129話 好奇心は迷子の元
こんにちこんばんは。
相変わらずスローペースな仁科紫です。
それでは、良き暇つぶしを。
あれから数日ほど楽園の島で過ごした私たちは、予定通り次の島へと進んでいた。次の島は騎士の島。アレスファミリアの統べる地だ。騎士という名がついているのだから、きっと堅苦しく真面目な島なのだろう。
「それにしても、良かったです。ちゃんと実体がある人で。」
「まあ、流石にね。ヘルメスのイタズラだっていうのは分かっていたから、あまり僕が出る訳にもいかなかったし。」
「神様が止めませんでしたからね。大丈夫だとは分かってはいたんですが……。」
分からないものは怖いのだと内心で呟きつつ口には出さなかった。
実は、あのカルマさんはヘルメスファミリアのマスコット、ヘルメスさんが化けた姿だったらしい。マスコットってそんな事まで出来るんですねと感心していると、ヘルメスファミリアくらいのものだと言っていた。なんでも他のファミリアとは違い、ヘルメスファミリアのマスコットは魔改造されているのだとか。
マッド達恐るべし、ですねぇ。
「あ!見えてきましたよ!」
ほんの少しの気まずさを覚えて前方を向くと、次の島の全貌が見えてきた。
巨大な古代の競技場のような建築物があり、それを中心に街が理路整然と建てられている。全て紺色の屋根と壁面が白で統一された建物がとても美しかった。
「ん。巨大な建物が見える。」
「見たことあるな!確か、コロッセオと言ったか?」
「ふむ。それはどのような場なのだ?」
「戦う場所だと記憶しているが。」
アイテールさんが知識を披露し、ウラノスさんが首を傾げてロノさんが補足する。仲がいいことだと見ていると、ロノさんの口角が上がっているのが見えた。どうやら、アイテールさんの説明不足をからかっているつもりらしい。しかし、アイテールさんはそういえばそうだったと頷くだけだった。こんな3人だから上手くいっているのかもしれない。
アイテールさんは天然でウラノスさんが末っ子気質。ロノさんは皮肉やといったところでしょうか。ロノさんは末っ子ですけど、末っ子らしくないんですよねぇ。
相変わらず不思議だと思いつつ辿り着くまでの雄大な空の景色を楽しんだ。
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「着きました!騎士の島!です!」
島に降り立ち、わくわくと辺りを見渡す。巡回中の騎士らしき人や買い物中の人々など、想像よりも賑やかな街に見て回るのが楽しみだ。
「おや。アンタたち、この島は初めてかい?」
物珍しげに辺りを見渡しながら進み、美味しそうなサンドイッチのお店に寄ってそれぞれ注文する。テイクアウトのお店がない事に驚いていると、店員が首を傾げた。恰幅のいいその女性はいかにも女将さんといった容貌をしており、世話焼きそうな雰囲気を感じる。
「ああ。そうなんだ。」
「じゃあ、知ってると思うけどコロッセオには一度は行ってみるといいよ!ただ、ちょぉっとおチビちゃんたちには刺激が強いかもしれないけどね。」
「そう?」
おチビちゃんと言いながら視線を向けられた3人が首を傾げる。人と人が戦うのだから刺激が強いも何もないと思うのだが、一体どういう意味なのだろうか。
「ああ。なんせ、騎士なんて言っちゃいるが、なんでもありの勝ったものが勝者なんていう酷いルールだからね。毎回そりゃもう血みどろなのさ。」
「血みどろ……行ってみましょう!神様!気になります!」
「興味深い。」
「わ、我も行くぞ!」
「どっちでも。母様が行くなら。」
「もちろんワシは行くぞ!」
「う、うん。プティが行きたいなら行こうか。」
その場で決まり、届いたサンドイッチを食べてから向かった。あ。サンドイッチは美味しかったですよ?ベーコンはジューシーでレタスはシャキシャキ。チーズはとろーりと溢れていて食べにくいくらいで。なかなかにボリュームのある逸品でした。少しスパイシーなタレが癖になる味でしたね。また食べたいものです。
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「ちょっと!プティ!」
「だいじょーぶですって!ほら!神様も早くーですよっ!」
店を出た後、コロッセオの入口が見えてくると何よりも気になって走り出した。コロッセオの周りは広場のように開けた道となっており、屋台の代わりだろう。見世物が行われている。興味はあるが今は目の前のコロッセオにしか目がいかない。
後ろでバタバタと慌てて走り出す音が聞こえたが、気にせずコロッセオの入口へと向かった。
さーて、一体どんな催し物をしているんでしょうね?ゲームなのに血みどろとか言うんですから、気になるじゃないですか!
気分良く走り続け、コロッセオの周りの広場をぬけて入口に辿り着く。見上げたそれは思ったよりも巨大な建築物だ。長蛇とまではいかないまでも十数分は待ちそうな列にふと神様の声が聞こえなくなったことに気づく。辺りを見渡すが、やはり神様は見当たらない。
あれ?神様たちが勝手に居なくなるとは考えづらいですし……あ。もしかして、迷子ですか!?
