130話 賭け事は程々に
こんにちこんばんは。
短い上にまとまってませんが、時間がなかったもので申し訳ない仁科紫です。
副題:賭けたい子どもと止めたい大人
それでは、良き暇つぶしを。
改めて神様たちとコロッセオの中に入る。どこかの世界遺産とは違い、崩れていない完全な姿をしているそこは何処も彼処も人で溢れかえっている。プレイヤーなのか現地住民なのか区別がつかないものの人気であることは分かった。
「おォイッ!30分後に始まる『血濡れ牛』バイソンvs『黄昏の彗星』ヨシュア、賭ける奴らは集まれよォっ!」
「血濡れ牛に賭けるに決まってんだろ!」
「前回覇者だしな。」
「いやいや。黄昏の彗星もバカにできやしねぇ。俺はヨシュアに賭けるぜ。」
入口から少し歩くと子供連れが避けて通る場所を見つけた。どうやら賭け事もこのコロッセオではしているらしい。
やいのやいのと賑やかな賭場を目にして興味が勝つ。どう見ても悪い大人の集まりだったが、好奇心は抑えきれなかった。
「神様!」
「ダメだよ?」
「えー!何でですか!?」
「賭け事は18歳から。それがルールになってるからだよ。」
「そんなぁ……。」
まさかの年齢制限に肩を落とす。確かに癖になったらマズイだろうが、少しくらいは良いだろうに。
……あれ?私がやらなければ良いんですよね?
閃いた私の視界に何処かで見た赤い目が入る。彼ならば適任だろう。
「仕方がありませんね。私はやめておきます。」
「うん。その方がいいよ。」
「はいです。悪い事は悪い大人に任せるとするのです。」
「うんうん。……って、え。」
神様から離れ、見知った影を見つけていた私は声をかける。
「アーキっトさん♪お久しぶりですね?」
「ん?お、おお!久しぶりじゃねぇか!深淵に集いし我が友よ!」
相変わらずなアキトさんをジト目で眺める。
いえ、今はそういう場合ではないのでした。
過保護な保護者が止める前にと咳払いをし、本題に入る。アキトさんなら乗ってくれるのではないだろうか。
「代理で賭けをして貰ってもいいですか?」
「ん?いいが……自分でしねぇの?」
「はいです。残念なことに私には素敵な保護者が居ますので……。」
「聞こえてるよ。」
「神様!」
呆れた様子で私を見る神様は何をやっているのかと肩を竦めた。そう遠くない位置に居たのだから、会話が聞こえているのは当然のことだが、もう少しくらい放置してくれたっていいだろう。
まったく。神様ったら少しくらいは融通というものを覚えてくださると良いのですが……。
「まったく。プティ?いくらダメと言われたからって他人に賭け事を頼むのは感心しないね。」
「それはそうですけど、じゃあ、神様が代わりにやってくれるんですか?」
「いや、流石にそれはちょっと……。」
「ほらダメじゃないですか。」
むすりと頬を膨らませる。子供に向けてダメダメ言っていたら何も出来ない子になっちゃうんですからね!
神様を困らせている自覚はあったが、それよりもコントロール出来ない感情が幼い態度を取らせていた。って、まあ、分かってはいるんですけどね。
「ったく。しゃぁねーな。
確かにそのお節介焼きじゃぁ我が深淵を覗きし者はやりたい事も出来ねぇだろ。」
ポケットから巾着をドンッと出し、アキトさんがニヤリと笑う。ちょっと言い方がアレですけど……流石アキトさんですね!
「汝が命運を託しし者はどちらだ?」
「うっせーですよ。アキトさん。
新人さんの方にお願いします。」
「おう。……って、なんで罵倒されてんだ?オレ。」
「?どうしましたか?」
「……空耳カナー。」
笑いながら首を傾げると、すっと目を逸らしたアキトさんを不思議だと眺める。私、何かしましたかね?
その後、賭けた証明にと札を貰い、礼を言ってアキトさんとは別れた。
「やりました!」
「ヨカッタネ……。」
肩を落とす神様と共に客席から会場を見ていた旧神たちと合流する。
途中でどうしてここにアキトさんが居るのかと思ったが、ここのマスターであるデュランさんと仲良さげであったことを思い出す。たまたま遊びにいたんですかね?
早めに気づけばよかったと少し後悔するのだった。
「さて、ここにヒントはあんのかねぇ……。」
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『さぁ!始まりました!
神聖なる一騎討ち!今回の対決は「血濡れ牛」バイソンvs「黄昏の彗星」ヨシュア!
方や歴戦の猛者であり、その激しい戦い方から血濡れ牛と呼ばれるバイソン選手!
