127話 探し物はなんですか
こんにちこんばんは。
すみません。少し時間がなかったので終わらしきれなかった仁科紫です。
それでは、良き暇つぶしを。
「って、え。もう始まるんですか?」
「ん?そうだが?うちの連中は約束事とか苦手だからな。今やるなら今すぐじゃないと直ぐに飽きてフラフラどこかに「まだ始めないんすか!?もう良いっすよね!?」……あと3分以内に始めっから待っとけっ!……ってな具合にな?」
肩をすくめるクラウドさんの言葉に納得し、早速ルール説明を求めることにした。こちらとしても早ければ早いほど空がしたいことに手をかせるのだ。願ってもない話だった。準備なんて今更ですしね。
「ルールは簡単。その名の通り、ニセモノ探しをしてもらうよ。」
「ニセモノ、とは?具体的にはどのようなものでしょう?」
「それを探すのは君たちの役割だ。でも、今回は……そうだな。範囲を研究所の1階から外の空間までに指定しようか。
これから僕が隠れるよ。僕はこれでもかくれんぼが得意でね。僕を1時間以内に探し出せたら君たちの勝ちだ。」
つまり、ただのかくれんぼのようである。それにしては、仰々しい名前がついていますが。
想像より単純なルールに頷き、説明を促すとクラウドさんが頷いた。
「僕はこれから隠れるから、30秒待ってくれ。その後なら自由に探してくれて構わない。元々1階はこういう用途で使うのを想定しているから好きに調べていいぞ。
ただし、入ってはいけない部屋もあるから、そこには黄色と黒のテープが貼ってある。もし入った場合は失格とみなすから気をつけるように。
何か質問は?」
「見つけたときはどうすればいいですか?」
「イミテーションルックって言えばいいよ。むしろ、そう言うまで発見扱いにはならないから注意するようにな。」
「分かりました!」
これだけ聞くと、どちらかと言えば鬼ごっこのようなルールだと思い至る。実態は始まってみないと分かりそうにないですね。
「1時間以内に見つからなかった場合は?」
「失格になるね。あと、僕らの時間を無駄にしたって事でマッドたちの実験に付き合ってもらうから。」
「「いっえーいっ!」」
「お前ら、うるさい……。」
後ろから聞こえる大音量の声に顔を顰めたクラウドさんは、他に質問がないか聞いたあと、隠れるからとタイマーを置いて去っていった。って、最後に爆弾発言も置いていきましたね!?
「負ければ実験材料になる未来が来るなんて……!」
「いや、さすがに材料にはならないと思うな……?」
あっ。やっぱりそうですよねと、少し残念になりながら何されるんだろうかと首を傾げる。
神様は苦笑しているが、意外と指定された場所は広いのだ。少しくらい心配した方がいいと思う。
「勝てばいいだけ。」
「安心するといい!探し物は得意だ!」
「いや、失せ物、が……酷い、だけ……。」
ガハハハっと笑うアイテールさんにツッコミを入れるロノさんのキレが悪い。まるで初めてあった頃のようだと思い、ロノさんを見ると震えていた。
……あっ!そう言えば、ロノさんは人見知りなんでした!
「ろ、ロノさんが人見知りのせいで子鹿みたいになっちゃってますよ!?大丈夫ですか!?」
「末弟!わ、我の後ろにいるといいぞ。我が守ってやる。」
「……母様がいい。」
「ん。手、握る。」
「ガーンっ!?わ、我も手……!」
「ん。」
ガイアさんから出された手を握りしめたロノさんは少し落ち着いたようだ。ウラノスさんとも手を繋いで仲のいい姉弟でいい事だと微笑ましく眺める。
……今、ふと思ったんですが、この3人、本来はもう少し大きいはずですよね……?あれ?……うん。気づかなかったことにしましょう。
余計な考えには蓋をし、30秒経ったことを知らせるタイマーが鳴り響く。と、同時にパーンッと弾け飛び、クラッカーの如く紙吹雪や紙紐を撒き散らした。
そして、空高く飛んでいったかと思うと、洞窟の頂上付近には1:00:00とデジタル数字が表記され、カウントダウンが始まった。
「び、ビックリしました……。」
爆音が落ち着き、息をついた頃だった。頭上にスクリーンが現れる。そして、カラフルな髪を二束に分け、緩い三つ編みにしている快活な少女が画面から飛び出してきた。どうやら妖精らしく、背中から生えたトンボのような羽根と近未来的なメタリックブルーの衣装が特徴的だ。
『さぁっ!始まりました!我らがヘルメスファミリアの恒例イベント!イミテーションルック!
ウチはヘルメスファミリアの広報担当!みにゃんにゃ言いますっ!よろしゅうっ!
さて、今回隠れるは我らがサブマス!クラウド!対するは運動会イベントで一躍注目の的となったカオスファミリアの面々となっております!
我らがサブマス殿は隠れる名手となっておりますが、意気込みはいかがでしょうか?エンプティ選手!』
「えっ?えっと、絶対見つけるです!」
『ヤル気満々のようですね!