「んふふふふ。神様ったら迷子になるなんて。私が探しに行ってあげないとですね!」
そうと決まればと早速行動を開始する。ニケさん!出番ですよー!
《呼んだか。》
(はい!呼びましたよ!神様たちが迷子になったようですので、探すのを手伝ってください!)
《……主は一人か?》
(はいです!)
《主は迷子でない?》
(はい!)
《???》
何やら勘違いしているらしいニケは放置し、空へと飛び上がる。辺りを見渡すとよく目立つ集団が目に入った。
あ。見つけました!あんな所に居たんですね。
「神様たちー!遅いですよー!」
まだ広場の入口近くに居た神様たちの元へ向かう。神様は私の方を胡乱げに見ていた。
何故そんな目で見られるのだろうと首を傾げていると、神様以外の旧神たちは見世物の方に夢中であることに気づいた。人形劇がやっているみたいですね。
「ちょっと、プティ。」
思考が逸れていると神様から声をかけられ、いたし方なく視線を向ける。残念なことに神様のジト目は変わっていなかった。
「何ですか?」
「何ですかじゃないよ。置いていったのは君だろう。皆で動いているんだから、せめて声かけくらいはしないと。」
「はい。そうですね。今度から気をつけます。」
まあ、言われるだろうなと思っていた言葉に素直に頷く。しかし、ここで殊勝な態度をとる私ではないのです!
内心でキリッと効果音をつけつつ口を開いた。
「でも、神様たちも迷子にならないでくださいね?私、心配して探しちゃったじゃないですか。」
腕を組み、頬を膨らませる。態とらしく拗ねた態度をとった私に神様は一瞬顔を強ばらせた。
「え。……一人で居なくなったのは?」
「私ですね!」
「だよね。なら、君が迷子だろう?」
「どうしてですか?」
「どうしてって……あー。プティ。さてはワザとだね?」
「あ。バレました?」
なんだ残念と呟くと、神様がやれやれと肩を竦めた。うーん。呆気なく終わってしまいましたね。
これは面白くなかったなとぼんやりしていると、神様がぽんぽんと頭を撫でた。
「な!何するんですか!神様!」
「うーん。たまには癒されたいかと思って?」
「そりゃ嬉しいですけどね!?ご馳走様です!?」
「なんでキレ気味……。
……本調子じゃないならそうだと言ってね。様子が変だって事くらい、僕にも分かるんだから。」
「うっ……はい……。」
どうも空と別れた日から私が空回りしているのが神様にはバレていたようだ。
あれから数日、いろいろとしてはみたのだ。神様にもっと島を探索したいと言って数日滞在期間を伸ばし、ニケにも旧神たちの母たるルナだったアルファさんの痕跡探しを手伝って貰って(何故かノリノリだった)。それでも何も見つからなかった。
まあ、初めから当たりを引くとは私も思ってはいませんでしたよ?思っていませんでしたけど……。
それでも、何かは見つかると思っていた自分がいたのだろう。気分はあまり良くなかった。そもそも、神様が全ての行動を知っていて何も言わないのが気になっているのもある。
もう、いっその事神様に聞いておきましょうか。
「神様。」
「なんだい?」
「神様は、どうして私を止めないんですか?」
神様なら、気づいているはずなのだ。私が何かを探していることくらい。むしろ気づける立場にいるとでも言えるだろう。それにも関わらず、神様は何も言わないし何も聞かないのだ。気にならない方がおかしい。
しかし、神様はキョトンとした後、あっさりと答えた。私の決心は何だったのかと思うほどに。
「プレイヤーの選択、だろう?君が言ったんじゃないか。プレイヤーの選択ならば僕に止める権利はないよ。」
「あー。そう言えば、そう、でしたね……。」
だから、ファミリアの暴走は止まらず、ガイアさんたちは封印されてしまったのだし……と、考えたあたりで閃く。よし、これは揶揄うチャンスでは?
「だから、ガイアさん達を封印されてしまうなんて事になったんですしね?そういえば、謝ったんですか?神様。」
「え゛。な、何がかな?」
狼狽える神様に溜飲を下げ、にんまりと笑う。
「謝れる時に謝っておいた方が身のためですよ?急にその相手が居なくなることもあるんですから。」
「……うん。そうだね。」
何処かしんみりとした空気になったところで丁度人形劇が終わったようだ。拍手が起こり、人形が礼をする。珍しくも狐と少女の人形だった。なんとなく気になりますね?
アルファさんが狐だったことを思い出し、旧神達に感想を聞くことにした。
「劇はどうでしたか?」
「興味深かった。」
「ぐすっ…じょうじょと、ぎづねがい゛っじょにぐらぜてよがっだのだぁああっ!」
「うるさい。……まあ、いい話だった、と思う……。」
「確かに泣きすぎだな。
我は特に人形の目が気に入ったぞ。優しい金色故な。」
「そ、そうですか……。」
一人を除いてまともな感想がなかった事は気づかなかったことにしようと思った私だった。
次回、コロッセオ
それでは、これ以降も良き暇つぶしをお送りください。