方や彗星の如く現れた期待の新人ヨシュア選手です!注目の一戦に目を離せません!』
「「ワァアアアアアッ!!」」
上がる歓声に期待感が上がる。探して見つけた席は舞台からは遠いが、思いのほか良く見えた。
出てきたバイソン選手は赤い髪が映える大柄な男性であり、ヨシュア選手は暗い橙色の瞳と藍色の髪を持つ落ち着いた雰囲気の男性だった。体はどちらかと言うと小柄であり、細身に見える。
「ふむ。これはヨシュアさんに賭けて正解だったかもしれません。」
「賭けた?」
「はいです。どっちが勝つか予想するゲームの事ですよ。勝ったらお金が貰えるんです。」
「ほう?賭けるとはよく分からないことを人間はするな。どちらが勝つかなど見れば分かるだろうに。」
よく分からないと首を傾げるウラノスさんには何が見えているのか。少し気になったが、旧神たちの視点を知ったところで理解出来るかはまた別だ。
首を竦めて闘技場に目を向けた。
『それでは!レディーファイッ!』
開始の声と共にヨシュア選手が両手に剣を構えて走り出す。バイソン選手は巨大な槍を手に迎え撃つ。
槍と双剣ならば間合いに入り込めるかの勝負となるだろう。
槍が当たる間合いにヨシュア選手が入る。と、共にヨシュア選手の姿が消えた。
『消えたーっ!?消えました!
そして、現れたのはバイソン選手の後方!双剣が首元に迫りますが、瞬時に反転と共に槍を振り払う!
ヨシュア選手堪らず宙を舞い、距離をとります!』
白熱した闘いに会場中の熱が上がる。視線を外せば何が起きるか分からない。そう思わせるスピード感に感嘆した。
「そこですそこ!ファイトですッ!」
「プティ。身を乗り出しすぎだよ。」
「大丈夫です!今ならニケが助けてくれるので!」
《私を落下防止紐扱いしないで欲しいんだが。》
ニケから何か苦情が聞こえた気がしたが、気の所為とする。
試合は佳境に入っていた。ヨシュア選手が体力切れ前に押し切ろうとしているのだろう。更に速度が乗った攻撃にバイソン選手は反撃が遅れている。
そして……
『遂にヨシュア選手の一太刀がバイソン選手を捉えました!一度捉えれば逃がさない!
次々と決まるラッシュにバイソン選手も反撃できない!』
「くっ……ま、参った!」
『あがりました!参ったの声!これにて決着!
今回の勝者は「黄昏の彗星」ヨシュア選手だぁあああっ!!』
「「ワァアアアアッ!!」」
急所はどうにか外していたらしいバイソン選手だったが、流石に首元に迫る剣に負けを認めたようだ。
突きつけられた右手の剣に顔を歪めながらも両手をあげた。
「凄かったですね!」
「そうだね。」
会場から出て賭場でお金を交換した後、受付へと向かって歩く。観戦中に小耳に挟んだのだが、この島での対決はここの受付で申し込みできるようになっているらしい。
「?手加減が見え見え。合わせているようにしか見えなかった。」
「あれは武人ではないな。ワシとしては少しばかり物足りん!」
「うむうむ!間違いないな!」
「いや、好き勝手言うな。あれは手加減しないと勝負にもならん。見世物としての側面もあるんだ。あれくらいが丁度いい。」
ロノさんの言葉に不満そうな旧神たちはさておき、この場には私たち以外にも人がいることに思い至る。決して良いとは言えない視線を向けられ、話題を変えることにした。
「それにしても、ファミリアでの勝負も一騎討ちだとは思いませんでした。」
「そうだね。それも、ルール次第なんだけどね……。」
「はい?」
ボソリと最後に付け足された言葉に首を傾げるが、神様はなんでもないと言って誤魔化した。更に追求したかったが、丁度受付に辿り着いてしまった。
コロッセオの入口ではなく、更に階段をおりて地下一階。そこに受付はあった。トーナメント表なども展示されており、一騎討ちの参加者向けの階であることが分かる。奥には待機場所であろう部屋の扉も見えた。
受付は丁度空いている時間だったらしく、3つある窓口のうち1つしか開いていない。そこにはにこやかに笑う受付嬢が待機していた。
「すみません。一騎討ちの受付はこちらですか?」
「はい。個人で参加されますか?団体で参加されますか?」
問われて戸惑う。この場合、団体というのが正しい気もするが、今回はファミリアでの対決をしたいのだ。何か違う気がする。
神様に目をむけるが、神様は頷くだけだ。私に任せるということだろうか。珍しいこともあるものですね。
「えっと、次の島へ進みたいのですが。」
「……あら。我がファミリアへの対決をお望みですか。」
戸惑いつつも問いかけると同時に受付嬢の雰囲気が一変した。あくまでもにこやかだった笑顔は凄みを帯び、威圧感を覚える。あまりにも急な変化に一歩下がる。
……って、神様!笑ってないでどうにかしてください!この方、凄く怖いんですけど……!!
次回、いざ勝負!(多分。)
それでは、これ以降も良き暇つぶしをお送りください。




