128話 ニセモノはすぐ側に
こんにちこんばんは。
盛り上がりを考えるのってムズいなと思う仁科紫です。実力不足が……。
それでは、良き暇つぶしを。
「急にどうしたの?僕は僕だよ?」
問いかけに対する答えはやはり私にとっては神様らしくない答えで。つまりは、何が言いたいかというと、彼は……
「ニセモノ、ですね。この場合、姿を見せるまで言ってはいけないのでしょうか?」
「そう。残念。
答えはノーさ。勘のいいお嬢さん。」
ポンッと辺りが煙に包まれ、神様のニセモノ……クラウドさんの姿を見失う。
やはりと言うべきか、ニセモノ探しというゲームは、ただ人を探すのではない。その名の通り、別人に化けたクラウドさんを探さなければならないようだ。
煙が晴れた頃には見えなくなった姿に舌打ちをする。あ。いけないいけない。神様の信者たるもの、お行儀は良くしませんと。舌打ちなんて以ての外なのです。
コホンと咳払いをし、後を追いかける。先程の接触中に魔力糸を結んでおいたのだ。透明化を施した魔力糸のため、見えてはいないだろう。
……って。
「何処をどう移動したらこんな経路に!?」
《仕掛けを利用しているな。一直線に向かう方が危険がない。》
(でも、流石にこのスピードで進む人を糸の先で読み取り続けるのはちょっと……!)
時に排気口を通り、時に何もない壁を突き抜けて移動しているらしいクラウドさんに、不用意な行動をしてみせた理由を悟る。
これなら確かに遭遇しようが問題ないですよね……!
初接触時に疑いはしても初っ端からイミテーションルックなんて言える人はいない。そもそも、ニセモノを探せというゲーム名ではあってもかくれんぼだと説明されているのだから気づくはずもない。そして、相手が仮にニセモノの姿であっても勝利の条件を満たしているとは限らないのだ。
私の印象にはなるが、まずこの前提を理解するまでが前哨戦であり、次に味方同士で疑い始めるのが本番。残り10分をきったあたりからとにかく敵を見つけようと闇雲にイミテーションルックと言い合って最後まで見つからずチェックメイトと言ったところか。この頃には本物しか居なくなっているに違いない。厄介なことだ。
……あれ。ということは、です。
(ニケ。神様たちと連絡したいんですが、何か方法はありませんか?)
《……嫌だが。》
(出来るんですね。ニケ。頼みましたよ。あなたしか頼れる方が居なくて。)
《……しょうがない。暫し待て。》
(ありがとうございます!)
その後、突然の事ではあったものの、無事に集合した神様たちに先程体験した出来事について話した。すると、他の5人も思い当たる節があるようだ。
「一度神気を感じず、鳥頭でもない弟と出会った。」
「それは果たしてアイテールさんなのでしょうか……?」
「酷すぎんか!?ワシの姿ならばワシだろう!」
「えっ。気にするところそこですか……!?」
アイテールさんらしいといっそ感心するが、それはともかくとして何度かニセモノが現れていたらしい。怪しむ度に慌てて逃げていったらしく、向こうも警戒したのだろう。初めの一、二度以降は見ていないとの事だった。結局今の所怪しいニセモノは私か神様のものらしい。まあ、私は神気が分からないのであまり関係ないのですが。
「さて、それでは本題にはいりましょうか。」
「あ。まだ本題じゃなかったんだ。」
「当然じゃないですか。」
この程度の情報共有ならばわざわざ集まらずともニケさんに伝えて貰えばいいだけの話だ。しかし、意見の提案ともなると会った方が話が早い。
周りに音が伝わらないようにして欲しいと神様に伝え、苦笑しながらも頷いた神様が許可を出してから話し始めた。
・
・
・
『残り10分となりました!カオスファミリア!なかなかサブマスを見つけられません!このまま終わってしまうのかぁ!?』
みにゃんにゃのアナウンスが研究所内のスピーカーから聞こえる。もう50分が経ってしまったらしい。
そろそろでしょうか。
『中からカオスファミリアの2人組が出てきました!どうやらようやく外に目を向けたようです!今から探して間に合うのでしょうか……!?』
外を探索し始めたと聞き、作成した地図を持って糸の先へと向かう。そこは他の部屋より少し広く、バインダーに挟まれた書類が沢山並ぶ書庫のような部屋だった。
糸の先はこの奥に続いており、動いていない。気合を入れ直して奥へと突き進んだ。
「こんにちは。」
「……!……こんにちはです。こんな所に来られるなんて苦労したです?」
「そうですね。とっても大変でした。」
ニコニコと相手のペースに合わせるように話す。
そこに居たのはギルマスのカルマさんだ。もちろん、ニセモノだということは承知で会話を続ける。
「カルマさんがまさかこんなところにいるなんて思ってもみませんでしたよ。他の方とは会いませんでしたか?」
「いいえです。ここには誰も来てないですよ。」
「へぇ。そうなんですか。」
ニコニコと笑いながらカルマさんを観察する。カルマさんは昔ながらのデスクトップパソコンを前に4つある画面をじっと眺めていた。
映っているのは外にいる旧神の2人組と中で探している神様たちだ。今こうして話している私の姿も映っている。カルマさんの姿は角度的に映っていない。
ちょうど外のウラノスさんとロノさんが罠を起動せてしまったらしく、大穴がいくつか開いている。普段どうやって過ごしてるんでしょう。ここの人達は。
「凄いですね。こういう場所は何ヶ所かあるんですか?」
「ノーです。唯一のモニター室です。ギルマスが居ては目立ってしまうですから。」
「へぇ。そうやって皆さんを監視していたんですね。」
「……?何を言ってるです?」
意味が分からないと首を傾げるカルマさんに近づく。距離をとるように後ろへと下がるカルマさんに向けて指をさした。
「イミテー「なんでバレたかなっ…て、うわぁっ!?」
ポンッとまた煙玉を投げるクラウドさんを反射的に糸で引っ張る。急な動きに体勢を崩したクラウドさんに向けて指さした。
「ふっふっふー!逃がさないのですっ!
