!
今までの殊勝な態度は何処へやら。一転して笑った私に神様はしまったという顔をする。
しかし、もう遅い。一度言った言葉は取り消せないから人は慎重になるということを私は知っているのだ。
「言いましたね?神様。言質はとりましたから。」
「えっ……はっ!プティ……!さては嵌めたね!?」
「神様、知ってました?騙される方が悪いんですよー?」
「くっ!誰だい!?プティに余計なことを教えたやつは……!」
「誰でしょうねー?」
あまりにもの神様の悔しがりようにクスクスと笑う。いつまでもこの時間が続けばいいのにと思わないでもないが、そう言ってもいられないだろう。時は残酷にも過ぎていくものなのだから。
過ぎ行くからこそ日々は尊く美しい。何処かで聞いたありきたりな言葉が頭をよぎっていった。
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『皆様!本日はお集まり頂き、誠に有難うございます!本日の対戦カードはこちら!
最近星界を揺るがす注目のファミリア!カオスファミリアVS!我らがマスター、デュラン率いる軍を司りしファミリア!アレスファミリアです!
司会進行は私!歌留多がお送りいたします!』
「「うぉおおおおぉおおおおっ!!」」
暑苦しいほどに聞こえる大歓声に眉をしかめ、ため息をつく。私たちは今、地下の待合室で待機をしていた。説明によると、ここから地上に出られる入口へと階段が繋がっているらしい。呼ばれたらステージに上がってきて欲しいとだけ言われていた。
そうしてしばらく待ち、会場が盛り上がりきったのかアナウンスが入る。案内の通りにステージに上がると観客はほとんど満員であり、歓声は耳が痛いほどだ。
「はぁ。神様。私、帰っていいですか?」
周りからの視線に耐えきれず、思わず本音が溢れる。見世物になる予定などさらさらなく、この形式は全くもって不服なのだ。思わず不満が漏れたとしても致し方がないと主張したい。
「まあまあ、君が帰っちゃうと不戦敗になっちゃうんだから、もう少し辛抱して欲しいな。」
ね?と言う神様にため息をつく。神様にそう言われては私も黙るしかないのだ。
いくら私がファミリアのマスターとはいえ、視線が集まる場所は好きではないが、次に進むためだ。これ以上の不満は心の内におさめておくことにした。
そうしたやり取りをしていると、向かい側にアレスファミリアが入場してきた。その中に見知った顔を見つける。赤い髪がよく映える青年、アレスファミリアのマスターであるデュランさんだ。
「久しぶりだね。今日はよろしく。」
「あ。デュランさん。こんにちは。今日はお手柔らかにお願いしますね。」
向かいに登場したアレスファミリアは紺の鎧で統一されており、団結力を感じる。そういえば、ファミリアごとにイメージカラーがあることを今更ながら思い出した。
「あ。だから、今日の装備は全員白と黒なんですね。」
決戦用の服だと言って渡された服装を見てくるりとまわる。ふわりと広がる裾はドレスではなくローブのものだ。
黒と白が真ん中辺りで切り替わるフードと逆の色合いで分けられた胴の部分は神様のこだわりを感じ、丸い模様や飾りで品良く仕上がっている。更に首元には大きなリボンがついており、黒と白に分かれているのが特徴的だ。
中の服は軍服のようであり、前が白一色の生地に黒い装飾。後ろは黒一色に白い刺繍と見えないところも凝っている。胸ポケットにはファミリアのシンボルマークと決まった太極図が刺繍され、シンプルな真っ黒なズボンと膝下まであるヒールの低い白のブーツが大人っぽさを演出しており、お気に入りだ。
普段のフリルたっぷりのお洋服よりこちらの方が私は好きですね。
きょろきょろと自分の服を見直していると、デュランさんの相手は神様がしてくれていた。いくら新しい服に気を取られていたとはいえ、話の途中でよそ見をしてしまったのは良くないだろう。
しかし、謝って会話に入ろうとしたところでルール説明が始まってしまった。神様には後で謝ることとし、今は真面目に聞くことにした。
『それでは、ただいまより特殊抗争一騎討ちを行います!
ルールは簡単!ただ目の前の相手をばったばったなぎ倒すだけ!最後まで大将が残っている方が勝ちとなります!例え大将以外のものが生き残っていたとしても、先に大将を倒した方が勝ちとなりますのでお気をつけください!』
「え?一騎討ちとは?」
「うーん。ただの概念かな。」
あははと苦笑する神様にそれでいいのかと嘆息する。なるほど。確かになんでもありだと公言するのも頷ける話だ。
そうして戸惑っている間にも開始までのカウントダウンが始まる。10から始まったカウントは相談するにはとても短いが、今まで見守っていたガイアさんの判断は早かった。
「では、私は守る。天弟は敵の足止め。末弟は排除。」
「ああ!任せるが良いぞ!」
「さすが母様。適切な配分、任された。」
「わ、ワシは!?」
「少しは自分で考える。」
「ガーン!?」
『それでは、抗争開始っ!!』
ドォオオオオンっ!!と銅鑼の音が鳴り響き、一斉に行動を開始する。
「〈母の揺籃〉」
「風は我と共に踊る!纏わり留まれ!大切なもののためと心得よ!〈ガスト〉!」
ピッタリ10秒で会話は終了し、開始と共にガイアさんが視界を遮らない程度の岩で周りを囲みこむ。その上は不自然に景色が揺れている事からして風が吹いているのだろう。
「では、俺も行ってくる。」
そう言うとロノさんの姿が消える。どうやったのかは分からないが、攻めに行ったのだろう。そして、なんだかんだで落ち込んでいたアイテールさんも敵陣へと突っ込んで行った。あちらは12名とこちらの方が少ないため、錯乱する方が良いと考えたのかもしれない。
『どうやらカオスファミリアは3人が攻め!2人が大将を守る事にしたようです!
切り込んでいく小柄な人影は一体どのような技を使っているのでしょうか!消えては唐突に現れている!これには我らがファミリアの精鋭たちも警戒を強めざるをえません!』
ロノさんが隙を作り、アイテールさんが攻めさせないようにと前に出る敵の足止めをし、神様が相手の連携を崩すべく接近し斬り掛かる。
どうやらアレスファミリアは流石軍を司るというだけあり、集団での戦闘になれているようだ。後方に魔法使いがおり、前には近接職、真ん中にデュランさんという陣形を組んでいる。そのため、ロノさんが隙を作ったところで魔法使いの障壁に邪魔され、時に盾に受け止められとなかなか攻撃が通らない。膠着した状況にようやく自分のことへと意識が移った。
あ。私、今まで何もしていませんでしたね。これもガイアさん達の頼り甲斐があるお陰でしょうか。あまり良くない傾向ですね……。
これが終わったら戦闘訓練でもお願いしようと決心しつつ考える。
さて、私はどうしたものか。ひとまず黒の魔力糸を岩に結びつけていると、アレスファミリアに動きが出る。
守ることはせず、一斉に攻めてきたのだ。
「〈軍神の加護〉!」
「「うぉおおおおおっ!!」」
デュランさんのスキルだろうか。暗い青の光がアレスファミリアの全員を包み込むと同時に目で見て分かるほど全員の動きのキレが増した。これにはアレスファミリアに攻めていた3人も一瞬怯み、特に動きの速い2人がアイテールさんの妨害をものともせずに突破する。
流石にウラノスさんの風の障壁があるので大丈夫だとは思いますが……あれ?どうして冷や汗かいてるんですか?ウラノスさん。
次回、ウラノスさん……?(終わらなくてすみませんm(_ _)m)
それでは、これ以降も良き暇つぶしをお送りください。