本日の勝利はどちらの手に渡るのでしょうか!?これは見逃せません!』
自己紹介のところだけ癖が強い気がしたが、それを気にするまでもなくマシンガントークを繰り広げられ、私はタジタジだ。というか、もう始まってるんですけど!?これ、妨害なんじゃ……ん?
「……そちらからの妨害ってもしかして、ありですか?」
『Yes!That's Right!
ハッハッハー!さあ!我らがマッド達が仕掛けた罠の数々を乗り越えられるのでしょうか!?』
「説明不足〜っ!!」
こんな典型的な罠にはまるとはと、自分の愚かさに歯ぎしりしたくなるが、それよりも走り出す。……あっ。もう、この際地面歩くのも怖いですね!?
走り出すのもやめてニケを召喚する。既に旧神たちは中へと入ったのか、苦笑する神様しかいない。
「神様!行きますよ!」
「あっ……置いてかれちゃったな……。」
まあいいかと呟く神様を背に研究所内部へと侵入した。
中はよく言えば研究所っぽく、悪く言えば物が雑多で散らかっていた。どんな効果があるのか聞くのも怖い蛍光色の液体が入った試験管やフラスコ。どう見ても毒物らしきドクロマークの描かれた包み紙。たまにドーナッツの入った箱や菓子パンなどが目に入るが、手を出すのも怖いと目を逸らしつつクラウドさんが隠れていそうな場所を探す。
……と、途中で鳥が縄で吊るされているのを発見した。
「こ、ここでは鳥の解体もするんですか!?」
「いや、ワシだが!?」
カッと目を開けた見覚えのある鳥を眺める。どうやら奥にある箱を調べようとして罠に引っかかったらしい。
気まずげに身を捩らせる鳥は私に声をかけてきた。
「は、早く解いて欲しいのだが?」
「うーん。鳥違いですね。アイテールさんならこんな罠に引っかからないと思いますし。引っかかっても自力で逃げられるでしょうから。」
「なっ……!」
「それでは頑張ってくださいね。アイテールさん。」
「今、アイテールって言った!言ったのだが!?」
縄ほどいてー!という声を無視して先に進む。これに懲りて安易に罠へかからないようになることを願うが、恐らく無理だろう。やれやれと溜息をつきながらも前へと進んだ。
少し進むと辺りが薄暗くなり、霧に包まれてしまった。
これは慎重に進まねばとスピードをおとすと、蹲る小さな影が見える。あのサイズ感からしてウラノスさんでしょうか?
内心、首を傾げながらも様子を見に近づくと、それは人ではないことに気づく。こ、これは……!
『侵入者、発見。直チニ撃退ヲ開始スル。』
「定番の警備ロボットですか……!?」
慌てて魔力糸で相手を雁字搦めにするが、警備ロボットの攻撃手段は別にあった。目が光り、ロボットならば定番らしい光線が発射される。
目前にまで一瞬で迫った光線に肝を冷やす間に翼が勝手に動き、回避する。ニケさんのお陰だろう。
(ニケさん!ありがとうございます!)
《感謝はいい。早く倒しなさい。》
(はいです!)
第二射を放とうとする警備ロボットを地面にたたきつけ、壊れないのを把握すると魔力糸を引っ張る。
すると、バラバラに切断された警備ロボットに一息ついた。流石に殺意が高すぎる気がするんですが……?
更に気を引き締めようと奥へ進んだ。
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10分ほどが過ぎ、既に何種類かの罠を体験してくると、アトラクションのようにさえ思えてきた。
しかし、クラウドさんの影も見えない現実にだんだん焦れてきたのも事実だった。
「うーん。なかなか見つかりませんね。」
《是。探す範囲が広いのが問題かと。》
「ですねぇ。」
いくら進んでも迷路のように続く建物の中に嫌気がさしてくる。そもそも、同じような景色が続きすぎて自分がどこにいるのかも分からなくなってきているのだ。
これはまずいですね……。
あてもなくさまよっていると、前方からやってくる神様と視線があった。神様の様子からしてハズレだったのだろう。ひとまず情報共有するべく神様に話しかけた。
「あ。神様。」
「おや。そっちから来たの?」
「はいです。神様がそちらから来たということは、もう既に探された後ですよね。」
「うん。こっちには居なさそうだったよ。」
苦笑する神様におやと首を傾げる。
うーん?ちょっといつもの神様ではないような?ちょっと心配ですね。
「神様、いつもとなんだか違いますね。」
「えっ、そう?普通だと思うけどな。もっと頑張って探すね。」
気合を入れる神様にますますジト目をしてしまう。こんな時、神様なら慌てて普通だと言うだけだったに違いない。探すのはプティの役目だから頑張って欲しいななんて言って。まあ、間違えていても神様なら笑って許してくれるでしょう。
だから、私はこう問いかけることとします。
「ねえ、貴方はどなたです?」
次回、本物?偽物?
それでは、これ以降も良き暇つぶしをお送りください。