イミテーションルック!クラウドさん発見です!」
途端にどこからかカラーンカラーンッと鐘の音が鳴り響いた。
『サブマス発見されり!?
なんということでしょう!我らがサブマスが発見されたようです!時間にして残り4分13秒!不吉な時間に見つけられたサブマスの未来はいかに!?』
「「実験に付き合う一択!」」
『マッド達の声が揃ったぁっ!!
負けた我らがサブマスには狂気の実験対象となる未来が待ち受けており!勝利したカオスファミリアには次の島、騎士の島に行く権利が与えられます!
皆さん、お疲れ様でした!あっ。サブマスは頑張って生きてね!』
「ははは……。」
みにゃんにゃの言葉に苦笑するクラウドさんに哀れみの視線を向ける。いつも通りなのかもしれないが、サブマス相手にこの扱いはなかなか見られないだろう。
黒髪黒目の少年だったカルマさん姿は既に以前見た何処にでも居そうな青年の姿に……ん?
「あれ?クラウドさん、実は女性でしたか?」
「おや。そこに気づくとは珍しいね。負けるのも仕方がなかったかもしれないな。」
納得したように頷くクラウドさんをじっと見つめる。私が気づいたのは別の理由からなのだが、言ってもいいものか少し悩んだ。
「いえ、クラウドさんの変装はバッチリでしたよ。実際、貴方の変装に気づいてイミテーションルックと言った訳ではありませんから。」
「じゃあ、どうして?」
「貴方の行動を少し考えてみたんです。」
「へぇ?」
結局、魔力糸のことは話さないことにして、別の理由を言うことにした。
「ニセモノに変装するにしても、相手を知る必要がありますよね?なのに、クラウドさんは出会ってすぐの私たちにすぐ変装していました。そこからおかしいと気づいたんですよ。ニセモノだと隠す気がないなと。」
「でも、それに僕のメリットはないよな?」
「いいえ。ありますよ。」
本気で不思議そうに見えるクラウドさんの演技力に舌をまきつつ言葉を続けた。
「観客を楽しませること、です。
確か、信者獲得のためにこういったものも放送されると以前聞きましたから。」
そう。信者を獲得し、神様ランキングをあげる方法は何もイベントだけではない。
こういったファミリア間の争いも含まれるのだ。また、何もしないままではこの世界の信者達は離れていくらしい。全ては神様から教えてもらったことだが。
「だから、盛り上げるためにあえてどんな風に隠れているのかも教えたんですよね。」
「そこまで読まれてたのか。これは完敗だね。」
おどけるクラウドさんはあまり悔しそうに見えない。案外、負けるのも想定の範囲内だったのかもしれない。
それにしても、だ。
「だからってわざと私の呼び方を間違えるのはどうかと思いますけどね?あれではバレバレですよ。」
「え?間違えてたかな?」
思いもよらないことを聞かされたとばかりにキョトンとした顔をしたクラウドさんに戸惑う。本気で神様がエンプティと呼ぶと思っていたようだ。
「いえ、ここに来る前にカルマさんにお会いしているので、知らされてたり……」
「してないしてない!えっ!?あの人、居たの!?というか、ちょっと前までログアウトしていたような……?」
「え。そうなんですか?クラウドさんが化けてたとかじゃ……。」
「実は……って、言いたいところなんだけど、ごめん。それ、僕じゃない。」
背筋がすーっと寒くなる。じゃ、じゃあ、あれは……?
「か、神様ぁ〜っ……!!」
神様なら何か知っているに違いないと走り出す。もう形振りなんて構っていられなかった。別に幽霊とかは怖くないですが、普通に気持ち悪いです!
「あっ。いっちゃった……。もしかして、あの方かな。ほんと、余計なことしかしないね。」
だから、走り出す後ろでクラウドさんが呟いていたことなど私は到底知る由もなかったのだった。
神様!教えてください!あの人は誰だったんですかぁっ……!?
次回、次の島へ
それでは、これ以降も良き暇つぶしをお送りください。




